稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

浪漫活劇譚『艶漢』第二夜

『真田風雲禄』制作発表 vol.1  

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【「カッコよく死にてぇ」が合言葉】

彩の国さいたま芸術劇場では、芸術監督である蜷川幸雄の演出で、10月15日から『真田風雲録』を上演するが、その製作発表が9月4日開催された。

この作品は戦国の武将、真田幸村と、それを取り巻く真田十勇士の活躍など描いた青春群像劇で、1962年、安保闘争の時代に、劇作家の福田善之が書き下ろしたもの。「カッコよく死にてぇ」を合言葉に、敗北を覚悟しながらも、大坂(現・大阪)での戦いに青春と命を燃やす若者たちの姿に、生きることの意味を問いかける問題作だ

【無名の44人】

今回この舞台のほとんどのキャストを占めるのは、無名の若手俳優44人で結成した劇団「さいたまネクスト・シアター」。全国からの応募総数1225人の中からオーディションで選ばれた44人で、平均年齢24.8歳という若い世代ばかり。

彩の国さいたま芸術劇場の劇団には、55歳以上の中高年者で結成した「さいたまゴールド・シアター」があり、2006年の創設以来、本公演3回を成功させている。その実績もあるだけに、今回の「さいたまネクスト・シアター」も、その成果が大いに期待できそうだ。

上演する劇場は、彩の国さいたま芸術劇場の大ホールの舞台上に作られる300席のインサイド・シアター。舞台と観客が一体化した密な空間で、蜷川演劇の醍醐味を身近に体験できる公演だ。

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【公共の劇団になるということは】

この日の会見も、大ホールの舞台上で行われた。

まずは出席者の挨拶がある。

財団法人埼玉県芸術文化振興財団の竹内理事長から、設立15年目の記念の年であること、2つの幅広い年代の劇団を持つことは世界でも珍しいということ、そしてこの「さいたまネクスト・シアター」が日本の演劇界に新しい風を巻き起こす存在になってほしいという希望が語られた。

続いて演出家の蜷川幸雄が挨拶する。

「ネクストシアターの構想は、ゴールドを作ったときから当たり前のようにあった。若い人たちと高齢者という2つの劇団は車の両輪です。東京の劇場が有名な売れている俳優たちに場を与えるとしたら、無名の人たちが表現の場を獲得できる、自由に表現できる場も必要ではないか。それをこの劇場なら可能にできる。彼らをどういう形で支援してもらうか、たとえば給料制にするか出来高にするかとか、経済的には難しい問題ではあるけれど、これからの活動で埼玉の市民が支援するのは当たり前だと思ったときに、支援してもらえばいいと思ってます。

ゴールドもそうです。初めは素人の集団が、岩松了さんが本を書いてくれて、この間はケラリーノ・サンドロヴィッチが書いてくれた。これこそ埼玉でしか出来ないことだし、既成の演劇とは違った演劇の幅を広げる作業だと思ってます。ゴールドはスタートからこの間の公演まで沢山メディアにも取り上げてもらえたし、一種の社会現象として支持されるまでになった。

今度のネクストも同じで、他の集団とは違う演劇上の価値を持ち、ユニークな主張を持ち、日本の文化の大事な財産になっているということで、初めて公共のものとして認められていく。ここにしかあり得ない劇団だということで初めて認められる。そういう存在になっていけばいいなと思ってます。

今回取り上げる作品は福田善之さんの仕事で、若い頃に出会って、日本で初めてブレヒト作品のようだという感覚を覚えた。我々は歴史の連続性を学んでもいいんじゃないか。ゴールドのためには若い作家が書く。ネクストのためには高齢の劇作家が作品を提供する。その交差で日本の演劇の欠けているところが埋められるのではないか。

福田さんもよく知ってると思うけど、むかし新演劇研究所というところがあって、下村正夫さんがやってらしたんですが、そこのプロではない役者がやった『どん底』とか素晴らしかった。のちに有名になる杉浦直樹とか内田良平とか、若くて無名で才能のある俳優がそこにはいた。そういう劇団になればいいと思ってる」

DSCF0097続いて作家の福田善之から挨拶がある。

「この作品は何回か桐朋大学でやってるんです。蜷川さんは実はそこの学長です。一度33期生が東京芸術劇場で公演するはずなのにいろいろあって校内でやったんですが、そのときに蜷川さんが学生たちにきめ細かに稽古してるのを見て感心しましたので、今回も文句なしにお受けしました。その33期生が今回のメンバーにもいるし、他にも教え子がたくさんいます。よろしくお願いいたします」

今回の音楽を担当する朝比奈尚行が作曲した「下克上のブルース」に合わせて44名が入場する。続いてゴールドシアターがゲストで登場して代表からエールが送られる。ネクストの44名とゴールドの42名とともに並んだ蜷川幸雄と福田善之へ、記者からの質疑応答が行われた。

vol.2に続く)

さいたまネクスト・シアター 開館15周年記念公演

『真田風雲禄

●10/15〜11/1◎彩の国さいたま芸術劇場インサイドシアター(大ホール内)

作◇福田善之

音楽◇朝比奈尚行

演出◇蜷川幸雄

出演◇さいたまネクスト・シアター 横田栄司 原康義 山本道子 妹尾正文 沢竜二

<料金>¥3800

<お問合せ>彩の国さいたま芸術劇場 0570-064-939(10時〜19時)

                http://www.saf.or.jp

                                             【取材・文/榊原和子】

この公演のチケットを「えんぶ特選チケット」として、会員の方を対象に割引価格で販売しています。

http://www.enbu.co.jp/kick/shop/index.html

『中国の不思議な役人』稽古場ルポ&白井晃インタビュー vol.2

 by二石友希【白井晃インタビュー】

○禁断の領域、寺山修司

ーーまず寺山修司さんの世界を演出することになって、今感じていることを。

僕にとって、寺山修司さんの世界は禁断の領域だったんです。実は学生の頃に『観客席』(1978年)という芝居に出ていて、それは寺山さんに近かった先輩の岸田理生さんが持ってきてくれた話だったんですが。その前から「書を捨てよ、町へ出よう」とか「家出のすすめ」とか「田園に死す」など、寺山さんの世界は本で読んだり映画もたくさん見ていて、怖さもあったけど、憧憬の世界でもあったんです。でもその『観客席』の現場では、丸坊主の俳優だらけで(笑)、さすがに憧れはあっても簡単に入れない世界だなと実感しました。
ただ、虚構と現実の逆転とか、見る側と見られる側の逆転とか、そういう演劇的面白さを教えてくれたのは寺山さんだし、同じ時代の唐十郎さんの芝居もそうですが、どこまでがフィクションかわからない怖さと面白さがあったことは確かで、大きな影響を受けました。でもその面白さをそのあとに続く僕たちは継承しきれなかったし、彼らほど演劇で社会に斬り込むことはできなかった。だから、いつか改めて寺山さんのしたことを検証してみたいというのは、ずっと僕の中にあったんです。
それからこの作品は、寺山さんが初めてパルコ劇場、当時の西武劇場という商業演劇と提携した作品で、出演者もスタッフも当時の一流のアーティストと組んでやったものです。ある意味ではファッション的な公演でもあったと思うけど、でも寺山さんらしい毒というか虚構を社会に突きつけるものがあったはずで、我々も、今だからこそ、そのフィクションを必要としているのではないかと思うんです。

ーーそんなふうに寺山世界をよく知っている白井さんが、では今回、どう演出するかですが。

どんなに憧憬があったとしても、僕は寺山修司の方法を真似ることはできないんです。真似ちゃいけないですしね。あの世界観を作っていたJA・シーザーさんの音楽や特殊な肉体たちを模倣するわけにはいかない。なぜならば、それは僕の肉体にない感覚ですから。むしろ我々がそのあと30年間演劇をやってきて、今、あの作品にもう一度立ち向かおうとしたときに、どう冒険できるか、どんな世界が作れるのか、そこに現在の演劇人が背負ってるものが出てしまうと思うし、それでいいと思ってるんです。もしかしたら昔の寺山演劇を知ってる人には失望されるかもしれないけど。
寺山さんは当時「我々のやってることはサーカスであり見世物小屋だ」と言って、サーカス芸とか手品とか見世物を舞台上で見せてくれたけど、それは今回は全部排して、30年以上の年月を経たこの同じ劇場で、僕らはどういう見世物を観せられるのだろうと。それはあのときに寺山さんがやろうとしたことの意味を純粋に問い直すことだと思っているんです。その結果として出てくるのは、演劇は肉体と文学と美術と音楽と、そういう全ての総合芸術なのだということを改めて思い出すことだし、同時に演劇という枠を取り払うことで、それはかつて僕がいちばんやりたかったことだった。そこへもう一度戻る感覚があって、今とても楽しいんです。
たとえばト書きを読んでても、意味がわからないというようなト書きが書いてあると、そこをどう肉体とか動きで見せてやろうか、それを考えるのがすごく楽しい。寺山さんの言葉の断片は1つ1つが強いから、それはそれで解決しなくていいし、意味はわからないままでいい。もちろん物語の結論は自分なりに明確に作ってありますが、観客がどういう意味にとってもいいように作りたい。

○人形のコレクションではなく

ーー寺山さんの世界は、出てくる人間がいわば人形化していたのが印象的ですが。

当時、寺山さんの舞台に僕が感じていたのは、あんな濃密な世界なのに汗を全然感じなかったことで、ところが唐さんは汗とつばが飛び散る世界で(笑)。でも僕は寺山さんのほうが体質的に好きだったんです。それから寺山さんは出演者を人形だと思っていたから、残酷なことも平気でできていた。入ったばかりの女の子でも必要ならすぐ「脱いで」と言うし、新高恵子さんは足が綺麗だからそこを見せるのが当然だという感じで。伊丹十三さんにもお面をかぶらせたままでしたからね。自分が観たい人だから山口小夜子さんに出てもらう。いわばコレクションだし、まさにチャイナドールの世界ですよね。

ーーでも白井さんはそこに血を通わせたいわけですね。

僕は、人間も観せたいし物語も観せたいと思ってます。麦がなぜこのドラマの中に入っていったのか、麦にとって花姚とは何なのか、役人はどういう存在なのか、最後に役人が崩壊して復活するのはどういう意味なのか。
僕の構図では、少女は人形だったのが麦に見られたことによって人間になって、この世界を一緒に歩いていくんですが、その途中で役人という巨大なカラクリ人形みたいな存在に出会う。役人は少女に恋をするんですが、恋をしたことで彼は人間になってしまって崩壊する。少女は役人の愛をもらって女になり現実を生きはじめる。そして麦はその現実の前にはじき飛ばされる、という考えかたなんです。

ーーそれを演じるキャストは、新人も含めて楽しみな顔ぶれが揃いましたね。

花姚の夏未エレナくんとか麦の田島優成くんは、新人そのものですから、どんどん鍛えないといけない段階です。ただ、演劇というのは劇場空間の中に実際に入ったときに、出ている役者も変わるので、とくに今回は寺山世界ですから、そのマジックに期待しています。
役人の平幹二朗さんは、そのままで役人のイメージを出せるかたで、伊丹十三さんは本当にカラクリ人形のように、ずーっと動いていたそうですが(笑)、平さんには普通にやってもらおうと思ってます。秋山菜津子さんは新高恵子さんのやった女将校で、押さえるところを押さえてくれる人で安心してます。岩松了さんは、ご自分が演出する稽古場ではすごく怖いそうですが、とても素直な役者さんです(笑)。

ーーそういう方たちの存在で、大人とか世界そのものの怖さがうまく出てきそうですね。現代も子どもに優しくない社会で、そういうリアリティもあるし、寺山さんはいろいろな点で時代を先取りしていたんだなと思います。

これを発表した当時は、ちょうど日中国交が成立したばかりの時期で、文化大革命のあとの顔の見えない中国に怖さを感じていた時代でしたが、寺山さんは役人というものに「4000年の滅びない中国を表したいわけではない」と。また、男性というもののダイナミズムの象徴でもない。役人の権力を持ちながらプライベートとの間で揺れ動くそのさまを出したいと、言っているんですね。僕が描きたいのはまさにそこだし、そこから現代の我々に通じる世界が見えてくると思っています。

 

『中国の不思議な役人』

●2009/9/1210/4◎パルコ劇場

作◇寺山修司

演出◇白井晃

出演◇平幹二朗 秋山菜津子 岩松了 夏未エレナ 田島優成

<料金>¥8400  学生券(当日指定席引き換え)¥4500

<お問合せ>パルコ劇場 03-3477-5858
http://www.parco-play.com/

【取材・文/榊原和子】

この公演のチケットを「えんぶ特選チケット」として、会員の方を対象に割引価格で販売しています。

http://www.enbu.co.jp/kick/shop/index.html

『中国の不思議な役人』稽古場ルポ&白井晃インタビュー vol.1

【ゾクゾクするような寺山ワールドが立ち上がる】

寺山修司がパルコ劇場(当時の西武劇場)のために書き下ろした伝説的な作品『中国の不思議な役人』が、32年ぶりにパルコ劇場で上演される。その初日を間近に控えた稽古場を取材することができた。

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この作品は1977年に初演、のちに映画監督として活躍した当時の人気スター伊丹十三や、世界的に活躍していたモデルの山口小夜子などが出演、70年代文化の最先端として勢いのあったアングラ演劇ならではの、実験的公演として話題を呼んだものだった。

物語のモチーフはバルトークの同名の舞台音楽から。背景になるのは上海、不死と噂される中国の不思議な役人が、娼婦館に売られた花姚と出会い、そこで生まれる愛と死を描き出した幻想性に富んだ物語である。

今回の演出は白井晃、青春期に役者としても客席でも寺山演劇をリアルタイムに経験していることは、この作品へのアプローチの大きな武器だろう。

キャストは、中国の不思議な役人には現代演劇界の最高峰である平幹二朗。花姚(かちょう)には15歳の新人、夏未エレナ。兄の麦(むぎ)にはやはり若手の田島優成、その周りを秋山菜津子、岩松了、小野寺修二、春海四方、吉田メタル、内田淳子ほか、個性溢れる俳優陣で固めている。

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取材の日、稽古場にはすでに実物大のセットが建て込まれていて、そのシュールでメカニックでどこか懐かしい雰囲気は、寺山修司の美術を手がけていた造形作家・小竹信節ならではの世界。そのセットのなかで「場の小返し」ーー段取り的な動きとセリフや感情表現を固める稽古ーーが繰り広げられている。

出演者は総勢で20名、生演奏のミュージシャンも加えると22人という、なかなかの大所帯だ。女性は浴衣を稽古着にしていて、男優たちは黒服に中国帽をかぶっていたりと、どこか異界に侵入した心地にさせられる。

出番まで控えの椅子で待機する平幹二朗は、帽子とマントを身につけて、すっかり中国の役人の佇まいだ。花姚の夏未エレナは15歳という年齢のわりには落ち着いて見える。そんなキャストを動かす演出の白井晃は、丁寧で柔らかなトーンだが自分の観たいものや聞きたい言葉を、具体的に細かく1人1人に要求していく。この粘り強い丁寧さが、白井作品の繊細な美学と言われるものを生み出しているのだろう。

稽古中の場面は、さらわれた花姚が娼婦として店に出されるところから始まり、中国の不思議な役人と出会うところまでの3つの場面で、寺山らしいエロスと暴力性を感じさせながらも、どこかファンタジーのようで生々しさは少ない。

まだ初々しく清純な花姚が放り込まれた娼婦館のおどろおどろしさや、登場するだけで周囲の空気を変える役人の圧倒的な存在感に引き込まれているうちに、女将校(秋山菜津子)と麦の場面になる。少年が迷いこんだ闇の世界での緊張感あふれるやりとりは、寺山ワールドの底知れないスケールの片鱗を伝えてくる。

くるくると動いて場面の印象を一変するセットの面白さはさすが小竹信節アート。このセットに色がついて太田雅公のシュールな衣裳をつけた役者たちが、詩的でレトリックに満ちた寺山修司の言語を観客に投げかけることを想像すると、ゾクゾクするような期待感がふくらんでくる。

 

そんな稽古場で、演出の白井晃に話を聞いた。
(vol.2に続く)

『中国の不思議な役人』

●2009/9/12〜10/4◎パルコ劇場

作◇寺山修司

演出◇白井晃

出演◇平幹二朗 秋山菜津子 岩松了 夏未エレナ 田島優成 他

<料金>¥8400  学生券(当日指定席引き換え)¥4500

<お問合せ>パルコ劇場 03-3477-5858
http://www.parco-play.com/

【取材・文/榊原和子】

この公演のチケットを「えんぶ特選チケット」として、会員の方を対象に割引価格で販売しています。

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