稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

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絶望からの覚悟 コクーン歌舞伎『佐倉義民傳』

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こんな人は実際にいるのだろうか?いや、いない?
とにかく身を粉にして世のため、人のために手の限り、思いの限りを尽くす、中村勘三郎演じる下総佐倉の領主、木内宗吾の自分ではない誰かを思うが故に生まれるエネルギーの大きさに胸が熱くなった。

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年が初演の作品であるけれど、コクーン歌舞伎が持つ現代性も相まって、宗吾の真っ直ぐな行動力に夢のような理想を見て、更にその行く手に立ちはばかる壁に、まざまざと「今」を感じた。上に立つ者とその下にいる者の関係性。下から思いをぶつけても上手く響かず、のらりくらりとかわされる。

宗吾は実際には存在し得ない理想の領主なのかもしれない。民衆のことを一番に考え、自分だけが豊かになろうとは決して思わない。相手を想い、できるかぎりの優しさをささげ、命を何よりも大切にする。誠実で、暖かい人だ。しかし、そんな宗吾が民衆の生活を改善させようと、どんなに大きな声で叫んでも、その叫びはいつの間にか、かき消されてしまう。

こんなに立派な人が、こんなに切実に叫んでも、全く届かない。世の中は全く変わらない。それどころか宗吾は辛すぎる結末に向う一方で、その痛いドラマを見つめながら、ただただ「救いはあるのだろうか。」という思いだけが浮かび上がってきた。

今まで見た何作かのコクーン歌舞伎は、いずれもお祭的で派手に見せる部分が多々あったように思う。今回は、派手さを抑えて、ぐっと深く人間ドラマに迫った。木内宗吾という人が一体どんな人であるか、どんな家族に囲まれて、どんな生活をし、どんな思いを抱えているか。静かでなんてことのない、やり取りや表情の中で、確実にそれぞれが役として息づいているのを感じたし、その分だけ、感情移入して物語を体感することができた。

だからこそ、より辛かった、結末の救いのなさが怖かった。木内宗吾という人が命果てた世の中は、確実に今と繋がっている。ラップに乗って訴えかけてくる、熱い、熱い、切実な、胸を突き刺すメッセージ。こんなにも直接的に「このままでいいのか!?」というメッセージが発されることにもまた、ある種、救いのなさを感じたのと同時に、それでも生きていく以上、立ち向かう他に道はないという覚悟もこの作品から受け取った。


『佐倉義民傳』

演出・美術◇串田和美

出演◇中村勘三郎 中村橋之助 中村七之助 笹野高史 片岡亀蔵 坂東彌十郎 中村扇雀 他

●6/3〜27◎Bunkkamuraシアターコクーン

<料金>1階平場席¥13500 1階椅子席¥13500 2等席¥9000 3等席¥5000 立見A席¥3500 立見B席¥2500(全席指定/税込)

<チケットに関するお問い合わせ>チケットホン松竹 0570-00-489 Bunkkamuraチケットセンター 03-3744-9999

【文/岩見那津子】

洒落たコメディに挑戦する若手俳優 山田ジルソン インタビュー


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TPT
などの舞台で注目されている若手俳優、山田ジルソンの新しい舞台が、まもなく幕を開ける。
オリジナルコメディを上演し続けているD.K HOLLYWOODの『Zip-A-Dee-Doo-Dah』が、その公演である。
D.K HOLLYWOODは、元ちびっこギャングの越川大介が1995年に設立し、今年15周年を迎える役者集団で、3秒に一度炸裂する笑い、映像的なカット割り、スピーディーかつスリリングな展開のコメディーで独自の舞台作りを続けている。

今回のストーリーは、経済恐慌後の1930年代のブロードウェイ、再起をかける落ちぶれプロデューサーをめぐってワガママ放題の大女優や、恨みを持つマフィアのドンなどが絡んで、抱腹絶倒の大爆笑劇へと展開していく。その舞台でサムという映画界の青年を演じる山田ジルソンに話を聞いた。

【フォッシーテイストのダンス】

ーー今回初めてのD.K HOLLYWOODの稽古場ですが、いかがですか?

ダンスがあるのでたいへんです。しかも普通のダンスと違ってて、演出されてる越川大介さんの振付けなんですが、ジャズ系でボブ・フォッシー風のものなんです。これまで僕はヒップホップみたいなのはずいぶんやってたんですが、ジャズ系は初めてで、やっぱり難しいですね。でも、ユニークでかっこいい振りになってますので、観たかたにはきっと喜んでいただけると思います。

ーーダンスは得意だと聞いていますが、もともとミュージカル志望だったのですか?

いえ、最初は喋るの好きだったのでタレント志望だったんです。でも舞台に出る機会があってから、もっとちゃんと芝居ができる俳優になりたいと思って、そこからどんどん意識が変わりました。

ーーこれまで舞台にはけっこう出てらっしゃいますね。

初舞台が2年前で、それ以来、朗読劇を含めて4本出ています。TPTには『血の婚礼』(09年)と『キレイじゃなきゃいけないワケ』(0910年)と、2本出演させていただきました。でもこれまで全部ストレートプレイだったので、今回はダンスのある舞台というのでちょっと緊張しています。

DSCF3591ーー稽古場の取り組みでとくに大変なことは?

今までなら1カ月の稽古期間を芝居に集中していればよかったんですが、今回は芝居の稽古とダンスの稽古という、そういう頭を切り替えるのがたいへんで、しかもコメディなので自分なりの工夫がいるし、同時に頭を2つも3つも働かせないといけので。そこがこれまでにない大変さだと思ってます(笑)。

ーー初めて経験するコメディの面白さは?

たとえばストレートプレイだと感情を強く出していいところでも、コメディだとちょっと押さえめに言うことで面白さを狙っていくと思うし、間とかニュアンスが違うなと感じます。それを軽く自然にやってる皆さんはすごいなと思って見ています。僕はまだ大げさに笑いを取りに行き過ぎてて、そこがずっと課題なんです。

 

【ぐしゃぐしゃになって?】

ーー本の中身とか物語はどんな感じですか?

1930年代の経済不況の時代に、アメリカの再生を図る公共事業促進局というのができるんですが、その利益をめぐって、ギャングからおばあちゃんまでさまざまな登場人物が現れて、ぐしゃぐしゃになって真っ直ぐになって、またぐしゃぐしゃになって、たいらになってみたいな。というのは越川さんの解説なんですが(笑)。そういう、芸能の世界に関係した人たちが集まって色々やっているところに、大型ハリケーンが来たり(笑)。そんななかで生まれる笑いをテンポよく作っているんです。僕はサムという映画関係の青年で、演じる為に当時の時代背景も勉強してはいるんですが、結局目の前の台本を読み込んで、その時代をまっすぐに生きるしかないと思っているんです。

ーージルソンさんから見たこのカンパニー、D.K HOLLYWOODならではの面白さは?

以前観た時にいちばん感じたのは、みんながアドリブっぽく喋ってて、こんなにアドリブがあっていいのかなと思ったんです。それが今回台本をいただいたら、全部セリフなんだとわかって。そこにすごくびっくりしました。そういう計算されたおしゃれな面白さなんですよ。それに見せ方としての映像的な面白さもすごくあるんです。

ーーそういうセンスや見せ方を自分にも感じてもらうように、というのが課題ですか?

DSCF3576そうなんです。でも周りの皆さんがすごくセンスあるので、ちゃんと付いていけば大丈夫だろうと(笑)。自分が出てないところを見てると、本当に笑えるんです。こんなに笑ってていいのかというくらいオカシイ(笑)。それに今回は、時間軸がずれていくんです。こっちでこういうことが起きているとあっちでは別のことが起きてるみたいな。そういう感じで話が進んでいくから楽しいし、いわゆるバックステージものなので、そこにも興味を持っていただけるかなと思っているんです。

ーージルソンさんの話を聞いていると自分の出る公演を楽しんでるし、舞台がすごく好きなんだろうなと。TPTの作品などを観ていてもそんな感じがしました。

好きですね。いつも自分の役もそうですが、やればやるほど作品そのものが好きになっていくんです。今回も稽古場から作品の素敵さを感じていて、この機会にコメディもできるようになりたいし、役者としての可能性を少しでも広げられたらいいなと思っています。

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D.K HOLLYWOOD

Zip-A-Dee-Doo-Dah

作・演出・振付◇越川大介
出演◇鶴町美香、小貫昌子、山口草太、川田誠司、大崎慈益、外谷俊弥、石田太一、阿部将史、中嶋百合子、小西徹幸、越川大介、下宮里穂子、武下公美、葛西幸菜、丸高愛実/山田ジルソン、佐藤幹、近岡祥太

●6/1620◎シアターサンモール

〈料金〉前売り¥4000、当日¥4300(全席指定、税込)

〈お問合せ〉D.K HOLLYWOOD  03-5371-9005

*「ジルソン=元気ブログ」http://yaplog.jp/gilson0212/

【取材/榊原和子 文/岩見那津子】

 

 

新たなスタンダードへの旅『キャンディード』

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舞台に浮かぶ輪。
それが答えでもあり、物語が進む先をうっすらと指し示してくれる存在でもあった気がする。舞台上に登場する人物が全て、その輪の中にいるような、そんな感覚になる。

楽天主義を主張するパングロス博士(市村正親)。その対極に悲観主義者であるマーティン(村井国夫)が居て、主人公で“純真”という意味の名を持つキャンディード(井上芳雄)はその輪の中で旅を続け、たくさんの人と出会い、喜びも、悲しみも、ありとあらゆる経験をし、一つの考えに辿り着く。
楽天主義も悲観主義も、愛も、憎しみも、全てが同じ輪の上にある。キャンディードは世界中を旅することで人と人とを繋ぎ、そのことを発見するのだ。

対極に思えるものも実は全てが一つの輪の中の出来事であるということに加え、さらに、その物語自体が一人の作家によって生み出されたものだという入れ子式の構造によって、この『キャンディード』の世界は一層深みを増す。

パングロス博士の他、二役で市村正親演じる作家・ヴォルテールが、まるで音楽を紡ぎだすかのように自在に、軽やかに、一人ひとり、物語を生きる人々に命を与えていくのが、このミュージカルのオープニングだ。
キャンディードも、パングロスも、マーティンも、その他全ての人がヴォルテールによって創造された人物であり、キャンディードを中心として進む物語もヴォルテールの想像である。すなわち、純真なキャンディードも、楽天主義のパングロスも、悲観主義のマーティンも、全てがヴォルテール=「一人の人間」の中に存在するということだ。

どんな人間の中にも醜さは存在するし、また美徳もある。しかしそれがどう表にあらわれるかは、その人の置かれた環境も影響するだろが、何よりその人自身の心の持ちようなのかもしれない。醜くも美しくもなれる中で、自分がどう世界に存在すべきか、キャンディードは問い掛けてくる。

この入れ子構造の物語を見事に視覚的に表したのが、ロシアのマトリョーシカ人形のように、大きな箱から、どんどん小さな箱が出てくるという、宝箱状の舞台美術。セットはほぼこれだけなのだが、箱を組み合わせて馬に見立てたり、川を下る船に見立てたり、ただの箱は次から次へと姿を変える。
浮かぶ輪と入れ子状の箱。たったこれだけで舞台上には世界を巡る冒険の旅が広がり、また、たったこれだけの舞台美術が作品に込められたメッセージをより明確に浮かび上がらせる。シンプルさの中にぎゅっと詰まった美術の意味は、想像力を刺激するこの舞台の大きな醍醐味だったし、演劇的なジョン・ケアードの演出に心地良く浸る為の大きな手助けにもなった(装置/ユン・ペ、装置原案/ジョン・ネピア)。

話は哲学的で少し難しい部分もあるかもしれないけれど、ストンと入り込んでしまえれば、キャンディードと一緒に観客も、自分の中に芽生える様々な感情や、様々な人と出会い、経験し、学び、成長する旅を体感できるはずだ。
ジョン・ケアード版『キャンディード』は、これが日本初演。その時その時で見る人に何かを語りかけてくれる『レ・ミゼラブル』のようなスタンダードとなるミュージカルが、また新たに誕生したというワクワクする高揚感が観劇後に残った。

 

 

ミュージカル

『キャンディード』

原作◇ヴォルテール

作曲◇レナード・バーンステイン

作詞◇リチャード・ウィルバー

上演台本・演出・◇ジョン・ケアード

出演◇市村正親、井上芳雄、村井国夫、新妻聖子、坂元健児 他

●6/2〜27◎帝国劇場

〈料金〉S席¥12500、A席¥8000 B席¥4000

お問い合わせ◇ 03-3201-7777(東宝テレザーブ)

 

【取材・文/岩見那津子】

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