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世界中で愛され続けている名作文学が、みずみずしい生命を吹き込まれ、美しい愛の物語として立ち上がった。

タイトルの副題にあるように、このミュージカルの原作は『足ながおじさん』、アメリカの女性作家ジーン・ウェブスターが1912年に発表し、以来、100年も読み継がれている人気小説である。

脚本と演出は『レ・ミゼラブル』や『ベガーズ・オペラ』『キャンディード』などで知られるジョン・ケアード、音楽と作詞はポール・ゴードンが手がけ、2009年にアメリカで初演、日本では今回が初めての上演となる。

出演者は2人だけで、ヒロインのジルーシャには坂本真綾、タイトルの「足ながおじさん」ことジャーヴィスには井上芳雄が扮している。


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【あらすじ】
 

孤児院育ちの18歳の少女ジルーシャは、ある晩、思いがけなく「大学に進学して勉学を保証する」という手紙を受け取る。条件は、月に一度手紙を書くこと。その手紙の主はその晩にジルーシャが見た、車のヘッドライトに照らされて足なが蜘蛛(ダディ・ロング・レッグズ)のような影をしていた人物であった。影でしか知らない“あしながおじさん”に、淡い恋心を寄せながら、心躍らせ手紙をしたため続けるジルーシャ。手紙に表れる彼女の知性に、影の主であるジャーヴィスもいつしか惹かれていく。そしてついに、ジャーヴィスはその正体を隠して、ジルーシャの前に現れることに――。


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原作は「ジルーシャの手紙」で展開していくのだが、この舞台では手紙を受け取る相手、ジャーヴィスが登場する。それによって観客はこのストーリーを2つの目線から見ることができる。
相手を知る前の2人、出会って恋に落ちた2人、誤解、迷い、心が揺れ動き、離れて、また近づいていく。そんな2人の恋のプロセスを見るのはスリリングであると同時に胸をわくわくさせるものがある。
 

ジョン・ケアードの演出は、シンプルな中に豊かなイメージを想像させる空間を作り上げ、いわゆる「ケアード・マジック」として知られているが、今回も舞台上には、本がいっぱい詰まった書斎とその延長のような屋内のセットだけしかない。
だが書棚の後ろのホリゾントに光が入ると、緑あふれるのどかな牧場や、クリスマスの電飾に燦くニューヨークなどが浮かび上がる。季節や土地、時代がそこには確実に息づいていて、その中で生きる2人が、人々が、確かな存在として伝わってくる。


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ジルーシャを演じる坂本真綾は、知的な温かさと清潔感が魅力で、内面から滲み出る美しさと生き生きした生命力がある。孤児院育ちならではの強さだけでなく、孤独の中で愛を求める心などもあまさず表現。伸びのある歌声は透明感と力強さがあって、ジルーシャの手紙や思いを感情豊かに歌い上げ、モノローグの台詞はしっかり聞かせる。

ジャーヴィスの井上芳雄は、長い足と端正な容姿は、まさに「足ながおじさん」であり、育ちのいい青年紳士だ。上流階級の人間ならではのズレも巧みに見せつつ、思いがけなく恋に落ちてしまった青年の戸惑いや迷い、そして歓びなどを繊細に表現。自由なジルーシャに振り回されるドタバタぶりもチャーミング。終盤に歌う「チャリティー」では、「慈善」という行為に揺れる内面を熱唱する。

初共演の2人だが、身長差がタイトルにふさわしく、デュエットも綺麗に聴かせてくれる。それぞれの芝居の質も含めて似合いのコンビネーションだと言っていいだろう。
 

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よく知られているように、物語はハッピーエンドであり、2人は幸せに結ばれる。
だが、劇中にこんな言葉が出てくる。「与えることは簡単なのに、求めることはどうしてこんなに苦しいのだろう」。ジャーヴィスが「足ながおじさん」という立場に苦しんで口にする言葉である。人は対等の立場でないと本当に愛し合うのは難しい。一見、シンデレラストーリーのようなシチュエーションの中に、愛というものの本質を見つめる作家のシビアな眼差しがある。

ジーン・ウェブスターの豊かな言葉の世界に引き込まれ、それを輝かせる音楽に導かれ、優れたスタッフとキャストによって本物の愛の世界に出会う、珠玉のミュージカルである。

 



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ミュージカル・ロマンス

『ダディ・ロング・レッグズ〜足ながおじさんより〜』

音楽・作詞◇ポール・ゴードン

原作◇ジーン・ウェブスター

翻訳・訳詞◇今井麻緒子

脚本・演出◇ジョン・ケアード

出演◇井上芳雄  坂本真綾

●9/2〜19◎日比谷シアタークリエ

●9/22◎りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館

●9/26◎iichiko 総合文化センター iichikoグランシアタ

●9/28〜29◎森ノ宮ピロティホール

●10/3◎福岡市民会館

〈料金〉

東京公演/9000円(全席指定・税込)

新潟公演/S席7000円 A席5500円 学生S席4000円 A席3000円

大分公演/7000円 emo倶楽部6300円 学生3000円(大学生・専門学校生※但し25歳以下)・2000円(高校生以下)

大阪公演/9000円(全席指定・税込)

福岡公演/S席8800円 A席6800円 R65(65歳以上)5000円 U25(25歳以下)4000円(税込) 

〈問合せ〉

東京公演/東宝テレザーブ 03-3201-7777

公式HP http://www.tohostage.com/ashinaga/

 

【文/榊原和子 写真提供/東宝(株)】

 


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