稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

極上文學『こゝろ』

瀬戸山美咲の書き下ろし新作、劇団青年座『残り火』 逢笠恵祐インタビュー

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瀬戸山美咲が初めて青年座に書き下ろす新作、『残り火』が、11月22日から下北沢 ザ・スズナリで上演される。(12月2日まで)
作品の内容は、煽り運転による交通事故の加害者と被害者、それぞれの家族を描き出すもので、演出は書き下ろし新作の立ち上げでは実績のある黒岩亮が手がける。出演者はベテラン山野史人や山本龍二を中心に、青年座の実力派俳優9人が顔を揃えている。

【ものがたり】
急成長中の居酒屋チェーンを経営する藤田健太郎は、今から12年前、煽り運転の末に交通事故を起こし、当時8歳だった少女、沢渡美希を死なせてしまった。
その後、健太郎が服役中の5年間は、古くからの友人である滝本学の援助により、家族はなんとか生きてきた。出所した健太郎は居酒屋をオープンさせ、妻、弁護士の長男、ハワイ留学を計画中の長女と豊かな生活を送るようになった。
しかし、ある男が健太郎の目の前に現れたことにより状況は一変する──。

この物語で交通事故の被害者家族の1人、沢渡大樹を演じるのが逢笠恵祐。劇団の財産演目『ブンナよ、木からおりてこい』で主役のブンナを2012年から2017年まで務め、注目を集めている期待の若手俳優だ。その逢笠恵祐に、今回の作品に取り組む思い、また自身の演劇歴などを話してもらった。(※逢笠さんの逢は一点しんにょうです。)

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被害者と加害者にある
法の下での不合理

──今回の台本を読んで、まずどんなことを感じましたか?
実際にあった出来事、それもまだ記憶に新しい事件に、かなり近い設定だけに、演じる僕らにもある覚悟がいると思いました。とにかく誠実に演じること、そしてリアリティをしっかり追求していきたいです。
──逢笠さんは被害者の兄、沢渡大樹を演じるのですが、彼は行動を起こしますね。
加害者のもとへ訪ねていきます。加害者の藤田健太郎は慰謝料を不払いのまま放置していて、大樹にしてみれば妹をその事故で亡くして、というより煽り運転で殺されたと言ってもいいのに、慰謝料の問題をはじめとして加害者には少しも誠実さがない。それが許せないわけです。それで乗り込んで行きます。
──藤田という加害者は、名前を変えて商売も成功させ、裕福に暮らしています。それなのに慰謝料は不払いで、相当たちの悪い人間ですね。
現実にはそういうことがけっこう多いようです。この公演のために交通事故の被害者遺族の本などを色々と読んだのですが、慰謝料や謝罪などの面で満足を得られていない遺族の方がとても多くて。もちろんどれだけ謝って貰っても、亡くなった人は二度と還らないのですが、それでも加害者側の誠意のなさに驚くことが多かったです。
──そういう事件に巻き込まれてしまう理不尽さ、それをどう解決していくかということが、この作品の中で描かれるわけですね。
まず大樹は、慰謝料を払わせ続けることが、亡くなった妹のためになると思って行動に出るわけです。その中で見えてくるのが、現在の法の下では加害者のほうが手厚く守られているという不合理さです。同時に加害者の家族にも焦点を当てると、犯罪者の家族になってしまったことで自殺している方もいる。そういう現実への問題提起もあると思います。

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世の中に一石を 
投じることができたら

──逢笠さんは福島の出身ですね。そういう意味では震災とその後の原発の問題については被害者でもあります。
僕は2005年くらいから東京に出て来ていたので、自分自身は被災していないのですが、実家は中通りですから被害を受けています。でも被害者という意味では、僕は実際に父親を交通事故で亡くしていて。
──そうなんですか! 何時頃ですか?
僕が2歳の時です。母親が僕と姉を女手ひとつで育ててくれました。ですからこの芝居でもやはり被害者家族への思い入れが強くなってしまって。亡くなった人への思いもとてもよくわかりますし、残された人たちのことを一番考えます。僕の場合は母親ですが、いつも母の気持ちを気遣いながら生きてきた気がします。結局つねに葛藤しているのは残された人たちであり、生きている人間なので。
──それはお母様を見てきた中での実感ですか?
そうですね。小さい時に事故の相手について一度だけ聞いたことがあるんです。そのとき「忘れた」と答えたので、ああ、言いたくないんだなと。そこから聞くのをやめました。思い出したくないんだと思います。
──逢笠さんにとっては、この作品はとても切実なのですね。
テーマがテーマなので、観てくださる方にも、楽しみにしていてくださいとか言いにくいのですが、でも世の中に一石を投じることができたらと思いながら、毎日稽古しています。

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自分は自分のブンナを
やるしかないと
  
──共演の方の顔ぶれは青年座の層の厚さを感じさせますが、加害者の藤田健太郎役がベテランの山本龍二さんで、対峙するシーンなど緊張しませんか?
山本さんは普段はとても優しい方ですし、役者としても人としても尊敬していますから、へんな気負いなど捨てて、思い切りぶつかっていってます。舞台を離れたら先輩ですが、舞台の上では対等に向き合わないと、山本さんにもお客さんにも失礼ですから。
──逢笠さんはあまり萎縮しないように見えますね。
初めての共演者などにはちょっと萎縮することもありますが、劇団の先輩は信頼している方々ですし、基本的に何をやってもいいよと受け入れてくださる方ばかりですから。でもわりと図太いほうかもしれませんね(笑)。
──『ブンナよ、木からおりてこい』で、主役のブンナを6年もやってきた自信は大きいでしょうね。劇団の財産演目というプレッシャーはいかがでした?
多少はありましたけど、腹を括らないといけないと。まだ自分は未熟でしたけれど、主役なのだから気持ちでは負けないように、と思いました。やはり劇団員から色々な批評がくるんです。財産演目だけにそれぞれ思い入れがありますから。でもそれに負けたくないと。自分は自分のブンナをやればいいのだと。一番大事なのは観てくださる方が楽しんでくれることですから。
──自分のブンナに自信を持ってやるしかない。
そうです。カエルのポーズなんて自信持ってやらないとできませんからね(笑)。でも人生でカエルをやるなんて、そうはないことですから面白かったです(笑)。今は久しぶりに人間になってます(笑)。

役者ってカッコいいなと
いう単純な憧れから

──青年座に入った動機ですが、小さい頃からお芝居が好きだったのですか?
青年座を受けたのは、同じ福島出身の西田敏行さんがいらっしゃった劇団ということからですが、小さい頃から舞台を観たり、映画も好きで色々観て、いつかはこういう仕事につけたらいいなと思っていたので。
──ということは例えば学芸会などで活躍したりとか。
いえ、引っ込み思案でした。先ほど自分で図太いと言いましたが、あまり欲がない人間なんです。だから逆に図太くいられるのかもしれません。別にセンターじゃなくてもいいし、単純に人と芝居をしているのが楽しいんです。
──舞台や映画を観ていたときも、あんなふうに演じてみたいなと?
演じたいとかではなくて、単純に役者ってカッコいいなという。中学生くらいの時、俳優の松田優作さんがすごく好きで、男らしいなとか立ち姿がかっこいいなとか、そういう憧れがあったし、役者というものの破天荒なところとか、どこか自由なところに、漠然とした憧れがあったんです。
──戦隊もののヒーローに憧れるのに近い感覚でしょうか?
そうかもしれません。「仮面ライダー」も「ウルトラマン」も大好きで、全部観てましたから(笑)。

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──青年座の研究所に入っていかがでした? 
厳しく怒られる毎日でした(笑)。でも入団してから、もっと厳しくされています(笑)。
──怒られ強いのですか?
いやシュンとなります(笑)。でもシュンとなったあと「負けるもんか」と。とにかく何もできないで入ったので、怒られながらここまできた感じです(笑)。
──入ってみて感じた青年座の良さは?
例えば外部の小劇場公演などで、山野(史人)さんクラスの年齢とかキャリアの方とご一緒できる機会ってほとんどなくて、やはり劇団だからだと思うんです。そういう方から直接芝居のことを指導していただけるし、一緒に芝居させてもらえる。入団1年目に山野さんの相手役に代役で入ったんですが、全然違うんです。その衝撃というのはすごかったです。それに和服とか所作とか、そういう技術をきちんと持っている先輩が沢山いらっしゃる。それは貴重だなと思います。
──層も厚いし研究所から毎年若手が入ってきます。その中でブンナに抜擢されたのは、自分では何故だと思いますか?
正直に言いますと、当時、「今なら自分じゃないかな」と思っていました。決して驕っているわけではなくて、年齢とか役柄とか、キャラクターとか、そういう面からいって、自分よりこの役に合う人間はいないんじゃないかと。芝居のうまいへたじゃなく。
──確かにブンナ役が似合うような大胆さとかアグレッシブな一面を感じます。長期の全国公演ということで、色々な経験も成長もあったでしょうね。 
本当に色々な経験をさせてもらいました。場所によって反応が全然違うんです。シャイな土地もあるし、盛り上がりやすい土地もある。客席の反応から貰うものは沢山ありました。すごく楽しかったです。
──先ほど「観ている人に楽しんでもらう」という言葉が出ましたけど、それはまさに体験の中から出てきたのですね。
やっぱり旅公演は体力的にしんどいんです。でも僕らにとっては沢山の公演の1つだとしても、観る人にとってはその1回しかなくて、前から準備して集まってくれたとか聞くと、「よしやるぞ!」ってなりますよね。そういう繰り返しで171回、なんとかやり遂げた気がします。
──171回ですか。逢笠さんの財産ですね。
観てくださる方がいないとそこまで続かないわけですから、本当に感謝しています。精神面も体力も鍛えられました。1年目は怪我と病気が恐くて、いつもマスクをして、お酒も飲まないで、ホテルに籠もっていました。1つ目のステージを終えて、残りのステージ数を考えたらぞっとしたのを覚えてます(笑)。
 
毎回これが最後くらいの
つもりで1本1本を

──今、11年目ですが、逢笠さんにとって役者であることとは?
まだ全然わからないですね。そんなに自信もないですし。20代前半の頃とか、自分は天才なんじゃないかとか、わりと思いがちじゃないですか。でも30歳を越えて、自分は凡人なんだなと、でも自分の良さはあるよなと、良い意味でラクになりました。だから毎回これが最後くらいのつもりで、1本1本をやっていこうと。向いているとかではなく、やらせてもらっているという気持ちです。そういう意味では向いてるかもしれないし、楽しいことばかりではないですけど、充実はしています。
──今回もまた1つ結果を出さないといけないですね。改めて抱負をいただけますか。
この作品のような事件はニュースでも取り上げられますけど、やはり表面だけしか伝えられていなくて、現実はもっと凄惨だし、被害者の方の痛みや悲しみは深いです。そこに迫っていけたらなと思いますし、観る方にこういう事件の奥にあるものを想像していただけたらと。そのためにも、出演者全員でがんばって良い作品にしたいです。

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あいがさけいすけ○福島県出身、2008年入団。主な舞台作品は、『旅とあいつとお姫さま』(2008〜9年/座・高円寺プロデュース)、『横濱短篇ホテル』(2013 年/青年座)、『もし、終電に乗り遅れたら』(2013〜18 年/俳優座劇場プロデュース)、『俺の酒が呑めない』(2016 年/青年座)、『断罪』(2017 年/青年座)、『ブンナよ、木からおりてこい』(2012〜17 年/青年座)など。
 

〈公演情報〉
最終チラシ画像
 
劇団青年座第234回公演
『残り火』
作◇瀬戸山美咲
演出◇黒岩亮
出演◇山野史人 平尾仁 山本龍二 逢笠恵祐 須田祐介
麻生侑里 松熊つる松 安藤瞳 市橋恵
(※逢笠の逢は一点しんにょう)
●11/22〜12/2◎下北沢 ザ・スズナリ
〈料金〉4,500円 初日割引3,000円(全席指定・税込)
U25  3,000 円 [青年座のみ取扱い・当日精算のみ・学生証提示]
〈お問い合わせ〉劇団青年座 0120-291-481〈チケット専用 11:00〜18:00 土日祝日除く〉
〈青年座 HP〉http://seinenza.com



【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】




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中山優馬が演じる、戦争によって奪われた未来。舞台『The Silver Tassie 銀杯』上演中!  

『The Silver Tassie 銀杯』撮影:細野晋司_ZAA2319_s

中山優馬主演の舞台『The Silver Tassie 銀杯』が11月9日より世田谷パブリックシアターにて開幕した。本作は、アイルランドの劇作家ショーン・オケイシーによる歌あり、笑いあり、涙ありの賑やかな“反戦悲喜劇”。今から90年も前に発表された作品ではあるが、日本での上演はこれが初めて。世界的に見ても決して上演回数は多いとは言いがたく、知る人ぞ知る佳作といった位置づけだった。その理由は、本作の“一筋縄ではいかない”複雑さにある。

そんな高き山に挑戦したのが、演出家の森新太郎だ。2014年、30代で読売演劇大賞の大賞(グランプリ)・最優秀演出家賞・芸術選奨新人賞を受賞した旬の演出家が、以前より翻訳のフジノサツコから面白い作品があると聞いていた本作を劇場側に自ら提案し、実現に至った今回の本邦初演。主人公、ハリー・ヒーガン役に中山優馬を迎え、戦争によって奪われた一人の青年の輝かしい未来と、庶民たちの逞しくも残酷な姿を描く。

『The Silver Tassie 銀杯』撮影:細野晋司_ZAA3516_s

物語は、第一次世界大戦中のアイルランド、ダブリンから始まる。シルベスター・ヒーガン(山本亨)やその妻・ヒーガン夫人(三田和代)は、自慢の息子であるハリー・ヒーガン(中山優馬)の帰りを待っていた。ハリーは将来を嘱望されるフットボール選手。戦地からつかの間の休暇をもらって帰省していたハリーは、今まさに銀杯(優勝カップ)を抱え、歓喜の凱旋を果たそうとしていた。英雄の帰還に、地元の仲間たちは祝福と尊敬の喝采を送る。若く美しい、ジェシー(安田聖愛)は英雄の恋人であることをひけらかすように人前で愛を見せつけ、ハリーも銀杯を高々と掲げて、自分の戦いぶりを披露しながら勝利に酔いしれている。。名誉も、愛も、将来も、人のほしがるもののすべてが、この手にある。鋭く光を射返す銀杯は、ハリーの栄光の象徴だった。

『The Silver Tassie 銀杯』撮影:細野晋司_DAS5118_s

 “一筋縄ではいかない”と謳ったが、大筋そのものは非常に明快だ。この『The Silver Tassie 銀杯』は、戦争を境に天国から地獄へと叩き落とされた青年の栄光と転落を描いている。
 
第1幕、出征前のハリーは全身から生気がみなぎっている。演じる中山優馬のキャスティングは、演出家の森からの指名。中山主演の連続ドラマ『北斗 -ある殺人者の回心-』を観た森が、「ピュアな心も荒んだ心も表現していた。ハリーの清濁併せ持つ雰囲気と同じだと思った」とラブコールを送り、実現したかたちだ。

そんな森の期待通りのハリーを中山は演じ切っている。その強い眼差しからは若者らしい野心と情熱が溢れ、立ち居振る舞いは尊大不遜。この世の中で自分の手に入らないものはないといった勝者の自信がにじみ出ている。

『The Silver Tassie 銀杯』撮影:細野晋司_DAS4719_s

その同じ目が、終戦後は敗者の失意に様変わりする。それも単に絶望や落胆を映すだけではない。自身の境遇への呪い。周囲や社会に対する怒り。中山の瞳が、ハリーの中に渦巻く混沌たる感情をまざまざと映し出す。精神的にタフでなければ務まらない難役だが、動物的でありながら気高さを感じさせる中山の唯一無二の個性が、英雄の明と暗をビビットに体現している。

そして面白いのが、それを取り囲む市民たちだ。戦地へ赴くハリーを盛大に見送り、戦争が終わればハリーのことなど忘れてダンスパーティーに興じる。ハリーにとっては、たとえ戦火が鎮まろうと、その傷跡は決して消えない。だが、市民にとってはもうすでに戦争は“終わった話”なのだ。そして、ハリーはもう“かつての英雄”でしかない。銀杯に注がれているのは、同情と無関心。もう誰もハリーを称えたりはしない。

『The Silver Tassie 銀杯』撮影:細野晋司_DAS3874_s

この変わり身の早さは、決して戦争だけに限った話ではない。私たちはいつも英雄を祭り上げるのが好きだ。そして、飽きたらすっと神輿を下ろし、また別の誰かを担ぎ上げる。転げ落ちた英雄が、地面に背中を強く打ちつけ、のけぞっているのなんて目もくれずに。

そんな痛烈な皮肉が感じられて、ハリーの嘆きに同調し、泣くことさえ安直に思えた。だが同時に、そうでなくては生きていけないことも十分に理解できてしまうから、何も言えなくなってしまう。

森は、そんなハリーの絶望と憤り、市民の無責任さと図太さを、明確なコントラストをもって浮き上がらせた。第1幕の英雄の凱旋と出立も、第4幕のダンスパーティーも、華やかで、陽気で、威勢が良い。市民たちがお気楽で賑やかであればあるほど、その犠牲となったハリーの存在が鮮明になる。皆々が陽気に踊るダンスホールから離れ憎しみをぶちまけるハリーは、平和な時代を築くための“礎”そのものに見えた。

『The Silver Tassie 銀杯』撮影:細野晋司_ZAA3873_s

また、何とも印象深いのが、第2幕だ。そしてこの第2幕こそが、本作を“一筋縄ではいかない”と形容したくなる最大の理由だ。第2幕に、ハリーは登場しない。戦地での兵士の様子が描かれるのだが、この第2幕だけ他の場面とは一切違う手法が用いられている。今や多くの人にとって、戦地の光景は実際の体験に基づくものではない。記録か、伝聞か、あるいは想像の世界で膨らませたものを、私たちはリアルな戦場と見なしている。だからこそ、あえてリアリズムの真逆を行く森の試みが光った。戦地の陰惨な空気は、よりグロテスクに。また、本物の戦地だけを観念的に描くことで、私たちはリアリズムにのっとって描かれた“市民側の人間”なのだと思い知らされるようでもある。
 
『The Silver Tassie 銀杯』撮影:細野晋司_DAS4359_s

国広和毅による音楽も効果的で、特にこの第2幕は音楽と歌の力によって、その世界がより象徴的に見える。戦地で歌う兵士たちは、滑稽にも神聖にも見え、それらのすべてが重なり合うことで、戦場という極限状態の中に張りつめた深い哀哭が胸に響く。暗転の直前、閃光と共に浮き上がるガスマスクを装着した兵士たちの姿が、今も瞼に焼きついて(または、脳裏に焼き付いて)離れない。8月まで文化庁新進芸術家海外派遣制度によりシンガポールに留学していた森の、現地での収穫が早速楽しめる意欲的な場面だ。ぜひ注目してほしい。

(公演情報)
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『The Silver Tassie 銀杯』
作◇ショーン・オケイシー
翻訳・訳詞◇フジノサツコ
演出◇森新太郎
出演◇中山優馬、矢田悠祐、横田栄司、浦浜アリサ、安田聖愛、土屋佑壱/麻田キョウヤ、岩渕敏司、今村洋一、チョウ ヨンホ、駒井健介、天野勝仁、鈴木崇乃、吉田久美、野田久美子、石毛美帆、永石千尋、秋山みり山本亨、青山勝、長野里美、三田和代
●11/9〜25◎世田谷パブリックシアター
〈料金〉一般 S席(1階席・2階席)7,800円/A席(3階席)4,800円 当日券あり(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515




【文/横川良明 撮影/細野晋司】




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「走る」ことと「生きる」ことを問いかける舞台『光より前に〜夜明けの走者たち〜』宮崎秋人・木村了 インタビュー

木村宮崎
 
東京オリンピックで銅メダルを獲得した円谷幸吉と、その4年後、メキシコオリンピックで銀メダルを獲得した君原健二。「走る」という共通点以外はすべて好対照・正反対な2人のマラソンランナー。だが2人の間には、孤独に走るマラソンという競技の中で、無言のうちに手渡されたバトンがあった──。
 
作・演出家として活躍する谷賢一が新作として書き下ろし、自ら演出する舞台『光より前に〜夜明けの走者たち〜』が本日、11月14日より紀伊國屋ホールで開幕する。(25日まで。そののち大阪公演あり)
1964年10月から1968年10月までの約4年間を描き、ライバルとして友人として過ごした円谷幸吉と君原健二の生と死を浮かび上がらせる。
この作品で円谷幸吉と君原健二の役をそれぞれ演じる宮崎秋人と木村了が、この注目作に挑む気持ちを語り合った「えんぶ12月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。

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木村了 宮崎秋人 

実話から作った
フィクション

──まず台本を読んだ印象から聞かせてください。
宮崎 僕が演じる円谷幸吉が東京オリンピックで銅メダルに輝いた1964年から始まって、亡くなった1968年までの出来事が描かれているのですが、円谷のシーンは彼の人生にとって重要な場面ばかりで、すでに何かが起きているという状況の中で出ていくので、相当なエネルギーが必要だなと、それを一番感じました。
木村 君原健二さんという人は、「生きるとは」「走るとは」というような哲学的なことを仰る方なんですが、それはこの物語のテーマでもある大事な言葉ですから、しっかり落とし込んで喋らないといけないなと思いました。
──それぞれ実在の人物ですが、そういう役を演じるプレッシャーは?
木村 君原さんはまだご存命ですから、やはり気になりますが、でもこの作品の中の人物として、新しく作っていけば良いのではと思っています。
宮崎 作・演出の谷(賢一)さんは、実話から作ったフィクションだからとおっしゃっていて。それを聞いて僕も「円谷さん」の「さん」付けをやめようと。「円谷さん」とこの作品の「円谷」を分けないとダメだと思って。
木村 「さん」付けで呼んでるといつまでも遠いよね。
宮崎 「円谷」に寄ってきてもらわないと。
──物語の展開では、2人ともコーチとの関係がポイントになっていますね。
宮崎 円谷の専属陸上コーチは畠野という自衛隊の上官で、和田(正人)さんが演じています。事務所の先輩なのですが、一緒に舞台に出るのは初めてで、良い感じの緊張を感じながら胸を借りたいなと。和田さんはこちらに降りてきてくれる方なので、たまに見せる畠野と円谷の友達っぽい部分も、実際に出せるかなと。
──和田さんは大学の箱根駅伝で名を馳せた方ですが、アドバイスなどは?
宮崎 走るシーンはこれからなんですが、そのときはアドバイスをしていただきたいと思っています。
木村 ランナー目線で色々言ってくれると有り難いですね。
──君原のコーチ、高橋進役は高橋光臣さんですね。
木村 君原が勤めている会社の陸上部のコーチです。光臣さんとはドラマで共演していますが、舞台は初めてです。君原は最初はコーチに反発するんです。1人でもやることはちゃんとやれるからと。でも練習の鬼と言われていたくらいなので、やりすぎてしまう。最終的にはみんなで走ることを受け入れていくんですが、高橋コーチがいたからこそメキシコオリンピックで銀メダルが取れたし、世界的なランナーになれた。ある意味君原が変わるきっかけとなった方です。

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アスリートと俳優には
共通する面が多い

──物語の中での君原の変化には、円谷の死も影響を与えていますね。
木村 円谷の死は君原に衝撃を与えます。君原は、マラソンランナーはみんな自分と同じような思いで走っていると思っていたのに、円谷は1人で旅立ってしまった。劇中で自分の気持ちがわかってなかったのか、というような台詞が出てくるんですが、君原の胸中が伝わる台詞になっています。
──実際の円谷幸吉さんの死には色々な要因があったようですが、やはりトップランナーでいることの重圧は大きかったでしょうね。
宮崎 それは重かったでしょう。
木村 今とは時代が違いますからね。戦後の高度経済成長の中で、東京オリンピックで銅メダルに輝いたことで、これからの日本を背負っていくみたいな立場に立たされて。
宮崎 国民全部の期待が集まってしまうわけだから、きつかったでしょうね。
──マラソンランナーは孤独だといいますが、俳優も孤独では?
木村 孤独というより、1人でやらなくてはいけない部分もありますが、最終的には芝居は1人では作れないので。
宮崎 共有できる仲間がいるという安心感はありますね。頼ってはいけないけれど心強い。
木村 考えてみると、アスリートと俳優は共通する面はけっこうあります。挫折を味わうことは何度もあるし、アスリートも俳優も負けず嫌いだからがんばるけど、つらいときは本当につらい。じゃあなんでやるかといえば、やっぱり好きだからで。
宮崎 円谷も君原も、走ることは仕事でもあるけれど、まずは好きでやってますよね。だから2人とも自分が努力してると思ってなくて、走りたいから走る、苦しいけど苦しくない。君原なんか特にそうですよね。僕も好きなことをやっているので、そのための体作りとか食事とか、自分をコントロールするのは当然だという気持ちはあります。

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本当なのか? というくらい
ドラマチック

──今回初共演ですが、お互いについてはいかがですか。
木村 円谷もそうですが、宮崎くん自身も真っ直ぐだなと。でもきっと悪い部分もあると思うから(笑)、それが見えたときに「あ、俺と一緒だ」と(笑)。
宮崎 ははは(笑)。僕は本読みで了くんが読んでいるのを聞きながら、いい意味でひねくれてるなと。
木村 (爆笑)。
宮崎 間とか話し方とか面白くて、発見だらけだった。
木村 こういう感じかな、ああいう感じかなと、まだ探り探りだから。昨日の稽古ではけっこう嫌なやつで君原を演じてみたんだけど、もしかしたらもっとひねくれたキャラでもいいかもしれない。最後のほうの、仲間と一緒に走る君原と差があったほうがいいので。
宮崎 最後のほうは、僕の円谷の魂を引き継いでいますからね(笑)。
──すでに並走しているようなお二人ですが、改めて公演への意気込みを。
宮崎 これは本当のことなのか? 事実なのか? というくらいドラマチックなことが沢山描かれています。届けたいメッセージもありますけど、それ以上に観た方それぞれが受け取るものがあると思いますので、まずは劇場に足を運んでください!
木村 今回、走ることと生きることというのが、自分の中でもテーマになっていて、自ら選んで苦しいことをやっているけれど、でも普通の仕事でもそれは同じで。同じような思いを抱えながら生きている人たちは沢山いると思うので、そういう方たちにこの作品は通じると思っています。ぜひ観にきて何かをキャッチして、自分なりに解釈していただければ。この舞台から何かを見つけてほしいです。

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プロフィール 
宮崎
みやざきしゅうと○東京都出身。舞台や映像で活躍中。最近の出演作品は、ドラマは『弱虫ペダル』(BSスカパー!)『男水!』(NTV)『マジで航海してます。〜second season〜』舞台は舞台『男水!』舞台『青の祓魔師』島根イルミナティ篇『おたまじゃくし』『PHOTOGRAPH51』、朗読劇『私の頭の中の消しゴム10th』など。映画『新宿パンチ』が12/1からシネマート新宿ほかで公開。

木村
きむらりょう○東京都出身。近年の主な出演作は、ドラマ『三匹のおっさん3〜正義の味方、みたび!!』『赤ひげ』、映画『劇場版 仮面ライダーゴースト 100の眼魂とゴースト運命の瞬間』『帝一の國』、舞台は学蘭歌劇『帝一の國』シリーズ主演、劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月など多数。映画『多十郎殉愛記』2019年春公開予定。

〈公演情報〉
光より前に画像
 
『光より前に〜夜明けの走者たち〜』
作・演出◇谷賢一
出演◇宮崎秋人 木村了 高橋光臣 中村まこと 和田正人 
●11/14〜25◎紀伊國屋ホール ※11月14日はプレビュー公演
●11/29〜12/2◎ABCホール
〈料金〉一般/7,000円 U-23/3,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉03-5410-1885  ワタナベエンターテインメント(平日11:00〜18:00)




【構成・文/宮田華子 撮影/岩村美佳】



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