まもなく幕を開けるTSミュージカルファンデーションの『Garantidoー生きた証ー』は、オリジナル作品を次々に上演して、現代のミュージカル界で高い評価を得ている謝珠栄の新作である。
この舞台は、ある劇団の人間同士の関わりを外枠にして、太平洋戦争直後の日系ブラジル移民の物語を劇中劇として上演する。日本人であるがゆえの苦難と闘いながら、故国への憧れと夢を持ち続けた日系ブラジル人たちの姿が、リアルに浮かび上がる。
謝珠栄の作る舞台は、熱気のある展開と、経験豊かなキャストたちのレベルの高さでは定評があるが、今回その一員として、人気上昇中の若手俳優、良知真次が加わった。
良知は、大作ミュージカル『屋根の上のバイオリン弾き』から『ALTAR BOYZ』のようなライブ・ミュージカルまで幅広く活躍中。また昨年は映画『群青〜愛が沈んだ海の色』で、長澤まさみの相手役として映画にもデビューしている。
そんな期待の役者・良知真次に、この舞台に対する取り組みを聞いた。
【まるで劇団のようなカンパニー】
ーー劇団員では知田という名前、ブラジルではミノルだそうですが、どんなキャラクターですか。
知田は劇団では下から２番目に若くてまだ下っ端で、一応お坊っちゃんなので、ちょっとオタクな感じで作ってます。
眼鏡をかけてて、「こういう人って１人は劇団にいるよね」みたいな（笑）。衣装合わせもしたんですが真っ赤なジャージで、ちょっと浮いてる感があるかもしれません（笑）。あとはふだんと踊るときでちょっとキャラが変わる、みたいな人にしようかなとか。ミノルは17才で、母国に強い憧れを持っているんです。でも結局は帰れないまま一生を終えるんですが、その希望とか夢を切なく描き出せればと思ってます。
ーー作品を読んで、どう捉えてますか？
劇団とブラジル移民の２つの話が出て来て、交互に場面が飛ぶんですが、その２つのテーマがうまく重なるし、わかりやすく書いてあると思います。僕は今26才で17才のミノルを演じるわけですが、戦争当時を生きてた若者って、今の人たちより大人びてたと思いますから、へんに若さにはとらわれないでやりたいし、彼が抱いていた故国への愛とか夢を大切にしたいですね。
ーー外枠は劇団の話ですが、良知さんは劇団四季にもいた経験から、集団という感覚は掴みやすいのではありませんか？
そうですね。今回は単純に先輩がたくさんいるから、そういう感覚になりやすいというか（笑）。このあいだも歌稽古で坂元健児さんの隣でしたから、どこから声を出してるんだろうと思って、ずっと見ていたんですけど（笑）。「どうやったらそんな高い声が出るんですか」って聞いたんですけど、「喉を壊しながらやってったらいい」とか言われて（笑）。今回はとくにテーマのせいかもしれないんですけど、みんなが本当に仲間っていう気がして、それが謝珠栄先生とかTSの独特のよさだなと実感してます。初めてのカンパニーだとなかなか言ってもらえないようなアドバイスなども、すぐ言ってくれたりするので、すごく嬉しいです。
【映画のサントラを今でも聞いてます】
ーーちょっと振り返りますが、ジャニーズ.Jrでスタートして、2003年から劇団四季で活動、退団して活動を再開した2007年からは、すごく幅広く活躍してますね。もう10年以上のキャリアになるんですね。
ジャニーズ.Jrでは約４年間、バックダンサーで踊ったりして、それから四季に入って３年間、そのどちらも僕にとってはすごく大事な基本の部分になってると思います。最初は、それぞれまったく違う世界だったから、やっている最中は迷いも悩みもあったりしましたが、2007年以降、活動を再開してからは、それまでやってきたことすべてが自分にとって大事なことだったんだ、と捉えられるようになりました。両方があるから、なんとか外の世界でもここまでやってこられているんだと思います。
ーー去年は映画『群青』にも出演しましたが、いかがでしたか？
すごく楽しかったです。宝物っていうか、映画に出るのも初めてでしたが、他にも初めてづくしで、島唄を歌ったり、三線を弾いたり、沖縄の漁師の役なので潜りの練習をしたり。そういう全部がすごく楽しかったし貴重な経験でした。オールロケというのも映画ではあまり多くないらしいと聞きましたが、それも楽しくて。共演者も素敵な俳優さんばかりで、相手役が長澤まさみさんで、佐々木蔵之介さんとか福士誠治さんと共演ですから。映画館で観て自分が出てるのが、ちょっと信じられなかった（笑）。今でもふと疲れたりしたときに、映画のサントラを聞いてます。
【想像力から入っていくタイプ】
ーー2008年からの舞台は幅が広くて、たとえば『GLORY DAYS』では突っ張ったような役でしたが、『屋根の上のバイオリン弾き』のパーチックは優しい青年でしたね。
自分でもバラエティに富んでるなと思います。でもどんな役でも今は面白いです。
ーー役ごとに新しい顔になるタイプの役者さんだなと。
それは親にも言われました。「育ててるとき見てた顔と違う顔してる」みたいな（笑）。
ーー役者良知真次は自分でどんな人だと思っていますか？
いい意味でも悪い意味でも仕事だと頑固になりますね（笑）。演技のプランみたいなものがいつもあって、けっこう演出家のかたと話し合っていくのが好きですし。僕は演技の本とかはあまり読まないんですが、以前たまたま薦められて読んだ本に「２通りの役者がいる。自分の経験してきたことを演じるのがうまい役者と、想像して演じるのがうまい人と。けれどその両方がうまい人はなかなかいない」みたいなことが書いてあったんです。それを読んで、僕は想像のタイプかなと思ったんです。想像から入って経験を最終的に引き出していくほうかなと。その逆な人は、経験から入って想像を重ねていく。もちろん僕も台本によっては、経験から入っていったほうが近いなと思うこともあるので、一概には言えませんが。
ーー今回も日本の劇団とブラジル移民の青年という２つの役に、その想像力が発揮できそうですね。
２つの役の違いをちゃんと見せたいですね。シーンごとに切り替えていくのはたいへんですが、すごくやり甲斐のあることでもありますから、公演中もいろいろ考えながら深めていけたらいいなと思っています。
TSミュージカルファンデーション
『Garantidoー生きた証ー』
●2/19〜28◎東京芸術劇場 中ホール
演出・振付 ◇ 謝珠栄
脚本◇大谷美智浩
作曲・音楽監督◇林アキラ
出演（５０音順）◇伊礼彼方 上口耕平 川本昭彦 岸祐二 坂元健児 島田邦人 樹里咲穂 西村直人 畠中洋 平野互 吉野圭吾 良知真次
〈料金〉S席9000 A席6000
〈お問い合せ〉TSミュージカルファンデーション 03-5738-3567
【文・榊原和子】
