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英国の詩人で劇作家であるハロルド・ピンターの戯曲を、注目の若手演出家小川絵梨子が手がける舞台『帰郷/ホームカミング』。
その稽古場での演出家×キャストのインタビューをvol.1に引き続いてお楽しみください。


読み物ではなく戯曲だと、立って動くとわかる作品


──中原さんは弟の役ですが、兄のところに居候している?

中原 (笑)。いや、居候ではなく、自分の父親の家なので、そのまま当たり前のように住んでるだけです。

──小川さんの演出やピンター作品についてはどんなふうに?

中原  小川さんとは『12人 〜奇跡の物語』(11年)というのに出ていて、これで2回目なので、もうほとんど何も考えないでおまかせですね(笑)。ピンターは、最初読んだときはよくわからなくて(笑)。一読しただけでは「なんでこの台詞が?」というのがあって。まあ、やってるうちにちょっとずつわかってくるんじゃないかと思ってます(笑)。

──ハイヤードライバーというのは、普通のタクシードライバーよりはランクが上なのでしょうか?

中原 そうですね。乗せる客も違っていると思います。そのへんは彼の考え方に少しは影響あるかもしれませんし、役作りにも関係はあるかなと思ってます。

s_IMG_8641中原和宏

──浅野さんは次男のレニーですが、この一家でわりと威張っている存在ですね?

浅野 威張ってるって(笑)。長男が家を出ていって帰郷するまでの9年間、家族とどういう生活をしてきたかというのが大事で、それが彼をそういう性格にさせているのかなと。今回、みんなでディスカッションしたんです。どういう生い立ちとか、生きてきた背景とか、台本に書かれていないことを共通認識として出すと、「あ、それはそういうことかもしれない」というのがわかってくるんです。僕も最初に一読したときは、なんか気持ち悪い作家だなとか、女性蔑視と思われるかなとか。でも、今、稽古で一巡してみると「なんてよくできた戯曲なんだろう」と。つまり戯曲なんですよね、読み物ではなくて。立って動いてやっとわかるように書いたんだなと。「ピンターはやっぱり天才だな」と(笑)。そのままさらりとやってしまうととても気持ち悪い芝居になると思うんですけど、お互いの生い立ちとかバックボーンとか知っていて一緒に住んでる人同士が、体温とかを感じながらそこでやると自然とその言葉が出てくるように書かれているんです。

──共通認識を持っている上での会話ということなんですね。

浅野 だから小川さんが「間をちょっと気にしましょうか」と言ってくれるのがすごく有り難いのは、その「間」のなかにレニーはどんなことを感じて、それを高めて、呑み込んで、次の台詞が出てくる。だから文学としては脈絡のない話が続いているけど、結局は家族の話で、家族って「ぼそ、ぼそ」でも話は通じている。そういうことが書かれているんだなと思うんです。
 

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──三男のジョーイは小野さんですが、今、この稽古場でどんな毎日ですか?

小野 いやもう、こういう先輩方に憧れていましたから、毎日が楽しさと恐怖でいっぱいというか(笑)。実は演出の小川さんとは同い年なんですよ。でも、「付いて行きます」というか(笑)。同い年なのにこんな先輩方といろいろやっている姿を見ていると「かっこいいな!」と(笑)。

一同 (笑)。

──若い世代から見るこの作品の面白さというのは?

小野 僕の世代にもきっと分かるところはあると思っていて、結局は憎しみ合っていてもそこに愛があるというか、たぶん離れても切れない家族の絆というか。そういうことを意識しない人ももちろんいると思うんですが、僕はわかる気がします。複雑な何重にもなっている会話のなかで、僕の役だけはわりと素直に思った通り言ってるんです。でもお父さんは動物的で(笑)、僕もその血が流れているので、またタイプが違った動物なんじゃないかなとも思ってます(笑)。


s_IMG_8629小野健太郎

特殊な家族ではなく日常のさざ波が大きくなって


──長男役の斉藤直樹さんが今日はいらっしゃらないので、テディのことは小川さんにうかがいますが、奥さんを連れて帰郷して、でもまた家族を放棄して1人でアメリカに戻ってしまいますね?

小川 結果的に放棄しますが、それは彼にとっては手段なんです。勝つことが目的なので。彼のなかでは、権威を保つとか自分を保つとか"落ちない"とか、それが彼の生き方の基準ですから。この物語で起きていることは全部手段でしかない。結局、「勝つ、勝たない」で動いている人たちなので。

──「勝つ」ということを言い換えるとしたらどんなことですか?

小川 たぶん「生き残る」ということでしょうね。その「生き残りかた」として長男は出て行くわけですし、それぞれの生き残りかたの、いわばサバイバルゲームみたいなもので、やがて戦争でバラバラになっていく人たちのサバイバルゲームだと思えばいいのかなと。
──その「生き残りかた」として、たとえば那須さんのルースは、売春婦をしながらこの家に残るわけですね。

那須 小川さんがおっしゃるように、残って売春婦をするというようなことは最初からは考えていないわけです。相手がこうきたから私はこうするという1つ1つの積み重ねが、結果こういうことになっただけで。

s_IMG_8661中嶋しゅう
 

中嶋 けっして特殊な家族ではなくて、たまたま男だけの所帯になってしまった家で、たまたま長男が妻を連れて帰ってきた。そうするとそこにさざ波が立って、大きくなっていく。その積み重ねで長男は出ていった。言われたことに対して人間は瞬間瞬間で返すわけじゃないですか? この芝居って、そういう日常の様子をうまく捉えている。しかも家族という形の中で。そこがピンターのすごさだし、物語の起きるような人物像を描いているのが彼のすごさで、そういう言葉を紡ぎだすピンターはすごい観察力だと思います。まさに戯曲だし、生きた言葉のやり取りだから先が読めない。でも最後の最後にはある結末があって、すごいエンターテインメント性がある。だからこれまで、不条理演劇と受けとられがちだったけど、絵梨子の翻訳が画期的だし、演出の方向も画期的だから。だいたい不条理というなら、家族そのものが不条理だから(笑)、選んでなるわけじゃないし、それを家族なんだと思うしかないんだから。

──小川演出のすごさは、一見、観念的に書かれているものを、そんなふうに血肉化というかリアルにしてみせるところでしょうね。

中嶋 実際、稽古中に「ああ、そうか」と思うことが何度もあって、絵梨子の目線が面白いなと。そういう意味ではこれは"画期的なピンター"になると思います。



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Runs FirsT プロデュース 

『帰郷/ホームカミング』

作◇ハロルド・ピンター

翻訳・演出◇小川絵梨子

出演◇中嶋しゅう、中原和宏、斉藤直樹、浅野雅博、小野健太郎、那須佐代子

●6/15〜30◎シアター風姿花伝

〈料金〉前売り¥4,500 当日¥5,000(全席指定・税込)

〈問合わせ〉ランズファースト 03-3234-5880(11:00〜18:00)

〈サイト〉 http://runsfirst.com/

〈劇場サイト〉 http://www.fuusikaden.com/



【取材・文・撮影/榊原和子】 

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