今年、創業140周年を迎えた明治座が９月は、演歌の華というべき坂本冬美と藤あや子、二人による特別公演で盛り上がっている。
坂本冬美は1996年以降数回目、藤あや子は明治座では初座長公演になり、仲良しの二人が揃って芝居と歌をたっぷり聴かせてくれる。
第１部の芝居は山本周五郎の名作を潤色した二幕もの『おさんとおしの』で、三幕目になる第２部は『冬美とあや子の麗しのショータイム』という明治座ならではの贅沢なプログラム。
芝居の『おさんとおしの』は山本周五郎の『さぶ』を基にし、主役のさぶと栄二役を女性のおさんとおしのに書き換えた意欲作。小料理屋「すみよし」でまだ仕事に慣れずに女将に叱られて泣く17歳の娘「おさん」を坂本が、おさんを慰めてくれる同じ店の先輩で誰からも好かれる人気者「おしの」を藤が演じる。
前半は貧しい家のために健気に働く坂本の娘ぶりと、藤の気立てよく色気もある女ぶりがみどころ。後半は無実の罪で寄せ場送りになり悲惨の環境の下で暮すおしのの変化、おしのを救い出さんとお百度を踏むおさんの願いと努力が通じて事が明らかになる終盤へと盛り上がりを見せた。
共演陣も充実の顔ぶれで厚みある芝居になっている。「すみよし」の主人役の若林豪はおさんへの優しさが滲み出るさすがの存在感。浮気な後妻のお勝に扮した佳那晃子はアダな女を粋に見せて印象的。勝野洋はおしのに心を寄せる板前の清次役で包容力を感じされる。道楽息子役のおりも政夫は少ない出番ながら心情を出した。
２部のショータイムでは、二人で手を取り合って登場。
坂本が「祝い酒」、「夜桜お七」、藤が「こころ酒」、「雪深深」とそれぞれ代表曲を聴かせる。二人交互に「あばれ太鼓」と「むらさき雨情」歌う場面では、大太鼓に向かって藤がバチを持って……と思わせながら、やっぱり無理という楽しい一場も。
続いてお揃いのシルバーのドレスに着替えた２人はザ･ピーナッツの「恋の季節」をはじめ、「恋の奴隷」「また遭う日まで」など50年代60年代のヒットソングを披露。坂本が歌う「星のフラメンコ」では歌詞が出てこないで無言になるハプニングがあったが、「ごめんなさい。忘れてしまいました」と謝る姿に客席からは応援の拍手。
このあとは、多くの持ち歌がある２人が衣装を替えながら、「曼珠沙華」、「また君に恋してる」、「あや子のお国自慢だよ」、「アジアの海賊」と歌い継いだ。
最後はお揃いの着物で藤が「わすれない」、坂本が「人時」、二人揃って80年代にヒットしたわらべ「もしも明日が…。」のカバー曲で締めくくった。
キャリアも十分、脂の乗った二人の歌と芝居とアドリブ満載のトークが楽しめる飽きない舞台となっている。
藤あや子、坂本冬美
【囲み取材】
この公演の初日終演後に、藤あや子と坂本冬美が囲みインタビューに登場。藤と桜の花をあしらったお揃いの衣装で登場した藤あや子と坂本冬美が、記者の質問に答えた。
━━初日を迎えた感想は？
藤 ホッとしてます。今回二人で初めての東京での1カ月公演ということで、始まる前からプレッシャーはあったんですけど、でも冬美ちゃんがそばにいるっていう安心感があって、終って二人でできる幸せを感じています。
坂本 右に同じでございます。本当にその通りで。今まで大阪九州とやってきまして、、この東京でやっぱりやりたいというのがありました。一緒に舞台に立てて幸せです。
━━お二人はプライベートでも仲が良いそうですね。
藤 もう殆ど打ち合わせなしですからね。
坂本 ショーの方は台本はなしですからね。
藤 トークとかね。
坂本 その時思ったことを言い合ってますね。
藤 そうそう。でも曲の並びとか構成は二人で考えたんです。
━━１部のほうが周五郎ですね。
藤 本格的なお芝居なのでね。
坂本 山本周五郎先生の『さぶ』という作品を女性版にして、私たち二人の間柄をそのまま作ってくださったような。ですから、いろんな場面で身につまされるような泣けてくるんですよ。「強く生きていこうね」っていうのも真実なんですよね。ありがたい作品をいただいきました。
━━藤さんは２１歳、坂本さんは17歳の役ということですが。
坂本 そこを突く（笑）。舞台ですからね。白塗りしてますから、三階の方は誤魔化せると思うんですけどね（笑）。
━━明治座140周年記念の年に公演することは？
坂本 始まる前からプレッシャーがありまして、作品もシリアスなものなので、結構疲れ切っています。千秋楽まであと40回頑張りたいと思います。
藤 いっぱい美味しいものを食べて頑張りたいと思います。
坂本 この近所美味しいもの一杯ありますから。
藤 教えて〜。
━━歌と演技は別物ですか？
藤 歌ですとたったひとりなんですが、今はチームを作っている感じで楽しいです。共演の役者さんたち皆良い方ばかりで。
坂本 二週間近いお稽古がありまして、そこで皆さんチームになったのね。歌になると私たちやっと笑顔で舞台に立てるという感じです。しかもデュエットですから、声の質が似てるみたいで。自分達で歌ってても、「今のパートどっちが歌ってるの？」って思うときがありますね。高い声になると似てるんですよ。
藤 そう。一瞬分からなくなるの。
━━衣装のせいか双子みたいな感じですね。
坂本 ほぼ同じなんですが、何かが少しずつ違うでんすね。何とは私は言いませんが（笑）。
声の質が似てるみたいで。自分達で歌っていても、今のパートどっちが歌ってるのって思うときがありますね。高い声になると似てるんですよ。
藤 そう。一瞬分からなくなるの。
坂本 同じ猪俣公章の弟子ですからね、私たち。
━━すごく似てると思うところがありますか？
坂本 あのね、関節が似てたり。あとね、うなじ。鏡に映った後姿にアレッと思うことがあります。（並んでうなじを見せる）
藤 体型も似てるんですよね。
坂本 でもちょっとずつ違うんですね、その微妙な違いが藤あや子さんであったり、私だったりなんです。双子ではない（笑）。
━━それと、坂本さんは『星のフラメンコ』で歌詞を忘れました？
坂本 ごめんなさい。あれは、「好きなんだけど〜 チャチャチャ（手を打つ）」これを入れることによって次の歌詞が分からなくなっちゃって。振り振りをやると忘れちゃうんです（手を打つの）はやりたいと思ってやるんですけど、案の定今日は間違えましたね。
藤 真面目だから。
━━そっちに意識がいっちゃうんですね？
坂本 いくんです。
藤 だから性格的に真逆なんです。ものすごい真面目で努力家で。
坂本 そうしたら自分はいい加減みたいじゃない。
藤 私は一応努力はするんですけど、まあいいかっていうところがあるんですけど、この人は完璧主義者だからそうなっちゃうのね。
坂本 でも完璧にできないところが……
藤 可愛いのね（笑）。
坂本 そう言ってくれると（笑）。
藤 可愛いなぁ（笑）。
━━みどころは？
藤 人間同士の繋がりというか絆。そういう温かいものを感じていただけたら。
坂本 私たちは一応主役ということになっていますが、それぞれにドラマがあるというところが芝居ですね。そのなかで皆強く生きていくっていう。
藤 今の日本の皆で一緒に頑張っていこうね、そういう意味もありますよね。
明治座創業140周年記念
『坂本冬美 藤あや子 特別公演』
第一部「おさんとおしの」〜山本周五郎「さぶ」より〜
脚本・演出◇田中林輔（第一部）
美術◇中嶋正留
出演◇坂本冬美、藤あや子 若林豪、勝野洋、おりも政夫、佳那晃子、笠原章 他
第二部「冬美とあや子の麗しのショータイム」
出演◇坂本冬美 藤あや子
演奏◇石川さゆりバンド
●9/2〜9/27◎明治座
〈料金〉A席（１、２階）13500円 B席（３階）6000円
〈問合せ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666（10時〜17時）
【取材・文／佐藤栄子 写真提供／明治座】
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