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初日会見写真、渡辺いっけい・小澤征悦・松本幸四郎・高橋惠子


10月3日に初日を開けた日生劇場の『カエサル』は、古代ローマを背景に、激動と混乱の時代を生きた人間たちの熱い思いが伝わってくる舞台である。原作は塩野七生の大ベストセラーで、ローマ帝国の興亡を描いた「ローマ人の物語」。そのなかから英雄ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の戦いと彼の生きた時代をフィーチャーしたのが、この『カエサル』という舞台である。

タイトルロールのカエサルには松本幸四郎が扮して、ローマとそのs_DSCF5776周辺の国々に大きな足跡を残した人物の生き様を、スケール大きく演じている。また、カエサルを囲む人々も歴史的に名高い人物ばかり。カエサルの暗殺者ブルータスに小澤征悦、哲学者キケロには渡辺いっけい、美女クレオパトラには小島聖。ほかにも水野美紀や小西遼生といった若手から、瑳川哲朗、勝部演之といったベテラン俳優までが出演している。

その登場人物のなかで、ひときわ鮮やかな存在感を見せているのがカエサルが愛した女性セルヴィーリアを演じる高橋惠子。変わらない美しさとキャリアを重ねた演技力で、自由奔放でありながら強く賢い女性像を描き出している。今年はこの舞台も含めて5本に出演し、目覚ましい活躍ぶりを見せる女優、高橋惠子にインタビュー。

 

■高橋惠子インタビュー■
 

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【2000年前のスケール大きな芝居】

ーー『カエサル』はすごく迫力ある作品ですが、出演される側としてもエネルギーがいるのでは?

本当に熱気のある舞台で、松本幸四郎さんをはじめ登場する男性のかたたちが本気でぶつかり合いをされているので、私もテンションを高くして出て行くのですが、毎回身の引き締まる思いです。

——膨大な長さの原作をうまく短くしてあって、物語もすごく伝わりやすいですね。

出演者の皆さんの咀嚼力の素晴らしさだと思います。とくに男性のかたたちは政治や思想の用語をしっかり伝えないといけないのですが、稽古期間が普通より短めだったのに、よくここまでもってこられたと思います。

ーー舞台装置のスケール感も素敵です。

今回、装置が回り舞台になっていてそこに怒濤のように群衆が出てくるシーンが何回もあるのですが、本当に迫力があると思います。舞台美術も素晴らしくて、ローマやエジプトの空気が伝わるようで圧倒されます。その空間で、あの時代の空気を想像して感じて、お客様に伝えていくのが私たち俳優の仕事だと思っています

——高橋さんが演じるセルヴィーリアは、自由で自分に忠実で、信念もあって素敵な女性ですが、役を演じるうえでの工夫はありますか?

なんといっても紀元前の話ですから、演出の栗山(民也)さんからいちばん言われたことは、「今風にならないように、2000年前の女性らしく日常的な感じになりすぎないように」と。ですからセリフも動きもスケール大きくしようと意識しています。

——ブルータスの母親でもあるわけですが、母子関係も興味深いのですが。

いちばん工夫のいるところは、ブルータスがカエサルを殺してしまったと知ったあと、叩いたり罵ったりするところですが、やはり普通の精神状態ではないというところに、自分をもっていくのがたいへんです。でも、栗山さんがダメ出しを的確にしてくださったり、すごくわかりやすいアイデアをくださるので、なんとかここまで来られたというところです。でも公演中に、もっと深めたり発見していってくださいとも言われています。

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【普遍的な深い愛がある作品】

——カエサルとの間柄も魅力的で、普通の男女の関係だけでなく、もっと深いところで結ばれている信頼を感じます。

セルヴィーリアは、カエサルの人間性を尊敬し愛しているんだと思います。リーダーとしての寛容さとそれを実際に行っている誠実さですね。彼は負けた敵を殺さずに解放し、去就を自由にしてやります。また、女たらしとか言われていますが、その女性たちの誰からも恨まれていないんです。それは1人1人を大切に思って対等に向き合っているからで、そういうところが人間として素敵ですね。

ーーまたセルヴィーリアは、カエサルの死後ローマを離れて暮らし、再びローマに迎えたいという初代皇帝オクタヴィアヌスの求めを断って、最後まで1人で生きていきますね。その矜持、誇り高さも素晴らしいなと思いました。

愛人ですけど誰とも結婚せずにカエサルだけを愛し続けた。たぶんカエサルの考え方とか思想にいちばん共鳴していた人だと思うんです。カエサルのことは自分がいちばん理解しているという誇りを持っていたと思いますし、関係としては愛人ではあってもどこか同志のような強い絆があったのではないでしょうか。

ーーとても奥の深い愛であり物語ですね。

この作品には、時代は変わっても人と人の愛とか親子の愛とか、男と女の愛とか、それから奴隷の立場とか切なさとか、そういうものは変わらないということも描かれていると思います。

 

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【演劇の力を感じるからこそ】

最近の高橋惠子の舞台人としての活動ぶりは、実にエネルギッシュだ。舞台は1997年の蜷川幸雄演出『近松心中物語〜それは恋〜』からスタート。それ以降『マクベス』『雁の寺』『薮の中』『天保十二年のシェイクスピア』『藪原検校』『キル』『細雪』など幅広いジャンルに出演してきた。この数年でますますフィールドを広げて、今年も大地真央の『ガブリエル・シャネル』、NODA・MAPの『ザ・キャラクター』、それに島田洋七の『佐賀のがばいばあちゃん』に出演。今回の『カエサル』のあとはケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の『黴菌』(12月)、また新派に初出演の『日本橋』(2011年1月)と、刺激的な舞台に挑み続ける。

ーー出演されている作品のジャンルが幅広いですね。

好奇心が強いというか、節操がないんです(笑)。でも、これは絶対によさそうだなとか、この演出家とはやってみたいとか、この共演者のかたならとか、何か自分で「これ」と決めたものがないと絶対出ないんです。だいたい直感で決めてますが、面白そうだなというのがわかるんです。それに、どういうものが自分に合ってるとか出てみないとわからないでしょう? 自分にはいろいろな面があって、セルヴィーリアのような面もあれば、次の『日本橋』の清葉のように秘めて耐える面もあるので。どっちかだけに偏ると自分のなかでつまらなくなってしまうんです。

——舞台人としても10年以上になりますが、今だからこそ感じる魅力というのは?

最近、とても怖さを感じています。演劇が与える力の大きさをすごく感じているんです。お客様はわざわざ足を運んでくださって、お金を払って観てくださる、それに対する責任をすごく感じますし、満足してくださるものを届けなくてはいけないと思います。舞台が続けば続くほど、作品が良ければ良いほど、その作品の持っている力や込められているメッセージ、作者の思いなどを、ちゃんと届けなくてはいけないという気持ちが最初の頃より、さらに強くなりました。

【180度違う役を楽しむ】

——今年で女優生活40年目ということですが、いつまでも瑞々しくいるための秘訣はどんなところにあるのでしょう?

15歳で映画デビューして、あっという間に40年経ってしまったという感じなんですが。結局私は人が好きなんですね。人間のよいところも悪いところも全て人間というものが知りたい、その好奇心が芝居をするということとすごく合ってると思うんです。また、お芝居をすることは自分の役だけでなく相手の役を知ることですし、そこで出会う共演者やスタッフ、演出家さん、いろいろなかたを知ることでもあると思います。そういう好奇心と感動をつねに持ち続けたい。あとは今日よりも明日、明日よりは明後日と自分を磨いていきたいし、仕事を通じて自分を磨きたいと思っています。この『カエサル』ではないのですが、「寛容」な心を持ちたいし、厳しく言われる言葉もちゃんと受け止めていきたいです。

——来年も、お正月から『日本橋』という話題作に出演ということですが。

泉鏡花は大好きですしすごく素敵な話なので、ぜひ出させていただきたいと思っていました。芸者役は初めてです。元芸者というのでは『雁の寺』というがありましたけど。新派の皆さんを見習いながら、所作などを勉強していきたいと思っています。

ーー『カエサル』の役とは180度違う作品ですね。

清葉は秘めて耐える女性ですから、セルヴィーリアでちょっと強くなってしまった私のイメージが、また変わるといいですね(笑)。この作品で出会ういろいろなことを、また楽しみたいと思っています。

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□高橋惠子 出演予定◇ 

『カエサルー「ローマ人の物語」よりー』

原作◇塩野七生「ローマ人の物語」(新潮社刊)

脚本◇齋藤雅文

演出◇栗山民也

出演◇松本幸四郎 小澤征悦 渡辺いっけい 高橋惠子 他

10/3〜27◎日生劇場

[問い合わせ]0570-000-489 チケットホン松竹

 

初春新派公演

名橋「日本橋」架橋百周年記念

『日本橋』

原作◇泉鏡花

補綴・演出◇戌井市郎

演出◇齋藤雅文

出演◇波乃久里子 高橋惠子 市川段治郎 他

2011/1/2〜25◎三越劇場

[問い合わせ]0570-000-489 チケットホン松竹

 

【取材・文/榊原和子 撮影/小林万里】