稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

えんぶ9号ラインナップ

信じることの危うさ。野田地図番外公演「表に出ろいっ!」

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勘三郎が酔った際に発したという『表に出ろいっ!』という言葉。
それがそのままタイトルになり、そのまま作品に込められた思いにもなった。

 

両親と一人娘という3人家族。

父が中村勘三郎、母が野田秀樹、
娘役はWキャストで黒木華と太田緑ロランスの二人がオーディションの結果選ばれた。

3人には生活を投げうってでも自分を捧げたいと思う「信じるもの」がある。

それはアミューズメントパークであったり、
アイドルグループであったり、キャラクターグッズであったり様々だ。

3人それぞれ、絶対に今日出掛けなければ「信じるもの」を失う状況にあるのだが、
家には産気づいたペットの犬・ピナバウシュがいる。

誰か一人が留守番をして面倒を見なければ、
ピナバウシュとその子供たちの命は失われるかもしれない。

それでもみんな自分が信じるものが一番で、
例え家族であろうと別の人間の「信じるもの」、
価値観の違いを絶対に認めることができない。

誰が留守番をするかを巡って起こる、小さな家の中での言い争い。

 


パッと観れば、家族間でのドタバタ喧嘩劇。

でもそこに世界を感じる瞬間が確かにある。

家なのに世界。世界なのに家。

「信じるもの」の違い、それを認められないから争いが起こるのだ。

東京芸術劇場の小ホールという小さな小さな空間から、
大きな世界を想像させる野田秀樹らしい、演劇らしい演劇である。

意識を広げたり、内にこもらせたり、
自由自在に観客一人一人の想像力を操って遊んでいるような印象すら受ける。

でも遊ばれた方が、絶対に面白い。

 


前回の野田地図公演『ザ・キャラクター』とリンクする部分があるのもこの作品の面白さ。

もちろん観ていなくても楽しめるのだが、
観ていたらより息を飲む瞬間があるだろうし、
あの胡散臭い書道教室が頭をちらつき、娘が本当に信じるものも想像しやすい。

 


中村勘三郎と野田秀樹が1時間20分を1955年生まれの55歳とは思えない、
いや、むしろ信じたくないぐらいの、ものすごいテンションで駆け抜けていく。
体力的にも全力疾走。

その55歳に物怖じせずぶつかって、更なる嵐を巻き起こす娘。

3人のエネルギーに爆笑しつつも、
「ここまで来てみろ」と煽られているような気分にもなった。


今回、娘を演じたのは太田緑ロランスであったが、
およそ二人の娘には見えない容姿のアンバランスさからして面白い。

全く受ける印象の違う黒木華との違いがどう出ているのか、
黒木バージョンを見るのも楽しみである。

 


「信じるもの」の違いにがんじがらめになった3人は、
家から出られなくなり、水もない、食料もない状態、「死」に直面する。

アミューズメントパークも、アイドルも、キャラクターも結局は救ってはくれない。

外に繋がる、玄関のあの扉。

あの扉を開けることができたのは自分なのに、
もはや自分でさえ扉を開けることができない。表に出ることができない。

こんなことになる前に自分の力で「表に出ろいっ!」と、
観ている側としては重いものをぶつけられた気は確かにしたのだけれど、

そこをさらっとかわして、悲劇にはしない、シリアスにはしない終わり方が憎い。

野田秀樹に最後の最後まで操られて、遊ばれてしまった。

 

 

 






NODA
MAP番外公演

『表に出ろいっ!』

 


作・演出野田秀樹

出演中村勘三郎 野田秀樹 黒木華/太田緑ロランス(Wキャスト)

 


/5〜9/28◎東京芸術劇場 小ホール

 


<料金>

一般¥7,500/サイドシート¥4,000(25歳以下¥2,000 要身分証)

高校生割引¥1,000(要学生証)

 

 



<問い合わせ>
NODA・MAP 03-6802-6681

【文/岩見那津子】

 

 

表と裏の顔を演じる黒木瞳。芸能生活30周年記念『取り立てやお春』

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明治座の11月公演『取り立てやお春』の制作発表が9月13日、都内のホテルにて行われた。

黒木瞳の明治座初出演、そして宝塚歌劇団での初舞台から芸能生活30周年となる記念の舞台ともなる今回のこの公演は、脚本演出に、今夏、惜しまれながらも解散公演を行った劇団M.O.Pの主宰であったマキノノゾミ。そのM.O.Pで上演し評判となった『ちゃっかり八兵衛』を大劇場向けにバージョンアップしての上演となる。

物語のベースになっているのは落語の「居残り左平次」で、その他に「品川心中」「太鼓腹」などのネタを織り交ぜ、さらに忠臣蔵の仇討ち、大石内蔵助・主税親子までもが登場。笑って泣ける人情喜劇を目指す。

黒木瞳は、表の顔は三味線の師匠、裏の顔は泣く子も黙る取り立てやといわれるお春を演じ、花魁姿も披露する予定。お春の取り立てを受けるのが石黒賢演じる弥七。また大石内蔵助には少年隊の錦織一清が扮し、息子の主税には大河ドラマ『竜馬伝』にも出演中の若手歌舞伎俳優・中村隼人。その他、新派の波乃久里子や、松竹新喜劇の渋谷天外らも出演し脇を固める。

この日の制作発表には、作・演出のマキノノゾミ、黒木瞳、石黒賢、錦織一清、中村隼人の5人が登場した。

【挨拶】
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マキノノゾミ「こういう制作発表の場では緊張していることが多いんですけど、今回はリラックスしております。徹頭徹尾愉快なお芝居ですので、僕自身も稽古に入るのが非常に楽しみです。稽古場が愉快であれば間違いなく愉快な舞台になると思いますので、どうぞ楽しみにしていただけたらと思います」 

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黒木瞳「私は舞台はどちらかと言いますと苦手でありまして、あまり好きなほうではありません(笑)。でも今年この作品に出会えるということはきっと初心に戻って、もっと頑張れと言われているのではないかと自分を叱咤激励して、覚悟を決めました。でも最近、嫌い嫌いも好きのうちなのかな?と舞台をとらえております(笑)。お客様だけでなく、舞台に上がる我々も、愉快に楽しんで、はじけられたらいいなと思っています。痛快、爽快、時代劇エンターテイメント。皆さまお楽しみにしていてください」

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石黒賢「舞台の経験はあまり多くなくて、今からどうしようかと緊張しているんですけど、でも本当に面白い台本を、こんな素晴らしい劇場で出来たら、良い意味でアンバランスな感じになるんじゃないかと思って、この役をやらせていただきたいと思いました。頑張りたいと思います。どうぞよろしくお願いします。」


錦織一清「喜劇というのはお客さんを楽しませることももちろんなんですが、たぶん演じている方が楽しくなきゃ、お客さんも楽しくないと思います。だから本当に楽しんで…でも僕は楽しむのを通り越してふざけちゃったりするんで(笑)、そこはマキノさんに怒っていただきながらまた新しい自分を発見できたらと思います。よろしくお願いします」
 
 
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 中村隼人「歌舞伎以外の舞台に立つのは初めての経験で、わからないことが色々あると思うので、共演者の方に教えていただいて色々吸収しながら頑張って行きたいと思います。また台本では歌舞伎の世界とは違う、大石内蔵助と松之丞が見られたので、すごく楽しみにしております。どうぞよろしくお願いします」

記者からの質疑応答では、黒木の印象を訪ねられた錦織が宝塚時代、黒木の相手役だった大地真央との共演経験を語り「真央さんも、黒木さんも…これで俺、制覇した感じです!(笑)」と会場を湧かせたり、ラッキィ池田の振り付けに挑む中村も「外国のダンスはやったことがないのですごく緊張しています。」と自然に出た歌舞伎俳優らしい一言で、場を和ませた。

11月1日に明治座で初日を迎え26日に千秋楽。その後、12月5日〜12月20日まで名古屋・御園座、年を越えて来年3月3日〜27日まで大阪松竹座で上演される。

 

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『取り立てやお春』

作・演出◇マキノノゾミ
出演◇黒木瞳 石黒賢 錦織一清 波乃久里子 渋谷天外 中村隼人 ほか

●11/1〜26◎明治座

●12/5〜20◎御園座

●2011/3/3〜27◎大阪松竹座

<料金>

明治座 A席¥12,000 B席¥5,000

御園座 1 ¥12,000 2 ¥7,200 3 ¥3,600

大阪松竹座 一等席¥12,600 二等席¥7,350 三等席¥4,200

<問い合わせ>

明治座 03−3666−6666(明治座チケットセンター10:00〜17:00)

 

 

【取材・文/岩見那津子】


自分の内側への旅。『ハーパー・リーガン』

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ハーパーという中年にさしかかった1人の女性の、これは内面の旅を描いた物語である。

主人公のハーパーは旅に出る。家庭も仕事も放り出して。
父親が死にかけているというやむにやまれぬ思いがあるとしても、それは彼女にとって、いつかはしなければならない旅だった。
物語は、死を前にした父親に会いに行きたいと考えたハーパーの、それから2日間の出来事を、行く先々で出会った相手との対話形式で展開していく。


ハーパーの出奔のいわばきっかけになる休暇を与えようとしない支配的な上司、受験期でナーバスになって母親と対立する娘、幼児ポルノを撮っていたという疑いで仕事に恵まれず屈託のある夫。
そんな息詰まるような日常の中で、ふと口をきいた1人の少年とのやりとりや、頭を直撃しそうになったビルの瓦礫が、ハーパーの心を突き動かし、一気に父親のもとへの駆り立てる。だがハーパーが着いたときには父親は亡くなっていた。深い喪失感、そこから本当の意味でのハーパーの心の旅が始まる。

父親の病院を出てから、ふらっと立ち寄った朝のパブで、彼女は酔っぱらったジャーナリスの男から革ジャンを手に入れることになる。それまで地味で目立たない身なりだった主婦のハーパーが、身に添わない革ジャンをまとったときから意識的な変化が始まる。
出会い系サイトで知り合った中年男とホテルに行き、美しい少年に彼のあとをつけていたと告白する。一見、性的には抑圧的にも見えたハーパーが、次第に周囲にとってもセクシャルな存在になっていくのが興味深い。 

小林聡美のハーパーと母親役の木野花以外の出演者は、それぞれ2つの役をかけもちしていて、たとえば夫役の山崎一は出会い系サイトでハーパーとホテルに行く中年男も演じていたり、娘のサラ役の美波は病院で父親を看取ってくれた看護師にも扮している。その役割り分担が、演じる2つの役の本質を照射し合って、そこからまた見えてくるものがあって面白い。

結果的には、ハーパーは自分の家庭に戻っていき、娘や夫との関係を新たに始める。もう以前のような良い妻であり母ではないハーパー。だからこそ築ける新しい関係があることを示唆して物語は終わる。

人間同士を結びつけているさまざまな関係性と、それゆえの孤独や揺れを提示するサイモン・スティーブンスの翻訳劇を、長塚圭史が演出。構成も美術も、演じ方も、シンプルにそぎ落とされた空間だからこそ、会話と感情がくっきりと浮かび上がり、観る側にも深く問いかけてくる作品だ。

 

 

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『ハーパー・リーガン』

作◇サイモン・スティ−ブンス

演出◇長塚圭史

出演◇小林聡美、山崎一、美波、大河内浩、福田転球、間宮祥太郎、木野花

●9/4~26◎パルコ劇場  

●9/29◎水戸芸術館ACM劇場  

●10/2〜3◎梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

〈料金〉

東京/7500円

水戸/S席6500円 A席6000円 B席4500円

大阪/S席7500円 A席5500円

〈問合せ〉

東京/パルコ劇場 03-3477-5858 http://www.parco-play.com/web/stage/information/harpar/

水戸/水戸芸術館 029-227-8123

大阪/キョードーインフォメーション 06-7732-8888

 

【文/榊原和子】

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