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シェイクスピアのマクベスといえば、名だたるベテラン俳優が演じてきた大役である。そのマクベス役に若手俳優の矢崎広がチャレンジする。

25歳という若さながらキャリアはすでに10年近い彼は、映画『バッテリー』、TVドラマ『ごくせん』『赤い糸』『東京DOGS』、舞台は『時計じかけのオレンジ』や『ドラキュラ』『サンセット大通り』などに出演、その活躍ぶりで注目を集めている実力派。

今回の『MACBETH』は、共演に馬渕英俚可や松村雄基を迎え、演出担当は人間の内面を丁寧に描き出す板垣恭一、脚本は気鋭の若手・斎藤栄作、シェイクスピア研究で有名な河合祥一郎の翻訳で、「ラフォーレ原宿」というユニークな空間での上演となる。話題満載の舞台で初めての主演に挑む矢崎広にインタビュー。


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単身16歳で役者を目指して上京


ーーその若さで『MACBETH』の主演ということですが、キャリアはすごく長くて、なんと16歳で俳優になりたくて山形から出てきたんですね、

そうなんです。その頃、自分は何になりたいんだろうと、毎日思いつめて悩んでいて、今でもそういう突き詰めて考えるところはあるんですが、その時は結局自分は「ひと花咲かせたい」というか、目立ちたかったのかも(笑)。そこが今回演じるマクベスに通じるところでもあるんですが(笑)。なので、やっぱり東京に出ようと。
 

ーー普通ならまず高校を卒業してからなのに、よくご両親が許しましたね。

母親は学校の教師だったこともあって、やはり反対でした。でも父がすごく理解があって、もともと父は神奈川で会社勤めをしていたのですが、親の仕事を継ぐために山形に戻ってきたんです。だから東京に行きたい気持ちもわかると言ってくれて。
 

ーー素敵なお父さんですね。

本当にスーパーな父親なんです。僕や弟の身体能力も父譲りです。でも野球の才能は全部弟に持っていかれたみたいで(笑)、弟は今、社会人野球の選手をしています。母親は子どもを谷底に落とすライオンみたいな強さがあって(笑)、しかも我が子よりも教え子が大事という人なんです。そういう2人の強さを僕も少しは受け継いでいたから、1人で東京に出てこれたんだと思います。
 

ーー東京では児童劇団に入って、そこから『テニスの王子様』などを皮切りに舞台や映像で活躍してきたわけですが、着実にポジションを上げているのがすごいですね。

本当に周囲の人たちに恵まれていると思うんです。とにかく,「何もできないけど、やる気だけはあります!」と言うしかない僕に、「じゃ、やってみろよ」と言ってくれる人がたくさんいて、なおかつ「気持ちだけじゃどうにもならないんだぞ」と厳しく叱ってくれる人もいたおかげで、ここまでこれました。ファンの方も含めて、周囲の方たちにすごく見守られている。それをいつも感じています。


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マクベスと同じように野心と欲望の塊が自分の中にあります


ーー最近、めきめきと存在感が出てきている矢崎さんですが、役者として変化したような作品とかきっかけがあったのでしょうか?

去年の1月に『時計じかけのオレンジ』に出演したんです。ピートいう役で小栗旬さん扮するアレックスのグループの1人だったんですけど、むちゃくちゃをやる若者にならなくてはいけないのに、どうやってもなりきれない自分に、すごくがっかりしたんです。
 

ーーなりきれないまま舞台に出ていた?

むちゃくちゃをする「演技」をしていました。よく、なりきることの気持ちよさとか、なりきってしまったら何も怖くないとか言いますよね。その意味がよくわかりました。今の僕が持っているパーツだけではピートになりきれなくて、何をしてもダメで。喉も傷めてしまったんですが、たぶんそれは感情がつながっていないのにセリフを無理に言ってたからかなと。そんなことさえわかってなかったところから、わかっただけでも有り難かったんですけど。本当に自分がぶっ壊れたという感じでした。
 

ーーすごく大きな壁だったんですね。今は乗り越えた感じですか?

今日は何も考えずに立てたなと思うことが少しずつ多くなってます。それがいつもできているかと言ったら疑問なんですが、本当に役として生きられたという感覚がちょっとずつ増えている。まだまだトライ中なんですが、何か入り口が見えたし、あれ以来、舞台や芝居の捉え方は確実に変わってきました。
 

ーーそういう感覚を経験して、今回の『MACBETH』はかえって恐くありませんか?

それが、今、マクベスのセリフを覚えているところなんですが、あまり意味のわからない言葉や状況がないんです。不思議なくらい難しいという感覚がないのは有り難いなと。
 

ーーマクベスは矢崎さんに遠くない人物なんですね。

彼の野心とか恐怖とか意外と遠くないんです。王という立場になったとき彼が感じる喜びとか不安なども、僕が舞台に立つようなことに近いのかなと想像したり。僕は俳優として今年で9年目なんですが、マクベスと同じように野心と欲望の塊が自分の中にあって、うまくいかない自分への怒りもあるし、思い描く理想の自分と現実の自分のギャップにふがいなさも感じているんです。そういう時期にこのマクベス役がきたことで、すごく自分に重なるんです。


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早く前に進んで行きたい


ーーちょっと話はそれますが、『サンセット大通り』のアーティ役も評判でしたし、ミュージカルの舞台も多くなっていますね。

ミュージカルに関しては、最近大きな役をいただくようになって、「これはヤバイぞ(笑)」と、ちょっとびびってます(笑)。
 

ーー歌との向き合いかたはどんな感じですか?

もともと好きですし、『テニスの王子様』などでも歌っていたのですが、ブロードウェイ・ミュージカルに出て、本格的なミュージカル俳優さんたちの素晴らしさを目の当たりにすると、このままではダメだなと。どんどんレッスンしていきたいし、今は「声がいいね」と言ってもらえるのですが、それを「歌がいいね」と言ってもらえるようになりたいです。
 

ーーフィールドも広がっているところに、『MACBETH』で初主演、さらにステップアップの良い機会になりそうですね。

これを大きなステップにしたいのですが、でも、「やった!」と思って満足したくないし、さらに挑戦につなげていきたいと思っています。マクベスという役を通していろいろなことに早く気づきたいし、もっと進んで行きたい。早く前に前に行きたいという欲望が強いんです。「生き急いでる」というか(笑)。
 

ーーその目指す方向というか、役者としての目標は?

役者として魅力ある存在になりたいです。矢崎広として何を観ている方に届けられるだろうか、どんなふうに心に残るだろうか、それを追求していきたいし、何をやらせても「矢崎広だからこそ」という部分を追求していきたいです。先ほど「生き急ぐ」という言葉を使いましたが、そのくらいの気持ちでいかないと、まだまだ霞んでしまう存在だと自分に言い聞かせています。
 

ーーでは矢崎広が人に負けないところは?

「熱いね」とよく言われるので「熱さ」かな。それから、演出の板垣(恭一)さんには「命かかってるね」と言っていただいたので、それもそうかな(笑)。でも、本当は僕はまだ人に負けないものを見つけてないと思うんです。それがわかったら強いだろうし、もう1つ大きくなれるんじゃないかと思っています。

 


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やざきひろし◎1987年生まれ、山形県出身。2004年ミュージカル『空色勾玉』でデビュー。ミュージカルやストレートプレイなど舞台を中心に活躍。ドラマは『ごくせん』(NTV)『東京DOGS』(CX)『金魚倶楽部』(NHK)『戦国鍋TV』(KTV)など、映画は『ごくせん THE MOVIE』に出演。最近の舞台は『パンクオペラ 時計じかけのオレンジ』、ミュージカル『ドラキュラ』『大江戸鍋祭』ミュージカル『薄桜鬼』、ミュージカル『『サンセット大通り』など。

 


macbeth(文字あり)

『MACBETH』

原作◇ウィリアム・シェイクスピア

翻訳◇河合祥一郎

脚本◇斎藤栄作

演出◇板垣恭一

出演◇矢崎広、馬渕英俚可/宮下雄也(RUN&GUN)、国沢一誠(ヒカリゴケ)、小林且弥、二瓶拓也、末原拓馬、マーク、長倉正明、山本侑平、加藤啓 /松村雄基  

●8/11〜19◎ラフォーレミュージアム原宿

〈料金〉6800円(全席指定/税込み)

 る・ひまわりhttp://le-himawari.co.jp/

 オフィシャルブログ http://ameblo.jp/yazakimacbeth/





【取材・文/榊原和子 撮影/冨田実布】

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