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「堕落論」などで有名な小説家、坂口安吾をモデルにした東京ヴォードヴィルショーの舞台が、まもなく幕を開ける。

この『無頼の女房』という作品は、作家の中島淳彦が2002年に劇団道学先生に書き下ろして上演、高い評価を上げたもので、その後2006年にも他のカンパニーで再演されている。

内容は、無頼派と呼ばれ奇行で文壇を賑わした文学者の、身を削る創造の苦しみと、それを支えた妻の壮絶なまでの闘いが、中島淳彦ならではの人間への愛と洞察によって、面白くおかしく、ある崇高ささえともなって描かれる。

その戯曲に惚れ込んで、今回ヴォードヴィルショーの公演にと企画したのが座長の佐藤B作。ものを生み出す苦しみという点では、安吾にある共感を感じるという彼に、『無頼の女房』という作品の魅力と稽古場の様子を聞く。

 

【破滅的な作家に共感】

ーーこれは他の劇団でも上演した作品ですが、それをご覧になって惹かれたのですか?

いや、残念ながら観てなくて。中島くんの戯曲を読んで、すっかり魅せられてしまったんです。なんというか、すごく共感するんですよ。人間は素晴らしいところもあるけれど、同時にだらしのない動物であるというようなところを突きつけられるし、そこがすごく好きなところでもあるんです。他の作家の作品だと、わりと艱難辛苦があっても人間はがんばるものだというようなところがあるんですが、中島さんは「いや人間は所詮だらしないんだ」というのがあって、そこがすごく好きですね(笑)。

ーーこれは坂口安吾と奥さんがモデルになっている話で、物を生みだす人間とその家族のすさまじい闘いが描かれていますが、俳優にも似たような面がありますよね?

うちはあめく(みちこ)も役者ですから、それはかなりありますね。互いに役に入れば入る程、家では口をきかなくなりますから(笑)。片方だけが公演してる時は何かと相談にのったりできるんですが、2人とも出ているとなかなか難しい。

ーーでも演劇という共通言語があるのはいいですね。

僕も頼りにしてますからね(笑)。喧嘩すると最低なヤツだなと思うんですが(笑)、女優としては劇団の看板ですし、あいつがいてくれるから今回のこの作品もできるわけですから。

ーーこれはまさに妻の視点が中心になっていて、夫をはじめとする芸術家たちの生態が描かれている感じですね。

そうです。そこがすごくうまく描かれていて面白い戯曲だなと思います。主人公である坂口安吾という人は、僕なんか青春時代に読んで浸りましたし、すごい人だなと思ってますから、それを演じるのは正直プレッシャーなんですが。とりあえず役名の塚口圭吾だと思って(笑)、見るかたにはどちらに受け取ってもらってもかまわないし、そう思ってやらないと、なにしろとんでもないスケールの天才ですから。

ーー自分の肉体も精神も傷めつけながら物を書いた人ですね。

まさに壮絶で、そこを出すのはなかなかたいへんなんですが。自分も足元にも及ばないけど、近いことをしてる部分はあるんです。体に悪いから酒を飲むなと言われるとかえって飲むし(笑)、そっちへ行っちゃいけないよと言われるとわざわざその道を選びたくなる(笑)。人生でもいつも悩んだあげくたいへんな方に行っちゃってる、そういう気がしますからね(笑)。

ーーしかも、破滅的なだけでなく奥さんがいるのに他の女性に憧れ続けていたり、困った人ですし。

それもわかる気がするんですよ。初恋の女性とは大体うまくいかなくて別れたりするわけですが、かえってそれを一生引きずってしまう。女性は掴み切れない存在というか、目の前にいる人とは別の面影を求め続けてしまうところもあるんでしょうね。

ーー太宰治の役も出て来て、面白い役になってますが。

あのあたりも本当にうまく書いてます。笑える場面もあるし、ちょっとブラックな感じもあるし。

 

【一つ上の笑い】

ーー今のヴォードヴィルの芸達者な役者さんたちだからこそできる芝居でもありますね。

それなら嬉しいんですが、本当に喜劇的な部分と悲劇的な部分がうまく書かれてる戯曲です。僕もこの年齢になったからこそ、この本の凄さがわかるというか。こんな良い戯曲とよく出会えたなと思ってるんです。もうちょっと若かったら、もっと単純に面白い戯曲に目が向いてると思うんですが、切なかったりつらかったりしながら笑う、そういうものがやってみたいなと思ってたので、これはまさにぴったりなんです。

ーーネタバレですからあまり言えませんが、最後がなんとも切なくて。

僕はあそこが大好きで、たまらないですね。でも稽古はそのぶんたいへんです。読んだ時のこの面白さを表現できるかと言ったらまた別ですから。消化するまでは苦しみですからね。それに、それぞれの役者たちがこの戯曲を読み解いて、面白いと思ってる気持ちの部分が同じにならないといけないので。

ーー演出の中島さんはわかりやすいですか?

わかりやすく言っていただけるので有り難いんですが、それを出来るかはまた別問題ですからね(笑)。でもみんなの気合いが違いますね。昔、芝居を始めた頃みたいな気合いで。たとえばチェーホフとかゴーリキーの『どん底』みたいな、そういう戯曲と取り組む姿勢に似てるというか。それだけしっかり出来てて、面白いぶん手強い戯曲なんだと思います。

ーー劇団ももう37年ですが、劇団という形の強さがあるから出来る作品かもしれませんね。

確かに今回、単なる笑劇というものよりまた1つ上をめざすというか、演劇と言える喜劇というか、そういうものになるという確信と思いがあるんです。さらに深いところで笑ってもらえるんじゃないかと。とにかく登場人物たちがちゃんと生きていればすごく面白いものになるはずなので。いや稽古は思ったよりたいへんな毎日ですが(笑)。

ーー客演のかたも豪華ですね。

うちに出ていただくのは皆さん初めてです。でも大西多摩恵さん、井之上隆志さん、土屋裕一さんと、皆さん中島ワールドの方たちですから安心です。それから斉藤清六さんがすごくいい役で、すごく素敵ですから。そういう皆さんに劇団員も刺激を受けながら頑張ってますので、ぜひ楽しみにして来てください。

 

 

劇団東京ヴォードヴィルショー

『無頼の女房』
作・演出◇中島淳彦
出演◇佐藤B作、石井愃一、市川勇、山口良一、たかはし等、あめくみちこ、まいど優、京極圭、金澤貴子/斉藤清六、大西多摩恵、井之上隆志、土屋裕一
 ●4/3〜11◎新宿・紀伊國屋ホール

〈料金〉前売¥6000 当日¥6500

〈問合せ〉03-3227-8371 東京ヴォードヴィルショー

●4/16◎福島県文化センター大ホール

●4/24◎日南市・南郷ハートフルセンター

●4/25◎都城市綜合文化ホール

〈問合せ〉
福島/024-534-9331 福島県文化センター事業課

日南/0987-31-1145 日南市役所文化生涯学習課

都城/0986-23-7140 都城市文化振興財団

 

http://www.vaudeville-show.com

 

【取材・文/榊原和子】