稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

えんぶ8月号

生きることの美しさ『おくりびと』

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日本独特の納棺の儀式を扱い、アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した映画『おくりびと』。その結末から7年後の物語を描いたのが今回の舞台版『おくりびと』である。演出はG2、脚本は映画と同じく小山薫堂が手掛け、音楽も映画に引き続き久石譲が担当している。

扱う題材は「死」。どう考えても暗く重い方向にいってしまいそうになるが、そこを生演奏の音楽が優しく、暖かく包み込む。音楽が救いにもなるし、また一緒に物語を生きているような感覚もあった。

映画では本木雅弘が演じた主人公の小林大悟役を中村勘太郎が演じる。底なしの闇に陥るような現実に直面した際の、狂気に近い怒りや哀しみの表現、そして何より、納棺の儀式を行う際の舞う様な美しさが印象に残る。それだけに、儀式の最後まできちんと見てみたかったのだが、途中で場面が切り替わってしまったのは残念だった。
大悟の妻、美香は田中麗奈。納棺師という夫の仕事も受け入れ、誇りに思い、更に母になったことで強さも優しさも増した、というような7年後の美香だった。

大悟を納棺の世界に引きずり込んだ張本人、
佐々木生栄役の柄本明の飄々としながらもどこか深さを感じさせる存在感、大悟たちに悲しみを背負いながら生きていく道を諭す、真野響子演じる見城恵子。
映画の世界を引き継ぎながらも、映画とは違う舞台の『おくりびと』の世界をそれぞれが作り出していた。

真面目で笑うことの許されないような場面であるからこそ、じわじわと広がってきてしまう自然な笑いの部分に映画の魅力があったと思うのだが、そこが舞台では誇張され過ぎていたような気がする。ドタバタすることで笑わせず、もう少し落ち着いて人と人との関係にスポットライトをあてれば、そこから見えてくるまた別の笑いがあったのではないだろうか。

誰もがいずれ死ぬということを、悲しむでも、諦めるでもなく、ただ真正面から受け止めるという「死」に対する一つの考え方を提示する『おくりびと』。死という現実は、時に心を引き裂かれるような痛みを人に与えるけれど、それでも生きる道を選ぶ大悟たちの姿に、生きる強さ、そして生きることの美しさを感じた。


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『おくりびと』

作◇小山薫堂

演出◇G2

音楽◇久石譲

出演◇中村勘太郎、田中麗奈、真野響子、柄本明、今井りか、木下政治 他

5/29〜6/6◎赤坂ACTシアター

6/9〜13◎イオン化粧品シアターBRAVA!

6/16〜24◎御園座

 

〈料金〉

東京/S席¥10000 A席¥8500
大阪/¥10000  
大阪/一等¥10000 二等¥6000 三等¥3000  

〈問合せ〉
東京/チケットスペース 03-3234-9999 

大阪/06-6946-2260

名古屋/052- 222-8222    


【文/岩見那津子】 

「ありがとう」が言える世界を『ムサシ』

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井上ひさしさんが亡くなって一ヶ月半ほどのこの時期に、『ムサシ』が再演されていることに運命めいたものを感じた。「命を大切にしてください」というなんの混じりっけもない、シンプルで純粋なメッセージがすっと心に染みる。ふと、井上さんが劇場のどこかにいるのではないか、そんな気分にもなった。

初演の際は、正直肩透かしを食らったような印象を受けた作品なのだが、作者が亡くなり、その命の重さをこちらが実感し、その上で観た再演でやっと作品に込められた思いに触れられた気がする。もう井上ひさしの新作公演を見ることができないという事実にはどうしようもない喪失感を覚えるのだけれど、今まで綴られた言葉はいつまでも残る。その残されたかけがえのない言葉の力をまざまざと感じた公演だった。

宮本武蔵(藤原竜也)と佐々木小次郎(勝地涼)という宿命のライバル同士。巌流島の戦いで敗れたとされる小次郎が実は生きていた、というところから始まるこの作品。結局、武蔵と小次郎は戦わない。この「戦わない」というのが最大のポイントだ。二人がどんなに因果を感じていても、憎しみを顕わにしていても、また観客が武蔵と小次郎の火花散るような決闘シーンを望んだとしても、それでも二人は戦わない。

戦うどころか、仇の命を奪うための剣術指南は、いつの間にかタンゴが流れる中での愉快なダンスシーンになってしまうし、武蔵と小次郎を引き離すための作戦である五人六脚も滑稽で笑える。恨みつらみを、ほわんとした笑いにしてしまう。それでいいのだと感じたし、そのある意味くだらない笑いに作品全体を和らげる温かみを感じた。

しかし、笑わせてばかりではない。見せるところは見せ、訴えるべき所は訴える。父の仇の腕を切り落とした乙女(鈴木杏)はその仇の命を奪わずに、自身に刃を向けることで「恨みの鎖」を断ち切る。復讐は新たな復讐を生むだけなのだから、誰かがどこかでその鎖を断ち切らねばならないという、至極単純で、しかしこの上なく困難なことを心のままにやってのけた少女の姿に、舞台に込められた願い、祈りをみた。

願いが届き、戦わず、友人となった武蔵と小次郎。その二人に「ありがとう」という感謝の言葉がとある人物から送られる。この一言に、とても大きな優しさと輝きを感じた。恨みの鎖が断ち切られた「ありがとう」が溢れる世界。それは役者や、演出家、そして作家舞台に込めた祈りが、どんどん広がっていけば叶うかもしれない理想の世界だ。心の片隅にずっとこの『ムサシ』という舞台を留めておくことが、その理想に近付くための一歩になるに違いない。

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ロンドン・NYバージョン
『MUSASHI』

作◇井上ひさし(吉川英治「宮本武蔵」より)
演出◇蜷川幸雄
出演◇藤原竜也 勝地涼 鈴木杏 六平直政 吉田鋼太郎 白石加代子 大石継太 塚本幸男 飯田邦博 堀文明 井面猛志 

●5/5〜8◎ロンドン Barbican Theatre

●5/15〜6/10◎埼玉 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

●7/7〜10◎NY David H. Koach Theatre

〈料金〉S席10500円 A席8500円(全席指定・税込)
〈問い合わせ〉

ホリプロチケットセンター 03-3490-4949


【文/岩見那津子】

淡々とダメになっていく人たち『裏切りの街』

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15分の休憩時間を挟むものの、3時間を超える上演時間はとにかく長い。長い上に、正直、先が予測できる話であるのに飽きずに見ていられた。なぜか。下世話だろうがなんだろうが、リアルなラブシーンに興味をそそられ、刺激される部分も少なからずあったし、なにより、出口なし、行き場のない閉鎖的な空気感が、物語の中で最後どこに着地するのかが気になった。

もがいて、あえて道を踏み外して、違うところに行ってみたつもりでも、劇的な変化なんて全く訪れなくて、転がり落ちる一方。落ち続けても、やっぱり、周りも自分も何も変わらなくて、螺旋階段を永遠に下り続けるような、ループ、繰り返し。下った分だけ上るのが大変になるのはわかってる。だから上なんて見ないで、また下る。好きでも嫌いでもない、愛してもいない人とただ逃げる。その一つの手段としてセックスがある。

なんだか不思議だった。こういう演劇が生まれることが。そこに辿り着くまでのダメさ加減が、わかるような、わからないような、いや、やっぱりわかってしまうような・・・これが「今」が抱えている空気で、だからこそこうして芝居になるのだけれど、ただ『どうしたものかな』という気持ちにさせられる。

淡々と、普通に、ダメになっていく。でもそれすら、どうでもいいし、考えるの、めんどくさい。そんな気持ちはとてもわかるけれど、ちゃんと生きていく為には、わかりたくはない。いや、でも、そもそもちゃんと生きるってなんだろう?それって大切なこと?・・・一緒になってループに陥ってしまうような感覚だ。

どんどんダメになっていく女、専業主婦の智子に秋山菜津子。その旦那・浩二が松尾スズキ。もうこの二人が夫婦ということだけでこちらは興味津々なのだが、智子の不倫の相手となるフリーター・裕一を演じるのが田中圭だというところで、更に興味は高まる。智子と裕一がお互いにそこそこ綺麗だし格好良いからそういう関係になったんだと、心情を暴露する場面があるのだけれど、その本音に納得だし、二人の正直さも笑える。

状況としてはどんどん悲惨になっていくのに、諦めが根底にあるからなのかどこかカラッとしていて、それこそ笑えてしまう時もある。くだらなさが愛おしく思える瞬間。それでも落ちていく事には変わりはないし、救いの手も差し伸べられないのだけれど。

タイトル『裏切りの街』。罪悪感の残る行為を重ねて、他人を裏切。でもそれ以上に、現実から目を背けて、まず誰より「自分」を裏切っている人たちがいる。そんなだった




パルコ・プロデュース
『裏切りの街』

作・演出◇三浦大輔
出演◇秋山菜津子 田中圭 松尾スズキ 安藤サクラ 江口のりこ 古澤裕介 米村亮太朗 

●5/7〜30◎東京 パルコ劇場

●6/5〜6◎大阪 森ノ宮ピロティホール

●6/8◎福岡 福岡市民会館

〈料金〉
東京/一般7350円(全席指定・税込) 学生券5000円(詳細は問合せを)
大阪/S席7500円 A席5500円(全席指定・税込)
福岡/S席7000円 A席5800円 B席4800円(全席指定・税込)

〈問い合わせ〉
東京/パルコ劇場 03-3477-5858
大阪/キョードーインフォメーション 06-7732-8888
福岡/ピクニック 092-715-0374

【文/岩見那津子】
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