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奇跡の成長を描いた実話『向日葵のかっちゃん』を舞台化! わかぎゑふ・三上真史 インタビュー

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時計も漢字も読めず、小学校2年生から4年生を支援学級で過ごした少年「かっちゃん」が、5年生で転校した学校で出会った森田先生から、勉強の楽しさを教えられ成長していく奇跡の物語『向日葵のかっちゃん』。小説家の西川司が自らの小学校時代を綴った自伝小説が、この夏、初めて舞台化される。

かっちゃんの人生を変えた熱血教師森田先生を演じるのは、『趣味の園芸』(NHK Eテレ)で園芸王子としても親しまれている三上真史、そして、この実際に起きた奇跡の物語の脚本・演出を手がけるのは、劇団「リリパットアーミーII」の座長を務めるわかぎゑふ。人が成長する可能性を信じたこの作品について、2人がその思いを語り合ってくれた。
 
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わかぎゑふ 三上真史

受け入れてくれる人が1人でもいれば人生は明るくなる

──まず原作を読んだ印象から教えてください。
三上 読ませて頂いてまず涙しました。作者の西川司さんの体験談、実話なので、教育、育てることって本当に大事なんだなと。かっちゃん自身には、それは転校したことから始まるのですが、出会いによって人の人生って変わるんだということを痛感しました。西川さんの講演会も聞かせて頂いたのですが「すべてを受け入れてくれる人が1人でもいれば、人生は明るくなっていく」とおっしゃっていて、本当にその通りだなと。そして、「わからないことは恥ずかしいことじゃない」という言葉が、非常にグッときました。僕もつい知ったかぶりをしてしまうところがあって、僕自身にも励みになりました。そして、大人が大人であることの重要性を感じています。子供にとって大人は模範でなければならないし、でも目線は子供と同じところにいるのが森田先生だなと思って、非常に勉強になっています。
わかぎ 私は何回泣いたかな…4箇所くらい、絶対泣くもんか!と思って読んでいたんだけど(笑)。
三上 泣けますよね。
わかぎ 舞台にすることを考えながら読んでいたので、ストレートには読んでいなかったと思うのですが、西川さんとは世代が一緒かなとなんとなく思っていたら、ドンピシャで1歳下で、でも大阪で育った私とは全く違う人生を歩いていらっしゃるんですけどね。ただ、私自身も従姉妹が障害者だったり、ほかにも色々なことがあって、意外と小さな棘が刺さっている人って見捨てられがちだなと思っていて。今、「発達障害」という言葉によって、「あ、そうだったんだ」という人が世の中にたくさん見えてきて、それまでは「物忘れが激しい」とか「あいつにものを頼んでもちっともやってくれない」とか「計算が弱い」とか言われて、見過ごされてきた。その1つ1つは小さな棘なんだけれど「小さい棘って痛いんだよね」ということを、しっかりと書いてあるので、改めて今、舞台化するのにとても良い本だなと思いました。パラリンピックをはじめ、障害をもっていることをちゃんと出していける世の中になってきていますが、逆に小さい障害をもった人たちが隠れてしまっている。でも小さい障害をもった人も辛い。そこを舞台化できることは良かったと思いました。
──そうした本から、何を一番大切に舞台化したいと?
わかぎ どんな舞台でも一番大切なのは人が描けているかだと思います。それはジャンルに関わらず、そこに肉体があって生きていることが伝わるかどうかなんですけれど、そういう意味で丁寧に作らないといけないし、特にこの作品は笑えるところをたくさん作らないと、西川さんの思いは伝わらないなと。ですからベースはコメディにしてあげないと、というのは私の中で読んでいて決めたことです。
三上 かっちゃん明るいですよね。
わかぎ 明るいし、可愛いよね。
三上 森田先生も本当に突き抜けていて。
わかぎ 実際の森田先生はこんなに二枚目じゃないけど(笑)。
三上 驚いたのは、僕のツイッターに森田先生のお孫さんがコメントしてくださったんです。
わかぎ えっ?ホントに?
三上 森田先生は自分のおじいちゃんです。本当に真っ直ぐな大好きなおじいちゃんです。舞台、絶対観に行きますって。
わかぎ それはスゴイね。
三上 鳥肌ものでした。

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人生変えるようなわかぎさんとの出会い

──その森田先生を演じられるにあたっては?
三上 僕も性質として熱いところがあって、「できないことはない」と思っていて、ちょっと森田先生と重なる部分があるので、そうした共通点を精査してやっていけたらなと思っています。実際の森田先生がどういう方だったのか、お話を伺いたいなとも思っていて。
わかぎ お孫さんにね。
三上 そうなんです。そこから突き詰めていきたいです。でも一方で、読んでいて思ったのは、森田先生も最後に「自分もこんな風にかっちゃんが変わるとは思わなかった」って正直に言うんですね。どうなるかわからないけれども、素直に純粋にできると信じて、周りになんと言われようと思ったことを貫いた、かっちゃんを信じた、というところがあるのかなと思いました。そこを僕も貫いていけたらなと。わかぎさんが脚本・演出してくださるのも嬉しいです。
わかぎ 一緒の仕事はすごく久しぶりで、9年前かな?
三上 はい。わかぎさんが脚本を書いてくださった舞台『夢のひと』です。僕にとっても人生変えるような出会いで、ちゃんとした舞台は初めてだったんです。
わかぎ 升毅さんとか渡辺いっけいさんとか出ていて、神田沙也加さんがまだ小さかったね。
三上 そうです。皆で北海道を回りました。
──その時の印象から、今の三上さんをご覧になっていかがですか?
わかぎ 私、NHKの『趣味の園芸』も観てたから。
三上 本当ですか?
わかぎ そう。「あ、三上だ!」って(笑)。でも覚えていてくれるとは思わなかったから、打ち合わせの時にも言わなかったんだけど。
三上 もちろん覚えてますよ!何をおっしゃるんですか!あんなにお世話になったんですから!
わかぎ いや、あの時は脚本だけで演出はしてなかったから。
三上 アドヴァイスを色々くださって。
わかぎ ちょっとだけ。いけないよね、演出家がちゃんといるのに(笑)。
三上 でも本当に助かりました!難しい役で全然わからなかったのが、的確なアドヴァイスで、そこから一気に変わって。
わかぎ すごくシリアスな役だったからね。
──そんな三上さんの魅力や、今回期待されているところは?
わかぎ こんなに真面目な子っているんだなというのが第一印象で、出ているテレビとか見て、そのまんま大人になったなと(笑)。だから森田先生が三上君って聞いた時、なんの問題もない、そのままいけると思いました。

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役者の肉体を使って、笑えて温かい物語に

──原作を読んで、印象的なシーンなど話していただければ。
三上 僕はキャッチボールのシーンが好きでした。
わかぎ 私は、「こんな先生いたらいいな」と思ったのが逆上がりを教えるシーン。
三上 あぁ、そこも泣きました。
わかぎ 私は運動は何でも出来たので、人に教えるのがすごく苦手だったんだけど、こうやって教えたら、逆上がりできない子ができるようになるんだ!なるほどなぁと。きっと子供は嬉しいだろうなと。
三上 こうやるんだよ!ではなくて、なぜそうなるのかというところを、ちゃんと言ってくださるんですよね。
わかぎ 舞台では残念ながらカットしたんですけど、とても印象的なシーンでした。あと、「身体で覚えろ」って、殴ろうとするシーンがあるでしょう? かっちゃんは反射的に防御しようとする。その防御の姿勢をとったかっちゃんに、「それが身体で覚えるということだよ」と。だから漢字を書いたり算数をしたりするのも「身体が覚えればいいんだよ」と。子供が納得するんですね。それもすごく印象的でした。あと小説の中では、先生と出会ってからは家族の描写が少なくなっていくんです。そのくらい先生にシンパシーを抱いて、人生の中心が家族ではなくて森田先生と学校の生活になっていく。でもそのままだとお母さんが出てこなくなって可哀想なので、「お母さんのお話をもう少し膨らませてもいいでしょうか?」と西川さんにお願いして、「どうぞ」と言って頂けたので、舞台ではちゃんと描いています。
三上 それは素晴らしいですね。

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わかぎ
 うちの従姉妹は5人兄弟で、それだけ多いと時期によって放っておかれる子供がいるんですね。かっちゃんもそうだったんだろうなと。お兄ちゃんがいて、まだ下の子供は小さくて、次男のかっちゃんが少々できなくても気にされない、そういう子供って昔はいたよなぁと。
三上 兄弟姉妹が多い時代ですからね。
わかぎ 森田先生自身とお母さんのシーンに、そういう台詞をちょっと入れてみたんです。
──家族の物語としても幅を広げて?
わかぎ そうですね。アメリカの小説に『Itと呼ばれた子』というのがあって、兄弟の中で、お母さんが1人の子だけを名前でなく、「It(それ)」と呼び出して、虐めていくんです。その少年が後年、そのことはどういうことだったのかを小説に書いて、アメリカでベストセラーになったのですが、その子も他に兄弟がいて、お母さんがその子だけできないから、なんとなく疎外していたら止まらなくなっていく。そういう歪みにいる子供っているよなというのがあったので、森田先生自身がそういう子供だったのではないか?と、これはあくまでも私の想像ですけれども、それを書き加えてみたんです。
──では、舞台ならではの場面があるのですね。
わかぎ そうですね。エッセンスは生かしつつ、作っています。あとはアンサンブルの人たちが本当に大変だよね(笑)。
三上 そうですね!
わかぎ 俳優が8人しかいなくて1人は子役で、三上君は森田先生1役ですが、あとの人たちは全員2役以上やります。最も大変なのは、PTAの会長と生徒を演じる高木稟さんで、同時に出ているシーンがあるという。
三上 同じシーンに? 
わかぎ 生徒でお腹が痛いことにして教室を出ていって、PTAの会長をやって、また生徒で帰ってきて、「お前いなかったじゃないかよ!」「シー!」みたいな(笑)。
三上 面白い!(笑)
わかぎ そういう役者の肉体を使って笑えるところは笑えて、でも物語としては温かくて感動できて、泣かせるものにできればと。博品館はコンパクトな劇場なので、それを生かしながら、遊びを狙って作りたいと思います。

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小さい棘が刺さっていない人なんていない

──三上さんから、わかぎさん作・演出の作品に出演することへの期待は?
三上 ついて行けば間違いないので、安心しています。そして、何よりも『向日葵のかっちゃん』という作品を舞台化されることが嬉しいし、その作品で、また出会えたことはありがたいです。舞台は生もので、その場でしか感じられないことがあって、この作品を小説で読んだ方も、舞台でしか観られないエピソードをわかぎさんが書き下ろしてくださっているので、楽しみに観て頂ければ。そして、もしかして切ない物語かな?と思われている方には、明るい物語なんだということを知って頂きたいです。たぶん誰でもが、自分のどこかに置き換えられる話だと思うから。
わかぎ 小さい棘が刺さってない人なんていないでしょう?
三上 いないですよね。
わかぎ でも「小さい棘って痛いんだよ」とちゃんと言いたいの。この「小さい棘」という表現はトルコに行った時に知ったんだけど、トルコの人は「心に刺さった小さい棘は早いうちに抜け」って言うんだって。心に小さい棘が刺さったままにしておくと、やがて心臓に達して死んでしまう。友達の小さな暴言とかが心に刺さったら、その時に「痛いじゃないか」と伝えて解決してしまわないといけないんだってトルコの人に教えてもらったの。
三上 すごい言葉ですね。
わかぎ 素晴らしいでしょう? とても印象的で、どこかでタイトルに使おうと心に留めているんだけど。
三上 まさにこの作品と同じですよね。
──では改めて、大切なメッセージのこもったこの作品への意気込みをお願いします。
三上 何事にも全力で教えて取り組む、森田先生の生き様そのままに、僕自身が舞台に取り組んで、少しでも観てくださっている方たちの、今、わかぎさんがおっしゃった「小さい棘」がなくなって、向日葵の花が咲いてくれるように、精一杯やらせて頂きます。
わかぎ 人生の中で見過ごされがちなわだかまりや、小さな棘について、役者の肉体を通して、楽しく観て頂いているうちに、心に種が植わっていて、後から花が咲いたらいいなと思っています。夏休みでもありますし、三上君を中心に素敵な仲間たちと、気がついたら良い話だった、というようなお芝居を創りますので、楽しみにしていてください。

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わかぎゑふ・三上真史
 
わかぎゑふ○大阪府出身。劇団「リリパットアーミーII」の座長。大阪弁の人情劇を上演するユニット「ラックシステム」を立ち上げるなど、小劇場から商業演劇まで活躍中。古典芸能の造詣も深く、歌舞伎『たのきゅう』、茂山狂言会『わちゃわちゃ』『近江のおかげ』などの作、演出を手掛けている。エッセイも多数。NHK語学番組『リトルチャロ』シリーズの原作者でもある。

みかみまさし○新潟県出身。06年『轟轟戦隊ボウケンジャー』の最上蒼太/ボウケンブルー役で話題を集める。映画『スウィングガールズ』などに出演。11年からNHK Eテレ『趣味の園芸』のメインナビケーターを務め、「園芸王子」として多くの支持を獲得し、16年からはtvk『猫のひたいほどワイド』で水曜MCを担当している。
  
〈公演情報〉
2017_08_23

『向日葵のかっちゃん』
原作◇西川司
脚本・演出◇わかぎゑふ
出演◇三上真史 星野真里  酒井敏也 西ノ園達大 高木稟 梅田悠 二瓶拓也 阿由葉朱凌/戸塚世那(かっちゃん Wキャスト)
●8/23〜27◎博品館劇場
〈料金〉6,800円(全席指定・税込)
前売り開始 :6月17日 午前10:00〜
〈お問い合わせ〉る・ひまわり 03-6277-6622(平日11時〜19時)
〈公演HP〉http://le-himawari.co.jp/releases/view/00681



【取材・文/橘涼香 撮影/山崎伸康】 






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ワンツーワークス『アジアン・エイリアン』間もなく開幕! 古城十忍・多田直人 インタビュー

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社会問題に真正面から向きあった作品を生み出してきた劇団ワンツーワークスが17年ぶりに『アジアン・エイリアン』を上演、6月22日に赤坂レッドシアターで開幕する。(7月2日まで)
ワンツーワークスの前身、劇団一跳二跳時代の代表作だ。本物の水を使った衝撃的な演出が、この社会の不気味さをひたひたと感じさせ話題となった。
初演から20年近くたった今回は、客演に4人の若手俳優を迎えての公演となる。現代にいかに蘇るのか? 
初顔合わせという作・演出の古城十忍と、客演の多田直人(演劇集団キャラメルボックス)に語り合ってもらった。

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多田直人・古城十忍

明るくさわやかにを超えて「芸人」の域

──お二人は初めてご一緒するそうですね。多田さんは他劇団へ客演されてみていかがですか?
多田 ワンツーワークスには一跡二跳時代も含めて何十年と培われてきた身体訓練のメソッドがあります。ほかの劇団の文化に触れている感覚があって、それがすごく楽しい。何よりも素敵だと思ったのは、音楽がかかって、その音楽のサイズにストレッチとアイソレーションが全部はまっていて、劇団員は指示しなくてもできる。ある種の効率化、システム化された訓練というのは、すごくいいなって思いました。
──古城さんはいろんなタイプの客演を演出してきていますが、しっかり劇団活動をやってきた多田さんはいかがですか?
古城 多田君は最初に会った時の印象とほとんど変わってないですね。
多田 どんな印象だったんですか?
古城 最初に会った時に「天才や引きこもりとか、変わった役柄が多い」って言ってたんです。もちろん、そういう役もできるだろうけど、この人はね、笑顔が結構卑怯だなって思って…(笑)。
多田 卑怯の中にどんなニュアンスが含まれてるかは置いておいて(笑)、初めて言われました。
古城 なんというか笑顔を武器として使う技術を持ってるから、明るくて面白い役をやった方が絶対に幅が広がるのになぁと思ったんです。だから今回、多田君に金山(男3)という役をと思ったのは、この芝居の中で唯一、清涼剤的な側面を持つ役だから。「その役割を担って、明るくさわやかにね」って言ったんですけど、もうそれを超えて今や「芸人」です(笑)。
多田 確かに最近は物語の重いところというか、闇だとかシリアスな面を抱えてるような役が多かったから、今回、軽いフットワークで動いたりしゃべったりしてるのは新鮮ですね。
古城 ただ、金山も心の中にはある秘密を抱えているんです。それをどうやって多田君が明るいだけではなく見せていくのか。それはちょっと楽しみですね。
多田 何を抱えているかは今は話せないのですが…。作品のテーマそのものがシリアスだし、誰もが心の中に抱えていることだとも思うので、前回の上演から17年経った今の時代にも意味あるものにしなくてはという感覚はありますね。一方で、初演から変わらないものももちろんある。これから初日までに、相手役がどう見てくれるか、どうセリフを発してくれるかみたいなところでバランスもとりつつ、つくりあげていきたいと思っています。

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この作品を書いていた当時の思いが再び

──
多田さんが話されたように時代性と普遍性が両極に出てくる作品だと思うのですが、古城さんが今、この作品を取り上げた理由を教えてください。
古城 『アジアン・エイリアン』は1998年が初演で、2年後に再演して以来、上演していないんですよ。評判もよかったのですが、その後、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)などいろんなことが立て続けに起こって、そっちの方に気持ちが行ってしまっていた。それが一昨年ぐらいから、シリアでの内戦が要因となって大量に生まれた難民を受け入れるのか受け入れないかっていうことから、極右政党がヨーロッパで台頭してきて、あげくにアメリカではトランプ氏が大統領になってますます自国第一主義みたいな流れになってきた。数年前からヘイトスピーチが日本でも問題になっていたし、『アジアン・エイリアン』を書いていた当時に感じていた胸クソ悪い思いが再び自分の中でわき起こってきたんですね。この芝居の稽古をしていると胸のあたりがすごく苦しくなるんですが、今がそんな時代だからこそもう1回この作品をやった方がいいんじゃないかと思ったんです。あ、でも、直接的に自国第一主義だとか、今の世の中がどうっていうことを声高に言う芝居ではないです。個人レベルで考えていく芝居にしないと共感は得られないと思うんで。
多田 古城さん、そういう話をもっと稽古場でしてくださいよ(笑)。作家は思いを込めて書いたはずなので、その答を持ってる人間が現場にいるというのは、僕は得だと思うんですよ。それを自分なりに解釈して、こういうふうにやりますよっていうことが提示できるかなって思うので。
──では、作家・古城に多田さんから聞いてみたいことは?
多田 台本を読んだ時、雰囲気というかムードがすごくある脚本だと思ったんですよ。だから求められているものは察しやすい感覚があった。でもじゃあ、この本を僕らが感じ取ったムードのままやっていいのか。逆にこのムードを少し壊してやるのかっていうのは、古城さんのお好み次第だと思うのですが。
古城 んー、そこがなんか不思議なところで、自分で書いて演出してというのが長いからかもしれませんが、本を書いてる時には完璧にイメージがあるんですよ。もう泣きながら書くし、笑いながら書くし、頭の中の登場人物も活き活きしゃべって動いてくれる。ビジュアルもできている。でも、キャスティングをして読み合わせをした時点で、当たり前ですけど、そのイメージはガラガラと崩れるんです。でもだからといって僕の持っていたイメージに俳優たちを当てはめていくのは演出の仕事ではない。芝居というのは本をもとにしながらも、俳優やスタッフ、みんなで意見や知恵を出し合いながらつくりあげていくものですから。だから僕にとっては他の人の本をやろうが自分の本をやろうが、演出としてのスタンスは同じなんですよ。

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1トン以上の「不可視の水」の意味
  
──では、多田さんが演じる金山にはどういう思いを込めていますか? 憤りや怒りを抱えた登場人物はほかにいますが、金山は明るいですね。
古城 それはまったく個人差の問題だと思うんですよ。性格の問題というか。例えば、自分の抱えている問題を話したがらない人もいるし、あっけらかんと話す人もいる。じゃあ、あっけらかんと話してる人が問題意識が低いか、問題の重さが違うのかというと、決してそんなことはないんです。
多田 金山は何かを抱えてるっていうのもあるけど、大好きな2人の先輩に対する思いもあるかなって思います。その先輩への思いと自分の思いのバランスなんですね。今まで培ってきた人間関係とか、可愛がってもらった思い出があるからこその思いも存在する。今回は、その先輩の1人、境田役(男1)の奥村洋治さんが作品の真ん中にいらっしゃって、客演の4人が奥村さんにぶつかり稽古していくみたいな台本になってる。だから仙人みたいな奥村さんをグラグラ揺り動かしてあげるのが僕たちの役目だと思っている。おこがましい言い方なんですけど、いろんな奥村さんを引き出してあげるのが僕らの役目かなと。
古城 今の稽古の時点で、それを自覚的にたくさんやろうとしているのが、多田君だよね。
──客演の4人はD-BOYSの山田悠介さん、劇団スパイスガーデンの山中雄輔さん、フリーの池永英介さんと、それぞれバックボーンが違いますね。
古城 客演全員と初めてですが、出自の違いはあまり気にしてないですね。ただ、やっぱりアプローチは全然違うなぁとは思います。
多田 僕の思いとしては、この作品を観てもらう時、奥村さん演じる境田役に感情移入してほしいですね。境田という役と一緒になって奇妙な感覚になったり、えーっと驚いてもらったりした方が、このお話に没入できるじゃないかと思うから。もちろん、金山の思いも共感してもらいつつですけど、まずは主演の奥村さん!
古城 さっき、多田君も言ったけど、この脚本は奥村対多田、奥村対山田、奥村対池永みたいな構成になってるんですよ。奥村君のスタンスが客演それぞれ相手によって違うのが、奧村君とは長年一緒にやってるから手に取るように分かって、それがまたおもしろいですね。
──初演でも本水を使うのが話題になりましたが、水を使うことの意図と、実際その中でやってみるのはどうなのかお聞きしたいのですが。
古城 水を使った稽古は劇場に入ってからじゃないとできないので、そこに相当苦労するんじゃないかっていうことを危惧はしています。台本に「不可視の水」と書いてあるように、「水は見えない」「水はない」という設定なので、水しぶきが上がるようなシーンで顔に水がかかったとしても、俳優は拭ったり払ったりしちゃいけないんです。初演の時は、水がかかったりしても「生理的な反応をしない」という稽古をしましたからね。水を使ったのは、この作品のテーマを演劇的に表現する方法はないかと、ずっと考えていたんです。物語だけで伝えるのなら演劇でやる意味がないですから。それで「存在が見えない、わからないものって何かないか」と思っていたときに、「あっ、水を使えばいいんだ」って思いついたんです。そのときはもう天にも昇る気持ちで、「俺は天才!」と思いましたよ(笑)。
──それで小劇場で本当に使ってしまう劇団はめったにないです。
古城 しかも1トン以上だからね(笑)。
多田 大変だろうなって思うけど、同時にすごい楽しみでもありますね。本当に素晴らしい発明だと思う。水がひたひた出てくるのって、意味ももちろん込められているけれど、もう少しズルいこと言うと、役者が黙っていても舞台に見応えが生まれると思うので。
古城 そう、そう、そう(笑)。

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多田 水が波打ったりとか、ポタポタしてるとか、それだけでお客さんの想像力が働く。たとえ僕たちの演技がスカスカだったとしても、すごく助けてくれるだろうなっていう思いもある(笑)。だからこそ、稽古でしっかりお芝居を作っておけば、これに水を足した時には相乗効果でもっとすごいことになるんじゃないかっていうワクワクがありますね。 
──謎解き的な内容もあってネタバレできない部分が多いですが、最後にこの作品を観るお客様へのアドバイスはありますか? 社会派な作品だと聞くと、どうしても難しく考えなくてはと思ってしまいますが。
古城 この芝居も「社会派」みたいなくくられ方をするんだろうけど、受け取り方はもちろん自由なわけです。ただ今回は、チラシにも「水を使う」ってことは前面に打ち出しているので、「あの水って、何なんだろう」って思いながら見てほしいですね。見終わった時に多分こういう意味だろうっていうのが、一人一人違うような気がするんです。でも、それでいいんじゃないかと思っていて、その答えをたくさん知りたい。アンケートにどんどん書いてもらえるとすごく嬉しいです。
多田 そうですね。わりと謎めいた感じで進んでいくし、全員が最後にスッキリしたっていう終わり方ではないかもしれません。でも、それは演劇ならではの感覚だと思うんですよね。想像する楽しさ、自分で考えて観る楽しさがある。種明かしができたとか、笑えたとかじゃなくて、「どうだったんだろう?」「私はこう感じたんだけど?」というのを投げかけてもらえるのがいいかなと思います。 


〈公演情報〉
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ワンツーワークス#22『アジアン・エイリアン』 
作・演出◇古城十忍 
出演◇奥村洋治(ワンツーワークス) 関谷美香子(ワンツーワークス)多田直人(演劇集団キャラメルボックス) 山田悠介 池永英介 山中雄輔(劇団スパイスガーデン) 増田 和(ワンツーワークス) 原田佳世子(ワンツーワークス) 小山広寿(ワンツーワークス) 吉澤萌々茄 石川亞子 松尾敢太郎 田村往子
●6/22〜7/2◎赤坂レッドシアター
〈料金〉前売4,500円 当日4,800円 学生3,000円(当日、受付にて学生証を提示)(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉オフィス ワン・ツー/劇団ワンツーワークス 03-5929-9130  



【取材・文・撮影/田窪桜子】



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鄭義信が新国立劇場最で2018年3月に新作『赤道の下のマクベス』を上演!

「赤道の下のマクベス」組写真

昨年、新国立劇場で連続上演された記憶も新しい『たとえば野に咲く花のように』『パーマ屋スミレ』『焼肉ドラゴン』と、日本の戦後史を描いた『鄭義信三部作』。来年春、待望の4作目『赤道の下のマクベス』が上演されるが、そのメインキャストが決定した。池内博之、平田満はじめ浅野雅博、尾上寛之、丸山厚人など、実力溢れるエネルギッシュな俳優たちが出演する。
舞台は1947年、シンガポール、チャンギ刑務所。第二次世界大戦のBC級戦犯として収容されていた日本人と元日本人だった朝鮮人の物語が描かれる。
 
【あらすじ】 
1947年夏、シンガポール、チャンギ刑務所。死刑囚のみが集められた監獄Pホールは、演劇にあこがれ、ぼろぼろになるまでシェイクスピアの『マクベス』を読んでいた朴南星(パク・ナムソン)、戦犯となった自分の身を嘆いてはめそめそ泣く李文平(イ・ムンピョン)、一度無罪で釈放されたにも関わらず、またつかまり二度目の死刑判決を受けるはめになった金春吉(キム・チュンギル)など朝鮮人の元捕虜監視員と、元日本軍人の山形や黒田など、複雑なメンバーで構成されていた。BC級戦犯である彼らは、わずかばかりの食料に腹をすかし、時には看守からのリンチを受け、肉体的にも精神的にも熾烈極まる日々を送っていた。ただただ死刑執行を待つ日々……そして、ついにその日が訪れた時……。

つねに庶民の側から温かくも鋭いまなざしで大きな世界を描く熱い鄭義信ワールド。今から期待が寄せられている。

〈公演情報〉
新国立劇場 開場20周年記念 2017/2018シーズン
『赤道の下のマクベス』 
作・演出◇鄭義信 
出演◇池内博之 浅野雅博 尾上寛之 丸山厚人 平田 満 ほか
●2018/3/6〜25◎新国立劇場 小劇場 
一般発売日 2018年1月20日(土)10:00〜 
〈料金〉 A席6,480円 B席3,240円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉新国立劇場ボックスオフィス:03-5352-9999(10:00〜18:00)
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_009660.html
    
 



  
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