稽古場見学、記者発表、インタビューなどから、近々公開される作品のおもしろさを探ります。

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「ありがとう」が言える世界を『ムサシ』

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井上ひさしさんが亡くなって一ヶ月半ほどのこの時期に、『ムサシ』が再演されていることに運命めいたものを感じた。「命を大切にしてください」というなんの混じりっけもない、シンプルで純粋なメッセージがすっと心に染みる。ふと、井上さんが劇場のどこかにいるのではないか、そんな気分にもなった。

初演の際は、正直肩透かしを食らったような印象を受けた作品なのだが、作者が亡くなり、その命の重さをこちらが実感し、その上で観た再演でやっと作品に込められた思いに触れられた気がする。もう井上ひさしの新作公演を見ることができないという事実にはどうしようもない喪失感を覚えるのだけれど、今まで綴られた言葉はいつまでも残る。その残されたかけがえのない言葉の力をまざまざと感じた公演だった。

宮本武蔵(藤原竜也)と佐々木小次郎(勝地涼)という宿命のライバル同士。巌流島の戦いで敗れたとされる小次郎が実は生きていた、というところから始まるこの作品。結局、武蔵と小次郎は戦わない。この「戦わない」というのが最大のポイントだ。二人がどんなに因果を感じていても、憎しみを顕わにしていても、また観客が武蔵と小次郎の火花散るような決闘シーンを望んだとしても、それでも二人は戦わない。

戦うどころか、仇の命を奪うための剣術指南は、いつの間にかタンゴが流れる中での愉快なダンスシーンになってしまうし、武蔵と小次郎を引き離すための作戦である五人六脚も滑稽で笑える。恨みつらみを、ほわんとした笑いにしてしまう。それでいいのだと感じたし、そのある意味くだらない笑いに作品全体を和らげる温かみを感じた。

しかし、笑わせてばかりではない。見せるところは見せ、訴えるべき所は訴える。父の仇の腕を切り落とした乙女(鈴木杏)はその仇の命を奪わずに、自身に刃を向けることで「恨みの鎖」を断ち切る。復讐は新たな復讐を生むだけなのだから、誰かがどこかでその鎖を断ち切らねばならないという、至極単純で、しかしこの上なく困難なことを心のままにやってのけた少女の姿に、舞台に込められた願い、祈りをみた。

願いが届き、戦わず、友人となった武蔵と小次郎。その二人に「ありがとう」という感謝の言葉がとある人物から送られる。この一言に、とても大きな優しさと輝きを感じた。恨みの鎖が断ち切られた「ありがとう」が溢れる世界。それは役者や、演出家、そして作家舞台に込めた祈りが、どんどん広がっていけば叶うかもしれない理想の世界だ。心の片隅にずっとこの『ムサシ』という舞台を留めておくことが、その理想に近付くための一歩になるに違いない。

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ロンドン・NYバージョン
『MUSASHI』

作◇井上ひさし(吉川英治「宮本武蔵」より)
演出◇蜷川幸雄
出演◇藤原竜也 勝地涼 鈴木杏 六平直政 吉田鋼太郎 白石加代子 大石継太 塚本幸男 飯田邦博 堀文明 井面猛志 

●5/5〜8◎ロンドン Barbican Theatre

●5/15〜6/10◎埼玉 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

●7/7〜10◎NY David H. Koach Theatre

〈料金〉S席10500円 A席8500円(全席指定・税込)
〈問い合わせ〉

ホリプロチケットセンター 03-3490-4949


【文/岩見那津子】

淡々とダメになっていく人たち『裏切りの街』

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15分の休憩時間を挟むものの、3時間を超える上演時間はとにかく長い。長い上に、正直、先が予測できる話であるのに飽きずに見ていられた。なぜか。下世話だろうがなんだろうが、リアルなラブシーンに興味をそそられ、刺激される部分も少なからずあったし、なにより、出口なし、行き場のない閉鎖的な空気感が、物語の中で最後どこに着地するのかが気になった。

もがいて、あえて道を踏み外して、違うところに行ってみたつもりでも、劇的な変化なんて全く訪れなくて、転がり落ちる一方。落ち続けても、やっぱり、周りも自分も何も変わらなくて、螺旋階段を永遠に下り続けるような、ループ、繰り返し。下った分だけ上るのが大変になるのはわかってる。だから上なんて見ないで、また下る。好きでも嫌いでもない、愛してもいない人とただ逃げる。その一つの手段としてセックスがある。

なんだか不思議だった。こういう演劇が生まれることが。そこに辿り着くまでのダメさ加減が、わかるような、わからないような、いや、やっぱりわかってしまうような・・・これが「今」が抱えている空気で、だからこそこうして芝居になるのだけれど、ただ『どうしたものかな』という気持ちにさせられる。

淡々と、普通に、ダメになっていく。でもそれすら、どうでもいいし、考えるの、めんどくさい。そんな気持ちはとてもわかるけれど、ちゃんと生きていく為には、わかりたくはない。いや、でも、そもそもちゃんと生きるってなんだろう?それって大切なこと?・・・一緒になってループに陥ってしまうような感覚だ。

どんどんダメになっていく女、専業主婦の智子に秋山菜津子。その旦那・浩二が松尾スズキ。もうこの二人が夫婦ということだけでこちらは興味津々なのだが、智子の不倫の相手となるフリーター・裕一を演じるのが田中圭だというところで、更に興味は高まる。智子と裕一がお互いにそこそこ綺麗だし格好良いからそういう関係になったんだと、心情を暴露する場面があるのだけれど、その本音に納得だし、二人の正直さも笑える。

状況としてはどんどん悲惨になっていくのに、諦めが根底にあるからなのかどこかカラッとしていて、それこそ笑えてしまう時もある。くだらなさが愛おしく思える瞬間。それでも落ちていく事には変わりはないし、救いの手も差し伸べられないのだけれど。

タイトル『裏切りの街』。罪悪感の残る行為を重ねて、他人を裏切。でもそれ以上に、現実から目を背けて、まず誰より「自分」を裏切っている人たちがいる。そんなだった




パルコ・プロデュース
『裏切りの街』

作・演出◇三浦大輔
出演◇秋山菜津子 田中圭 松尾スズキ 安藤サクラ 江口のりこ 古澤裕介 米村亮太朗 

●5/7〜30◎東京 パルコ劇場

●6/5〜6◎大阪 森ノ宮ピロティホール

●6/8◎福岡 福岡市民会館

〈料金〉
東京/一般7350円(全席指定・税込) 学生券5000円(詳細は問合せを)
大阪/S席7500円 A席5500円(全席指定・税込)
福岡/S席7000円 A席5800円 B席4800円(全席指定・税込)

〈問い合わせ〉
東京/パルコ劇場 03-3477-5858
大阪/キョードーインフォメーション 06-7732-8888
福岡/ピクニック 092-715-0374

【文/岩見那津子】

わかぎゑふ、『罪と、罪なき罪』について語る!

2008年に好評を博した名作が、劇団☆新感線の粟根まこと、花組芝居の八代進一、狂言の茂山宗彦、柊巴、美津乃あわら多彩なゲストを迎え、改訂版として蘇ります!

6月5日より座・高円寺1での公演を皮切りに、大阪、神戸と上演されるリリパット・アーミーII25周年記念公演第一弾。

リリパット・アーミーIIとラックシステムと2つの劇団を主宰しているわかぎゑふが、『罪と、罪なき罪』にかける思いを語ります。

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『陰と陽と、その狭間
わかぎゑふ

私は劇団を2つ主宰している。小劇場空間でのエンタメを主とするリリパットアーミーIIと大阪弁の人情劇を上演するラックシステムである。

故中島らも氏とゆかいな仲間たちで立ち上がった劇団、リリパットアーミーIIの旗揚げに参加したのはもう25年も前だ。しかし、当時のリリパットは芝居をするという感覚ではなく、面白い船に乗ったような感じだった。私の中でそれが心地よく、勉強になったことは確かだったが、10年もやってると芝居がしたくてたまらなくなり、ラックシステムを作った。人情劇体質だったようだ。

しかし、光り輝く小劇場ハチャメチャ時代に大阪弁の人情劇なんか要らなかったらしく、ラックシステムは陰気だと評され、リリパットのファンがおこぼれで観てくれるお荷物劇団のように思われていた。陽のリリパットに対して、陰のラックシステムという構造だった。

ところが2000年を越える頃から徐々にリリパットに変化が現れた。2002年には中島さんが辞め、私が事実上の2代目の座長になることになった。翌年お披露目、劇団の表記も「II」に改めた。そのとたんに関西小劇場のメッカ、扇町ミュージアムスクエアが閉館。翌年には近鉄小劇場が…事実上、80年代の後半から続いていた小劇場ブームの終焉だった。

正直、劇団を辞めてしまいたいと何百回考えたか。観客は激減、それまで払っていた劇団員へのギャラも払えない時期が続き、ひとり、またひとりと辞めていった。

そんな中、なぜか人情劇をやっていたラックシステムの評判が段々よくなっていった。不思議なほどお客様が安定して入り、幅広い年代にファンが広がった。商業演劇の人たちにも注目され、私は外部の舞台の演出や、脚本、果ては新作の狂言や、なんと歌舞伎の演出まで依頼されるようになった。どこかに「大阪人情喜劇の名手」と書かれたときには自分で感激したものだ。

その全ての仕事のお誘いの文句に「ラックのお芝居拝見してます。」という前置きがついていた。この10年で、陽がラックシステム、陰がリリパットアーミーIIという構図にすっかり逆転してしまったのだ。

それでも私はリリパットを辞めなかった。理由は幾つかある。だが一番は常に変化するリリパットが好きだということだ。コントをやっていた時期、カンフー映画の真似をしていたシリーズ、ホラーを取り入れた頃もあった。男女を完全に入替るシリーズなどなど…リリパットは変化する劇団でいい。だからこそ、人情劇で安定しているラックシステムで出来ない冒険が試せる空間だと思っている。だからこそ辞められない。

それは『罪と、罪なき罪』を上演したときに確実な手ごたえになった。スズナリの客席が連日入りきれない観客で埋まり、かつての小劇場ブームの時のような盛況ぶり。観客が求めてきてるのは予想できないストーリーと、大劇場にはない臨場感、小劇場でしか見られない役者陣の生の競演の様。

観に来てくれた、演出家のマキノノゾミが「わかぎゑふ珠玉の一作」と褒めちぎってくれ、花組芝居の加納幸和が純粋にお客として「泣いちゃった。」とコメントし、歌舞伎俳優の坂東三津五郎丈が「大人の芝居、最高のエンタメ!」と感激してくれた一作になった。

そんな仲間うちの後押しも大きな自信につながり、25周年の最初の演目に「罪と、罪なき罪」をお送りする。もちろん、初演よりパワーアップさせて。より大人のエンタメに仕上げるつもりだ。

ただ、問題がひとつ…最近私の中では陰と陽が混ざり合い始めている。同じ人間が2つの劇団を主宰してるので当たり前なのかもしれないが、これは演劇人としての進化なのか、退化なのか…自問自答中だ。

変容するリリパットアーミーIIの6月公演。お待ちしてます!

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玉造小劇店 配給芝居vol.4リリパットアーミーII25周年記念公演第一弾
『罪と、罪なき罪』

6/5〜13◎座・高円寺1(東京公演)、6/17〜20◎ABCホール(大阪公演)、6/26・27◎新神戸オリエンタル劇場(神戸公演)

作・演出・出演◇わかぎゑふ
出演◇コング桑田 野田晋市 千田訓子 他
<料金>前売・当日共¥4500 ※神戸公演S席¥4500  A席¥3500(前売・当日共)
<お問い合わせ>玉造小劇店  06-6944-3380

http://w3sa.netlaputa.com/~tama-sho
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