DSCF0086 蜷川幸雄&福田善之コメント



【安保なんて知らなくても】

ーーこれは60年安保闘争の頃の話ですが、それが今の時代にどう受け止められるか、また作るうえでの仕掛けは?

蜷川「60年代に限定して見る必要はないと思います。ただテレビなどを見てても、多くの番組は芸人たちがクイズに答えて、笑って食べてというものばかり。そんな文化の中で、もう少し考えることを恥ずかしがらなくてもいいじゃないかと。いま稽古してる『コースト・オブ・ユートピア』も、出てくる人間たちが何を思って生きてきたのか、それを考えてほしいということです。小さな劇場にしたのは小さなウソでも観客は見抜く。それを役者には知ってほしい。また逆に同じ世界を共有しやすい。そういうところで演技中心の芝居を作りたい。一応退屈してもいけないのでビジュアルは重視すると思います」

福田「僕は安保を書いたつもりではないんです。書きたいものが時代と素直に混ぜ込ぜになっただけです。それでいろいろ認めていただいたりもしましたが。この作品はそのあともぽつんぽつんと上演してるんです。でもある時期まで「こんな芝居はヤダわ」というお客さんの空気で始まる前に硬直していたんです。ただその空気が最初のセリフの「誰が好きなんだ、お霧さん」というのでフッと緩むんです。「あ、いつものお芝居なんだ」という空気になる。それは杉村春子さんが新しい『櫻の園』をやったときも、後半の江守徹のセリフで「あら文学座なんだわ」という空気が流れた。お客さんのほうが変わるんです。そして、ある時期からは安保なんて知らないから、やるほうの学生が非常に素直に受け止めて、お客さんも素直に受け止めてくれるようになった。その時期は今でも続いてると思います」

ーー今回の応募の中から選ぶにあたっては?

蜷川「似たような俳優が今のテレビでは出てくるけど、ここではもう少しノイズの多い顔にしたいと。ゴールドシアターはノイズばっかりだけど(笑)。若者たちに、いま情報に流布されているような顔ではなく、もう少しノイズがあっていいんだと言いたい。均一化された俳優ではなくて、少し悪そうだなというのも入れたし、もちろん二枚目も入ってますが、比較的個性的な美しい人ばかりではないのを集めました。(若者たちを振り返って)ざまあみろ(笑)」

DSCF0097【生身の他者を必要とするのが演劇】

ーーネクストは80年代以降生まれの人たちばかりですが、身体性と精神性の問題点は?それをどう変えようと。

蜷川「いま時代劇の所作とか日本舞踊とか殺陣とかしてるけど、それはすごく一生懸命なんです。でもすぐそばで『コ−スト〜』の稽古してるんだけど、自分たちと近い世代でもう少しマスコミなんかで活躍してる俳優が、そこでどんな稽古してるかというところを素通りして行っちゃう。バカだなと思う。これから何年間か何か月かを、ここで共有しなくてはいけない人たちが通路のすぐ向こう側にいるのに、帰っちゃう。それについてはがっかりしてる。こいつらには他人の生き方や、いろんなものが同時に進んでいることへの“共有したい”というのがない。関心がない。つまり道を歩いているときにぶつかりそうになる人に配慮がないし、自転車でぶつかりそうになっても配慮がないんだ。でもそれは間違いなく時代を象徴してるわけで、インターネットにしろパソコンにしろケイタイにしろ、機械は他者と間接的でも成り立つからね。でも演劇はそうはいかない。

そういうやつらに対して、僕は絶望したらやめりゃいいんだと思う。生身の他者を必要とすることに直面できなければ演劇なんかできないんだから。でも、そういうやつらから新しい時代の感性を持った俳優が生まれる可能性もある。だから僕としては、慎重に大切にその時代を象徴しうる身体、精神というものは残しながら、でも他者への関心がなかったら演劇は成り立たないから、その2つを共存させること、あるいはその方法を、どうやって発見していくのかが僕の任務だと思ってます。

若いやつらには不満はものすごくあるんだ。アルバイトのほうが職業になってる。もちろんエリートでないと演劇できないなんてのは馬鹿げてる。でもどこかで、自分の時間をあるいは経済的なリスクを負わないと何かを得られないというのも確かなんだ。この矛盾をこの若者たちはどう解決していくか、これはもう見応えのあるドラマだね。

彼らはこれからどうなるんだろうね。『コースト〜』を通過したお前の時間はどうなんだと、同じ世代の人間が稽古場で苦労している、それを通過したお前の時間はどうなんだと。それはこれからの稽古でビシバシやって立証させてやる。お前が失った時間はどうなんだと、何人落伍者が出るか見ものだね(笑)」

DSCF0088【欲望を持った言葉を語るために】

ーーゴールドでは本公演までにプロセス公演が行われたが、ネクストでは?

蜷川「初めにカリキュラムを用意するとこいつらは、この人たちは(笑)こなすわけだよ。じゃ、なぜ発声が必要なのか、なぜ身体的な動きが必要なのかということで、これからそれを身に沁みて発見していくわけだ。なぜ「い・え・あ・お・う」は成立するのに、欲望を持って語る言葉はきちっと言えないのか。あるいは、どういうふうにしてそれを作っていくのか、これからできあがるわけです。そこからまた日常的な課題というものに立ち戻ることが必要になってくる。だから昔と逆なんですね。昔は発声の前に言葉がちゃんと身体にあったんだよ。

それに外国と日本の違いもあるね。だから日本的であるということも併せて考えながら、若者をオルガナイズしていきます。もちろん僕も自分を絶対だと思ってませんから、修正したり、自分を問うための反対側の軸として若者を置いてるというのもあるから、その相互作用が出てくるといいなと思ってます。それだけエネルギーがあるじじいであればいいなと思ってる。やらしてみて出来なかったら、あそこを素通りしたことをバカだと言ってやる。バカは長生きしないんだよ。バカが生き残ることはないんです、この世界は」

ーーゴールドとネクストの向き合い方は違いますか?

蜷川「ゴールドは高齢だけど、決して笠智衆ではなく原節子でもなく、僕が40人いるんだから迷惑な話だよな(笑)。自己主張が絶えない。ゴツゴツしたジャガイモがザルの中に入ってる。でも正しいことを言うとすぐに聞いてくれる、その代わりすぐにはできないから、なかなか煮えない新ジャガかな。ネクストの若者たちはこれまで優れた指導者に出会ってないという気がする。その個性を消さないまま、もっともっと違う世界があるという関心を持つともっとよくなる。

怒っちゃダメなのか寄り添うべきか、まだ性格がわからないのをそれぞれ見ながらだから、ものすごく手間暇かかるんだ。その人固有の感性とか生き方を見極めながらダメだしして付き合っていくからね。結局は普遍性ではなく個別性しかないんじゃないかと思うし、個別性をもって接しながら、それを束ねながらで、こちらは疲れ果てます。僕から見たら1対44だからね(笑)。

この前、寺山さんの本を読ませたんだけど、つまんなかった。愚かしくつまんない。勉強してないからね。自分のたいしたことのない経験を絶対だと思ってるから、想像力がないんだ。いいのがいたら抜擢してやろうと思ったのに。他所にはいるからね、そういう役者が。おっこの役を若いヤツはこう捉えるんだと、僕の考えてるイメージと全然違う動きすれば面白いんだけどね。いまの若い人はこういうふうに考えてるんだと思わせてほしい。僕がいっぱいいてもしょうがないんだから」

DSCF0095【場だけは確保しておく】

ーーこれから彼らをどんなところまで育てようと思っているか。

蜷川「まず3年間を考えてます。ゴールドが3年目にすごく面白くなってきたんです。彼らでないと発見できないものが出てきた。このネクストから何人残るかわからないけど、この人たちの時代の固有の空気をちゃんと身体に宿して、なおかつ古典的なーー人間が普遍的に持続してる時間の中で学んだーーものを併せて演じきれる、そういう俳優が何人いるかだね。

最近の僕の関心は「俳優だ」と思っていて、いい俳優が育っていい俳優が戯曲をリードしていく、または逆に戯曲の言葉で俳優が前面に出てくる。どちらにしろ演出家はそこでアジテーターであり続ければいい。と同時に、このゴールドとネクストの2つの劇団を用意することで、若いスタッフ、演出家たちも育っていく。老害のようにはびこっている老人たちは、そういう若者たちの場所を、文化的に追いつめられている中で、少なくとも場所だけは確保しておいてやる。それは先行する世代の演劇人の大事な役割りだと思ってる。だから経済性だけでなくさまざまな問題を抱えながらも、若者の場だけは確保してやること。いずれ若い演出家、作家、スタッフたちが僕らに取って代わって出てくるまでは、それまではなんとか場所は確保しておいてやる。それが野心といえば野心です」

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さいたまネクスト・シアター 開館15周年記念公演

『真田風雲禄

●10/15〜11/1◎彩の国さいたま芸術劇場インサイドシアター(大ホール内)

作◇福田善之

音楽◇朝比奈尚行

演出◇蜷川幸雄

出演◇さいたまネクスト・シアター 横田栄司 原康義 山本道子 妹尾正文 沢竜二

<料金>¥3800

<お問合せ>彩の国さいたま芸術劇場 0570-064-939(10時〜19時)

                http://www.saf.or.jp

                                             【取材・文/榊原和子】

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