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日中戦争の最中、日本人でありながら中国の歌姫「李香蘭」として生きた山口淑子の数奇な運命と、歴史の事実をタペストリーのように織りなした『ミュージカル李香蘭』が、浜松町の自由劇場で上演中だ(9月12日まで)。

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1920年代後半から1945年までの、日本と中国、そして歴史上わずか13年間しか存在しなかった幻の独立国満洲国を舞台に、次第に忘れられていこうとしている、けれども決して忘れてはならない日中の近代史を後世に伝えようという浅利慶太の強い思いから、この『ミュージカル李香蘭』が生まれたのは1991年のこと。以後、国内外での公演を重ね、作品はより深みと重みを増して成熟してきた。
中国語が堪能で美貌と歌唱力を持ち合わせていたが為に、日本軍の宣伝工作に利用され、歌姫「李香蘭」として何も知らぬまま大スターとなっていく山口淑子(野村玲子・笠松はる/Wキャスト
を、清朝皇族の娘で日本で学び、後に満洲国の将軍となる川島芳子(雅原慶・坂本里咲/Wキャストが俯瞰しながら、日本が軍国主義一色に染まっていく過程、そのことが日中両国の国民にもたらした筆舌に尽くしがたい惨禍を語っていく。この作中に二人の「よしこ」を据えた着想が秀逸で、共に第二次世界大戦終結後、漢奸中国人として祖国を裏切った罪容疑で、中華民国の軍事裁判にかけられた二人の明暗と共に、ドラマが運ばれていく流れはまるで怒涛のようだ。

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また、李香蘭が養子縁組をした李将軍の長女で、抗日運動に身を投じながら、義姉妹として香蘭を案じ続ける李愛蓮(秋夢乃
、満洲国に「五族協和」の理想を夢見た杉本上野聖太、愛蓮の婚約者で抗日運動に散る王玉林村田慶介など、多彩な登場人物が、歴史の事実の前に翻弄されていく姿は、この作品が事実を基にしたフィクションであるということを、しばし忘れさせるほどのリアリティに満ちている。

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特に戦後70年を迎え、また作品の主人公である、故・山口淑子の一周忌となる今年、この作品が再び上演される意義にはどれほど大きなものがあるか知れない。劇中には出征兵士が実際に書き残した言葉がそのまま語られ、実写の映像も使用される。そこから立ち上がる戦争の真実には、慄然とせざるを得ない。こうした、イデオロギーに左右されることなく、歴史の事実を冷静に見つめる作品が今ほど必要とされている時代はな、いのではないか。しかもそれが、「夜来香」「蘇州夜曲」「何日君再来」などの名曲と「海ゆかば」などの軍歌、そして一度で耳に残る「マンチュリアン・ドリーム」などをはじめとした三木たかしによる美しいオリジナル曲に彩られたミュージカル作品として、エンターテイメント性と社会性とを兼ね備えていることは実に貴重だ。

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そんな作品で、Wキャストで主演を務める野村玲子の存在感が圧倒的だ。長年数多の舞台作品で主演者として活動してきた「主演女優」という言葉が似合う人だが、その重ねた蓄積とオーラがこの大スター役に相応しい。分けてもこの人の個性に「永遠の少女」の側面があることが、幼女時代まであるこの李香蘭役に打ってつけ。彼女を一目見ようと日劇を七周り半、群衆が取り巻いたという伝説のステージの再現シーンも華やかにこなして、日中両国を純粋に愛したヒロイン像が確かに立ち上がった。

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作品の狂言回しでもある川島芳子はやはりWキャストで、坂本里咲の回での観劇。軍事裁判からはじまる冒頭から、ほぼ出ずっぱり、喋りっぱなし、しかも男装という難役だが、持ち前の確かなセリフ術を駆使して、客席に物語を、引いてはこの時代を伝える役割りを立派に果たしていた。この人もプリンセス女優の印象が強いが、新たな魅力が開花している。

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また、李愛蓮の秋夢乃は、くっきりとした面立ちと確かな歌唱力で、作品に強いアクセントを残して印象的。謂わば中国側のヒロインとも言える役どころでもあり、極めて重要なポジションを十二分に演じて見応えがあった。

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他にオーディションで選ばれたという、杉本役の上野聖太の誠実な二枚目ぶり、王玉林の村田慶介の鋭さなど、適材適所の個性が揃ったことが嬉しく、アンサンブルの面々も、客席に明晰に届く母音法の台詞に、ダイナミックなダンスにと大活躍。二階席の後ろからでも十分肉眼で観劇できる自由劇場の空間に、この大きなテーマを携えた作品が展開されていることが、改めて得難く感じられた。

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初日を前にしたゲネプロの後、取材に応えた浅利慶太は、以下のように語った。
「上演を重ねる度に作品が深まっているのを感じる。戦後70年を迎えて、70歳の人でも生まれたばかりという年月が経ち、あの悲惨な戦争のことを知らない世代がほとんどになっている今、昭和8年生まれで、終戦の年に中学1年生だった自分が、次の世代に語り継がなければならないとの思いが上演の動機になった。色々な方々に観て頂きたいし、中学生、高校生の若い方々にも是非観て頂きたい。明るく楽しいものも上演していくが、こうした社会性の強い作品もまた上演する意義があると思う。劇団四季時代からの大切なレバートリーとして定期的に上演していきたい」
強い意欲を持って語ったその言葉通りに、上演し続ける意義、また広く観劇して欲しい希望を抱かせる公演で、土日公演以外には、まだチケットの入手も可能ということでもあり、多くの人に劇場に足を運んでもらいたい作品である。

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〈公演情報〉
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ミュージカル李香蘭』
企画・構成・演出◇浅利慶太
作曲◇三木たかし
振付◇山田卓
出演◇野村玲子/笠松はる(Wキャスト)、雅原慶/坂本里咲(Wキャスト)、秋夢乃、上野聖太、村田慶介 ほか
●8/31〜9/12◎自由劇場
〈料金〉8,500円(全席指定・税込)
〈問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10時〜18時)
公式ウェブサイト http://www.rikoran2015.com/



【取材・文・撮影/橘涼香】



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