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11月5日に初日を開けたBunkamuraシアターコクーンの『タンゴ』は、1965年にワルシャワで初演されたときに、激しい賛否両論が巻き起こったという問題作で、現在でも上演が繰り返されている傑作戯曲である。

作者は、ポーランド演劇界の巨匠として知られるムロジェック。彼の集大成とも言われるだけに、「自由とは?」という普遍的なテーマを内包しながら、同時に身近にあるファシズムの脅威まで感じさせてくれる。

主人公は、家族の自堕落な生活を許すことができず、世界的な秩序をもたらす「革命」を夢見る青年アルトゥル。彼が心から憎むのは、堕落した両親でありそれに関わる人々。そしてアルトゥルは「革命」を実現するために従姉妹のアラと婚約し、「秩序の再建」を遂行させようと闘いを始める。その彼の闘いの中から、反抗すべき体制を見失った現代社会の闇が映し出されてくる。

キャストは主役のアルトゥルに森山未來、両親を吉田鋼太郎と秋山菜津子が演じているほか、祖母に片桐はいり、叔父に辻萬長、元小作人に橋本さとしという強烈な個性の俳優ばかり。

そして、大役であるアルトゥルの従姉妹アラに抜擢されたのが、蜷川幸雄に見出された新人女優、奥村佳恵(おくむらかえ)。
2008年の『ガラスの仮面』(彩の国さいたま芸術劇場)のオーディションで姫川亜弓役に選ばれ、以来、09年の『95kgと97kgのあいだ』、今年夏の『ガラスの仮面〜二人のヘレン〜』と、蜷川作品3本に続けて起用されてきた注目の若手女優である。

今回のアラは、主人公アルトゥルの「革命」のキーパーソンとなる美しくて奔放なヒロイン。舞台上で新人らしからぬ存在感と落ち着いた演技で、その資質のよさを十分に発揮している奥村佳恵に、稽古に入って間もない時期にインタビューした。

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【無秩序から全てが始まる】

ーーなかなか難解な戯曲と言われてますが。

私も理解できるんだろうかと最初は思いました。稽古場に入ってからも演出の長塚(圭史)さんが、この本は難解だからということをよくおっしゃってました。

ーー出てくる人がかなりとんがってますよね?

むちゃくちゃです(笑)。暴力的な描写もありますし、秩序という言葉がよく出てくるんですが、無秩序という状態から全てが始まっていて。1965年のポーランドの作品ですから、私もまだ生まれてない時代なんですが、何が自由で何が秩序なのかというのが、それぞれの人の発する言葉でどんどん変わっていったり、言葉と言葉のぶつけ合いでひっくり返っていったりするんです。

ーー奥村さんのアラは、森山さんのアルトゥルの従姉妹ですが、政治的な目的で結婚を迫られるとか?

そうなんです。アラも彼を好きなんですけど、そのわりに取ってる行動がむちゃくちゃ過ぎるので、なかなか理解しがたい女性です(笑)。それはアラだけじゃなくみんな理解しがたいんですけど(笑)。

ーー長塚さんの稽古場は初めてだそうですが、いかがですか?

話し合いをすごくされるので、それにびっくりしました。蜷川さんはまずやってみろという演出でしたが、長塚さんは「このセリフの意味をどう思いますか?」ということをみんなで話し合うんです。

——共通認識を持つということですね。コンセンサスを取る演出というか。

そう思います。他の人の考えをちゃんと理解していくこと。そして、そのうえで、考えの違いみたいなものが出てきたときに、どんなに稚拙であってもまずは自分の考えたやり方で取り組むこと、今の自分をさらけ出すこと、それが大事なのかなと思ってます。

ーーそれがちゃんと噛み合うと、本当に面白い芝居になるでしょうね。

とにかく森山さんをはじめ共演者の皆さんが素晴らしいので。本読みで皆さんのやり取りを聞いてるだけでも面白くて、素晴らしい俳優さんが口にすると、このセリフがこんなに面白くなるんだと思いますし、お芝居のすごさってそこなんだろうなと思います。でも未來さんはセリフの量も尋常じゃないので本当にたいへんだろうなと。そして私も、その未來さんと対抗して言い合うところがたくさんあるんです。その言葉を聞いて、どういう意味かを考えながら、それに対してアラはどういう気持ちで答えているんだろうと、そういうことを考えるのがすごく面白くもありますしたいへんでもあります。RI0L0073

ーー『ガラスの仮面』では演劇用語が多かったですが、今回は政治的だったり思想的な言語が多いですね。

本当に縁がない分野でした。でも私の役に関しては言いにくいような部分はないし、とにかく私より賢い人だなとか思いつつセリフを口にしてます(笑)。そういえばこの間、外国の政治的なデイベート番組をずーっと見てしまったんですが、この作品に出てなかったら絶対見てないなと思いました(笑)。

ーーお硬い作品みたいですが、コメディ要素もあるとか?

アルトゥルをはじめ突拍子もない人たちばかりですし、それぞれの個性が突出しているので、それぞれの会話が食い違っていく部分が面白いんです。片桐はいりさんはお婆さん役なんですが最高に面白くて素敵ですし、両親は吉田鋼太郎さんと秋山菜津子さんで、それぞれ工夫していらっしゃるし。橋本さとしさんのエーデックを含めて家族の関係がすごいことになってて、またエーデックがアルトゥルをイライラさせる人なんです(笑)。

ーーそのなかでアラは?

言葉で支配しようとするアルトゥルを、すごく冷静に眺めてる感じですね。したたかですが(笑)やりがいがあります。

 

【自信を持てる自分をめざして】

ーー初舞台以来4本目ですが、蜷川さんの3本の作品で向き合いかたに変化はありましたか?

今年の『ガラスの仮面』でいちばん感じたのは、受け身ではダメだなと思ったんです。やはり稽古中から自分から発信していきたいし、責任もって考えてちゃんとアピールしないといけないなと。

ーー初舞台の頃に比べると不安そうな感じがなくなりましたね。

いえ、今も不安です(笑)。ずっと不安です。

ーー容姿とかバレエの素養とか、人から見たら羨ましいほど女優にIMG_6573向いてると思うのですが。

そうだったら良いんですが(笑)。私って弱いんです。堂々としているように見えるとか言われますけど内心はびびりまくりで(笑)。でもやっと、強くなっていかないといけないという意識が芽生えはじめました。やっぱり自信を持てる自分でいないとダメだと思うので。

ーーつまり一生やっていきたいと?

この仕事を一生やっていこうという意志は、最初からあったのですが、でもまず人に認めてもらわないといけないわけですから。そして、そのために自分はどうするべきかということをちゃんと考え出したのが、今年の『ガラスの仮面〜二人のヘレン〜』からだったんです。積極的に自分をどうやって見せたらいいかということを考えましたし、蜷川さんにももっと叱ってもらいたいなと思いました。

ーー叱ってもらえましたか?

少しは(笑)。でも大和田美帆さんはびしびし言ってもらえるんですけど、私には少し距離を置いてる気がして、ちょっと寂しかったです(笑)。ちゃんと見ててくださるはずだと思いつつ、くよくよ考える性格なので(笑)。バシッと言われるとそのときは落ち込むけど嬉しいんです。今回、地方公演中に初めて劇中のヘレンに関して「ヘタクソ!大和田のほうが圧倒的にうまいぞ」とすごく叱られたんです。彩の国公演では毎日必死に、自分なりにがんばってて何も叱られなかっただけに、「ここで言われるのか!」みたいな(笑)。

ーー言っても大丈夫なレベルまで来たということでもありますね。

やっぱりなにくそと思いました(笑)。でも「引き締めていけよ!」ということなんだと思いました。

ーー長塚さんできっと大きな変化があるでしょうね。そんな奥村佳恵が女優としてアピールできるところは?

いやー、自分でも知りたいです(笑)。

ーーこれからどういうふうになりたいですか?

ぼやーとしたどうでもいい存在感よりは、いろいろ言われるくらい強烈な人になりたいです。

ーー原石っぽい良さがあリますから、あまりマイルドにならないでください。

たぶんならないと思います。多面性は持ちたいんですけど、奥村佳恵という個性は失いたくないなと思ってます。

ーーそういう意味ではアラは奥村佳恵の延長上にありそうですね。

できればアラの部分も持ちたいです。まずは舞台でがんばります。

 

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『タンゴ-TANGO-』

作◇スワボミール・ムロジェック

翻訳◇米川租夫・工藤幸雄

演出◇長塚圭史

出演◇森山未來、奥村佳恵、吉田鋼太郎、秋山菜津子、片桐はいり、辻萬長、橋本さとし

●11/5〜24◎Bunkamuraシアター・コクーン

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】