音楽史に燦然とその名を残し、今なお愛される名曲を数多く生み出した天才作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。彼と、そのライバルでモーツァルトに嫉妬するアントニオ・サリエリという2人の男をモチーフにした『ロックオペラ モーツァルト（L'OPERA ROCK MOZART）』が山本耕史と中川晃教、そしてAKB48の秋元才加という豪華キャストで上演されることになった。
このオペラは2009年9月にフランス・パリで初演、バイオリニストとロックバンドが共演するという演出で幅広い客層を魅了し、一大旋風を巻き起こした。フランスのみならず、ヨーロッパツアーで再演を重ねてきたが、新たな演出家、そして新たな日本人キャストを迎え、2013年2月11日からシアターオーブで幕を開けることが決まった（17日まで。2月22〜24日は大阪）。
今回、この舞台の演出を手がけるのは、『スパイダーマン』でブロードウェイの興行収入記録を塗り替えたアメリカの奇才、フィリップ・マッキンリー。
キャスティングは、モーツァルトとサリエリの2役を、いずれも歌唱力には定評のある山本耕史と中川晃教が交代で演じるほか、モーツァルトの妻コンスタンツェにAKB48の秋元才加、息子を音楽の道へ導いた父レオポルトに今回が初舞台となる高橋ジョージ、さらに鶴見辰吾、キムラ緑子など、ベテラン俳優からミュージシャンまで注目の顔ぶれが揃った。
その製作発表が11月7日に都内で行われ、フィリップ・マッキンリー、山本耕史、中川晃教、秋元才加、高橋ジョージが出席。挨拶と質疑応答の後、出演者の山本・中川・秋元・高橋の囲みインタビューが行われた。
【挨拶と質疑応答】
マッキンリー 『MOZART』の製作でまた来日できて、非常にうれしいです。本当に才能豊かで経験豊富なスターのみなさんとご一緒させていただきます。主役２人が２役を演じてくださるというのは稀なことで、とてもワクワクします。観客のみなさんには、彼らの多才さや声域の広さを存分にお楽しみいただけると思います。そしてこの若くて美しい才加さん、彼女の才能はその美貌と同じくらい豊かだと思います。背の高いところがとても気に入っています（笑）。さらに、ジョージさんという素晴らしいロックスターが、『MOZART』を初舞台の作品に選んでくださって本当にうれしい。素晴らしい才能があふれた作品になると思いますので、たくさんの方に見に来ていただけたらなと思います。
山本 今回は、やったことがない２役で、しかもそれを同時にやります。昨日フィリップさんから、モーツァルトは小学生のようにやんちゃ、サリエリはもう少し大人で先生みたいというイメージを聞いたので、演じ分けも想像できるようなってきました。どっちかがものすごくうまくて、どっちかがものすごく下手にならないように、いい意味で自分にしかできないモーツァルトとサリエリを、中川さんとのコラボレーションを楽しみに演じていきたいです。
中川 モーツァルトは19歳のときで初ミュージカルで、この役と出会えたことに運命を感じてきました。あれから10年経ち、再び出会いました。この作品は、すごく注目されていると思う一方で、すごくプレッシャーも感じます。それは、モーツァルトもそうですがサリエリを演じること。10年経って、サリエリを演じたいと思うようになりました。そういうタイミングでお話をいただいたことや、豪華なメンバーで、再びモーツァルトでこの作品に立てることが本当にうれしい。歌とすべての力を込めて、集中して挑んでいきたいと思います。
秋元 健気にモーツァルトを愛し、生涯支え続ける、芯の強い女性を演じられたらうれしいです。今回、フィリップさんや素晴らしい出演者の方と共演させていただくことで、いろいろなことを吸収して、刺激を受けて、成長していけたらいいなと思っています。精一杯頑張ります。
高橋 AKB48の高橋ジョージです（笑）。今回が初舞台というプレッシャーはありますが、それよりもエンジョイしたい気持ちが強くて。特に“ロックオペラ”というのにグッと惹かれて、出演者を含め、でっかいロックバンドだと思ってもらえれば楽しめるんじゃないでしょうか。芸術的な部分もありますが、格闘技みたいに、一人ひとりがぶつかっていくハードなものになるんじゃないかと思うし、そうしていきたい。モーツァルトは、時が時なら完全にロックンローラーな生き方をしてると思うので、共感する部分があるし、またモーツァルトの父という部分では、親子二人三脚で“破壊と構築”をずっと繰り返してきている。作り上げたキャリアに乗らず、常に壊して次のページを開けて、最後は白いキャンパスでモーツァルトが人生を終えた、というところがすごいなと。父と息子の絆というか、よく言う安っぽい“絆”じゃなく、もっと葛藤と共有、破壊と構築をうまく演じられたら、すごいロックンロールになると思っています。
——ご自分の役についてお願いします。
山本 僕はモーツァルトの人生を辿る番組で1年間ナレーションをして、彼の亡くなるまでの軌跡を語ったことがありました。彼は35歳で亡くなって、僕は先日36になったので、今ぐらいの年なんだなと感じています。フィリップさんに言われたことがいろいろ残っていて、自分の考えよりも演出家の思いやイメージに沿わせていこうと思っているので、中川さんとのバランスもありますが、言われたことをきっちりやって。でもこうして話を聞いていると、いろんな捉え方があるところがモーツァルトの魅力だと思うので、それを出していきたいですね。サリエリは、もうちょっと不良のイメージでしたが、先生っぽいと聞いてなるほど、と。ちょっとハスに構えてるとか、モーツァルトと対照的なので、自分のなかで違う部分を刺激しあって、その振り幅が大きくなればなるほど２つの役は離れていくので、その作業をしながら、モーツァルトとサリエリを自分からどんどん離していくつもりで、ぶれずに自分を２役の真ん中において演じれたら面白いと思います。
中川 耕史さんとモーツァルトを演じることで、自分がモーツァルトを演じる時に、リアルタイムで、いろんなものが自分のなかで変わって、生まれていくんだろうなと思いました。一緒に作っていく作業の中で、耕史さんとご一緒できて本当にうれしい。僕の中のモーツァルトは耕史さんそのままで、それを見て感じながら、僕なりのモーツァルトを作っていきますが、1人では生まれてこないのかなと思っています。大切なパートナーたちと出会った過程で見えていく、モーツァルト像、サリエリ像を大切にして、ギリギリのところで、この舞台の上で生きていきたいと思っています。モーツァルトとサリエリは“精神と肉体”というイメージで、2人の絶妙な関係性が目指すものは1つなのかなと。2人が1人になれたなら、どんな新しい音楽が生まれたんだろうか、なんて考えたりします。コラボレーションという言葉を、2役を演じる上で大切にしたいと思います。
秋元 まだまだお芝居の経験は浅いですが、1人の男性の妻になるというのはどういうことなのかを、まず突き詰めて考えていきたいと思います。コンスタンツェの、一途で健気にモーツァルトを思う美しさと女性の強さを、うまく自分の中で整理して、舞台の上で表現できたらうれしいです。
高橋 モーツァルトにとって父親の存在はすごく大きかったと思います。今回の２人をバンドのツインボーカルと考えると、僕のフェイバリットのザ・ビートルズ。ジョンがいてポールがいて、常に主役をチェンジして人々を魅了していったというのと、すごく近い。それでいうと僕はジョージ・ハリソンだったり、まあ僕、ジョージ・タカハシですけど（笑）、プロデューサーのジョージ・マーティンで。彼が“５人目のビートルズ”であるように、僕も“３人目のモーツァルト”と言われたいですね。個人的には、自分が音楽を目指すうえで一番理解があったのは父親で、その密接な関係のなかで今の自分があるので、すごく重なって見える。その思いは入れられるんじゃないかなと思います。
——フィリップさんは、日本からオファーがあった際、どう思われましたか？
マッキンリー 正直、『スパイダーマン』のオファーがくる４か月前に、この仕事を辞めようと思い、いったん離れ、故郷に引っ越して、静かな人生を送るつもりでした。でも劇場の神様は別の予定を組んでいたようで、また戻ることになりました。『スパイダーマン』以降、何に関わるかをとても慎重に考えた時に、挑戦的で、今までとは違うものをやりたいと思っていて。オファーがあって、『MOZART』という作品を与えていただけましたが、東京のアーティストは、ニューヨークと比べて、いろんなことを試せると感じます。松田さんと話して、じゃあ何か新しいものを作ろうという話になり、今回はフランス版をそのまま日本で上演するのでなく、新しい作品にしていく試みです。みなさんには「レディ・ガガがやるモーツァルト」だと説明しました。とてもアグレッシブな面があり、ミュージカルというよりロックショーに近いので、演者には、より表情豊かで情熱的に演じてほしいと感じています。見てのとおり、その挑戦を歓迎してくれるメンバーが揃っています。『スパイダーマン』の次が、この作品であることをすごくうれしく思います。
——山本さんは、中川さんとの共演についてどう思われますか？
山本 最近は少人数のものが続いたので、いろんな人がいるところに入るのが実は久しぶりで。中川さんの活躍はいつも見ていて、すごい歌を歌うなって印象があります。自分とは全然違う、声の出し方や立ちまわりで、同じステージに立った時に、どういうふうに化学反応が起こるのかと。そういう意味では、一番手を取り合い、ぶつかり合う人として胸を借りたいし、2人でキャッチボールができればいいなと思ってました。今回は初めての共演者ばかりですが、自分の今までの力というのは注げて半分くらいだと思うんです。その先は周りの方と作り上げるものだから、ちょっと想像できるようでできない。どんな稽古なのかなとか、どういうスピードで作り上げていくのかなとか、そういう部分も見ていて刺激を受けるんじゃないかと思います。
『ロックオペラ モーツァルト』
演出◇フィリップ・マッキンリー
出演◇山本耕史 中川晃教／秋元才加／鶴見辰吾／キムラ緑子／高橋ジョージ ほか
●2013年2/11〜17◎東急シアターオーブ ※2/9〜10プレビュー公演あり
●2/22〜24◎梅田芸術劇場 メインホール
〈料金〉東京・大阪公演／S席12,000円 A席8,000円 B席5,000円（全席指定・税込）
※ プレビュー公演はS席9,000円 A席5,000円 B席3,000円（全席指定・税込）
〈問合せ〉
ネルケプランニング 03-3715-5624
公式ＨＰ http://www.mozart2013.jp/
【取材・文・撮影／塩田史子】
