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英国の劇作家ジョン・ハリソンが、自身の妻の経験をもとに書いた戯曲『休暇 Holidays』が、栗山民也の演出で5月10日から赤坂レッドシアターで上演中である。(6月1日まで)
キャストは保坂知寿と加藤虎ノ介と永島敏行という3人だけの舞台で、日本ではこれが初演となる。
物語はガンの再発の不安を抱えながら生きる1人の女性の日々が、2つの休暇と2人の男性との対話という形で描き出される。1980年代に夫と過ごす夏のプロヴァンス、そして病気再発後の1995年にヨークシャーで出会った1人の若い男性…。
長年連れ添った夫婦、ローズとアーサーを演じるのは保坂知寿と永島敏行。そしてローズの前に現れる修理工のラルフには加藤虎ノ介。この物語世界を生きる3人に、初日直前の熱の入った稽古場で話を聞いた。

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死に向かっていた意識が
生へとUターンする

──この作品の核には、保坂さん扮するローズの病気があるわけですね?
保坂 そうですね。ローズは病気と死を意識して生きていて、その闘い方や向き合い方も大きなテーマではありますが、それよりもむしろ、それをきっかけに、今まで生きてきた自分の人生をもう1回見つめ直す、見て見ぬふりをしないでちゃんと見つめる、そういうことがこの作品では描かれていると思います。
──そのローズをめぐる2人の男性として登場するのが、永島さん演じる夫のアーサーと、加藤さんのラルフですね。
永島 アーサーはよく世の中にいるような夫で、本人は自分なりに妻に優しくしているつもりなんですが、妻を束縛しているし、籠の中の鳥にしているんです。ローズとの場面のほとんどは夫婦の日常的な光景で、妻がガンであることをずっと引きずっているわけではなく、普通に生活しているんですが、でも、そのなかで本人はその意識がないのに妻を傷つけてしまう。それが会話のはしばしに出てきます。
加藤 僕の役のラルフは、コテージの通風口の修理にやってきてローズと出会います。そして詩の話などでもりあがって、気持ちが通じ合って、そのあと、偶然ローズがカウンセラー用に吹き込んでいたテープを聞いてしまうんです。ローズの本音を知って、それでいいのかというような気持ちが芽生えて、距離を縮めていきます。
──ローズはその2人の間で揺れるわけですね。
保坂 アーサーとの生活は居心地がいいし、こう言ったらこうくるだろうというような馴れもある。言い合いにしてもそれを楽しんでいる部分はあるんですよね。歩幅が一緒というか。そこへ全然違う歩幅のラルフがつかつかと近づいてきて、どんどん心の中に踏み込んできて、「え? え?」と思っているうちに、惹かれていくんです。
 
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──ローズにはその歩幅が新鮮だったのでしょうね。
保坂 ラルフとの会話はすごく意外性があるし、いろいろ違う考え方を言ってくれる。そして自分が意識的でなく心に隠していた部分に光が当てられるんです。絵が描きたいとか、本当は子どもが欲しかったとか、もちろん病気との闘い方も。ああしてはいけないとかこうしてはいけないとか思っていたことも、「それは別にいいんじゃないんですか?」と言ってくれる。それによってローズの意識のなかで、死に向かっていた意識が生へとUターンしてくる。自分の歌を歌えとカウンセラーに言われて、どういうこなんだろう?と思っていたのは、こういうことなのかと気づかされるんです。

対極の男性の間で揺れるローズ

──正反対の男性像を演じる永島さんと加藤さんですが、役へのアプローチはどんなふうに?
永島 アーサーはわかる部分が多いですよね。男って友だちがいそうでいないんです。とくにアーサーのように会社の人間関係だけで生きていると、定年で仕事をやめると何もなくなる。だから、どこか妻に依存しているし、いくつになっても子どもっぽい(笑)。それにけっこう脳天気で、妻を傷つけるつもりはないけど、真綿で首を絞めるような言葉を言ったり(笑)、自由を奪っていても、それは気づかないまま生きてきてしまった。でも、やっぱりそれは彼のエゴなんです。
保坂 全然悪いヒトではないんですよね。
永島 そう。だからかえって難しいんです(笑)。
加藤 僕も単純にぱっと読んで、わかるなと思ったのはアーサーなんです(笑)。でもラルフも、まったく理解できないということはなくて、なるほどこういう場所にいてこういう生き方をしているから、こういうふうに考えられるんだなと。彼は複雑なものを抱えずにすんでいるというか、心のままにいられる環境にいる。そういう環境ならではの自由さなんだろうなと思います。
 
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──ラルフは詩とか哲学とか論じるのですが、加藤さんの雰囲気にぴったりですね。
加藤 いや、ラルフは僕とはかなりかけ離れてる人間です(笑)。でも、あまり「ああしよう」とか「こうしよう」とかせずに、稽古していくなかで、たとえばローズとの関係が出てきたらこういうこともあるかなとか、実際に稽古しながら、今、作りあげているところです。
──男性2人とのやり取りのなかで、ローズという女性の内面も見えてくるのでしょうね?
保坂 そうですね。男性2人の個性が対極といっていいほどはっきり描かれていて、永島さんも加藤さんもそれぞれ違う空気を持って出てきてくださっているので、私はよけいなことは何もせずに、自然にそこにいればいいのだろうなと思っています。
──アーサーとローズ、ラルフとローズ、2組の会話がそれぞれ面白いですね。
永島 噛み合ってるようで噛み合ってないのが僕ら夫婦の会話で(笑)。
保坂 アーサーはちゃんと返事してくれているんですが、8割くらいはちゃんと聞いてなくて(笑)。
永島 聞いてるんだけど、自分の興味ないことには関心がないんだよ(笑)。
保坂 でも夫婦って、あまりお互いに全身全霊で「そうだね」なんて言わないですよね(笑)。でもラルフは、それが直球で返ってくるから。
──刺激的なんですね。
保坂 それに「女ってこうでしょ」みたいに決めてかからないし、「僕はガンじゃないからわからない」とか、ガンの人にさらっと言えちゃう人なので。
加藤 一緒に暮らすとたいへんでしょうね(笑)。絶対に一緒に暮らすんだったらアーサーがいいと思いますよ(笑)。
──両方いてほしいですね。ローズはどちらかを選ぶのですか?
保坂 結末は観ていただくしかないのですが。ローズは最終的にある行動をするんです。それは深く考えて、こうしようと決めたうえでの行動ではないし、その先には死があるかもしれない。でも、それをローズはなぜ選んだのか? そこを、観ていただいた1人1人の方がそれぞれ考えていただければいいのではないかと思っています。
 
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永島
 ローズって、すごく生命力があって魅力的ですよね。病気を抱えて悩んでいるけど、でも女を捨ててない。そういうローズだからアーサーにも女性としても魅力的に映るし、ラルフが惹かれるところなんだと思うんですよ。劇中で、アーサーはローズに久しぶりに会うんですが、彼女がなんか若く綺麗になっていることで、アーサーは、ある種の敗北感を持つんです。
保坂 女性はいくつになっても、ときめく心はあるし、それが大きなエネルギーになるんですよね。ローズではないけど、その力で病気が治ってしまうんじゃないかというくらい(笑)、心身に影響を与えるんだと思います。

芝居をしない
究極の芝居

──3人きりの稽古場の様子や、栗山さんの演出についても聞かせてください。
加藤 僕は単純に、3人ではいちばん若輩だなと思っていて(笑)、付いていきますという気持ちになったりしています(笑)。栗山さんの演出は、ダメ出しもけっこう楽しいですね。でも、言われたことをあまり大事にしすぎないでやれたらと。もちろん大事にしますけど、あまりそれにとらわれすぎるといけないと思うので。
永島 栗山さんによく言われるのは「日常を積み重ねて」と。僕は最初、自分の解釈でアーサーが妻をわざと傷つけているような感じでやっていたら、そうじゃなくて、もっと普通になってほしいと。その普通の積み重ねが妻にとって重荷になっていくわけだからと。そして、この短い芝居のあいだだけでなく、1つ1つの言葉だけでなく、この夫婦の関係が観ている人に伝わるようにと。だから、本当になにげない会話から、この夫婦の日常が見えてくるといいなと思っているんですが、口で言うほど簡単ではなくて(笑)。
保坂 人は理由があって何かを言ったり行動したりするのではないと、栗山さんはいつもおっしゃっています。日常で行われていることは、なぜあんなことを言ったのかわからないとか、まあいいやと踏み出したりとか、何かを決めたりするとき、自分にも説明できないことがほとんどで。だから、台本に書かれているからといって、自分で理由を作って決めて演じたりしてはいけないと。長い台詞もたくさんありますが、私は今こう思ってますとあえて伝えようとしないこと、わかるように喋るなと言われています。ローズがカウンセリングのためにテープレコーダーに、いろいろなことを吹き込むところも、アーサーやラルフとのやりとりも、芝居をしない、演劇的に見せようとしない。自然な状況をたまたまお客様が見ているのだということ。お芝居に向き合う新しい視点をたくさん示してくださいます
──そういうお芝居を赤坂レッドシアターという近い空間で観ることこそ、演劇の醍醐味という気がします。
保坂 演じ手にとっては恐いほどの近さですね(笑)。でも、この息づかいまで伝わるほどの濃密な空間だからこそ、楽しんでいただける作品だと思います。舞台上でいかにリアルに生きるかという、まさに究極のお芝居といえるのではないでしょうか。ぜひ、劇場でご一緒に堪能していただきたいと思います。

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永島敏行・保坂知寿・加藤虎ノ介

ほさかちず○東京都出身。82年より劇団四季でミュージカル『キャッツ』『コーラスライン』『ウエスト・サイド物語』『アスペクツ・オブ・ラブ』『マンマ・ミーア!』、またストレートプレイの『オンディーヌ』などに出演。06年の退団後はミュージカルからストレートプレイまで幅広く活躍中。主な出演作品は『パイレート・クイーン』『デュエット』『スーザンを探して』『秘密はうたう』『地獄のオルフェウス』『道化の瞳』『眠れぬ雪獅子』『エニシング・ゴーズ』『ピトレスク』『フル・モンティ』など。第34回菊田一夫演劇賞を受賞。

かとうとらのすけ○大阪府出身。大阪で舞台を中心に活動中、NHK朝の連続テレビ小説『ちりとてちん』(07年〜"08年)で徒然亭四草役に抜擢され、脚光を浴びる。最近のテレビドラマは『幽かな彼女』(13年CX)『八重の桜』(13年NHK大河ドラマ)。映画は『大鹿村騒動記』(11年 阪本順治監督)。舞台は『F.+2』(主演 10年)『グレンギャリー・グレン・ロス』(11年)『国語の時間』(主演 13年 第21回読売演劇大賞優秀作品賞受賞)『OPUS』(13年)『船に乗れ!』(13年)など。

ながしまとしゆき○千葉県出身。映画『サード』『遠雷』などで多数の映画賞を受賞。映像や舞台で活躍中。農業コンサルタントとしても活躍し「青空市場」を主催。13年より秋田県立大学の客員教授をつとめている。最近の出演作品はテレビドラマ『怪奇大作戦 ミステリーファイル』(NHK BSプレミアム)『ガリレオ××』(CX)、『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』(NHK)、『新 犯罪交渉人 百合子』(テレビ東京)など。映画『種まく旅人〜みのりの茶』『HESOMORIーヘソモリ』など。


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地人会新社第3回公演
『休暇  Holidays
作◇ジョン・ハリソン
訳◇水谷八也
演出◇栗山民也
出演◇保坂知寿、加藤虎ノ介、永島敏行
●5/10〜6/1◎赤坂レッドシアター
〈料金〉¥6,500 25歳以下¥3,000(全席指定・税込)
〈問合わせ〉ぷれいす 03-5468-8113
HP http://www.chijinkaishinsya.com/




【取材・文/榊原和子 撮影/アラカワヤスコ】

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