稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

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『天日坊』中村勘九郎インタビュー


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2人の“カンクロウ”が、コクーン歌舞伎で強力タッグを組む。

6月15日から幕を開ける今年のコクーン歌舞伎は、河竹黙阿弥の原作による『天日坊』。
主役をつとめるのは2月に六代目を襲名した中村勘九郎で、脚本を手がけるのは映像や舞台で人気のクドカンこと宮藤官九郎。
リニューアルなったシアターコクーンに吹き込む初夏の新風のように、新鮮で刺激的な組み合わせである。

宮藤による歌舞伎脚本は、09年12月の『大江戸りびんぐでっど』に次いで2度目。
今回は1854年に書かれた黙阿弥の『五十三次天日坊』をアレンジ、源頼朝の落胤になりすまそうとした法策(のちの天日坊)を主人公に、天下を狙う若者たちの壮大な野望と闘いを描き出す。

その公演の中心となる新・中村勘九郎にインタビュー。演劇ぶっく6月号で掲載中のものを、別バージョンの写真とともにお送りします。



「勘九郎」は戦っていた男の名前


――2月に襲名披露公演がスタートしましたが、少しは落ち着いた感じですか?

いや、全然ですね。毎日があっという間に過ぎていって、まだ落ち着かないです。

――お披露目というイベントに向き合う気持ちは?

やっぱり特別な感じですね。出演の先輩の方々が本当に優しくあたたかく、それに輪をかけてお客様があたたかく見守ってくれて、劇場中が華やかな空間になっていて、その中で心身ともにすごく充実して過ごしています。

――勘九郎という名前のプレッシャーは?

もちろんあります。父が4才から46年間名乗ってた名前ですから。生まれたときから勘九郎という名前とは接していて、18年前にコクーン歌舞伎を始めたり、平成中村座を立ち上げたりと、戦っていた男の名前なので、やっぱりしっかりしなきゃいけないなと思います。

――そのコクーンで、いよいよ座頭をつとめるわけですが。

コクーン歌舞伎はみんなで作り上げていくもので、座頭というより僕はただ題名の人物を演じるというだけなんです。宮藤さんの脚本を串田(和美)さんが演出して、そこで僕たちがどう表現できるかという。うちの父もそういうスタンスでずっとやってきましたから。

ーー今回の宮藤さんの脚本は、河竹黙阿弥の原作とかなり変わってますか?

原作も面白いんですが、長いので宮藤さんが3時間ぐらいにまとめて、まとめるだけでなく宮藤さんの息吹満載になってて(笑)。黙阿弥の処女作と言われていた作品で150年ぶりに復活するわけですが、でも150年もやらなかったということは面白くなかったんでしょうね(笑)。それを今回は「宮藤黙阿弥」というか「河竹官九郎」というか(笑)、それぐらい宮藤さんの息吹が黙阿弥の中に入ってます。



「マジかよ!?」と七五調をミックス


――『五十三次天日坊』いうからには、ロードムービーみたいな?

ロードムービーです。でもそれがメインではなくて、五十三次にある鈴鹿山中だとか、草津から始まったりとか、いくつか場所が出てくるという感じです。

――宮藤さんの映画に『真夜中の弥次さん喜多さん』もありますが?

全然違う感じです。以前、歌舞伎に書いてくださった『大江戸りびんぐでっど』よりさらに宮藤さんテイストが満載で、台詞も「マジかよ!?」とか(笑)。黙阿弥の七五調の中にそれが入っているんです。

――『りびんぐでっど』もかなり破天荒でしたね。

あれはゾンビだとか干物だとか、ビジュアル的に破天荒だったりインパクトが強かったんですが、これは台詞の1つ1つだったり、内面とか心情がぶっ飛んでいる感じです。でもそれは黙阿弥の魂を宮藤さんが現代に蘇らせたわけで、「こういうことなんじゃねえの?」と。

ーー宮藤さんの歌舞伎への向き合い方をどう捉えてますか?

黙阿弥と同じような精神だと思います。だってかっこいいじゃないですか、書くものが。今回も言葉のチョイスだったり勢いだったりとか、黙阿弥の言葉にプラスアルファされてて、忙しいのによく原作も読み込んでて、すごいなあと思います。

――あらすじを読んでいると、主人公は自分を源頼朝のご落胤だと信じ込んで野望を抱くわけですが、「実は…」というどんでん返しもあって、歌舞伎らしい荒唐無稽さが全編にありますね。

無茶苦茶な話ですよね。それを成立させるためにはどうやってかっこよく見せるかで、黙阿弥の七五調も、当時の現代語の中でかっこよく見せるために使われていたわけですから。今回もかっこよくなればいいなあと。でも宮藤さんの台本はすごくまとまってます。基本的には世の中がひっくり返る時期に、そのパワーとタイミングが合ってしまった17歳の青年が、時代の渦に巻き込まれていく。そして、それを巻き込んでやろうとする人たちの話です。

――勘九郎さんにとってはコクーンの初主役ですから、本当はもっとよく知られている演目という方向もあったのでは?

そこは、「渋谷のコクーンで、僕たちで」ということですから、やっぱり戦わなきゃというのはあります。

――勘三郎さんゆずりの「歌舞伎のフィールドを広げる役目」という感覚ですか?

役目とは思ってないんですが、一役者としてこの世に生を受けたなら、やっぱり面白いものを作りたいじゃないですか。それでお客さんの喜んでいる顔や、困惑している顔というのを見たいんですよね。

――困惑もありなんですね。

ありです(笑)。自分たちが良しとしたものを作って、自信をもってぽーんと出す。それに対して、わからなかったり悩んでもらっても、全然いいと思います。「面白かったけど何が言いたいんだ?」とか「セリフの意味がよくわからないのに、なんでこんなに涙が出てくるんだ」とか、そういうお客さんの顔を見たい。わかりやすさとか、そういうことに絶対媚びたくないなと思うんです。



歌舞伎の枠を超える『天日坊』


――歌舞伎以外に活動を広げていこうという気持ちは?

それはあまりないです。今までもタイミングだったんです。野田(秀樹)さんの作品に出られたのも、三谷(幸喜)さんの生誕50周年も、ちょうどそういうタイミングだった。

――歌舞伎と他の芝居とのスタンスの違いはありますか?

全然ないです。歌舞伎役者ですけど1つの役を演じるにあたって、あえて区別することは何もないし、1から作品を作り上げていくものと、出来上がっているものに磨きをかけるかの違いだけであって、作業としては一緒です。『ろくでなし啄木』で言えば、大事にしていたのは、テツという人物をどれだけ魅力的にするか、あとは3人のバランスをどう考えるかとか、あの温泉宿の一日をどう見せるか、そういうことだけでした。

――外のお客さんを歌舞伎に連れてきたいという気持ちは?

それも考えてないです。観たいと思ってくれればそれにこしたことはないですけど。まず、その日来てくれた人たちを楽しませることが大事だし、あの時も三谷さんの作品が面白かったのでこれをどう表現するかということしか考えてなかった。何よりも、同年代の天才、藤原竜也さんと僕と、2人が一生懸命やってるのに台詞とかめちゃくちゃでも一番誉められた初舞台とは思えないベテラン女優の雰囲気の吹石一恵さんと(笑)、3人でやる舞台がすごく楽しかった。それだけでよかったんです。

――これからの歌舞伎を背負っていく立場として考えていることは?

演劇界全体もそうだと思いますけど、この時代、お客様が入っていただくにはどうしたらいいかというと、本当に面白いものをやらなければいけないと思っていて。でもさっきも言いましたが、わかりやすい面白さばかりでもダメだと思うし、そのバランスを考えながらやっていかなければいけないなと思います。その点、今回のコクーンはすごいですよ。宮藤さんの脚本だけでなく、出てくださる役者さんも白井晃さん、真那胡敬二さんに近藤公園さんとか、歌舞伎の枠を超えてますから(笑)。混沌としてます。それを「これが歌舞伎です」と見せちゃうのが、『天日坊』なんです。



なかむらかんくろう

81年生まれ、東京都出身。86年、歌舞伎座『盛綱陣屋』で初お目見得。87年、歌舞伎座『門出二人桃太郎』で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。12年2月、新橋演舞場『二月大歌舞伎』で六代目中村勘九郎を襲名。父は十八代目中村勘三郎、弟は二代目中村七之助。歌舞伎だけでなく、舞台や映画にも活躍の場を広げている。歌舞伎以外の舞台は『走れメルス』(04年)、『おくりびと』(10年)、『ろくでなし啄木』(11年)など。
撮影/岩村美佳


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渋谷・コクーン歌舞伎 第十三弾
『天日坊(てんにちぼう)』

原作◇河竹黙阿弥『五十三次天日坊』
脚本◇宮藤官九郎
演出・美術◇串田和美

出演◇中村勘九郎 中村七之助 中村萬次郎 片岡亀蔵 坂東巳之助 坂東新悟 近藤公園 真那胡敬二 白井晃 中村獅童 他

●6/15〜7/7◎Bunkamuraシアターコクーン

〈問合せ〉0570-000-489 チケットホン松竹

松竹HP http://www.shochiku.co.jp/play/


本誌記事の公演情報の中で片岡亀蔵さん、坂東巳之助さん、坂東新悟さんのお名前が抜けていたことを、深くお詫びしてこちらで訂正とさせていただきます。演劇ぶっく編集部

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5月9日発売の演劇ぶっく6月号(通巻157号
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東野圭吾の傑作が再演!『容疑者Xの献身』

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キャラメルボックスの傑作舞台『容疑者Xの献身』の再演が、5月12日から池袋のサンシャイン劇場で上演中である。

原作は東野圭吾の大ベストセラー小説で、天才物理学者・湯川学が活躍する「ガリレオシリーズ」の中でもとくに人気が高い作品として知られている。


この作品は、
ある事件を通して湯川とかつての学友で天才数学者と呼ばれた石神哲哉が再会し、互いの知力をかけて対峙する。その推理ゲームのスリリングさと、湯川や石神、その他の登場人物たちがそれぞれ魅力的なキャラクターであることも見どころとなっている。
初演は2009年、原作者の東野圭吾も「あの物語をこんなふうに芝居にできるのか」と驚いたように、原作に忠実でありながら演劇ならではの見せ方と表現で、ミステリーファンたちも満足する舞台に仕上がった。

今回は石神役に元劇団員の近江谷太朗を迎え、湯川には初演に続いて岡田達也が扮し、初演メンバーに新参加者も加わって、より密度の濃い舞台となっている。


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【あらすじ】
 

高校教師の石神哲哉(近江谷太朗)は、ある夜、不審な物音を聞く。アパートの隣りに住む花岡靖子(西牟田恵)の部屋で何かが起きたらしい。石神は花岡の部屋のドアをノックする……。
隅田川の河川敷で男の死体が発見され、捜査に乗り出す警視庁捜査一課刑事・草薙俊平(小林正寛)。やがて捜査線上に被害者の元妻、花岡靖子が浮かび上がる。草薙は大学時代の友人である帝都大学物理学部物理学科の准教授・湯川学(岡田達也)に協力を求める。湯川は靖子の隣に住む男の名前を聞いて顔色を変える。それは湯川の大学時代の友人で、湯川が出会ったなかで最高の頭脳を持つ男だった。


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石神役に挑む近江谷太朗は、髪型も短くして役作りに打ち込み、花岡母子へ寄せる思いや不器用な優しさ、また、挫折した天才数学者の鬱屈した翳りを、寡黙な佇まいの中に鮮やかに浮かび上がらせる。
湯川学の岡田達也は、事件の裏側にある謎を明晰に解き明かしていくガリレオの知性と同時に、事件に関わる人間たちや友人への温かな情や懐の深さを感じさせてくれる。

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初演と同じ花岡靖子の西牟田恵は、娘とともに必死に生きる女性の強さ、そして男たちが惹き付けられる華やかさがある。娘の美里の実川貴美子は、トラウマを抱える少女の繊細さと狂気を醸し出す。
そんな母子に関わる正反対の2人の男、靖子に思いを寄せる工藤の三浦剛は誠実さを感じさせ、別れた前夫・富樫は石原善暢が嫌な男に徹して演じている。

警視庁の草薙刑事は今回初参加の小林正寛が人間臭く演じ、間宮警部の川原和久は渋さと鋭さで存在感を示し、岸谷刑事の筒井俊作はとぼけた味で客席を和ませる。

弁当屋のおかみの坂口理恵は世間を知った大人の大きさがあり、金子の前田綾は突き抜けた明るさが気持ち良い。
 

このキャストたちが息の合ったチームワークでテンポよく展開する舞台は、さりげない日常風景とおぞましい事件を巧みに交差させながら、事件の真相を次第に焙り出していく。
ミステリーの魅力となる伏線もあちこちに細かく用意されていて、それら全てを収斂して大詰めからラストにいたる十数分は、近江谷や岡田、西牟田の渾身の演技もあって衝撃とカタルシスに満ちている。

 

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【囲みインタビュー】
 

この舞台の初日を前に、12日の昼に近江谷太朗と岡田達也の囲みインタビューが行なわれた。
 

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ーーいよいよ初日を迎える今の心境を。

近江谷 僕は初演を客席で観ていて、号泣していましたから、まさか石神をやれるとは思ってなかっただけに本当に嬉しいです。初演を超えられるくらいのものに出来たらと思って稽古してきましたので、初日が開いて観てくださるお客様にどう受け止めてもらえるか楽しみです。

岡田 僕は映画の堤真一さんとは違うアプローチをしていますから、そのアプローチに共感してくれる人がたくさんいたらいいなと思ってます。それにキャラメルボックスの芝居はかなりの確立でハッピーエンドになるものが多いんですが、この作品にどこまで共感していただけるか、3年前に1度やってはいますが、今回のお客様にどう受け入れてもらえるかが心配で。どうか、気に入っていただけることを切に願ってます。
 

ーー役に入りかたはどんなふうにされましたか?

近江谷 原作という強い味方もありますし、初演も観てますし、初演の台本も早くからいただいてましたから。ただ天才数学者に見えないんじゃないかというのが心配だったので、まず誰よりもこの作品の理解者になろうと思って、台本を何度も読み、つねに紙と鉛筆をそばに置いて研究者の気持ちを味わいながら、原作のことで何かあったら聞いてくださいみたいな。そういうなりきり方でやってきました。

岡田 石神ほどではないんですが天才物理学者なので、劇中に出て来るP≠NP問題とかインターネットを頼りに調べてみたんですが、かけらもわからなくて(笑)。物理学を理解するのはムリなので、もし自分がその道を進んできたらどのように立ち振る舞っていたかというような考えかたをしました。
 


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ーー他の方とは違うアプローチは具体的にどう?

近江谷 単純にダルマの石神と呼ばれていてずんぐりしてて髪が短くて、顔が丸くてというので、まず誰もしてない短い髪から入りました。あとは自前の白髪を生かして、それからずんぐり見えるように、5キロくらい増えてます。
 

ーー原作のどこに惹かれますか?

近江谷 この作品のどこが好きというより東野圭吾さんの作品はすべて好きなので。東野さんこそ天才だと思ってますし。つい最近、また映画を観たんですけど、かなり脚色されているので、舞台のほうが原作の面白さはわかっていただけると思ってますし、原作好きの人にああよかったと言ってもらえると嬉しいですね。

岡田 よく聞かれるんですけど、難しいですよね。やっぱり人を殺めるのはダメなことだし、それでもこの物語の何に惹かれるのか、まだ明確な答が出せてないんです。石神の献身的な愛情に心が動いているのかというと、それほど安っぽいものでもない気がしますし。なんだろうとずっと考えてて。好きなんですよこの作品。でも何故なのかがうまく言葉にできないし、やればやるほどわからなくなってきてます。えも言われぬ何かに惹かれてるのは確かなんですけど。

近江谷 石神的に言うと、究極のラブストーリーとして伝わればいいなと思ってやってます。本当は数学の研究者として難問に当たってそれを解く喜びもあると思うんですけど、それが伝わりすぎると自分勝手な人になりますので、そうではなくて靖子に対する思いがちゃんと出れば、究極のラブストーリーとして理解していただけるんじゃないかと思っています。



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キャラメルボックス2012スプリングツアー2

『容疑者Xの献身』

原作◇東野圭吾(『容疑者Xの献身』文春文庫刊)

脚本◇成井豊

演出◇成井豊+真柴あずき

出演◇近江谷太朗、岡田達也、西牟田恵、川原和久、小林正寛、坂口理恵、前田綾、三浦剛、筒井俊作、實川貴美子、石原善暢

●5/12〜6/3◎サンシャイン劇場

●6/7〜12◎梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

●6/15〜16◎北千住シアター1010

〈料金〉7000円

〈問合せ〉03-5342-0220 キャラメルボックス

北千住公演はシアター1010チケットセンター 03-5244-1011

http://www.caramelbox.com/

【取材・文/榊原和子 舞台写真/伊東和則】

TEAM NACS、小林賢太郎、大人計画、三谷幸喜インタビュー掲載の演劇ぶっく6月号発売中!

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文学座『ナシャ・クラサ』佐古真弓・亀田佳明インタビュー

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佐古真弓・亀田佳明


文学座アトリエで、5月18日から注目の作品『NASZA KLASA(ナシャ・クラサ) 私たちは共に学んだ』が上演される。

「ナシャ・クラサ」とはポーランド語で私たちの同級生という意味で、舞台になるのはポーランド北東部に位置するイェドヴァブネという小さな町。
副題に「歴史の授業・全14課」とついていて、そこの学校の同じ教室で学んだ男女10人が、ソビエトそしてドイツの占領という歴史の中で生きた80数年を振り返り、第二次世界大戦におけるユダヤ人虐殺にポーランド人が深く関わっていたという歴史の暗部に鋭く切り込んでいる。

作者はこの作品でニケ文学賞(ポーランドで権威のある文学賞)を受賞、本国ポーランドにおいては度々上演されている作品だが、日本では今回の文学座アトリエ公演が初演になる。

その舞台でポーランド人のゾハを演じる佐古真弓と、ユダヤ人のメヘナムを演じる亀田佳明にこの作品の内容や役柄について話してもらった。



【距離のある世界にどこまで想像力を広げていけるか】


ーーおふたりの役どころと関係を解説していただきたいのですが。

佐古 私が演じるゾハはポーランド人で、女性なのでそれほど政治的な意識を持っているわけではないのですが、メナヘムをかくまったりするんです。それは同級生だということや彼を愛しているからなのですが。そのあとは国外に新天地を求めて出ていく。でもうまくいかなくて、この事件のことをずっと引きずって、最後まで葛藤しながら生きていきます。

亀田 僕はユダヤ人のメナヘムで、彼は最初はムードメイカーみたいな明るいところもあるんですが、迫害にあってから明確に性格が変化していきます。ゾハとの間に恋みたいなこともあるんですが、それは生き延びるための手段でもあって、その上での恋だし、後半ではポーランドに雇われて拷問したりするようになる。人間的にすごく変化がある役だと思います。

ーー始まりが1920年で終りは2003年で、すごく長い年月が描かれていますね。

亀田 それを全部で14課に区切って、時代や状況の変化を見せていくんです。最初の3課まではみんな人種なんて関係なく一緒に遊んでいるんですが、だんだん血みどろの関係になっていく。

佐古 4課は私たちは17歳くらいなんですが、そこからポーランド人の中で少しずつユダヤ人排斥という状況が具体的になってきます。

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ーーかなりヘビーなテーマと内容だけに、それをどう伝えるかが演じ手の力量にかかってきますね。

佐古 台本を読んだときに、まずこの内容をどう理解していこうか、たいへんなものがきたなと思いました。このセリフ量だしスピーディに物語は展開していくし、その中でどう提示していこうかなと。しかも死後から回想して語る部分もあれば、リアルにそこで起きていることの描写もある。主観と俯瞰の振り幅が大きいからたいへんです。

亀田 表現が忙しいですよね(笑)。

ーー亀田さんは以前の『カラムとセフィーの物語』とか、似たような舞台の経験があるのでは?

亀田 あのときも言葉に支配されてて、それは今も変わりないです。なんとか言葉を支配するほうに行きたいんですが。それに僕たち日本人とは距離感のある世界を、どう伝えるかというのが課題です。今回の演出の高瀬(久男)さんは、「客観性」という言葉をよく使われるんですが、それはやはり日本人であるというところから離れるわけにはいかないので、そこからどこまで想像力を広げていけるかを言っているんだと思います。

佐古 過去の事件を具体的に見せるというのではなくて、言葉から想像してもらう。そのための語りが多いのですが、その語りが綺麗に流れたり押し付けにならないようにしたいですね。それには心がちゃんと動いていないといけなくて、ちゃんと感じて心を動かさないと伝わらない。それを今、稽古場で模索中です。

ーー文学座の舞台は、こういう重いテーマや現実に起きた歴史を扱うことが多いですね。

亀田 言葉の劇団と言われていますから。僕もそういう作品のほうが好きというか、どこかストイックなものに惹かれますね。

佐古 私もキライじゃないです。文学座ならではだと思いますし。でもこういう作品は久々なので、脳みそも身体もクタクタで(笑)。出演してる間は舞台から降りないので、よけいたいへんなんです。

亀田 今の段階では10人とも舞台上にいる形になりそうなんです。死んでしまった人もそこにいる。どこか魂みたいな感じなのかなと思っています。



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【10人で戯曲をぐーっと持ち上げている】


ーーおふたりは入団が4年差だそうですが、先輩の佐古さんから見て亀田さんは?

佐古 彼の初舞台(『モンテ・クリスト伯』04年)から知っているんですが、舞台空間にいるとき独特の存在感があって、それは天性のもので、どんな舞台でも馴染みすぎていないというか、何か気になる存在で、それは初舞台からありました。それにセリフの表現の幅が近年ますます広がってきてるのがいいなと。

亀田 なんかすごく良く言っていただいてますね(笑)。

佐古 さらにがんばってね、という気持ちです(笑)。

ーー佐古さんは声優としても有名ですね。

佐古 いえいえ、声優のお仕事はいただいてますけどプロとは言えないと思っていて。私はやっぱり舞台で演じることからスタートしていますので、声だけで表現することを身につけている方々の足元にも及ばないです。本当に凄い方たちはテクニックが違うんです。

亀田 僕なんてまるでダメでしたからね(笑)。向き不向きもあって、佐古さんは向いているんでしょうね。

佐古 ある程度キャリアを積むことで、慣れてきた部分もあると思いますけどね。

ーー声も姿もいいのは女優としても武器ですね。

亀田 チャーミングですよね。男っぽい表現もできるし、かわいい子猫ちゃんにもなれる女優さんです(笑)。

佐古 なあにそれ(笑)。

ーー今回はおふたりは相手役でもあるのですね。

佐古 亀ちゃんが相手だと「まかせて大丈夫」という安心感があるんです。私がちょっとトンチンカンなことしても受け止めてくれて、本人はそれなりにテンパってると思うんですけど(笑)、「いいですよ」とがんばってくれるので有り難いです。

ーー佐古さんは稽古場ではどんどん開いていくタイプなんですか?

佐古 できるだけ開放的になろうと思っています。本当はネガティブな性格で籠りたい方なんですが、それではダメだとわかっているので。劇団ではやはり思いきりぶつかっていけますね。また今回は、座長の中村彰男さんをはじめ、すごい方ばかりなので。

亀田 本当に素晴らしいんですよ。出演者10人でこの戯曲をぐーっと持ち上げているという稽古場になっています。高瀬さん主導のもとに、このシーンはどう立ち上げようとかみんなで話し合いながら。だからすごく面白い芝居になるという予感がします。

佐古 それぞれが自分の役だけでなく、この戯曲を全方位から見ていて、自分以外の人が動くとそれにきちんと反応していくという感じだから。

ーーそこが劇団という共通言語とメソッドで育った方たちの強みでもありますね。

亀田 本当に劇団公演に合っている戯曲だと思います。よく「芝居はパス回しだ」と言いますけど、パス回しがしっかりできる体制ができてますから、ちゃんとパスを回して、この作品の素晴らしさをうまく伝えられたらいいなと。

佐古 みんなすごくこの戯曲を好きだから、絶対いい舞台になると思います。



さこまゆみ

東京都出身。1997年文学座研究所入所、1998年『牛乳屋テヴィエ物語』で初舞台。2002年座員となる。最近の舞台はH.H.G公演『tatsuya 親愛なる者の側へ』、andMe公演『愛想笑いしかできない』(2011年)など。海外ドラマや映画の声優としても活躍中。


かめだよしあき

東京都出身。2001年文学座研究所入所、2004年『モンテ・クリスト伯』で初舞台。2006年座員となる。最近の舞台は文学座本公演『連結の子』、アトリエ公演『MEMORIESテネシー・ウィリアムズ一幕劇一挙上演』(2011年)など。


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文学座創立75周年記念

文学座5・6月アトリエの会『NASZA KLASA
私たちは共に学んだー歴史の授業・全14課ー 
 

作◇タデウシュ・スウォボジャネク

演出◇高瀬久男

出演◇中村彰男/清水明彦/沢田冬樹/川辺邦弘/亀田佳明/藤側宏大/釆澤靖起/山本郁子/佐古真弓/牧野紗也子

●5/18〜6/1◎文学座アトリエ

〈料金〉前売 4000円/当日 4300円/ユースチケット 2,500円 ※25歳以下 文学座のみ取扱い 要年齢証明 (全席指定・税込)

〈問合せ〉文学座 03-3351-7265

http://www.bungakuza.com/naszaklasa/index.html



【取材・文/榊原和子】

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