稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

浪漫活劇譚『艶漢』第二夜

『4.48サイコシス』飴屋法水インタビュー

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F/Tの注目作の1つ、『4.48サイコシス』が11月16日開幕する。

春のF/Tで、平田オリザの戯曲『転校生』を演出して好評だった飴屋法水が、今度はイギリスの作家で、10年前に若くして自殺したサラ・ケインの遺作に取り組んでいる。

飴屋法水は、1984年に「東京グランギニヨル」を結成してカルト的な人気を博し、87年には「M.M.M.」を立ち上げてインスタレーションと融合した演劇を展開した。90年代はアートの世界で活動して、そののち「動物堂」を経営し、さまざまな生物の飼育や研究を行っていた。05年には再び実験的な美術活動を再開するとともに、演劇でも07年には静岡の「SPAC  秋のシーズン2007」で、前記の『転校生』の初演出を手がけ、変わらぬ才能を見せてくれた。

今回、彼が挑むサラ・ケインの『4.48サイコシス』は、精神を病む者の内面が、詩のような数字のような言葉の断片で描かれている作品で、その心象風景を彼がどう表現してくれるか期待は大きい。

このインタビューの行われたのは稽古場だったが、すでにアーティスティックな空間を感じさせて、独特の飴屋法水の世界が形作られていた。

 

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【誰の言葉か決められていない戯曲】

ーー今回のサラ・ケインの戯曲はまさに飴屋さんの世界にぴったりだなと。

どうなんでしょうか。そう言われがちですけど、誤解を怖れずに言うなら、僕は別に惹かれて作るわけではなくて、たまたま作る機会をもらったから、という程度のとっかかりなんです。たぶんこういう形でなく読んだとしても、そんなに惹かれなかったと思います。でも人が僕にやれと言うからには、たぶんそこに何かがあるんだろうなと。僕自身が気づいてないそれが分かればいいなと思うし、稽古の過程で少しずつでも分かればいいなと思ってます。

ーー今、どこまで近づいた感じですか?

今の段階で決まってることは、とにかくサラ・ケインさんが書いた言葉を言わなくてはいけないということ。また、それを言ってる者を見て僕自身が気持ちが動かなきゃダメなこと。その両方がクロスしつつあるかな、というのが今の感じですね。

ーーフライヤーに載ってる無数の顔のアート作品は、この戯曲を前提に作ったのですか? それともアーティスト飴屋法水自身のテーマとしてあったものですか?

どっちもですね。結局自分が抱えているものしか出せないし、といっていたずらに自分に引き寄せたり、自分なりの解釈を主張する気は特別にないんです。でも、つねに接点というかクロスするところはあるだろうなと思ってます。

ーーこの作品はサラ・ケイン自身のモノローグでもあり、同時に無数の人間の言葉の集積とも言われていますが。

ト書きとかには人の指定がとくにないんです。ということは自由にやっていいよというふうにも取れるけど、逆に役名を振れなかったとも考えられるんです。これは誰というふうにできなかったのかなと。その感じはわかるというか、そこが一番の接点かもしれない。だから誰が言ってもいいと思っていて、それを探るから稽古時間がかかっています。発語してもらうまではすべてが分からないので。

ーー飴屋さんは、いつも創作のテーマに“死”があったと思います。それも、肯定でも否定でもなく、そこにただあった。それに関して、今現在の飴屋さんは、どう捉えてどう提出しようとしているのでしょうか?

僕は死にたいと思ったことがないし、サラ・ケインのような鬱状態も未知のもので、なるべく楽しく暮らしたいなと思ってる人間なんですが(笑)。死って万人が体験不可能なものですから、外から語るしかないですよね。僕は動物が好きなんですけど、動物は死という概念を持ってない。ある日活動が止まるだけで、それを死という概念で捉えてない。でも人間はその概念を持ってしまって、しかも肥大してるなと思うんです。

ーー飴屋さんは、即物的に捉えたいということですか?

自分の場合は体験できないことですからね。でも僕はたとえば子どもがいますから、その子どもが死んだらとか知り合いが死んだらと考えると、喪失ということかなと思います。自分が死んだらそれを他者に与えるだろうと。だから僕の中では死が堂々巡りするような感覚はないし、僕にとっての他者の死をこの作品でも考えてるんだと思います。
 

【ラインを超える感触を求めて】

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ーー飴屋さんはアートの世界での活動も盛んですが、最近また演劇に近くなっているのが嬉しいんですが。

美術に移行したとか演劇から離れたとかいうことではなくて、ただ機会がなかっただけですから。『転校生』で久しぶりに話がきて、こういう羽目になってるわけで(笑)。正直に言えば90年代は演劇をあまり観てなかったんです。それが2000年代に入ってから、逆に美術から離れて芝居を観る機会のほうが多くなっていました。だから自分のなかでも、そういう流れなのかなと思っていたりはするんですが。

ーーどんなものに興味を惹かれましたか?

F/Tのラインナップに重なる感じですが、サンプルの松井周さん、ペニノのタニノクロウさん、チェルフィッチュの岡田利規さんとか、五反田団の前田司郎さんとか、みんな面白いですね。

ーーそのあたりの70年代生まれの人たちは注目の世代ですね。

エネルギーを感じます。90年代は美術の分野にそういうエネルギーを感じていて、ちょうど村上隆さんとか出て来たころでしたが、そういうエネルギーにこちらの創作意欲が刺激される部分はありますね。

ーーその70年代の人たちの感覚と飴屋さんの作品世界は遠くないなと。『転校生』の演出は、現代社会への目線や切り口が彼らと近いと思ったし、精神の若さを感じました。

作ってるときは、ひたすら「これはどうしょうもないな」と思いながら作ってるんですけどね(笑)。『転校生』が初日を開けたときも「なんでこんな失敗作しか作れなかったんだろう」と。そういう感じです、いつも(笑)。

ーーそこから復活するのは、お客さんの反応ですか?

面白いと多くのかたが言ってくれたり、観客の気持ちが動いてるのが伝わってきたりすると、「じゃあ、よかったのかな」と思うけど、作ってるときはそういう評価は全然できなくて、いつもメソメソ泣いてます(笑)。

ーー本当に作りたいものにはまだ届いてないということですか?

うーん、作りたいもののイメージがあればいいんですけど、何を自分が作りたいのかも分かんないし、作っててこれがどうなっちゃうのかも分かんないし、今も確信なく作ってるわけですから(笑)。

ーーそれでも作り続けるためのモチベーションはなんですか?

もちろん仕事でやらなくてはいけないということがありますけど、やっぱりそれだけでやってるわけではなくて。僕は「ラインを超える」という言葉を使うんですけど、「ラインを超えた」というときは、自分の気持ちが動いてるし、終わってからもその気持ちは残ってる。いいかげんな言い方ですけど、いつ超えるかは分からないし、どう超えたのかも分からないんですけど、確かにラインを超えたという感覚はあるんです。ちょっとさっきの話と矛盾してるみたいだけど。

それから、人は好きだと思います。好きじゃないとできないし、みんなのことをいつもすごく好きだし。それがきっとモチベーションだと思う。チープな言い方なんだけど、その人がすごく素敵に見えたらいいなという動機が意外と大きいかもしれない。

ーー飴屋さんは80年代に、演劇でもアートのようなインスタレーションをよく造られてましたが、いつも役者がモノにはなっていなかったし、生き生きしてました。人間を素敵に見せることはテーマなんですね。

素敵になればいいですよね。僕はその役者たちがサラ・ケインの言葉を吐くのを見ながら、自分の中でいいと思えればOKで、それを探ってるだけですから。あまり僕は台本の解釈とかには興味がないんですが、見てて嘘っぽいと僕の気持ちが動かないので、最終的には演出することは解釈することになっちゃうんですけどね。なんとなく言ってもらっててもしょうがないから。

ーー飴屋さんのそのリアリティで、サラ・ケインの戯曲の「死」をどう捉えるかが楽しみです。

ちょっとズレますが、よく考えるのは「自分が生きてるのか死んでるのかよく分からない」ってことなんです。死を概念だと言ったけど、生も概念じゃないですか。今、ここにいて話していたり、この椅子の感触なども現実だと思っているけど、本当にそうなのか。考えたら夢の中ではその世界が強烈なリアリティを持っていて、ときには脂汗をかいたり叫んだりしてるわけです。そう考えるとよく分からなくなるんですよ。街を歩いていて「もし自分が死んで、仮に幽霊になって街に出たら、きっと今と同じように見えるんじゃないか」と思ったり。そうすると、本当に今、自分が生きてるのかなということも疑問に思ったりするわけです。

ーー見える世界であっても、こちらは生きてるとはかぎらないとか?

そういうふうにも言えますね。

ーーさまざまなものを想起させてくれる作品になりそうですね。

なるといいですね(笑)。

 

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フェスティバル/トーキョー09秋

『4.48サイコシス』

●11/16〜23◎東池袋 あうるすぽっと

◇サラ・ケイン

演出◇飴屋法水

出演◇山川冬樹 安ハンセム 石川夕子 大井健司 小駒豪 グジェゴシュ・クルク他

<料金>一般¥4500  学生¥3000 高校生¥1000

問合せ◎F/Tチケットセンター03-5961-5209

http://festival-tokyo.jp/(パソコン)

http://festival-tokyo.jp/m/



 

                  【取材・文/榊原和子】

 

 

『グレイ・ガーデンズ』 舞台稽古囲み

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【おかしな姿?の2女優】  
11月7日に初日を開けたミュージカル、『グレイ・ガーデンズ』の囲み取材とフォトコールが、6日にシアタークリエで行われた。

『グレイ・ガーデンズ』は、故ケネディ大統領の夫人だったジャクリーンの叔母にあたるイーディスとその娘イディの、実際の生活を描いたもの。最初は1975年にドキュメンタリー映画としてアメリカで公開され、一大センセーションを巻き起こした。
そんな母娘の愛憎と暮らしに焦点を当て、2006年にミュージカル化したのがこの舞台で、日本ではこれが初演になる。

第一幕は華やかなセレブ、第二幕は没落してゴミ屋敷と呼ばれる荒れ果てた邸宅で、58匹以上のネコやアライグマとともに生きる日々を描いている。またイディの奇抜なファッションは有名デザイナーの注目を集め、ファッション業界にも影響を与えたと言われている。

DSCF0658この囲み取材には、メインキャストの大竹しのぶ、草笛光子、そして演出の宮本亜門も出席、大竹は、イディが着ていた水着ファッションで脚線美を披露。一方の母親イーディスの役の草笛はガウンスタイルでやや恥ずかしげに報道陣の前に登場した。

 

大竹「イディはアイスクリームばかり食べているので、お腹に詰め物をしています。この親子はお互いに離れたほうが幸せになれるのに、それができなくて罵り合う。でもこういう母娘はどこにでもいると思うので、そういう方には身に沁みる作品だと思います」

草笛「私はこんな格好で人前に出たことないので、恥ずかしくて。それに楽屋にいていざ舞台に行こうとしても、気持ちが切り替えにくいですね。今回もそうなんですが、私はしっかりした娘を持つ役が多くて。たぶん私が子どもだからだと思います(笑)」

大竹「草笛さんのほうが甘ったれですよね」

宮本「おふたりとも今回は女優としてすごい姿を見せてくれてます。草笛さんは甘えながら悩む。大竹さんはこうなのと決めながら、どうしようと悩む。その対決が雄々しくてこの2人のやり合いが最大の見せ場です」

二大女優の正面からのぶつかり合いに、演出の宮本亜門も確かな手応えを感じている様子だった。
 

『グレイ・ガーデンズ

●11/7〜12/6◎シアタークリエ

 12/10〜13◎シアターBRAVA!

12/18〜19◎中日劇場

台本◇ダグ・ライト

音楽◇スコット・フランケル

作詞◇マイケル・コリー

演出◇宮本亜門

出演◇大竹しのぶ 草笛光子 彩乃かなみ 川久保拓史司 吉野圭吾 デイビッド矢野 光枝明彦

<料金>シアタークリエ/S席¥11000 A席¥8500 

           シアターBRAVA!/S席¥11000  A席¥8500 

           中日劇場/A席¥11000 B席¥7000

 

<お問合せ>東京公演/東宝テレザーブ 03-3201-7777

                 http://www.toho.co.jp/stage/

               大阪公演/キョードーチケットセンター 06-7732-888                       

                  http://kyodo-osaka.co.jp

               名古屋公演/中日劇場チケットセンター 052-290-1888

                  http://www.chunichi-theatre.com

                               【取材・文/榊原和子】

『海をゆく者』稽古場ルポ

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11月16日に開幕するパルコ・プロデュース公演『海をゆく者』は、アイルランドの気鋭の劇作家コナー・マクファーソンが、2006年に自ら演出してロンドンのナショナルシアターでデビューを飾り、「ローレンス・オリヴィエ賞」のBEST PLAYほか3部門でノミネートされたという話題作の、日本初演である。

今回の日本版は、栗山民也が演出し、出演は小日向文世、吉田鋼太郎、浅野和之、大谷亮介、平田満という男優ばかり5人で、シビアな展開のなかにもユーモアがにじむ、いかにもアイルランドの人間ドラマらしい戯曲世界に挑んでいる。
その熱の入った稽古の一部を見学することができた。

 

まずストーリーを説明しておこう。
ダブリン北部のバルドイルにある一軒家で兄弟2人が暮らしている、最近失明した兄・リチャードと、その世話をするために家に戻ってきた弟のシャーキー。彼らには古くからの飲み友だちのアイヴァンがいるが、彼も強度の近視で眼鏡がないとほとんど見えない状態だ。

3人はクリスマスを祝って今夜もポーカーをする予定だが、リチャードがシャーキーとは訳ありのニッキーを誘ってしまい、さらにニッキーがパブで知り合ったロックハートという見知らぬ男をゲストに連れて来たことから、シャーキーは不機嫌になる。それでもイブを楽しく過ごそうと、飲みながらゲームを始める男たち。
夜も更けた頃、いきなりロックハートが賭けのレートをつり上げる。常識を越えたレートにいぶかしみながらもゲームを続ける男たち。だがロックハートにはさらに隠された目的があった。

 

稽古場にはほとんど舞台と同じサイズで、リアルなセットが組まれている。ダブリンの北部の海添いの町にある一軒のリビング。酒瓶や皿、カップが置かれたままのテーブルや、いろいろなものが散らかった床のようすは、男だけの生活を映し出すようで侘しく寒々しい。外には強い風の音、そして海鳥の声も聞こえる。

部屋の床にボロ布のように転がって寝ているのは、兄のリチャード・吉田鋼太郎だ。やがて弟のシャーキー・平田満が、下手にある階段から降りてくる。階段の途中にあるキリスト画の下の飾り電球を、軽く手で叩く。すると電気が点くが、またすぐ消える。

部屋を片付けるシャーキーと目覚めたリチャードの会話が始まる。といってもリチャードは目が見えないことに苛立っているのか、終始怒鳴っている。同時にどこか弟に甘えるような憎めないワガママぶりは、吉田の持ち味でもあり笑いを誘う。

そこに、昨夜から泊まっていたらしい友人のアイヴァン・浅野和之が階段から降りてきて会話に加わる。彼も強度の近視で、眼鏡をなくしたせいで動くのさえ不自由そうだ。この3人のやりとりはちょっと荒っぽいが、お互いにどこか愛情を持っている空気が伝わってくる。

そんな3人のもとに訪れるのが、友人のニッキー・大谷亮介と正体不明の男ロックハート・小日向文世。この5人で始めるポーカーによる賭けが、後半からの大きな見せ場となってくる。

 

今回は早い段階から立ち稽古、そして通しを行っていたという。それはポーカーのカードさばきが重要なためで、確かにカードをしながら会話をスムースに運ぶためには、少しでもカードになじんでおいたほうがいいにちがいない。

見せ場はポーカーゲームのほかにも、盛りだくさんで、小日向扮するロックハートが正体を現す後半の長ゼリフや、平田とのスリリングな勝負のやりとり、そして吉田や浅野という伏線が生きてくるクライマックスというように、物語の構成は巧みに仕組まれている。とくにポーカーに賭けられたものの重さと、その勝敗の行方のドラスティックな展開に、観客はこの戯曲の持つ面白さを実感することになるだろう。

また、クリスマス・イブからクリスマス当日の朝という特別なシチュエーションが、いかにもふさわしい物語だということも、観客は舞台を観終わったあとに、きっと気づくにちがいない。

5人のベテラン男優たちは、そんなちょっとヘビーだが奥の深い台本を、演出家とともに膨らませリアルなものにしていく真っ最中である。
 

ちなみにこの作品のタイトルは、こんな古い詩から取られていることも最後に書き添えたい。


彼は知らない

陸の上で安楽に暮らしているから、私が

凍るあの海で、どう冬を過ごしたかを、

惨めに、不安に、ひたすら流浪の道を歩み、

親しい友も無く、ツララに囲まれ、

雹が槍となって吹きすさぶ中で…
 

ーー詠み人知らず

 『海をゆく者」755年頃

原文アングロサクソン語 リチャード・ヘイマー訳

 

 

『海をゆく者』

●2009/11/16〜12/8◎東京 パルコ劇場

●2009/12/11〜13◎大阪 サンケイホールブリーゼ

●2009/12/18〜19◎新潟 りゅーとぴあ・劇場

●2009/12/22〜23◎愛知 名鉄ホール

作◇コナー・マクファーソン

訳◇小田島恒志

演出◇栗山民也

出演◇小日向文世 吉田鋼太郎 浅野和之 大谷亮介 平田満

<料金>¥7500 

<お問合せ>東京/パルコ劇場 03-3477-5858

      大阪/キョードーチケットセンター 06-7732-8888

              新潟/りゅーとぴあチケット専用ダイヤル  025-224-5521

      愛知/メ〜テレ・イベント事業本部  052-331-9966

                     http://www.parco-play.com/

                         【取材・文/榊原和子】

 

この公演のチケットを「えんぶ特選チケット」として、会員の方を対象に割引価格で販売しています。

http://www.enbu.co.jp/kick/shop/index.html

 

 

 

 

 

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