観劇予報 : 錦織一清がつかこうへいの名作を演出！『熱海殺人事件』製作発表レポート

　黒谷友香　　　　　　　　　　　　　　逆木圭一郎

その衝撃で数多くの演劇人に影響を与え、史上最年少（当時）で岸田國士戯曲賞にかがやいたつかこうへいの『熱海殺人事件』。99年の『蒲田行進曲』の銀ちゃん役でつかこうへいに出会い、亡き今も彼を師とあおぐ錦織一清の演出によって、この『熱海殺人事件』が、新たな命をえて７月12日からサンシャイン劇場で上演されることになった（21日まで。26～28日は京都南座）。

出演者は、念願の木村伝兵衛部長刑事には、俳優としてはもちろん近年は演出家としての手腕も発揮している錦織一清。恋人を殺した犯人の大山金太郎には、その身体能力で注目され、『少年たち』では主演もつとめた戸塚祥太（A.B.C-Z）。刑事の熊田留吉には、劇団☆新感線に欠かせない名脇役の逆木圭一郎。婦警水野には『熱海殺人事件』＜売春捜査官＞で、つかに“凛とした女”と言わしめた黒谷友香。この濃密な個性をもった4人が、伝説の作品に挑む。東京公演の錦織と戸塚が役替わりになる“スペシャルバージョン”（７月19日、20日のみ）も目が離せない。

この製作発表が４月30日に都内のホテルで行われ、主演・演出の錦織一清、戸塚祥太、逆木圭一郎、黒谷友香のほか、安孫子正松竹株式会社専務取締役が出席。挨拶の後、質疑応答に移った。

【挨拶】

錦織　今回『熱海殺人事件』をやらせていただけることに喜びを感じています。役者をやっていて、「この作品をやりたい」と言ってもなかなか機会はありませんが、99年のとき、実は僕から『蒲田行進曲』がやりたいと言ったら、つかさんが「じゃあやればいいじゃないか」と。僕の中で、つか作品をやることにはツキがあると思っています。つかさんが亡くなって、二度とつかさんの芝居をやることはないんだろうなと思ってましたが、今回はつかさんが「お前、やってこい」と背中を押してくれたのかなと。つかさんの作品は、本当に若い人たちの作品で、青春グラフィティ。今年48で、この歳になってできるのかなと思いましたが、逆木さん、ありがとうございます（笑）。「つか芝居」「つか演劇」という言葉は、つかさんがいなくなった瞬間からないものと思ってます。つかさん自身が作家で、演出家としてもエポック・メーカーなので、追いつくことなんか到底できませんが、思い切って、開き直りの気持ちで、面白い作品にしたいです。

戸塚　演出・出演を大先輩の錦織さんが手がけるという作品で、黒谷さん、逆木さんという先輩方と同じ舞台に立てるということで、とても楽しみです。毎日毎日、チャレンジャーの気持ちで。多分、遠足が楽しみな夜のように、ドキドキワクワクして寝れない日が続くと思います（笑）。普段はA.B.C-Zという5人グループで活動していますが、一人でぽんと舞台に立たされることに慣れていないので、とてもガチガチ、カチカチ堅いと思いますが、稽古を重ねて柔らかくなって、自然と舞台に立てるようになりたいなと思います。

逆木　こういう場に僕がいるっていうことがほとんどないので、すごく不慣れですが（笑）。今回『熱海殺人事件』というお話をいただいて、この年齢になってつか作品が本当にできるんでしょうか、と不安いっぱいなんですが、僕も若い頃につか作品を観させていただいたときに、僕らの年代で小劇場をやってる人はみんなそうだと思いますが、つかさんの作品はすごくエポック・メイキングで、「僕たちもお芝居をやってみよう」という気にさせてくれるお芝居を、次々に生み出してる方でした。その作品にこの歳でチャレンジするという、ちょっと無謀な気もしないではないですが、できるだけ頑張りますので、よろしくお願いいたします（笑）。

黒谷　つか先生との出会いは今から８年ほど前ですが、まさか、またつか先生の作品に、錦織さん演出で、こうやって参加できるとは思っていなかったので、今頃つか先生もとっても喜んでらっしゃると思います。2013年、私自身も頑張って、つか作品を支えて、自分自身も楽しんで演じられたらと思っております。たくさんの方にご覧になっていただきたい舞台です。

【質疑応答】

――つかさんが、演出家として錦織さんを育てていければとおっしゃっていましたが、演出をするときのポイントや演出家として気をつけることなどのアドバイスは？

錦織　直接的には言わない方でした。稽古場より、本当に“放課後”が楽しい方で、そのときにいろんなお話を。『熱海殺人事件』には莫大な数の脚本がありますが、つかさんは出演者当て書きなので、僕もそうですが、私実がいっぱい入ってくるんですね（笑）。なので、僕が今回気をつけなくちゃいけないのは、自分で自分の揚げ足をどうとるか。僕は一度『熱海殺人事件』の余分な部分をふるいにかけて、骨組みを明確に作りたいと思っていますが、一番大事なのは、ベースに『熱海殺人事件』を使って、つかさんが今世の中に言いたいことだとか、投げかけたいことがいっぱい入ること。2013年っていうのが、すごくキーワードになってると思います。今の時代のことをどれだけ盛り込んでいけるのか。それを、僕の言葉になるんでしょうが、つかさんだったらこういう切り込み方をしたんではないかという心当たりを手掛かりに、作品を作っていくというのが、今回注意すべき点だと思います。

――つかさんから「女優としてこうあれ」と言われていたことがあれば。

黒谷　すごくエネルギーを必要とする舞台なので、「よく食べて、よく寝ろ」ということはすごく言われました。私の中では、つか先生の後ろ姿が印象的で、黒のコートを翻しながら新宿の街に消えていく姿がすごくかっこよくて（笑）。お芝居の中では、「芝居はスポーツだ」とおっしゃって。傷口に塩を塗り込むようなせりふも多いですが、それをバシッと言うことで、観てる方に感動をお伝えできるのではないか、とか。いろんな扉を自分で開けなければいけない舞台でしたが、すごく財産になってますので、先生には感謝の気持ちでいっぱいです。先生にお返しできるような、いい舞台にしなくてはいけないという思いが溢れています。

――つかさんにどんな憧れを抱いていましたか？

戸塚　実際にお会いしたことも、演出も受けたこともないので具体的なことはわかりませんが、『蒲田行進曲』の記録用DVDを３回ぐらい観てますが、大好きで、そのイメージが強いですね。本当は言いたいけど言えないようなことをせりふでズバッと言ったり、長ぜりふも多くて、舞台上でみんな汗をかいて、すごいエネルギーを感じて、グッとくるんですよね。ヤスをやりたかったぐらいです（笑）。

――2013年度版ということで、潤色も考えているのでしょうか？

錦織　作品は観れていないのですが、つかさんが文学座のほうに脚本を書いていた時代の資料だと思いますが、それをベースに。当時、幼馴染みを熱海の海岸で殺してしまうというのがものすごいセンセーショナルな事件だと思いましたが、本来もっていなきゃいけない一軸物の、骨格の太さというものが少しぼやけてきているきらいが。小説の『熱海殺人事件』も読んだんですが、僕はもう少しそっちを大事にしようかなと思って、なるべくシンプルに作っていくことを心掛けたいなと思っています。

――13年度版では、どういうことを盛り込もうと？

錦織　どちらかというと、政治ネタじゃなく今の世の中で流行っていることを。若い人たちが使っている言葉を必要に応じてわざと入れたりとか、ウィットな部分ではちょっと入れておこうかとは思いますが、それだけじゃなくて、料理で言うとやっぱり“ダシ”が大事なお芝居だと思うので、あまり調味料には頼らないようにはしないと、と思います。

――つかさんは役者を際立たせる演出をしましたが、演出の精神をどういうところで継承して、錦織さんなりに再構築しようと？

錦織　僕が後輩の芝居を演出したときにも言われましたが、「芝居がつまらなくても役者のせいにするな。お前が悪いんだ」と。僕がつか先生をすごく尊敬しているのは、本当に役者のせいにしない方だった。たとえば僕が舞台上でちょっとせりふをトチると、楽屋に来て「あのせりふ、お前は言いにくかったんだな」と、すごく自己責任として感じてくれて、「お前が言いにくいせりふを考えた俺が悪いんだ。明日、あそこのせりふ、変えるから」「そのほうが困ります」…（笑）。僕も今後演出家としてやっていくんだったら、つまらない責任は自分自身で背負い込もうかなと。それが一番教わったことだと思うんで。あとは、芝居が終わった後、決してダメ出しをするなというのが鉄則でした。今もう一本作っている作品の現場でも、それはやっています。

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