現在発売中の演劇ぶっく160号に掲載されている、多田淳之介・白神ももこ・杉原邦生・木ノ下裕一の計4名による座談会。そのロングバージョン(前編)がコチラです! 誌面と多少重なる箇所はありますが、ウェブも、そして誌面も、両方に読み応えがあるよう意識して編集しました。願わくは、この原稿がアナタにとって、木ノ下歌舞伎への、そして古典への“旅立ち”となりますように−−。
【公演情報】
木ノ下歌舞伎
京都×横浜プロジェクト2012『義経千本桜』
総合演出・演出◇多田淳之介(東京デスロック)
演出◇白神ももこ(モモンガ・コンプレックス) 杉原邦生(KUNIO/木ノ下歌舞伎)
監修・補綴◇木ノ下裕一
2012/7/7・8◎京都芸術劇場 春秋座、7/20・21◎横浜にぎわい座 芸能ホール





木ノ下歌舞伎版『義経千本桜』はメインディッシュの羅列【杉原】


ーー義経千本桜』は歌舞伎史上でも非常に大きな演目ということで、木ノ下歌舞伎がいま、この演目に挑戦したことを「例え話」にして頂くとしたら、どうなると思われますか?
杉原 「色んな料理を修行してきて、フルコースを作った」みたいな感じ?
一同 あ〜〜〜!!
木ノ下 そうですね。上手いこと言わはりますねぇ。でも、コースを作ったんだけど、全部メインになっちゃった感じはしますね。前菜は出なかったです、始めからステーキでした。
杉原 メインディッシュの羅列。
多田 通常はコースにしない(笑)。
ーー新進気鋭の若手料理人たちが著名なコース料理に挑んだ?
杉原 料理長(※木ノ下)のもと。
木ノ下 日本食もあれば、フランス料理も中華もありますけどね。そういう色んなコックを揃えた上で『義経千本桜』というひとつのコースを作った。ただ、日本料理が得意なコックに日本料理を担当してもらった訳ではないです。日本料理が得意なコックにフランス料理をあてがったけども、若干日本風の味付けにしてみた。そういう、ちょっとしたズレが。
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(『鮓屋』杉原演出)
ーーそれは意図的に?
木ノ下 はい。どの場面をどの演出家さんに振り当てるかというのは大問題で、結構悩んだんですよ。最終的にこの形に落ち着いたんですが、場面と演出家さんの間に全く必然がないと苦しいですけど、かと言ってすごく合い過ぎて、脳内上演が出来てしまうとつまらないので。微妙にズレつつ微妙に接点がある。邦生さんは本当は最後の『四の切』(※河連法眼の館に身を寄せている源義経の元に、家来の佐藤忠信が訪れた。ところがこの忠信、今現在何故か2人おり、どちらかが偽物ということに。問い詰めると、静御前に仕えていた「忠信」の正体は狐であることが判明。狐は静御前が持っている鼓が、自分の親狐の皮から作られたことを告白する)が十八番だと思うんですけど、敢えて地味な『椎の木』『小金吾討ち死』『屋』(以下『鮓屋』と略す)(※逃亡中の平維盛の妻・若葉の内侍と、その子・六代君は、家来の主馬小金吾と共に、行方の分からない維盛を探す旅に出た。その道中で源氏の追っ手とやり合った小金吾は、あえなく息絶えてしまう。その際、ある計略から小金吾の首を落として持ち帰った鮨屋の弥左衛門は、この「首」をめぐり不幸な運命を辿ることに)にしているとか。白神さんとは舞踊をガッツリ取り組みたいと思っていて『吉野山』(※源義経が吉野山にいるという噂を聞いた静御前は、従者の佐藤忠信と共に吉野山へ向かう。道中何度も忠信とはぐれる静だが、義経の形見として受け取った初音の鼓を打つと、すぐに忠信は戻ってくる。この忠信の正体、実は狐が化けた姿であり、両親の皮で作られたその鼓を、親同然に慕っているのであった)を。ダンスの歴史をちゃんと考えていられる方なので、もう一回その辺のことを一緒に考えたくて。多田さんは『屋』にするかどうか迷ったんですけど、最終的にあの『渡海屋』『大物浦』(以下『渡海屋』と略す)(※壇ノ浦の戦いで死んだはずの平知盛が実は生きており、源氏一族への復讐を目論むが逆襲に遭ってしまう。重傷を負った知盛は、時の天皇・安徳帝の身を案じながら海中へと身を投げる)の社会性というか政治劇というか、最後入水するという、あのダイナミズムは多田さんかなぁと。相当ぶち込んでこられると思ったので、とりあえず幕が開いたらすぐぶち込んでもらって(笑)、その後にじんわり見せて、最後またぶっ飛ぼう!! という。先制パンチですね。強烈パンチ。
多田 切り込み隊長。




尖った社会性を歌舞伎と掛け合わせてみたかった【木ノ下】


ーーこの3名に演出を依頼した木ノ下さんの狙いは?
木ノ下 やはり「京都×横浜プロジェクト」(※2010年から3ヶ年計画で始動した木ノ下歌舞伎独自のプロジェクト。京都と横浜の二都市を拠点にしつつ、関西・関東の演劇人が交流しながら歌舞伎演目の上演を試みる企画)というのが大きいです。1回目の出会いも十分有意義なんですけど、継続して作品を作っていくことで古典演目を扱うことの深みへより入っていけるので、単発というより継続的に演出家さんとお付き合いしたいと思っているんです。白神さんは前回(※『夏祭浪花鑑』11年)に続いてもう1回演出して頂こうということで。多田さんはね、この話が上がったのはうんと前ですよね?
多田 多分1年半くらい前かな。
002
(『渡海屋』多田演出)
木ノ下 邦生さんから「先生(※木ノ下)と合うと思うよ」と聞いていて、それから多田さんの作品をちょこちょこ拝見していたんですけど、あの手札の多さですよね〜。ものすごくダイナミックなものも、リアリズムなものも、それから『再/生』みたいな前衛的なものまで。『再/生』はSTスポットで拝見して、あれは震災のすぐ後だったんですけど、やっぱり震災のことをすごく意識させられて。あの社会性の持ち込み方、「社会があって同時代があっての演劇」ということをちゃんとお考えだなと。その辺が歌舞伎にはまると、すごく強い武器になるだろうと思ったんです。『渡海屋』自体も海がテーマだったり、権力や天皇制といったことも含まれてますので、その辺の尖った社会性を歌舞伎と掛け合わせてみたいということがありまして。
ーー木ノ下さんの狙い通り、バッチリですね!
木ノ下 いやいや、そら後からならなんぼでも言えることですよ。
一同 (笑)。
木ノ下 その時々の思いつきもありますからねぇ。やってみて、改めて思うことです。



多田さんはね、暴走族みたい【白神】


ーー今日は4名揃った座談会ですし、せっかくなので、お1人ずつの“人物”について語って頂きたいんですね。そこでま「『義経千本桜』と多田淳之介」という所から始めたいのですが。
杉原 一緒に作業するのは『四の切』がメインだったんで、印象としては『四の切』の方が強くなると思うんですけど……、言い辛いですよね〜、本人を目の前にしてね〜。
一同 (笑)。
白神 多田さんはね、暴走族みたい。そういう感じがすごくする。オペにいる時(※『渡海屋』では多田自ら音響オペレーションも担当)、あれは怖い。
杉原 あれはヤン車(※ヤンキーの車)運転の(笑)。
白神 ブンブンしてる感じがすごく。いつも闘ってるなぁって。
003
(『渡海屋』多田演出)
杉原 僕の友達で、すごいヤン車乗ってるヤツがいて、その車に乗ったとき不安になるんですよ。高速道路で超スピード出すから。でも慣れてくると爽快になってきて、気がつくと夜空がキレイな山にいる……みたいな感じ(笑)。
一同 わかる〜!!
白神 スピード出した時は「おいっ!」って思うんだけど。
木ノ下 稽古場で作品を作る進捗具合を「階段」で例えると、多田さんはエスカレーターと階段が交互になっている「階段」。ものすごく色々試していて、形が顕在化してこない時と、顕在化してずーと見え続ける時と、それが交互にある感じ。だから、掴むまでの試行錯誤というのは本当に凄いですよ、やっぱり。特に稽古前半は、多田さんがこれまでやってきたことを俳優にやらせてみて、ずっーとワークショップ形式で進めている。テキストは一切使わない。それである時になったらパッとひとつのものが出来上がっている……みたいな。




日本の演劇って歌舞伎が本筋だろう?【多田】


ーー多田さんが担当された『渡海屋・大物浦』の感想はいかがでしょう?
白神 本番の感想で言うと、さっきのブーーンっていうのが「怖えぇ、暴走族か!?」と思いきやすげぇ優しい……みたいな印象でした。作品の中に怒りはあるんですけど、すげぇ優しい。すげぇ優しい人だ! と。最初の通しを観た時もすごく感動して。たまたま間野(律子/東京デスロック)ちゃんも来てたんですけど「すごいね〜!」って。
木ノ下 僕、多田さんの稽古を3日ほどお休みした後に、あれは初めての通しかな? それを拝見して稽古場で泣いちゃったんですよ。急に作品が立ち上がっていて、それがあまりにも良すぎて……。
多田 あれは先生がいない3日間で組み上げました。
木ノ下 君が代が流れたのはあそこが初めてですもんね。あの持っていき方は多田さんにしか出来ないなと思います。
白神 あれ以降はほとんど変わってない。
木ノ下 そうなんですよ。
多田 珍しく早い段階で(笑)。
001
(『渡海屋』多田演出)
ーー多田さんご自身はいかがです?
多田 僕は何しろ歌舞伎自体が初なので、そこを考えるのは結構大変だったと言うか。普段演劇を作る時は考えなくていいことを考えたり、「見た目は演劇として面白くなってるんだけど、今回は歌舞伎だからなぁ」というのはかなり大変だったし、悩んだなぁ。
ーー元々歌舞伎を観に行ったりとかは?
多田 全然ないです。完全に素人から始まって。その辺は先生がずっと稽古場にいてくれたから助かったんですけど。
ーー歌舞伎だからこそ飛べた! という思いはあります?
多田 歌舞伎だから飛べた部分というのは大きいですよね。日本のことを考えるという作業は、自分としてはとても良く出来た。「シェイクスピアやるようにやれば絶対出来る」と思ってたし、いざやってみると「日本の演劇って歌舞伎が本筋だろう? なんでみんなこっちじゃないの!?」みたいな気持ちになりました。
杉原 僕は美術も担当していたんですけど、美術プランの話をした時に作品全体のテーマの話になって「日本/JAPAN」ということと「歌舞伎」というものをテーマの根本に置いて、そこから色々考えていこうという話が、割と初期に出ていました。だからそういうテーマが自分の担当している幕でどうやって接続するか? みたいなことは各々考えただろうし、美術もそういう所から発想して。



恋愛トークしてる隙にアレを作ったんだったら……【白神】


ーー今日はこんな要領でいきますね。では次、「『義経千本桜』と杉原邦生」でお願いします。
多田 面白いですよね。元々好きな演出家なので。一度『四の切』を3人それぞれが作るっていう日があったんですよ。稽古場も分かれて、俳優もシャッフルして、3パターン作ったんです。そうしたら……ホント凹み隊長で(笑)。
白神 全然面白かったよー。
多田 すげぇ面白かったんだけど。
杉原 いや、あれ違うんですよ! ふざけて作りすぎて(笑)。1日で作るし、結構みんな適当なものになるんじゃないかと……。そしたら2人とも超長く作ってるし−、超ガチで作ってるしー、あぁ俺なにやってたんだ稽古場で!! 3時間も恋愛トークしてる場合じゃなかったわ〜!ってなった。
一同 (爆笑)。

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(『四の切』共同演出)
白神 私それ聞いて「すげぇな」って思ったんですよ。恋愛トークしてる隙にアレを作ったんだとしたら。
多田 振付とかもちゃんとしてたし。
白神 そう。ちょっと悔しかった。
杉原 それで僕は凹んで、しかもその後にダブルパンチで。3パターン見せた後に先生が総評を言っていくんですけど「邦生さんのは何もメモってへんなぁ」って。ふざけんなよ〜! メモれよ〜!
木ノ下 メモる隙もないくらい圧倒されたんですよ(笑)。
多田 でも、邦生はやっぱり慣れているというか、歌舞伎に対するアプローチ経験もあるから心強いなっていうのはありましたね。そこは絶対に任せた方がいい。




「歌舞伎を観た!」と思ってもらえたら超嬉しいじゃないですか【杉原】


ーー杉原さんが担当されたのが『椎の木・小金吾討ち死・屋』ですね。
多田 ずっと「『屋』出来てないです」って言ってて。
白神 「ヤバイヤバイ!」って。
多田 俳優がバタバタ倒れていったり、結構苦労してるなぁっていう印象だったけど、京都(公演)の2日目に本番を観て、それが凄くて。あれはもう凄い。
木ノ下 2日目良かったですよね。
多田 かなり初期段階から稽古見てるし、完コピ(※歌舞伎の台詞回しや演技を一挙手一投即完全にコピーする稽古)から始めて、邦生がやろうとしていることがどこで立ち上がっていくんだろう? と。結果凄かったですね。勿論横浜(公演)も凄く良かった。やってることは「単に歌舞伎をやる」だけなんですよ。その、しっかり歌舞伎をやることの、強さをすごく感じました。歌舞伎の強さというか……。
杉原 「今日は歌舞伎を観た!」と思ってもらえたら超嬉しいじゃないですか。本家の歌舞伎じゃないけど、歌舞伎の体感を味わってもらえるのが一番嬉しいから、そこはすごく意識して作りました。みんなで「何をもって歌舞伎と呼ぶか?」についても考えたし。
006
(『鮓屋』杉原演出)
ーーその「何を歌舞伎と呼ぶか?」は興味深いです。
木ノ下 ひとつは、身体性とか空間の捉え方とか、そういう歌舞伎特有の「手法」がありますよね。それをどのように、ある種踏襲してある種批評的に扱うか? みたいな考え方はみんなに共通してあると思うんです。演劇として歌舞伎をどう考えるか。ただし、各々歌舞伎のどこにフックを掛けるかは違いましたね。だからこそ3人でやるのが面白かった。お客さんも何を観て「歌舞伎を観た」と思うかはバラバラなんですよ。その反応も面白くて。キレイに分かれましたもんね。『屋』が良かったと言う人もいれば、『渡海屋』が良かった、ももちゃんの『吉野山』が良かったって言う人もいて、ハッキリ分かれる。歌舞伎という、あの“怪物”というか、とにかく沢山の要素が入っているモノの現代化を考えた時に、当然色んな視点から入っていくべきで、それがとりあえず『義経千本桜』において、この3人の演出家の手腕で3種類を一気に見せられた。『義経千本桜』はそれほど幅のあるものだということは、ひとつ提示出来たのかなと思っています。



3人とも古典に対するスタンスが全然違うんです【木ノ下】


杉原 ……あの、さっきの多田さんの作品について、僕コメントしてないんで、今いいですか?
一同 (笑)。
杉原 今の社会が持っている状況に対して、コネクトの仕方がぶっといというか、ズボーンっていう差し込み方をしている気がして。でも、それがただぶっとくて空洞という訳じゃなくて、コンセントでも細い線をいっぱい束ねて太くなってるやつあるじゃないですか? そういう感じのぶっとさ。ぶっといモノをぶっ挿して現代に繋げているけど、その中にちゃんと繊維がある。そういうバランスが良かったなぁって。細かいところでチクチクくるんだけど、気付くとぶっとかった、みたいな。気付くと日の丸だった、日の丸に感電してた、そういうかっこよさ、ダイナミックさが、僕にはとても印象的でした。
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(『渡海屋』多田演出)
木ノ下 あと、古典を自分に近づけはりますよね。要は古典に入って行かずに、自分のテーマや問題意識があった上で、力技で古典を自分に近付ける。邦生さんは逆で、古典の方に入って行くんですよ。入って行って、中から自分のものを取り出していくんですよね。ももちゃんはずっと古典と並列なんですよ。自分との対峙の中で、自分の手札と古典の手札を交換しながら作っていく感じ。だから、3人とも古典に対するスタンスが全然違うんです。



一番質問攻めにあうのが邦生さんの稽古場【木ノ下】


ーー興味深い話がどんどん出ますね。では、杉原さんに関する続きを。
白神 木ノ下歌舞伎をやると邦生くん凄いなって思う。尊敬する。だって……(杉原を見ながら)こんな感じじゃないですか。
一同 (笑)。
白神 身なりというか、「ウィ〜!!」とか言いまくってる感じなのに、めっちゃ考えてるし、演出に全部根拠があって、その上で色々遊んでいるから。私、一番最初は自分の感性だけで進むので。無根拠のまま。
一同 (笑)。
白神 無のまま突き進んで、後から根拠をつけるんですけど。でも、邦生くんは超考えてる。的確だし、その割に縮こまんないところがさすがだなって。見た目はこんな感じなのに(笑)。
木ノ下 稽古場の進め方も相当緻密。
白神 ストイック。
木ノ下 さっきの「階段」の例えだと、多田さんはエスカレーターと階段でしょ? 邦生さんはね、高さ2センチ位の階段が無数にある。だからめっちゃ走ってんねんけど、速くは進まへん。
杉原 めちゃめちゃエネルギー使うけどね。
木ノ下 着実に作っていくタイプですよね。
白神 崩れないものを着実に作る。
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(『鮓屋』杉原演出)
杉原 自分が分かってないと出来ないんですよ。だから、根拠とか必然性を自分が感じられないと動けない。
木ノ下 稽古場でもよう聞いてくれますもんね。一番質問攻めにあうのが邦生さんの稽古場。しかもその質問が、容易には答えられないんですよ。
杉原 自分で調べても分かんないことを聞くからかな。「当時の屋が民衆の生活においてどういうもので、どういう位置だったのか?」とか?
木ノ下 そういう質問ならまだ答えられるんですけど、「今、どういう風に、上演する価値があるのか?」とか、禅問答のような質問。大体一緒に悩む。で、なんやかんや返答したとしても、自分が納得しないと聞こえないフリをするんですよ。
一同 あははは(笑)。
木ノ下 喋ってんのに聞こえないフリするんです。「ふ〜ん」みたいな感じで。それで「この答えじゃあかんか〜」と思って、それを宿題に持ち帰ったり。
【インタビュー後編へ続く】



【取材・文◇園田喬し 撮影◇清水俊洋(舞台)】

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