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1つの土地に踏みとどまり、開拓し、働き続け、生き続けること…。
100年という壮大なスケールで、1人の男が生きた激動の日々を描き出す舞台『ハーベスト』が、12月11日から世田谷パブリックシアターで上演される。
英国で今もっとも注目されている劇作家のリチャード・ビーンが、05年に発表して英国批評家協会賞の最優秀作品賞に輝いた作品の、日本初登場である。
その舞台で、主役ウィリアム・ハリスンの19歳から110歳までを演じる渡辺徹と、彼に想われながらその弟の妻になるモーディーの七瀬なつみに、この作品世界を語ってもらった。



1人の男の激動の日々を100年というスケールで描く

——台本を読んだ第一印象はいかがでした?
 

渡辺 まず壮大ですね。僕は19歳から110歳までやるわけですが、普通なら40代、50代を描くとか、20代がメインだとか、スポットをあてる感じなのに、この作品は100年全部にスポットがあたってるんです。
 

七瀬 私は養豚業自体、まったくわからない世界なんですが、登場人物たちがひょんなことから手に入れてしまった広大な土地を、とにかく守り通そうと一生懸命、養豚業を続けている、すごく地に足のついた人たちの、特別ドラマチックなことが起きるわけではないけれど、その生きざまに引き込まれるような感覚がありました。
 

渡辺 つまり土着なんですよね。土地にこだわるということなんだと思います。家族間の人間関係も含めて彼らを結びつけていた最大の絆は“土地”なんだと。日本人も故郷をする気持ちはありますが、イギリス人における故郷、出身地への思いは日本よりも強いという話を以前聞いたことがあります。都会に出ても、一旗挙げたら必ずといっていいほど最後は田舎に帰るそうなんです。
 

ーールーツを忘れないということでしょうか?
 

渡辺 そうでしょうね。この一家も、その土地にいる理由としてたまたま選んだのが養豚業という気がします。結局、この土地にいたい、離れたくないという思いがあった。それがこの物語の大きなテーマの1つだと思います。
 

——劇中でのお二人の関係は?
 

渡辺 僕の弟の嫁なので、義理の兄妹ですね。この作品は人間関係がシンプルじゃないところに実は面白さがあるんです。普通のドラマなら最後は夫婦で、老後とか最後を迎える形が多いのに、僕が演じるウィリアムと一緒に最後に残るのはローラという女性で。
 

七瀬 ローラは私が演じるモーディーの姪っ子で、小島聖さんが演じる役です。
 

渡辺 ローラとウィリアムの関係は、いろいろな読み方ができるんです。夫婦でもないし、ひょっとして俺の子供だったのかな?とか、血の繋がりがないのに2人が一緒に最後まで暮らし続けるのは、やっぱり土地への思いがそうさせたのかな?とか、いろいろなことが考えられるんです。
 


頑固に、一筋に生きていく


——お二人それぞれのキャラクターは?
 

七瀬 モーディーには舞台には出てこない妹がいるんですけど、そちらはじゃじゃ馬で男の人ならきっと惹かれるような女性で、モーディーはそれと反対にしっかりした女性だと書かれているんです。でも、そう思って読んでいると、ローラのお産をしているシーンではパニクったりして。しっかり土地を守るという面だけではない、女性的だったり脆かったり、いろいろな面を併せ持った人物なのかなと興味深く感じています。
 

渡辺 ウィリアムは頭が良い人です。だからかもしれないんですけど、ストレートな物言いをあんまりしない。朴訥なんだけどシニカルで、そのへんのさじ加減が難しいですね。それに、ストレートにものを言わなくてもいいのは、芯がしっかりしてるからなんだといますが、でも芯がしっかりしてるって、つまり“しつこい”わけで(笑)。だから100年、養豚で生きていく。そこは少しは共通点があるのかな。僕の場合はこだわりは食べ物だったりするんですけど(笑)。
 

——でも役者さんとしても長いし文学座も長いですよね。
 

渡辺 あ、それも近いかもしれないですね(笑)。始めちゃったからやめたくないし、やってないことが沢山あるから劇団もやめないんだと思います(笑)。芝居やってる人間って、そういう一筋なところがあるんでしょうね。養豚業に執着するウィリアムと同じで、もっと視野を広げれば儲かる仕事があるかもしれないのに、へんなところで頑固というか(笑)。
 

七瀬 徹さんは、以前ドラマの現場でご一緒したとき、バラエティなどで見るイメージのとおりに、現場を盛り上げていらっしゃって。でも、いったん役者として芝居をするとなると、ガラリと顔が変わるんです。それが見えるとドキッとします。それにこの作品もすごく読み込んでらっしゃって、なんか理解の度合いが違うなと(笑)。
 

渡辺 いやいや、ありがとうございます(笑)。だからというのではなく、前から申し上げているんですけど、七瀬さんはすごく魅力的な女優さんだなと思っていて、本当に僕の好きな女優さんの5本の指に入っているんです。すごく感性が豊かで才能もあるし。今回また、ご一緒できるのがとても楽しみです。


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わたなべとおる○茨城県出身。文学座所属。文学座研究所所属中の1981年にTVドラマ『太陽にほえろ!』のレギュラーに抜擢され人気を博す。その後、映像、舞台、歌手など幅広い分野で活躍。文学座の舞台は『長崎ぶらぶら節』『花咲くチェリー』など、劇団以外では『ヘンリー六世』(09年)『2人の夫と私の事情』(10年)『ゲゲゲの女房』(11年)など。第26回菊田一夫演劇大賞を受賞。



ななせなつみ○埼玉県出身。1990年オリーブ映画祭最優秀新人女優賞を受賞。その後、舞台、ドラマ、映画、CFなど幅広い分野で活動。ドラマ『ぽっかぽか』では全国的な人気者に。最近の主な舞台は『昔の女』『奇蹟の人』『ヘッダ・ガーブレル』(10年)、『幻蝶』(12年)など。第40回紀伊國屋演劇賞個人賞、第13回読売演劇大賞女優賞を受賞



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『ハーベスト』ー神が田園を創り、人が町をつくったーハリソン家、百年の物語

作◇リチャード・ビーン

翻訳◇平川大作 小田島恒志

演出◇森新太郎

出演◇渡辺徹 佐藤アツヒロ 平岳大 石橋徹郎 吉見一豊 有薗芳記 小島聖 田根楽子 七瀬なつみ

12/11〜24◎世田谷パブリックシアター

〈お問合わせ〉03-5432-1515 世田谷パブリックシアター

〈公式HP〉http://setagaya-pt.jp/



【文/岩見那津子 撮影/冨田実布】