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昨年の『あゝ、荒野』は、蜷川幸雄と2人の若い役者が作り上げた奇跡的な舞台だった。

作者の寺山修司が亡くなったのはもう30年近く前になる。
1983年5月4日、死因は肝硬変で、まだ47歳という若さだった。

『あゝ、荒野』は、歌集『田園に死す』や、エッセイの『書を捨てよ、町へ出よう』など伝説的な書物で知られる寺山が唯一つだけ残した小説で、1966年に出版、この公演で初めて戯曲化されて舞台として立ち上がった。


物語の背景になるのは戦後の荒廃と荒々しいエネルギーが残る時代の「架空の新宿」。
そこで出会った2人の若者の青春を描き出しているとともに、新宿という欲望のるつぼに集まる人間たちをも見つめていて、街娼たち、自殺研究会の大学生、覗きで欲望をかきたてる金持ちなど、さまざまな生き方が2人の周辺を彩っている。


松本潤が演じるのは新宿新次。安ポマードの匂いをさせながら女をひっかけるような少年院上がりのワルだが、荒ぶる魂の中に優しさを隠している。この魅力的な若者を、絞り込んだ体で派手なアロハと白スーツを着こなして演じる松本潤は、若さと猛々しさが全身から匂い立つように美しい。

小出恵介が扮するバリカン建二は、吃りというコンプレックスの暗闇と、詩を口にするときの叙情が印象的で、いつも口ずさむ黒人詩人ラングストン・ヒューズの詩の一節「「七十五セントぶんの 切符をくだせい」というフレーズの咆哮で、どこにも居場所のない彼の孤独を伝えてくる。


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2人を育てようとするのは元ボクサーの片目のコーチ(勝村政信)で、胡散臭さと同時に愛情に溢れた彼の教育で、新次はみるみるうちに才能を花開かせていくが、バリカンは人と殴り合うことに躊躇いを抱き、なかなか一人前になれない。

そんな2人がお互いの孤独を癒し合うように夜の公園のジャングルジムのてっぺんで語り合う。

新次「街の光が雲に反射してるんだろう。なんか世界の終りみたいだなあ」

バリカン「せ、せかいは、も、もうぜんぶ、ま、まぼろしだ」

新次「あれが全部、まぼろしだとしたら、俺たちはなんなんだろうな?」

叙情に溢れて美しいシーン。それだけに後半の2人の闘いが切ない。


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物語のクライマックスは2人の悲しい対決となる。憎むことでしか闘うことへのモチベーションをかきたてられないバリカンが、新次との対戦を望んでジムを移籍する。そんなバリカンの自分への真情と孤独な思いがわかるだけに、新次は闘うことでそれを受け止めようとする。だが命がけの闘いが行き着く先を、2人とも心のどこかでわかっている。
 

本物を用意したというリング上での試合シーンはまさに凄絶で、新次とバリカン、いや松本潤と小出恵介はむきだしの闘志で殴り合う。この死闘に2人の若者を追い込んだ演出家・蜷川幸雄は、残酷なまでに愛に満ちている。なぜなら闘う彼らは神々しいまでに美しかったから。

そして、闘うことで輝く青春の瑞々しさを、衒いなく表現する蜷川演出の若さに圧倒されるとともに、今もなお、切っ先鋭く現実と世界を刺し貫く「詩人」寺山修司の、魂の言葉に打ちのめされた舞台だった。
 

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〈公演情報〉
『あゝ、荒野』

原作◇寺山修司

演出◇蜷川幸雄

出演◇松本潤、小出恵介、勝村政信、黒木華、渡辺真起子、村杉蝉之介、江口のりこ、月川悠貴、立石涼子、石井愃一 他

●10/29〜11/6◎彩の国さいたま芸術劇場大ホール

●11/13〜12/2◎青山劇場
 
 

【文/榊原和子 撮影/冨田実布】

 


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