稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

光より前に

三谷幸喜×渡辺謙の新作『ホロヴィッツとの対話』 公開フォトコール&囲みインタビュー

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世紀のピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツと、彼の演奏を支え続けた専属調律師フランツ・モアとの、たった一日の会話を通して、芸術に身を捧げる人々のエネルギーの源泉に迫る『ホロヴィッツとの対話』が、29日からPARCO劇場で上演中である(310日まで。313日〜31日までは大阪)。

作・演出は、『コンフィダント・絆』(07年)、『国民の映画』(11年)に続いて、本作が“海外芸術家シリーズ”の第3弾となる三谷幸喜。彼にとってライフワークともいえる、常に栄光を浴びている表舞台の人間と、それを支えるバックステージの人間との物語を体現するキャストは、調律師のフランツ・モアに、舞台出演は12年ぶりの渡辺謙。その妻エリザベスには、本作が初舞台の和久井映見、天才ホロヴィッツには実力派俳優の段田安則、ホロヴィッツの妻ワンダには、三谷作初出演の高泉淳子と、豪華なメンバーだ。

初日の開幕を前に公開フォトコールが行われ、まずは真っ暗なステージにスポットライトを浴びて三谷幸喜が登場し、作品の説明が始まった。
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三谷 僕が読んだモアの回顧録に、たった1回だけホロヴィッツ夫妻を家に招待したという記述があって、そこからイメージを膨らませてこの物語を書きました。後日、実はもう1日あったとわかりましたが、それは知らないことにしました(笑)。ホロヴィッツは非常に個性が強く、子供のように無邪気なのに神経質で、猜疑心の塊。そんな厄介な天才に25年間付き合ったモアとはどんな人だったのか? これから見ていただくのは1幕3場、場所はニューヨーク郊外のモアの家のリビング。時は76年5月のある日です。

明かりがつくと、舞台の上手にはソファと、グラスの置かれたローテーブル。その奥にはグランドピアノ、下手には洋酒の瓶が並んだ小さなテーブルと、その奥にレコード棚。豪華さはないが、品のいい、温かみのある一室だ。背景にはスクリーン。その陰にもう1台、伴奏(BGM)用のピアノが置かれ、登場人物の喜怒哀楽や、物語の展開に合わせて、鍵盤がリズミカルにつまびかれる。
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渡辺謙のモアは、ホロヴィッツを「マエストロ」と呼んで常に敬意を払い、温厚と誠実を絵にかいたよう。ホロヴィッツが他のピアニストを謗っても、機嫌を損ねないようにフォローし、この男ならホロヴィッツと長年の信頼関係を築けたと納得がいく。渡辺の、男としての逞しさや力強さなどは影を潜めるが、スケールの大きさが、モアの人間像と重なって魅力的。
対する段田のホロヴィッツは、ライバルへの耳を塞ぎたくなるような悪口雑言、すぐ怒鳴り、ヘソを曲げ、言動だけ見れば実に偏屈で老獪。だが、他者への批判はピアニストとしての誇りと自信の裏返しということが、せりふの端々に感じられる。また、料理の好き嫌いを言ったり、妻に叱られてしぶしぶ折れるところなど、“子供がそのまま大きくなった”ようで、憎めない愛らしさがある。
和久井のエリザベスは、夫のためホロヴィッツ夫妻のワガママも耐えるが、カチンと来たらしかめっ面が出る素直さ、どうしても嫌なことは譲らない頑固さ、にこやかに当てこする辛辣さなど、表情豊か。モアとのやり取りにも夫婦の情愛が通い合う。
高泉のワンダは、ワガママさ、好き勝手にふるまう図々しさ、人の家が小さいと平気で言う無遠慮さなど、個性の強さではホロヴィッツといい勝負で、あの夫にしてこの妻ありの名コンビ。だが、こちらも底に悪意はなく、あっけらかんとしたところが、高泉のキャラクターにもぴったり。
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わずか20分ほどのシーンだが、ここだけを切り取っても、登場人物それぞれの性格や、モアとホロヴィッツの関係、芸術家としての、ホロヴィッツの偉大さなど、作品のエッセンスが凝縮されていた。徹底的に練り込まれた三谷作品のせりふ劇の魅力とともに、この個性的な4人がどんな一日を見せてくれるのか、期待に胸がふくらむ舞台だ。

フォトコールの終了後、渡辺謙、段田安則、和久井映見、高泉淳子、三谷幸喜が囲み取材に応じた。

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高泉淳子、段田安則、渡辺謙、和久井映見、三谷幸喜

【囲み取材】
――公開フォトコールを終えて、今の率直なお気持ちは?
渡辺 リズムをすごく大事にするお芝居なので、途中からだと勝手が違って、大変でしたね(笑)。
段田 緊張しましたねえ。初日大丈夫かな〜ってすごい不安ですね。
渡辺 大丈夫です(笑)。
和久井 今日は朝から呼吸の仕方を忘れそうな感じです(笑)。あんまり手が震えるので、イスとかテーブルとかを触って…(笑)。
――高泉さんは、三谷さんの作品は舞台では初めてですが。
高泉 舞台作品も初めてだし、パルコ劇場も初めてなので、初めて尽くしで緊張しています。せりふもずっと掛け合いなので、4人で頑張りながら。
――渡辺謙さんは12年ぶりの舞台ですが。
渡辺 稽古中は、「自転車ってこう乗るんだ」みたいに体が覚えてた感じはありましたが、劇場に入った初日は異常興奮して。えらい早く入ってくたびれ果てました(笑)。ここは演劇人として育てていただいた小屋なので、客席や袖の感じがすごく懐かしいです。
三谷 稽古からずっと見てきて、なんてせっかちな人なんだと(笑)。すごく細かくて、アイディアを言ってくれて…煩わしいわけじゃないですよ、ちょっとでも目が合うと「三谷さん、あそこなんだけど」って来るので、なるべく目を合わせないように(笑)。
渡辺 それで最近合わないんですね(笑)。
三谷 作品の取り組み方とか、僕あんまりこういうタイプの俳優さんを知らなかったので、ある意味とてもうれしいし、刺激になってます。
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――和久井さんはデビュー
25年目にして初舞台ですが
和久井 知らないことだらけなので、顔合わせは浴衣で参加した方がいいのかとか…。
一同 (爆笑)。
三谷 僕は、みんなの知らない和久井さんの引き出しに気づいてたので、それを早く引き出して見せたかったので、うれしいです。とにかく今回は“ニュー和久井”をたっぷり…。
渡辺 どっかの温泉宿みたい(笑)。
――三谷さんの演出を初めて受けて、どうですか?
高泉 とても素晴らしいですね。言葉の裏にある意味とか、今回は特にそういうのが多いので、やっていても、言葉を表すって難しいな、まだまだ未熟だなと思いました。今の場面だけだと、いつものおちゃらけと変わりませんが、私も新しい自分を出せる部分がたっぷりありますので(笑)。
――段田さんは2度目の三谷作品ですが。
段田 感情の起伏はお腹にはあるのでしょうが、三谷さんはいつも穏やかで、とても居心地のいい稽古場、本番を迎えられるのではないかと、ワシは思うね(ホロヴィッツ風に)。
三谷 僕は段田安則さんの大ファンでしたが、学生時代、夢の遊眠社がすごく人気で、周りがみんな騒いでたので、僕は絶対見るまいと思ってたし、大嫌いでした(笑)。野田秀樹も嫌いだったし、その一の子分・段田安則も絶対に一緒に仕事はすまいと固く誓ってたんですが、意外にお会いするといい方で、もっと早く会ってればよかったなと(笑)。
――段田さんがホロヴィッツそっくりで驚いたのですが、ご自身ではどうですか?
段田 そのへんの、日本の爺さんに見えたらどうしようかと、その不安ばっかり抱えながらやっとるんです。今の言葉はお世辞かもしれませんが、ほんとにありがとうございます。僕は映像でしか知りませんが、ちょっとでもホロヴィッツに見えたら、これほどの幸せはありません。


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パルコ・プロデュース公演 パルコ劇場
40周年 第一弾
『ホロヴィッツとの対話 Dialogue with Horowitz
2/93/10PARCO劇場
3/1331◎シアターBRAVA!
作・演出◇三谷幸喜
出演◇渡辺謙 段田安則 和久井映見 高泉淳子
演奏◇荻野清子
〈料金〉
東京公演/9,800円 プレビュー公演9,000円(全席指定・税込)
U-25チケット6,000円(25歳以下・当日指定席券引換・平日限定・要身分証明書)
大阪公演/S9,950 A8,500円(全席指定・税込)
<お問合せ>
東京公演/パルコ劇場 03-3477-5858
大阪公演/キョードーインフォメーション 06-7732-8888
<公式ホームページ>
http://www.parco-play.com/web/play/horowitz/

 
【取材・文/塩田史子
 

ミュージカル『アニー』2013 制作発表レポート

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今年もまた名作ミュージカル『アニー』が、4月から東京、8月に大阪、鳥取、名古屋で上演される。

孤児院で暮らす健気で明るい少女アニーと、大きな犬のサンディ、そしてたくさんの子供たちの活躍で楽しませてくれるこの名作ミュージカルも、今回で28年目を迎える。

今年のアニー役に選ばれたのは岡花絵(左/ヨシオカハナエ)、石川鈴菜(右/イシカワリンナ)の2人。ともに11歳で、約9000人という多数のオーディション応募者の中からアニー役を勝ち取った。この2013年『アニー』公演の制作発表が、131日、汐留の日本テレビに於いて行われた。

【物語】
時代は1933年のNY。世界大恐慌直後の街には失業者があふれ、誰もが希望を失っていた。
そんな中で11歳のアニーは、孤児院でいつか迎えにくるはずの両親を待って、院長ハニガンの酷い扱いにもくじけることなく明るく生きていた。
ある日、富豪のウォーバックス氏の使いで訪れた秘書グレースに気に入られ、お屋敷でクリスマスを過ごすことになる。
孤独な心を慰められたウォーバックスは、アニーを養女にしたいと考えて両親捜しを始めるが、ハニガンとその弟は賞金を狙って悪だくみを始める…。

今回の大人キャストで出演するのは、ウォーバックス役を8年連続で演じている目黒祐樹、秘書グレース役は3年目になる彩輝なお、孤児院院長のミス・ハニガン役に初参加の佐藤仁美、同じく初参加組でハニガンの弟ルースター役の川久保拓司、その恋人リリー役の杉本有美という顔ぶれになる。
その大人キャストに加えて、アニーをはじめとする孤児院の仲間やタップキッズなど28人の子供たちが登場、全員で主題歌の「トゥモロー」を合唱、賑やかで熱気あふれる会見を行なった。


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【挨拶】

吉岡 小さい頃から憧れのアニーの衣装を着てワクワクしています。初めての方にも何回も来てる人にももっとこのミュージカルを好きになってもらえるアニーになりたいです。

石川 憧れのワンピースを着られて、このクルクルの頭になれて嬉しいです。見に来た人に「また来年も見に来たいね」と言ってもらえるアニーになりたいです。
 

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目黒 20数年近く前に客席から観た『アニー』に感動して、いつか出てみたいと思っていて、そして8年前に念願叶いまして、その幸せを噛みしめました。また今回も出演させていただくので、その幸せ感をパワーにして全力で作品に向かいたいと思っています。可愛いアニー役の2人はじめ、フレッシュで素敵なメンバーが揃いました。1つのチームになって全員で力を合わせて作品を作り上げていきたいと思っております。
 

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彩輝 今年で3年目になります。またグレース役に巡り会えて嬉しく思っております。今年も元気溢れる子どもたちや素敵なキャストの皆さんと、愛と勇気をお届けしたいと思っております。今回の2人のアニーもクルクルの髪型がよく似合って可愛いですね。この純粋でたくましいアニーたちに、グレースとしてどんな刺激を受けるか楽しみです。 


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杉本 こんな歴史のある舞台に立てるなんて思っても見なかったので頑張ります。リリーは悪だくみもしますが、人間らしい部分とかセクシーで可愛い部分も出せたらと思っています。


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川久保 この『アニー』の輝かしい歴史を考えると、身の引き締まる思いでいます。稽古が始まるのが楽しみです。聞くところによりますと、ルースターはこれまで悪だくみが成功していないそうなので、僕が完全に成功させたいと思います(会場爆笑)。


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佐藤 ミュージカルに初挑戦ですので、2人のアニーとともに成長したいです。新しい刺激を受けるだろうと楽しみです。歴代でたぶんもっとも若いハニガンです(笑)。皆さんの期待を裏切りたいと思います。フレッシュにできたらと思っています。

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【囲みインタビュー】

会見のあとアニー役の吉岡花絵と石川鈴菜、新参加の佐藤仁美、川久保拓司、杉本有美を囲んでインタビューが行われた。

──今、「トゥモロー」を歌った気持ちは?

𠮷 憧れの歌を歌えて嬉しいです。

石川 初めて会ったたくさんの人たちの前で歌えて楽しかったです。

杉本 元気が出る歌を歌えて嬉しかったです。

川久保 明日に向かって歌う歌で、心に届くのでぐっときました。

佐藤 歌うのを忘れて聞きほれていました(笑)。


 ──稽古で楽しみなところは?

𠮷 サンディ稽古(犬のサンディとの稽古)にワクワクしています。

石川 サンディ稽古もですが、早く台本を読んで早く大人のキャストの人たちとお芝居をしたいです。
 

──大人の方たちはこの作品にオファーされたときの気持ちは?

杉本 私だけでなく両親もすごく喜んでました(笑)。 

川久保 僕は果たしてサンディ役としてちゃんと生き抜けるだろうかと(笑)、あ、ルースター役でした(笑)。

佐藤 私も「アニー役ですか?」と聞き直したんですが、ハニガン役ということで「やっぱりね」と(笑)。『家政婦のミタ』のおかげでこの伝統ある役をいただけたと思います(笑)。光栄です。

──子どもたちを見ていかがですか

佐藤 28人というと1クラスですよね。面倒をみれるかしら?こちらがみてほしい(笑)。

川久保 31歳の僕に何を教えてくれるのか楽しみです。心して臨みたいですね。

杉本 歌とダンスを見習いたいと思っています。

──アニー2人はお互いをどう思いますか?

吉岡 りんなちゃんは明るくて誰とでも仲良くなれる子です。

石川 はなえちゃんはサンディに話しかけたり、動物が大好きな子です。

──では最後に抱負を。

吉岡 私にとって大きな舞台なので成功したいです。

石川 私も主役は初めてなので、私ががんばって、みんなでいい舞台にしたいと思います。

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【アニーと仲間たちのキャスト】 

役名  スマイル組/トゥモロー組

アニー  吉岡花絵/石川鈴菜

モリー  陣あいり/長曽我部夢

ケイト  福山さや/畑すみれ

テシー  黒木百合愛/河賀陽菜

ペパー  土井ひなた/前田晴美

ジュライ 片岡芽衣/原田紗野

ダフィ  吉田菜々/住川京香

ストリートチャイルド 桜井美咲/豊田桃子

タップキッズ 

稲田京也 伊藤かなえ 植草賢 上口優香 狩野永基 柴宮英恵 奥村響 中村優芽 鈴木祐人 原田かほ 野口響 堀寛奈

 

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丸美屋食品ミュージカル『アニー』

演出◇ジョエル・ビショップ

出演◇吉岡花絵、石川鈴菜、目黒祐樹、彩輝なお、杉本有美、川久保拓司、佐藤仁美 他

4/205/6◎青山劇場

〈料金〉S席¥8000 A席¥6500
(全席指定・税込)

〈問合わせ〉キョードー東京 0570-550-799

8/814◎大阪 シアター・ドラマシティ

8/18◎鳥取 とりぎん文化会館 梨花ホール

8/2325◎名古屋 愛知芸術劇場大ホール
公式HP http://www.ntv.co.jp/annie/

 


【取材・文/榊原和子 撮影/岩田えり】

 

 

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馬場徹・伝兵衛でよみがえる『熱海殺人事件』40years' NEW レビュー

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今年で初演から40 周年を迎えるという、つかこうへいの傑作『熱海殺人事件』が、勢いのある若い俳優たちによって、2月2日から紀伊國屋ホールで上演されている。(18日まで。大阪は3月2日◎森ノ宮ピロティホール
)

今回は、つかこうへい最後の愛弟子である馬場徹が、主役のくわえ煙草の伝兵衛こと木村伝兵衛部長刑事という大役に、史上最年少24 歳という若さで挑んでいることで話題だが、その他のメンバーもフレッシュな顔ぶれが揃っている。
女工殺しの犯人として登場する大山金太郎には、EXILEのメンバーNAOKI 。伝兵衛の下で働く婦警の水野朋子にはCM で売れっ子の大谷英子。富山から東京の本庁にやってきた二枚目だが一直線な田舎刑事の熊田留吉には、俳優集団D-BOYS の牧田哲也。

若々しい4人のキャストが、破天荒で理不尽な”つか戯曲"に取り組んで、清々しいまでに体当たりの舞台を見せてくれる。

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舞台になるのは東京警視庁の木村伝兵衛部長刑事の捜査室。伝兵衛の取り調べの中で、熱海で工員の大山金太郎が幼なじみの女を絞め殺したというチンケな事件を、婦警の水野朋子と富山県警から赴任してきたばかりの熊田刑事が、部長刑事とともに一人前の犯人に仕立て上げていく。その過程で繰り出されるレトリックに満ちたセリフの中に、あるべき生き様や人としての美学が これでもかというくらい詰め込まれていて、つかこうへいの凄みを改めて感じる名作戯曲である。

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伝兵衛役の馬場徹は、これまでもつか作品では活躍していて、2011年の『新・幕末純情伝』では坂本龍馬役として迫力の舞台を見せている。今回はそんな”つか芝居”の経験を十分に生かして、洪水のようなセリフをよどみなく、しかもめりはりと説得力をもって見事にこなしてみせる。一回り削げたような面差しは鋭さが加わり、ベロアのスーツが映えて美しい。この伝兵衛役はさまざまなスターを生んできた出世役だけに、大役をここまで演じきった馬場は、大きくステップアップしたといえる。

田舎では優秀だったが伝兵衛の捜査方針に振り回される熊田刑事は牧田哲也、ナイーブで誠実な持ち味がそのまま生きて、素朴さとその裏にある野心、コンプレックスと闘争心など、さまざまな表情を見せながら馬場・伝兵衛に対峙してみせる。これまで内向的な役柄の似合った牧田だが、この作品でアグレッシブな役者への方向性もかいま見えた。

伝兵衛と軽やかで笑える掛け合いが楽しい水野婦警役の大谷英子は、爽やかな色気と明るいキャラクターで、『熱海〜』の紅一点にふさわしい。スレンダーでよく動く体でキレのいい演技を見せるとともに、後半の事件再現のアイ子役では切り替えが鮮やかだ。


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犯人の大山金太郎役に挑んでいるのは、EXILEのメンバーNAOKIEXILEの曲に乗って客席からオレンジのつなぎで登場。ふてぶてしい様子で椅子にふんぞり返るが、サングラスをはずすと人の善さそうな顔が現れ、そのギャップで一気に笑いを取る。劇団EXILEなどでの芝居の経験があるだけに、馬場伝兵衛との駆け引きの中で、一人前の犯人になっていく姿を無理なく見せている。

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熱海、工員、女工殺し、腰ひも、そんなチンケな三面記事的な事件にこそ、追い込んだ社会状況と人間の心の闇があるという、つかこうへいの作家としての眼差しが根底にあり、その犯罪を生んだ社会の不条理を明らかにするために、”不条理な捜査”を力ずくで遂行する伝兵衛の”命がけ” の美学。それこそが、この『熱海殺人事件』の大きな見どころになっているのだが、そんな重いメッセージを担いつつ、若い4人の俳優たちは、EXILEのナンバーを踊り、銃をぶっ放し、愛する人に思いを語り、互いに挑発し合い、まるで一緒にゲームに打ち込んでいるように熱く盛り上がる。
その熱さが、
つか作品ならではのマグマと激しさに通底し、40年前、まだ24歳の若さだった作家が抱えていた、さまざまな情念や屈託を改めて想起させるのだ。そして感じる、『熱海殺人事件』が書かれた時代も"今"も変わらない、"社会と人間というものの不条理”。観るたびに何度でもそこへ切り込んでくる、したたかで強い名作である。


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『熱海殺人事件 40years' NEW
作◇つかこうへい
演出◇岡村俊一
出演◇馬場徹 NAOKIEXILE) 大谷英子 牧田哲也●2/2〜18◎紀伊國屋ホール

3/2◎森ノ宮ピロティホール


〈料金〉5.000
円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉

東京公演/東京音響 
0357743030
大阪公演/キョードーインフォメーション
0677328888
http://www.rup.co.jp/information/ataminew.html


 
【文・榊原和子】

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