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井上ひさしが描いた二代目藪原検校(杉の市)の生涯を栗山民也が演出し、野村萬斎が演じた2年前の『藪原検校』は、衝撃的で鮮烈な舞台として、大きな話題を呼んだ。戯曲の初演は1973年、以来、何度も上演されている名作で、盲目で生まれた杉の市が、人を殺め、手を血で染めながら、江戸の盲人の最高位である検校にまで登りつめていくが…という物語だ。
その傑作舞台がキャストも新たに、2月23日から世田谷パブリックシアターで幕を開けた。今回の公演で、杉の市と強い因縁で結ばれる師匠の女房・お市を演じるのが、映像出身で舞台女優としても高い評価を受けている中越典子。前回は秋山菜津子が演じたこの役に取り組む今の気持ちを、稽古中のある日、熱く語ってくれた。

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根底に「日本」がある井上作品

──今、稽古の中盤ということですが、手応えはいかがですか?
やっと世界観が見えてきました。台本の重厚さを感じます。ものすごくいろいろな要素が重なって出来上がっている台本だなと、体を動かしはじめて改めて思いました。体と頭をフルに動かさないと付いていけない感じです。
──今回、井上ひさしさんの戯曲には初出演するわけですが、きっかけは?
今回演出をされている栗山民也さんと、『マイ・ロマンティック・ヒストリー〜カレの事情とカノジョの都合〜』(13年)で、ご一緒させていただいたのが始まりです。ちょうど先に初日が開いていた栗山さん演出の『頭痛肩こり樋口一葉』を拝見したのですが、その舞台に言葉にならないくらい感動したんです。その前から井上さんの作品は、『木の上の軍隊』とか『人間合格』など、いろいろ拝見していて、とても好きな世界観だったこともあって、とにかく「出てみたい」と思って、栗山さんにそうお話ししたんです。
──中越さんにとって井上作品の魅力はどんなところですか?
井上さんの作品の根底には「日本」があるんです。日本のよさとか日本人のよさ、日本の美しさとか面白さ、そして日本人の苦しみとか悲しみ。そういう沢山のものを、日本の言葉や歴史とともに作品に巧みに描き出されていて、そして、1人1人の人間が舞台上で活き活きと生きているんです。そこが本当に素敵だなと。
──そんな思いが叶って、この『藪原検校』に出演することになったわけですが。
まさかこんなすごい作品に出させていただくなんて思いもよらなくて、有り難いと同時に私で大丈夫だろうかと思いました。稽古に入っても必死な毎日で、3日くらい前に栗山さんから「楽しい?」と聞かれたのですが、「まだ楽しめてません」と(笑)。栗山さんは笑いながら「だめだよ、これは楽しい作品なんだから楽しまなくては」とおっしゃっていました。
──その「楽しい作品」という意味はどういうことなのでしょうか?
お話としては、重いしつらい。苦しい悲しいことも沢山描かれていますが、それをこんなにも陽気に打ち出していく、それが井上先生の作品のすごさだと思います。つらい悲しいだけではない深い世界観を、いろいろな技法で表現していく。それは歌だったり、振りだったり、舞台装置だったりするわけですが。演じる側としてはそこが難しいし、私にとっては、とにかく初めてということが多いんです。たとえば、舞台上でそこを「川」に見立てることから流されていく様子まで、語りや芝居でやったりする。そういう1つ1つが難しくて、井上さんの作品に出演される役者さんたちが、技術のある方ばかりだという意味がよくわかりました。

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萬斎・杉の市の可愛さと面白さ

──俳優として要求される技術のレベルが高いわけですね?
そう思います。そして自分の役柄だけでなく、井上さんの世界観とか作品全体を、役者がわかっていないと出来ない芝居だと思います。そうわかっていても実際に表現するのは、本当に難しいのですが。私も盲目の芸能の民として、語りや三味線などの芸をするわけですが、そういう芸も必要ですし、お市の役からパンと切り換える技術も必要で。それもただ切り換えるだけではなく、中身もちゃんと伴っていないといけないので。
──体の使い方も普通のお芝居とは違うのでしょうね?
腹筋も首も脚も、全身が痛くなっています(笑)。今更ですが、役者は全身を鍛えて、自在に動かせることが大事なのだなと感じます。
──そういう点では、萬斎さんは狂言で鍛えられていらっしゃる方ですからね。
すごいです! 体幹がしっかりしていらっしゃるので、どんな動きや格好をされてもブレないんです。それに表情も豊かで、杉の市は盲目なので、白目を剥いたりされるんですけど、それが可愛いというか独特の面白さになっていて、可笑しみもありながら真実味も帯びている。素晴らしいなと感動します。やはり、きちんと「型」として見せられるものを持っていらして、それを使いながら、役柄の内面を十分伝えてくださる。とにかく、動きも表情も声も自在で素晴らしいです。
──アドバイスなどもありますか?
いろいろ教えていただいています。一緒のシーンで、のけぞった姿勢でないといけないところで、私が「ちょっと痛くて無理です」という感じになっていると、「それは、こっちにこう反ればいいんだよ」と、ほんの少し体の軸を変えるだけでラクになる姿勢を教えてくださるし、「顔がお客様に見えるほうがいいから、この角度にしてみたら」とか、とても具体的に言っていただけるので有り難いです。
 
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女優としての「欲」を持ってがんばりたい

──二度目になる栗山さんの演出はいかがですか?
『マイ・ロマンティック・ヒストリー』のとき、すごく印象に残ったことがあって。それはちょっとした仕草なのですが、栗山さんが指示してくださったのが、自分では思いつかないような仕草だったんです。舞台上で1人で照明の中に立って、唇をすーっと触るんですが、私はそういうことするのは恥ずかしい性分なんですけど、そのときはお客様の前でその仕草をするとき、ちょっと嬉しいというかドキドキしたんです。そういう思いがけない発見をさせてくださるんです。
──自分では知らない面を引き出してくれるのですね
今回も、役の上でもお市の魂というか、生きているのかそうでないのかわからないような恐い部分と、すごく可愛らしい面と、2つの切り換えをパッとしなくてはならないのですが、先ほども話に出てきたような、川を渡っていくところなど、必死になって鬼のように演じるのが、自分でも「あ、面白いな」と思うんです。まだまだ、そういう部分も含めてちゃんと自分を乗りこなせてないのですが、「こんなこともやるんだ」ということが沢山あって、やっぱり井上さんと栗山さんの作品は好きだなと、嬉しくなっています。
──楽しそうですね。また女優さんとしてステップアップの大きな機会になりそうですね。
この作品のお話をいただいたとき、感謝の思いと同時に、「これをちゃんと出来なかったらもったいないぞ」という、強いプレッシャーがありました。でもこれを機に、自分の中の大人の女の情念のようなものに火が付けばいいなと。別の自分を発見したいし、何かを掴みたいという思いでいっぱいです。
──最後にお客様へ意気込みをぜひ。
どんな苦境であろうと、どんな時代であろうと、1人1人の命ある人間が必死で生きている、その生き様のかっこよさ。そして、生きることやお金、欲に執着する人間の醜さ=美しさ、そういうものが、とても面白く描かれている作品です。私も「欲」を持ってがんばりたいと思っています。


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なかごしのりこ○79年生まれ、佐賀県出身。03年、NHK朝の連続テレビ小説『こころ』のヒロイン役に選ばれる。映画、TV、CM、舞台で活躍中。主な舞台作品は『金閣寺』(11年、12年)『黒い十人の女version100℃』(11年)『こどもの一生』(12年)『ヴィーナス・イン・ファー』(13年)、『マイ・ロマンティック・ヒストリー〜カレの事情とカノジョの都合〜』(13年)『皆既食-Total Eclipse-』(14年)など。

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こまつ座&世田谷パブリックシアター
『藪原検校(やぶはらけんぎょう)』

作◇井上ひさし

演出◇栗山民也
出演◇野村萬斎/中越典子/山西惇/大鷹明良/酒向芳/春海四方/
明星真由美/家塚敦子/山崎薫(旧字で崎の大は立)/辻萬長/千葉伸彦(ギター奏者)
●2/23〜3/20◎世田谷パブリックシアター
〈料金〉S席8.800円 A席6,500円 高校生以下およびU24チケットS席4.400円 A席3,250円 
〈問合せ〉こまつ座 03-3862-5941
世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515




【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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