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誰もが一度は読んだことのある、アメリカ文学の傑作『足ながおじさん』。

ミュージカルでは珍しい二人芝居として、9月2日から東京・日比谷のシアタークリエを皮切りに、全国各地で上演される。アメリカ発の作品で海外公演としては、今回の日本公演が世界で初めてになる。

演出は、『レ・ミゼラブル』『ベガーズ・オペラ』など、数々の名作を手がける気鋭の演出家ジョン・ケアード。知的で好奇心旺盛なヒロイン、ジルーシャ役を演じるのは女優のみならず歌手活動から文筆業までマルチな才能を見せる坂本真綾。ジルーシャに惹かれていく若き紳士ジャーヴィス役は、『エリザベート』『ハムレット』をはじめさまざまな舞台で活躍する井上芳雄が演じる。今回が初共演となる2人の個性でどんな芝居を見せてくれるか楽しみだ。


【あらすじ】

孤児院育ちの18歳の少女ジルーシャは、ある晩、思いがけなく「大学に進学して勉学を保証する」という手紙を受け取る。条件は月に一度手紙を書くこと。その手紙の主は、その晩にジルーシャが見た、車のヘッドライトに照らされて足なが蜘蛛(ダディ・ロング・レッグズ)のような影をしていた人物であった。影でしか知らない“あしながおじさん”に、淡い恋心を寄せながら、心躍らせ手紙をしたため続けるジルーシャ。彼女の知性に、影の主であるジャーヴィスもいつしか惹かれていく。そしてついに、ジャーヴィスはその正体を隠して、ジルーシャの前に現れることに――。


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この舞台の製作発表が、8月13日に都内で行われ、ジョン・ケアード、井上芳雄、坂本真綾、そして今回の公演に協力する「あしなが育英会」の玉井義臣会長が出席。それぞれの挨拶と質疑応答の後、出演者の井上・坂本のみの囲み取材が行われた。


【挨拶と質疑応答】


――まずはケアードさんからお話しいただけますか。

ケアード あしなが育英会は、この小説に基づいて作られたということですが、私も同じく、この小説にインスピレーションを受けてミュージカルをつくりました。私は日本に来るまで、この小説を知りもしませんでした。12年以上前に、妻(翻訳・訳詞をつとめる今井麻緒子氏)がこの小説を私に手渡してくれたんです。ですから、私が最初にこの小説を知った場所でこのショーを上演できることを、とても光栄に思います。
――稽古の雰囲気はどうですか?

ケアード とても素晴らしいです。今まで50〜60人もいるような作品を手がけてきましたが、2人しかいない舞台の演出は、休暇のようです(笑)。ただ、他の50人がやっていた仕事を自分たちだけでやらなくてはいけないので、2人はとても疲れていると思います(笑)。でも、こうして選ばれた少人数で働けるのは素敵なこと。2人とも本当に才能があって、魅力的な方たちですから。
 

――井上さん、今のお気持ちは。

井上 僕も、話の題名は知っていましたが、内容は何となくしか知りませんでした。でも、出演すると言ったとき、特に女性の反応がとても大きくて、たくさんプレッシャーをかけられています(笑)。きちんと読むと、これはジルーシャが援助によってどんどん花開いていく話でもあると同時に、ジャーヴィスが、彼女と知り合うことで人間的に救われていく話でもあるんですよね。それがわかってから、彼を演じられるのがとても嬉しいし、しっかりやらなきゃと思っています。ジョンとは『キャンディード』以来ですし、真綾さんとは初共演ですが、2人しかいないので助け合うしかないという状況。素晴らしい女優さんなので、一緒にやらせていただけて光栄です。

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――坂本さんは、2年ぶりのミュージカルですね。

坂本 『レ・ミゼラブル』以来で、非常に緊張していますが、ジョンの演出のもとで稽古をするのは楽しみですし、すごく勉強になるので、また一緒に1つの作品に向き合えることがうれしいです。『あしながおじさん』は、やはり私もすごく好きな作品でしたし、よく知っているつもりでいました。ジルーシャ役が決まって本当にうれしかったのですが、子どもの頃に読んだ記憶ではラストが曖昧だったので、改めて原作を読み直しました。そこで、これはラブストーリーであり、大人になって社会進出しようとする女性に自立心が芽生えていく成長の物語だということがわかって、昔よりもいっそう彼女を好きになったし、たくさん共感もできました。原作はジルーシャ目線なので、ジャーヴィスの気持ちは想像しかできませんが、今回は井上さんが、ジャーヴィスの気持ちや、ジャーヴィス側から見たジルーシャの物語を演じてくださるので、それがすごく新しいと思うし、初めて知る物語に触れるような、新鮮な気持ちで稽古をしているところです。
――ミュージカル・ナンバーの魅力は?

坂本 個人的に、音楽は大好きな曲ばかりです。作品の時代や場所、国、景色にすごく合う、カントリーっぽい、緑の匂いがしてきそうなサウンドです。ジルーシャが歌う曲は非常に多いのですが、BGMとして(役の)気持ちに寄り添い、せりふだけでは表現しきれない、言葉のもっと奥の気持ちまでも表現してくれるようなナンバーがとても多いので、これがミュージカルなんだなと改めて感じています。私と井上さんの役は、実際は同じ場所にいることが少ないのですが、一緒に歌う場面では、それぞれの場所で、違う思いで、それでも一緒に同じハーモニーを歌っていくんです。その構成がすごく綿密に練られていて、本当によくできているなと、歌うたびに発見があります。
 

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――ケアードさんは、これまでは群像劇などのアンサンブル・ワークが印象的ですが、なぜ二人のミュージカルにしようと思ったのですか。またお二人をキャスティングした理由は?

ケアード ジルーシャの書いた手紙があればいいので、最初に書いた時は、たった1人のミュージカルでした。ただ、1人が歌い続けるのは難しいし、疲れるし(笑)、1つの声だけを聞き続けなきゃいけない観客もつらい。そう思った途端、では他にいっぱいキャストを使おうという考えも浮かびました。
作者のジーン・ウェブスターはブロードウェー用に『あしながおじさん』の脚本も書いていて、それには手紙に出てくるキャラクターが15人くらい登場しますが、あまり面白くない。彼女はいい“脚本家”ではなかったんですね。
小説の面白い点は、ジルーシャの心がいつも動いている、いろんなことを考えているところ。原作を読めば読むほど、彼女の心の動きに魅了されてしまうんです。その緊張感と、それから、手紙を書くということには面白い点が2つあります。
1つは、書いた人が面白いと思ったことと、読む人が面白いと思ったことのギャップ。そして、今のE-メールの時代ではとても少なくなりましたが、手紙は書いてから読まれるまで数日の時間差があるので、手紙を書いた人の期待と、読んだ人が受け取る思いのギャップですね。それが、この作品の心臓部だと思います。
真綾さんも言っていましたが、最初はジルーシャの教育の物語だと思っても、結果的には、ジャーヴィスの教育にもなっている。彼女は何も持っておらず、彼は何でも持っている。でも本当は、心も頭脳も、すべてを持っているのは彼女で、互いの立場がどんどん入れ替わり、最終的に、彼女が彼を必要とするよりも、彼のほうが彼女を必要としているんです。
玉井さんはご存じでしょうが、チャリティーという行為には、ものすごく変わった部分があります。知らない相手にお金をあげるという行為は、受け取る側に「感謝」という壁を作ってしまうんですね。この作品で、2人は実際に会いますが、彼女は、彼が誰だかわからずに恋に落ちてしまいます。彼女は、自分が孤児だと話しますが、彼は自分の正体を話せない。自分がお金をあげていると言ってしまったら、互いの間に溝ができてしまうからです。これは、ものすごくドラマティックな状況なんですね。
ですから、これは2人の間の物語でなくてはいけないと、その時点で考えました。キャスティングについては、ジルーシャはこれだけ頭のいい女性ですから、役者のほうも頭がよくなくてはいけない。またジャーヴィスも、頭のいい手紙を楽しめるほど、彼女と同等に頭がよくなくてはいけません。それで、この2人がいるわけです。

井上 足の長さは……?(笑)

ケアード そういうことにしときましょう(笑)。もちろん、足が長い人でないと困ります。だから難しかったんですよ、キャスティングは。でも、脳みそのほうが足より大事ですからね。 
 

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【囲み取材】
 

――お二人で公の場に出られるのは初めてですが、製作発表を終えた感想は。

井上 僕たちはまだこの作品に取り組んでいる最初の段階なので、自分たちのことでいっぱいっぱいなんですが、玉井会長から素晴らしい活動のことや、ジョンからもチャリティーの話を聞いて、ハッとしたんですよね。自分たちも、それにとても繋がりのあることをさせていただいているんだということに、改めて気がつきました。
――実際に稽古が始まって5日ほどだそうですが2人だけのお稽古はどうですか?

坂本 どうですか?

井上 すごく静かです。2人だからというより、ジョンがとても穏やかなので。休憩時間も、窓辺で本を読んでるんですよ。僕たちは必死に台本を読んでるので、しゃべる人が誰もいない(笑)。

坂本 スタッフの人数も少ないので、今はまだ図書館のようです。みんな自習、みたいな(笑)。でも2人なので、長時間の稽古というより、短時間で集中してやるという感じですね。

井上 そうですね。効率がよいというか、土曜日なんて半ドンで、そういうシステムが稽古でとられてるのを初めて見たんですけど(笑)。ジョンは、稽古で役者を萎縮させない演出家ですが、内容にサプライズをもってくるんです。しばらく本読みしようって言ってたのに立ち稽古を始めたり、復習のはずが「一幕を最初からやってみようか」って静かな顔で言ったり。内心僕たち…….

坂本 もうビクビクですね(笑)。5日目なのに、すでに一回、一幕通しましたからね。

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――圧倒的に、坂本さんのせりふ量が多いと思いますが。

坂本 二人芝居は初めてではないし、一人芝居も去年やりましたが、これは今まで出会ったこともないし、これからも……。こんなに大変なお芝居はないと思って……(苦笑)

井上 まだ半分しかやっていませんが、その時点でもう、今までで一番大変という手応えが。(坂本が)ちょっと後悔してるふしがあるんですよ。「なんでミュージカル戻ってきちゃったんだろう、私……」みたいな。

坂本 大好きなんですけど、やることがたくさんあるので……。

井上 せりふは2人で分けてるのですが、何が大変って、セット・チェンジが。設定上、僕は書斎から出られないので。

坂本 井上さんが歌っている間に、私がセットを変えておくんですよ。

井上 スタッフさんが誰も出てこない。

坂本 誰も助けてくれない。間違えたら間違えっぱなしっていう(笑)。

井上 ジョンの演出で、ただの箱をいろんな物に見立てるというのがあって、『キャンディード』でもやりましたが、当時はたくさんのキャストで運びましたけど、今回は彼女1人なので、申し訳ないなって思いながら、書斎で歌ってるんですけど(笑)。
――最後に、お客様に向けてメッセージを。

井上 日本の皆さんにとても愛されている有名なお話ですが、僕たちは毎日の稽古で、知っていたはずの人が、実はもっと奥深くて素敵な人だったと知り直している状況です。手紙のやりとりではありますが、僕たちが生の舞台で、次元を超えて皆さんの前で演じさせてもらうことで、想像以上に感動していただけるのではないかと。皆さんの思う5倍はドラマティックですので、楽しみに見に来ていただければと思います。

坂本 本当に難しい役柄への挑戦で、日々奮闘中ですが、新しい世界に飛び込んでいくジルーシャの姿に私自身が励まされながら、お稽古を頑張っています。ジャーヴィス側から見たこの物語というのが非常に魅力的に描かれているので、男性のお客様にも、ジャーヴィスになりきってご覧いただけると思います。女性はもちろん、男性のお客様にも見ていただきたいです。


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ミュージカル・ロマンス

『ダディ・ロング・レッグズ〜足ながおじさんより〜』

音楽・作詞◇ポール・ゴードン

原作◇ジーン・ウェブスター

翻訳・訳詞◇今井麻緒子

脚本・演出◇ジョン・ケアード

出演◇井上芳雄  坂本真綾

●9/2〜19◎日比谷シアタークリエ

●9/22◎りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館

●9/26◎iichiko 総合文化センター iichikoグランシアタ

●9/28〜29◎森ノ宮ピロティホール

●10/3◎福岡市民会館

〈料金〉

東京公演/9000円(全席指定・税込)

新潟公演/S席7000円 A席5500円 学生S席4000円 A席3000円

大分公演/7000円 emo倶楽部6300円 学生3000円(大学生・専門学校生※但し25歳以下)・2000円(高校生以下)

大阪公演/9000円(全席指定・税込)

福岡公演/S席8800円 A席6800円 R65(65歳以上)5000円 U25(25歳以下)4000円(税込)

〈問合せ〉

東京公演/東宝テレザーブ 03-3201-7777

新潟公演/りゅーとぴあチケット専用ダイヤ 025-224-5521

大分公演/(財)大分県文化スポーツ振興財団 文化企画課 097-533-4004

福岡公演/ピクニック 092-715-0374

<公式HP> http://www.tohostage.com/ashinaga/


【取材・文・撮影/塩田史子】


 

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