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メロディアスな曲作りとヴァイオリン演奏で多くのファンを魅了し、同時に既成の枠にとらわれずフリーな発想で独自の音楽を展開し続ける音楽家の中西俊博。演劇ファンには青山円形劇場の『ア・ラ・カルト』シリーズで見せる、洒落たエンターティナーぶりでおなじみだが、その彼のコンサートが青山円形劇場でまもなく幕を開ける。

「Reel’Trip」という新しいシリーズとしては今年で2回目になるこのコンサートは、若手精鋭ミュージシャンとともにイメージ豊かな音楽世界を生み出しているものだが、今回のテーマは「水の記憶」。その言葉から浮かび上がる音のさまざまなイメージが、深く豊かに広がっていく。そんな音の世界に聴くものを飛翔させてくれるアーティスト、中西俊博にインタビュー。


【水から生まれるイメージ】

−—昨年の「Reel’Trip」は、ケルト音楽のイメージがあって懐かしい感じがしました。

最近僕がわりとケルトに傾倒しているので、去年からそういう流れになっていますが、とくにジャンルにはこだわらないんです。毎年さまざまなコンセプトで構成したいと思っていて、ジャズっぽいのもあるしクラブっぽいのもあるというふうに、いろいろな音楽を入れるようにしています。

—−現代音楽の要素もあるし、実験的な曲もあるし親しみやすい曲もありましたね。今回のテーマは水だそうですが?

第一部は「水の記憶」というタイトルなんですが、初めは一滴の水があって、そこから川になり、あるいは蒸発して空に行くものもあれば、川から海にいく水もある。そういうイメージが軸になっていて、それに合わせて曲をちりばめていきます。でもその演奏される音から浮かぶイメージはぞれぞれ受け止める方たちの自由で、たとえばある場所では豊作のお祭りというイメージで僕が演奏しても、聴いている方は別のことを思い浮かべるとか、自由に発想できる部分を残しておきたいんです。

——昨年のコンサートも1つ1つの曲にドラマがあって陰影が深かったのですが、中西さんのなかで演劇的な音楽表現に変化するきっかけというのは?

僕はもともと音を絵に合わせるのが好きなんです。だからCMとか映画音楽の仕事も好きなんですが。それとともに、以前から生活の中で、その人の気持ちと融合してエネルギーになる音楽を作りたいとずっと思ってきたんです。そういう思いをさらに深めて表現できるきっかけになったのが、やはり『ア・ラ・カルト』です。映画やCMの世界で感じてきた絵と音楽の融合する面白さに加えて、現場で直接やりとりするなかで変化していく楽しさ、これは無駄かなと思っていたものが思いがけない形で使われたり、投げかけたものがこちらの考えと違う形で返ってくる。つまりキャッチボールできる現場だったんです。音楽だけをやっていると足らないところも音楽で説明しようとしたり、良いものをやっていればいいんだとなりがちなところもあるんですが、順番をこうしただけで伝わりやすくなるとか、この曲を入れただけで流れがわかりやすくなる、いわゆる構成的なところで勉強させてもらったと思います。

——22年も『ア・ラ・カルト』に参加してきたことで、演劇を観ることへのスタンスも変わりましたか?

まず最初は演劇を観たことなかったので、どう観ていいのかというところから戸惑いがありました。でも関わっているうちに楽しみ方がわかってきました。すごく現実に近い表現、バーチャルなものもあれば、現実からは遠くて想像力で観る演劇もありますね。そういう中で、だんだんリアルすぎるものよりは想像できるもののほうが楽しくなってきて、そういう意味でも『ア・ラ・カルト』は、すごく楽しめる世界だなと思います。

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【「ここ」と「遠く」を行ったり来たりする】

——今回のコンサートも、『ア・ラ・カルト』と同じ吉澤耕一さんの演出ですね。

彼と話してると僕の発想に火がつくんです。セッションというのは、繰り広げられている音そのものを楽しむ部分と、ここで目の前でセッションしてるけど、思いとか焦点は遠くに翔んでいく、そこを楽しむ面白さもあると思います。そして僕は、「ここ」と「遠く」を行ったり来たりするセッションをやりたいと思っているんです。「この曲いいね」だけではなく、聴いている人たちがその曲で「遠くに遊びに行く」のも嬉しいですから。

——うかがっていると作曲は演劇の演出にも似てるという気がします。

僕はよく浮かんだ音を絵で描いておくんです。たとえば音楽で急に転調して世界が変わるみたいなことを表現したいとしたらどんな絵になるかなと。昔、部屋を真っ暗にして音を聴いているときに、だんだん自分が音の中に埋まっていくのを感じたり、ある人の曲を聴いているときに人工衛星が大気圏に入ってブワッと燃え上がるというイメージを受けたことがあったりしたんですが、そういうイメージを喚起できるような音楽をやれたらいいなと思っています。

——ヴァイオリンはそう意味ではでいろいろな表現が可能な楽器なのでしょうね。

ただ、あまりに伝統がありすぎて正統な弾き方から離れない人たちが多かったんです。僕は天の邪鬼で小さいころから横のものを縦にして使う子供で(笑)、なんでも「なぜこれしかダメなの?」と考えたり、たとえばピアノの色は赤にしたいとか思ったりしてました(笑)。今でも本来ではない使い方をしたがったり、なんでも楽器にしようとするクセは変わりなくて(笑)、楽器を改造したり弾き方も工夫したり、とにかくいろいろやりたくなってしまうんです。

——今回も、そんな中西さんらしい型にはまらないコンサートになるのでしょうね。

これはどんなジャンルの音楽なの?と言われるかもしれません。でも僕の中ではジャンルはないし、どんなに振り幅の広い音楽でも、僕のイメージでストーリーを作って組み合わせていくと、あらゆるジャンルが全部収まっていくんです。ただ、それに付き合うメンバーはたいへんですが(笑)、でもみんな才能のある素晴らしい人たちなので僕も刺激されます。こんなに若くてこんなに才能のあるミュージシャンが集まるってそんなにないことです。そんな『Reel’Trip』の世界に、ぜひ皆さんのイメージを遊ばせにきてください。

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中西俊博Leapingbow 2011 

中西俊博コンサート『Reel’Trip ー水の記憶ー』

演出◇吉澤耕一

出演◇中西俊博(vln)、木村将之(b)、ファルコン(g)、伊賀拓郎(p)、はたけやま裕(perc)

●1/29〜30◎青山円形劇場

〈料金〉6000円(全席指定、税込)

〈問合せ〉こどもの城劇場事業部 03-3797-5678

 

【取材・文/榊原和子】