観劇予報 : 『新春浅草歌舞伎』初役尽くしを奮闘中！　尾上松也インタビュー　Ｖol.１

若さあふれる花形俳優たちが、大きな役に全力で挑戦する『新春浅草歌舞伎』。その舞台で、注目の若手歌舞伎俳優、尾上松也が３つの初役に挑む！

お正月の浅草で１月２日に幕を開けた今回の公演は、浅草歌舞伎への出演は久しぶりとなる市川海老蔵、片岡孝太郎、すっかりお馴染みの片岡愛之助、中村亀鶴、そして尾上松也、中村壱太郎、坂東新悟といった若手からベテランまでが顔を並べている。

演目は、第１部は、浅草歌舞伎恒例の「お年玉〈ご挨拶〉」に始まり、曽我兄弟の仇討物語である「寿曽我対面」、江戸の侠客の心意気を描く「極付幡随長兵衛」。第２部は、ハンサムで腕も立つ六助と男勝りなお園が繰り広げる「毛谷村」に、海老蔵の「寿初春口上」、歌舞伎十八番の一つで、義経と弁慶主従の絆、関守富樫の情に打たれる「勧進帳」。歌舞伎らしい様式美にあふれたものから、古典の名作、楽しい挨拶まで、新年のめでたさを感じるラインナップだ。

その『新春浅草歌舞伎』への出演は４年ぶり２度目という尾上松也は、昨年は『男の花道』や『騒音歌舞伎　ボクの四谷怪談』など歌舞伎以外の舞台でも活躍、人気上昇中の若手歌舞伎俳優である。そんな松也に、今回の取り組む初役、それぞれへの意気込みや、新年の抱負、歌舞伎に対する思いなどをたっぷり語ってもらった。

すべてが大事な役、責任重大です

――2009年に続き、２度目の浅草歌舞伎ですね。前回は、立役から女方までバラエティに富んだ役柄でした。今回の出演が決まった時のお気持ちは？

前回出演させていただいたときは、お正月から様々な大きな役をいただいて本当に勉強になりました。若いメンバーで演じる楽しさや新鮮さをすごく感じたので、またぜひ参加したいなと思っていましたがなかなか機会がなくて。ですので今回、お話をいただいたときは、とにかくうれしかったですね。そして、また大きな役を任せていただけるので楽しみと喜びを感じています。

――今年の出演者も豪華ですね。

海老蔵さんや孝太郎さん、愛之助さん、亀鶴さんという方々がいて、そこに右之助さん、市蔵さん、吉弥さんというベテランの先輩も加わってくださいます。でも、そのほかの出演者の方たちは大変フレッシュな俳優揃いで、本当に若手公演だなというメンバーです。こうしてお正月から、若い人たちが大役を任せられて経験を積むということは、有り難いし大事なことだとすごく感じます。とくに、僕が曽我五郎を演じさせていただく「寿曽我対面」は、もちろん僕もですが、主要メンバーがほぼ初役で、曽我十郎役の（中村）壱太郎君、舞鶴役の（坂東）新悟君、近江小藤太役の（中村）種之助君、大磯の虎役の（中村）米吉君、八幡三郎役の（中村）隼人君、化粧坂少将役の（中村）梅丸君、…こんなに初役だらけの「対面」もないと思いますし、歌舞伎の新世代という気がします。

――この「寿曽我対面」という作品は、歌舞伎にとって大事な演目なんですね。

その昔は、お正月はかならず「曽我物」という、曽我兄弟を扱う狂言（演目）を出す時期があったくらい、歌舞伎にとっては重要で、お正月を祝う狂言として欠かせないものです。なかでも「寿曽我対面」は現代にも残っており、お正月や襲名などのお祝い事で僕もたびたび拝見してきましたし、大磯の虎という傾城役で出させていただいたこともありました。歌舞伎俳優にとっては、改めて勉強しなくても、だいたいの動きや流れは頭に入っていなくてはいけない演目です。

――初役の五郎は、どう演じていきたいですか？

五郎は「対面」以外にも登場する役で、僕も一度、『雨の五郎』を踊らせていただきました。「荒事」の役柄ですが、僕はこれまでどちらかというと「和事」というか、おとなしめな男性の役や女方が多かったので、「対面」では演じるとしたら虎や少将という女方、あるいは曽我兄弟をやらせていただけるとしても十郎かな…というふうに思っていました。ですので五郎は本当に予想外で。最初は、本当に僕でいいのかな？と思いましたが、いろいろ幅のある役を演じさせていただけることは、やはり勉強になりますので。ただ、非常に多くの先輩方が演じてこられた大役を、初役でさせていただくことには責任を感じています。初めて見るお客様にとっては、これが「寿曽我対面」ということになりますから、間違ったことをしてはいけないと思いますし。今回は、（坂東）三津五郎のお兄さんに教えていただいたことを、きちっと表現できるようにというのが課題です。

――もう１演目の「極付幡随長兵衛」は侠客もので、出尻清兵衛という役は長兵衛の子分の１人ですね。

そうです。これも初めての役です。「幡随長兵衛」には、男が憧れるようなかっこいい男がたくさん出てきます。以前、三吉という役で出させていただいた時は、一番下っ端の子分で、せりふは少ないのですが男気に溢れていて、毎日が楽しかったことを思い出します。

――粋な男伊達が、命がけで誇りをかけてぶつかり合う、そこが見どころですね。

そういうかっこよさが詰まっている演目なんですが、今回演じる出尻は、そのなかでちょっとほわっとした、安心感を与えてくれる役なんです。江戸っ子の芝居は、みんな言葉じりもかっこいいし、どうしても引きずり込まれますが、出尻のキャラクターをきちっと肚の中に入れて、これだけキレのいい男たちのなかに、１人違うタイプの男を入れた作者（河竹黙阿弥）の意図を、しっかり汲んでつとめたいですね。とにかく愛嬌が必要な役ですので、愛嬌を出すのはすごく難しいと思いますので、いろいろ試行錯誤しながら。

――第２部のほうでは「勧進帳」で、源義経の四天王の一人、亀井六郎役ですが。

「勧進帳」といえば、歌舞伎を見たことがない方でも知っているほど有名な作品で、歌舞伎十八番でもありますし、歌舞伎俳優にとって大事な演目です。僕の演じる亀井六郎は義経に従う四天王の中ではリーダー的存在ですが、僕はこれまでいろいろな演目で四天王を演じていても、「勧進帳」の四天王だけは縁がなかったんです。本来ならば亀井六郎というのは初役でやらせていただくような役ではなく、駿河（次郎）を勉強して片岡（八郎）を勉強してというように、先輩が演じるのを近くで拝見しながら、初めてシンをつとめるところを、今回いきなりのシンですから大変なことだと思っています。基本は（坂東）亀三郎のお兄さんに教えていただきましたが、公演に入ってからは先輩方にうかがいながら、しっかり勤めさせていただこうと。片岡八郎役の壱太郎君と駿河次郎役の種之助君も初役なので、僕が不安だと彼らも不安になると思いますし。

――松也さんはそういうシンになる役を任せられる存在になったということでしょうね。

いえ、今回は若手公演ですから。将来的には若手以外の興行でも「松也なら大丈夫だ」と思っていただけるように、今回、しっかりとつとめたいと思っています。

※Ｖol.２に続く

おのえまつや○85年生まれ、東京都出身。歌舞伎俳優。90年、歌舞伎座にて二代目尾上松也を名乗り初舞台。以後子役として活躍し、現在にいたる。シェイクスピアの『十二夜』を蜷川幸雄演出で歌舞伎化した『NINAGAWA十二夜』（05、07、09年）に出演。歌舞伎以外の舞台では12年に、パルコ・プロデュース『男の花道』とシアターコクーン『ボクの四谷怪談』に出演。09年から自主公演『挑む』を主催している。