稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

浪漫活劇譚『艶漢』第二夜

トタン屋根の上にとどまり続ける猫?人?『やけたトタン屋根の上の猫』

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カランと響く、グラスに氷を落とす音。
遠くに聞こえる、弾け散る花火。
足を骨折して自由には動けないその姿。
遊び回る子供たちのかん高い騒ぎ声。
突然鳴り響く電話のベル。
細かな設定や演出が、役者の演技とピタっと重なったのを感じた瞬間に、
欲やら、愛にまみれた人の姿がはっきりと見えてきた。
その姿を追いかけている内に芝居は終わる。
誰に感情移入するわけでもないかもしれないが、
それでもこの芝居に登場する人々から目が離せないのは、
「人」に対する興味を常に刺激されるからだ。

自分はまだまだ生きると思っているその時に、間近に迫った死を知らされたら?
純粋な友情と、愛することの違いは?
自分自身では体験できないかもしれない感情を想像し続けていられる楽しさがある。
そしてそんな様々な思いを抱えた登場人物たちが、
お互いを牽制し合い、時にぶつかり合う。
そのスリリングな駆け引きに、惹きつけられた。

北村有起哉のブリックには人生を全て放棄してしまったような、けだるさがある。
その原因に触れられた時、彼は怒り、逃げ惑う。
ブリックの妻であるマギーの寺島しのぶは、自分の美しさにプライドを持つ女。
夫は酒浸り、子供もできず、長男夫婦からは嫌みの嵐。
それでもブリックの元を離れずにいる彼女はまさに“やけたトタン屋根の上の猫”。
ジリジリと身体は焼かれていくのに、屋根の上から降りようとしない。
屋根の上からは、いつか自分たちのものになるかもしれない広大な土地と、
堕落していても色気を失わないブリックの姿が見える。
長男夫婦を演じた三上市朗のグーパーと広岡由里子のメイの間には子供が5人。
更に6人目の子供も身ごもっている。
そんな生活感に溢れた様子が、ブリック・マギー夫婦と対照的だ。
ビッグ・ダディとビッグ・ママには木場勝己と銀粉蝶。
かしましく家の中を歩き回るビッグ・ママに、
そんな生活の全てが我慢ならないといった風なビッグ・ダディ。
ずっと側にいられたら嫌気もさすだろうと思わせる銀粉蝶のハイテンションと、
木場の苛立ちや、再び死を感じた時の絶望が芝居の中で光る。
言わずと知れた名作戯曲に全く負けない、役者の地力を感じた。

果たしてマギーだけが“やけたトタン屋根の上の猫”だったのだろうか。
あの家の中にいた家族全員が、それぞれ違う屋根の上で、
太陽に照らされたトタンにジリジリと焼かれながら、
必死に、時に滑稽に、自身の欲望に手を伸ばし続けている。
そんな気がした。







JAPAN MEETS・・・ -現代劇の系譜をひもとく-
『やけたトタン屋根の上の猫』


テネシー・ウィリアムズ
翻訳
常田景子
演出
松本祐子 

出演寺島しのぶ 北村有起哉 銀粉蝶 三上市朗 広岡由里子
   市川勇 頼経明子 三木敏彦 木場勝己

●11/911/28◎新国立劇場小劇場

<料金>
A
席:5250円 B席:3150

<問い合わせ>
新国立劇場ボックスオフィス 
03-5352-9999

 


【文/岩見那津子】

同一キャスト、同時上演!三島VS蜷川『ミシマダブル』

『サド侯爵夫人』と『わが友ヒットラー』、三島由紀夫の代表作二編を同一キャストで交互上演するという大きな挑戦に満ちた企画『ミシマダブル』の製作発表が11月8日に行われた。両作品の演出を務めるのは蜷川幸雄。さいたま芸術劇場ではシェイクスピア作品でのオールメールシリーズを上演しているが、今回は三島作品を男性キャストのみで上演するということで、また違った色合いの作品となりそうだ。「戯曲『サド侯爵夫人』を書いたときから、私にはこれと対をなす作品を書きたいという気持ちが芽生えた」と三島自身が『わが友ヒットラー』の解説でも書いた通り、サド侯爵に関わる6名の女性が登場する『サド侯爵夫人』と、4人の男性の論戦を繰り広げる様が描かれる『わが友ヒットラー』は同時上演にふさわしい、対の作品である。この日の製作発表には演出の蜷川と、東山紀之、生田斗真、木場勝己、大石継太、岡田正、平幹二朗のキャスト6名が勢揃いした。(大石と岡田は『サド侯爵夫人』にのみ出演する。)

<挨拶>

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蜷川 とんでもないこと始めてしまったなぁ、と思いながら今日来ました。日本には珍しい翻訳劇演劇というものがあり、ヨーロッパを真似する、そして実際にはあり得ないような演技をする。そのことを恥ずかしいと思いながら、そこを逆手にとってこの芝居を作ったという三島さんのメッセージが明らかに読み取れるんですね。『わが友ヒットラー』は女でやって欲しいんだけど日本の新劇には女形という演技の系譜がないので、できなかった。と三島さんはお書きになっていたんですね。そういうことも含めて『サド侯爵夫人』、『わが友ヒットラー』の2本を合わせて、一晩の芝居として上演する。一方は18世紀のロココ、もう一方は20世紀ドイツのロココ、その2つのセットを共通にしながら、同じ俳優さんたちによって、男女を演じ分けて欲しいと思ってます。平さんも東山君も、女形の俳優として一緒に仕事をしまして、それで世界という舞台に出ていったこともあります。『さらば、わが愛 覇王別姫』で東山君の熱心でとても美しい姿を見た作者がすごく感動した手紙をくれました。そういうことも含めて良い思い出が女形にはあります。木場さんというおよそ女形にはならない方(一同:笑)、昔からの友人である大石と岡田を踏まえ、最強のメンバーで日本中をあっと驚かせるような、そしてちょっと禍々しい、嘘かな?本当かな?というような、楽しい舞台にしていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

東山 平さんをはじめとする先輩たちと、斗真という若いエネルギーと、その中間にいる僕と、蜷川さんの元でこの三島作品をやる。大変な挑戦ではありますが、この挑戦が終わったあとには、素晴らしい景色が見えるんじゃないかと思いますし、またそれによって人間的な成長が出来たら非常に嬉しく思います。たくさんの方に見ていただきたいと思っています。よろしくお願いします。

生田 この『ミシマダブル』という蜷川さんの無謀とも言える舞台に自分も参加できることをとても光栄に思っています。諸先輩方、本当に偉大な方々の前で大変な思いもするでしょうが、しっかりと気合いを入れて仕上げていきたいと思っています。よろしくお願いします。

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 三島さんの戯曲はたくさんありまして、多幕物の中で『わが友ヒットラー』と『サド侯爵夫人』と『鹿鳴館』というのは3つの傑作だと思っております。幸いにも僕は『わが友ヒットラー』と『鹿鳴館』は既に演じましたが『サド侯爵夫人』も長年演じたいと思いながらチャンスはなく、この機会を逃しては『サド侯爵夫人』を演じる機会はないと思いまして、ちょっとスケジュール的には辛いのですが、このお話に躊躇しながらも噛みつきました。言葉を選び抜き、磨き抜いた、言葉を剣としてですね、お互いが一騎打ちをするような激しい、厳しい芝居だと思うので、みんなで力を合わせて、この勝負、お互いに勝利を得たいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

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木場 三島さんが亡くなったとき、ちょうど俳優学校で初舞台の小道具か何かを作っているところでした。二十歳でした。あれから40年経った、つまり60になってしまったんですけど、改めて三島さんの言葉のクオリティーの高さに感動しています。その言葉を喋れるというのは俳優としてとても光栄だと思っています。ただ、先ほど蜷川さんからお話がありましたように、特に『サド侯爵夫人』の方はご婦人の役でございますので、私がご婦人の役をやれるかどうかというのは、わかりません。(一同:(笑))まだ入ったことのない洞窟の前で身震いをしている感じですが、よろしくお願いします。

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大石 僕は『サド侯爵夫人』しか出ないのでちょっと寂しいんですが、初めての女性の役なので、ヴィジュアルは大丈夫かな?と心配していて。控え室でも蜷川さんに「汚ねぇのは入るな!」って言われて(笑)、女役大丈夫かな?と思いつつ。でも、しつこいですが木場さんがいらしたので安心しました(笑)。よろしくお願いします。

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岡田 この作品に参加できて、わくわくドキドキしています。三島さんの作品は蜷川さん演出の…なんだっけ?(一同:(笑))あ、『卒塔婆小町』で女性の役をやりました。今回も女性の役です。頑張ります、よろしくお願いします。


<質疑応答>

ーー男性のみで上演することの意図をお聞かせください。

蜷川 発端はですね、覇王別姫が終わった後、東山君とまたなにかやろうねって話になって「そうだ、高いハードルで東山君を苦しめてやろう。」と、それがこの発想の元です。物凄く難しいレトリックに溢れた言葉で、演出的に余計なことをしないで、俳優さんたちの言葉で面白おかしく劇を流れさせる。そのことにサディスティックな喜びを持って(笑)、期待しています。頑張ってください。男性が演じることについては、ある様式性がないと難しいんですね。フランスの18世紀のロココとか、そういう何百年も前の時代を扱った三島さんの様式性溢れる戯曲は。装飾過多な言葉の戯曲には、こちら側も少し個性的な大きな演技スタイルを持っていないとダメだと考えています。それで男性によって、女性をやってもらおうと考えました。

ーーそれを受けて、みなさんの意気込み等をお聞かせください。

東山 ある日、蜷川さんのお芝居を拝見した日に、蜷川さんから一冊の本をいだたき、それが『サド侯爵夫人』と『わが友ヒットラー』とが一緒になっている本でした。読みまして、2本立て続けって意味がちょっとわからなくてですね、そのうち1本やって、そのうちまたもう1本やるのかな?と思っていたら、2本立て続けにやるということで…。まさに蜷川さんがサディスティックだったので、驚き、でも、読む内に三島さんの言葉の美しさだとか、そういうものにどんどん惹かれていって、楽しみになってきたんですね。大変なものにチャレンジしてそれをクリアするというのが僕らの喜びなので、蜷川さんに導かれてやっていくというのは、1つの楽しみなところではあります。これが決まって、すぐに斗真と会う機会があったんですね。その時に2人で「今回やばいな。」みたいな話になりました。でも「これクリアしたら俺たち結構凄いぞ。」って話になったんで、そういう風になればお互い成長できるかなと思います。

生田 僕自身は女役というのは初めての経験なので、この中で一番年齢も若いことですし、「一番綺麗だったね。」って言わせたい(笑)。それと、もう一つ、ヒットラーの役ですが、おそらく20代でヒットラーを演じるというのはなかなかできない経験でしょうし、大胆で勢いのあるヒットラーになれればいいなと思います。蜷川さんが東山さんをサディスティックに苦しめている姿をニヤニヤ見たいと思います。(一同:(笑))

 もうちょっと前だったら美しくなる自信があったんですけど、もう喜寿なので、ちょっとその自信はないので、演技でいかないとしょうがないな、と思っています。いつもは蜷川さんの芝居では台詞を憶えて稽古場に入るんですが、今回それがどうしても不可能なので。まぁ文化勲章ももらって、優しくなられていると思うので(一同:(笑))、憶えていない台詞があったとき「年寄りはそういうの憶えられないからなぁ。」っていう嫌みを言わないでいただきたいなと(笑)。精一杯頑張ろうと思っています。両方ともおじいさんと、おばあさんの役なので気は楽です。

ーー東山さんは、覇王別姫の時に女性に変わっていく快感を味わったかもしれませんが、今回のサド侯爵夫人役はいかがですか?

東山 ポスターを撮影したとき、最初は照れくさいんですね。メイクさんに顔を作っていただいて、おしろいも塗って。で、衣裳を着るとその気になれるもので、もうちょっとパットが必要だなぁと思ってパット5枚入れてみたり色々して(笑)、そうしていると女性の気持ちがわかってくるというか、楽しいものですね。この楽しさをもって舞台に立てたら、それらしく見えるのではないかと思っています。

ーー生田さん、同じ日に二役を演じることについてはいかがですか?

生田 一日で男役と女役を演じ分けるというのは、歌舞伎の世界ぐらいかなと。僕は生まれ変わったら歌舞伎俳優になりたいと思っていた時期があったので、生まれ変わる前に男役と女役を一日で演じられるという楽しさがの方が、演じられるかという不安よりも勝っています。

——最後に蜷川さんから一言。

蜷川 今年の5月にロンドンで『ムサシ』をやっているときに、ジュディ・デンチという名女優がサド侯爵夫人を演じまして、劇評がコテンパンで、星が二つぐらいだったのかな?それでプロデューサーがジュディ・デンチを慰める方法はないかと僕の所に来ました。僕は自分がやるから見てはいなかったんですが「翻訳劇を意識して書いているから、当事者であるヨーロッパの人間がこれをやるのは間違いなんだよ。」って。「それじゃあ、ちっとも慰めにならない。」って言われましたけど(笑)、まぁそういうような大変困難な戯曲をみんなにやってもらうとなると本当に嬉しいです!(一同:(笑))





シアターコクーン・オンレパートリー2011
ミシマダブル
『サド侯爵夫人』『わが友ヒットラー』

作◇三島由紀夫
演出◇蜷川幸雄
出演◇東山紀之 生田斗真 木場勝己 大石継太 岡田正 平幹二朗


[東京公演]●2011/2/23/2Bunkamuraシアターコクーン
[大阪公演]●2011/3/83/20◎シアターBRAVA!


<料金>

[東京公演]S席:11,000円 A席:9,000円 コクーンシート:6,000円(全席指定・税込)
[大阪公演]
S席:11,000円 A席:9,000円(全席指定・税込)


<問い合わせ>

[東京公演]Bunkamura 03-3477-324410:0019:00
[大阪公演]キョードーインフォメーション 
06-7732-888810:0019:00

 

 

【取材・文/岩見那津子】

ルパージュのマジックに打ちのめされる。『The Blue Dragon』

芸劇BD_7_l

 

墨で書かれた「一」という漢字が装置の白地に浮かぶプロローグ。中国が舞台のこの物語は、漢字という象形文字からインスパイアされた、ルパージュの豊かなイメージ世界の結晶ともいうべき作品だ。

ストーリーの背景となるのは、中国の上海。そこに住むカナダ人の中年の男性ピエールと、彼と関わりのある2人の女性が登場する。 ピエールはロフトを改造したギャラリーを営んでいて、恋人のシャオ・リンは中国人のアーティスト。そこにピエールのかつての恋人で、広告関係のビジネスウーマンであるクレアーが訪れる。彼女は養子を求めて中国にやってきたのだ。そんな3人のそれぞれの心情や事情を映し出しながら、物語は進んで行く。

男と女という日常的な視点から、それを取り巻く状況と世界へと問題意識芸劇BD_4_lを広げていくルパージュが、今回のテーマとして差し出しているのは「子ども」で、そのキーワードによって少子政策をめぐる中国の問題、人種差別、シングルマザーへの偏見、などをあぶり出して行く。

この物語をよりリアルにも、同時にファンタスティックにも見せているのが、ルパージュならではの映像効果。

浮かび上がる漢字、降りしきる雪、遠ざかる列車の光、自転車で走り抜けていく街や人々、そして人肌に描かれた刺青などといったすべての映像が、単なる演劇の背景ではなく、まさに演劇空間の一部として融合し、物語の一部としてそこにある。そして何よりもそれが限りなく美しいのだ。

そんな美しさに酔わされているうちに、思いがけない結末へと導かれ、そこでもまた徹底的にルパージュのマジックにしてやられる。どこまでも演劇の可能性を探り求め続けるルパージュ、その欲望の限りなさに、心地よくうちのめされる作品である。

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The Blue Dragon

マリー・ミショー ロベール・ルパージュ
演出ロベール・ルパージュ
出演マリー・ミショー アンリ・シャッセ タイ・ウェイ・フォー

●11/1111/14◎東京芸術劇場 中ホール

<料金>
S席:6,500A席:4,500円(全席指定・税込)

<問い合わせ>
チケットについて 東京芸術劇場チケットサービス 03-5985-1707
公演について   東京芸術劇場事業企画課 03-5391-2111

 

 

【文/榊原和子】

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