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劇団M.O.P.の人気作『黒いハンカチーフ』が10年ぶりに再演され、明日10月1日に幕を開ける(
10月4日まで。新国立劇場 中劇場)。
高度成長期の東京・新宿。ある医師が、チンピラたちの依頼を断り切れず新聞に広告を載せた。「黒いハンカチーフ拾った。落とし主の連絡を乞う」。それは天才詐欺師の父が大きなヤマを仕掛ける時にだけ使っていた暗号広告だった――。
脚本はマキノノゾミ、初演は01年で、翌年にはドラマ『演技者。』でTOKIOの城島茂、山口達也らが演じて話題となった。この前代未聞の詐欺師モノ(コン・ゲーム)が、河原雅彦の演出により、矢崎広を主演に迎え、よみがえる。キャストは、医師であり伝説の詐欺師フジケンの息子である日根に、期待の若手俳優・矢崎広。詐欺師たちの拠点の喫茶店のママにいしのようこ、事件の発端になるチンピラ宮下に浅利陽介をはじめ、伊藤正之、おかやまはじめ、鳥肌実といったベテラン勢たち。本作の初演で主演をつとめた三上市朗、劇団☆新感線の吉田メタル、ナイロン100℃の村岡希美、また若手注目株の橋本淳、松田凌など、個性豊かで多彩なジャンルのメンバーが揃った。
9月中旬、都内の稽古場で河原雅彦と矢崎広に、作品の魅力、その面白さと難しさ、ユニークなキャスト陣のことなど、たっぷり語ってもらった。

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矢崎広・河原雅彦

古き良きフィルム・ノワールのような犯罪モノ

──矢崎さんは前回の『時計じかけのオレンジ』以来、4年半ぶりに河原さんとタッグを組むわけですが、どんな気持ちですか?
矢崎 楽しみな部分が多いのですが、同時に、『黒いハンカチーフ』という作品をもらって、弱音を吐くわけではないですが、大きな役なので、大変だろうなと思います。でもある意味、河原さんに鍛えていただこうという気持ちもあり、役者として全力でぶつかっていければという意気込みで、稽古に入りました。
──河原さんは、矢崎さんの役者としての成長をどんな風に感じ取っていますか?
河原 4年半ぶりですか。1本、また1本という感じで舞台をやっていると、4年半前のこと、意外と覚えてないから(笑)。でも、彼がそれ以来、いろいろと活躍しているのは知っていました。『時計じかけのオレンジ』では、大人数が出るところのグループの1人で、そんなにピックアップして相対した感じではなかったので、改めて4年半ぶりにこうやって再会して、無骨で男前な主演を演じる矢崎君と向き合えるのは楽しみでした。
矢崎 ありがとうございます。
──主役を受けた時の第一印象は?
矢崎 河原さんからもあったように、カッコいいというかハンサムな役ですし、年齢も実際の僕より上の設定で。役としては「ちょっと頑張らないといけないな」と思いましたが、作品としては本当に面白いなと。元にあるのが『スティング』ということで、ハリウッド映画のようだなと思いながら読みました。でもやるとなると、どう舞台になっているか絵が想像できず、そういう部分でも難しいのかなというのが第一印象でした。
──作品の演出でイメージされたのは?
河原 マキノさんも仰っているように、「古き良きフィルム・ノワール」みたいな犯罪モノとして読んだので、『スティング』もそういう意味では王道ですが、僕たち世代は、どっちかというとガイ・リッチーとか(クエンティン・)タランティーノとか、あっちのほうが馴染みが深いというか(笑)。昭和30何年という、戦後ちょっと経って、エネルギーがとにかくあって、ケレン味あふれる時代設定のなかで、マキノさんは『スティング』をイメージされたのでしょうが、今回僕が預からせてもらうということなので、そこはかなり僕なりの手触りになると思います。まあ、とにかく戯曲がしっかり描かれているので、基本線をちゃんと押さえられたら、いろいろ色をつけてもブレない作品ですね。初対面のマキノさんは、おっかないですけど(笑)。
矢崎 (ウワァ〜という表情)
河原 顔合わせで若手の俳優たちに「句読点1つ変えるな」みたいなことを(笑)。とはいえ、今、(吉田)メタルさんを言語障害という役に変更してしまったので、句読点どころか台詞すら聞こえなくて、怒られるんじゃないかなっていうことぐらいです。不安なのは(笑)。
矢崎 ははは(笑)。

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矢崎広でやる意味のある『黒いハンカチーフ』に

──本作の舞台ならではのシーンや魅力などは?
河原 たとえば人を騙すとかトリックとか、映像でできるようなことはできません。ドンデン返しの展開を生身の人間が、空気を作って駆け引きをする。同時に観客も騙していかなきゃいけない。そういう意味では、舞台上に出ている人たちがチームになって騙すことをやらないとうまくいきません。非常に演劇的な、お芝居としての俳優の魅力、技術、いろんなものが必要な舞台だし、それを楽しんでもらえたらと思いますね。
──矢崎さん、舞台に立つことの魅力は?
矢崎 やっぱり舞台って、お客様の目がカメラで、それが何台もあるようなものなので、お客様全員を騙すためには、キャストの皆さんと協力して作らないといけない。その、みんなで作ったものを観ていただくというのが舞台の魅力でもありますし、僕自身、そこを頑張っているところです。
──今、稽古場で皆さんと一緒に動き始めて、新たな発見などは?
矢崎 発見だらけです。今回の稽古場は、河原さんもスタッフさんも、キャストの皆さんも素晴らしくて、すごい先輩方がいっぱいで、本当に勉強になります。稽古場で毎日毎日、お芝居に対する考えが変わっていってる状況です。それでもまだまだですが、役者としては本当に充実した、幸せな稽古場だなと思います。
河原 やっぱり稽古場で役者さんからもらうものが大切なので、ある程度のアウトラインだけ考えて稽古場に入ってます。今回は矢崎君もそうだけど、若いイケメンの俳優さんは、顔が良いって損なこともあるなと改めて思います。たとえば日根の役は元々、三上市朗さんに当て書きされてるものですから、矢崎君とは全然違うタイプで、難しいんじゃないかなと最初は思っていたんです。美形ってお客さんもなにかと気になるから、「ここは存在が消えていたほうがいい」というところでも、上手く存在が消えないんですよね。それにハンサムは、威力もあるけど、顔に頼っちゃうところがあるから、まず役として入らないと。そこにいくと、味と技量で勝負してきたベテランの人たちは(笑)。
矢崎 強いですよね。
河原 きちんと役作りから入る。だからハンサムの人たちは本を理解するということを、より深くやらないと、この世界観に浮いちゃう可能性もあるから、そこはハンデかなと思います。でもその分、役になり切れた時はよりハンサムが活きる。今、稽古場でみんなと動いたり、矢崎君もいろいろ考えてきたり、稽古場で修正したことを直してくれたりしていて、最近「大丈夫になるな」と。矢崎広でやる意味のある『黒いハンカチーフ』にもっていけそうな感じになってきたなと。
矢崎 頑張ります。
河原 矢崎は真面目だから、稽古場でも一人で台詞をブツブツ言ったり、物憂げな顔で芝居をよく考えてますが(笑)、主演は「現場の居方」というのがあって。
矢崎 はい。
河原 大変なんですよ、やっぱり主演って。現場の雰囲気作りに大きな影響を与える立場ですから。とにかく、にこやかに、大らかに。主演がナーバスになると現場がナーバスになるわけで。でも最近ちょっと余裕が出てきた気がします。
矢崎 本当ですか。ありがとうございます。

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作品の時代に観客をタイムスリップさせる

──今のお話を受けて、役を自分のものにするために、現段階でどんな苦労が? 
矢崎 苦労するところは、本当に僕からしたらすべてです。時代もそうだし、空気感とか、関わり方とか、年齢とか。
河原 句読点もね。
矢崎 句読点とか(笑)。課題だらけからスタートして、でもそのなかで光というか、頑張りたいなと思っているのは、周りの皆さんが、今回僕が主演ということで、愛をもって接してくれているので、それに応えたいと。たとえば河原さんにダメ出しをいただいて、へこんでいるだけだったら何も動かないので、言われた時こそ頑張ろうかなと。「間違ってもいいから思い切りやろう」という状態に、皆さんにしていただきました(笑)。
──今回、三上さんも出演者ですが、良い影響もプレッシャーもあるのでは?
矢崎 本当にそんな感じです。プレッシャーもありますし、心強さもあります。
──役作りのなかで意見を聞いたりしますか?
矢崎 先日、日根についてアドバイスしていただきましたが、「だけどお前がやれよ、でもわかんなくなったら聞いてこいよ」と言われました。要は「お前もっと頑張れよ」ということで、三上さんだけじゃなく、皆さんそう仰ってくれるので、応えていきたいです。
──今回、役作りに関して考えているのは?
矢崎 河原さんからも勧めていただいた作品とか、あの時代の映画をたくさん観ようと思っていますし、どんどんハマっていってる状態です。やっぱり、あの時代の俳優さんはカッコいいなと。色気があるというか、男が憧れるところがありますね。
──お客さんに対して届けたいものは?
矢崎 ある意味、『黒いハンカチーフ』という作品の時代にお客様をタイムスリップさせたいというか、僕と同世代のお客様もいると思いますし、僕より若い人も観ると思うので、こういうお芝居の、日常とまた違ったところ、僕がその時代の映画を観て「面白いな」と思う感覚を楽しんでいただけたらと。そのためにも、頑張らなきゃいけないんですけど。
河原 この作品はとても上質なエンターテインメントですから、メッセージ性とかではなく、シンプルに観る人が楽しんでもらえるものになればいい。それを心がけていますし、矢崎君もそれにチャレンジしています。たぶん、お客様が観たことがない矢崎広なんだろうなと。縁があって仕事をする時に、何かそういうものを、お互いに残していきたいと思いますし。
矢崎 はい。
 
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「作り過ぎでちょうどいい」ぐらいのエネルギーで

──この作品は騙されるのを楽しみに、という感じでしょうか。
河原 騙すことって、すごく難しい。演技しすぎちゃうと嘘に見えるし、しないならしないでつまらない。良い映画って、ストーリーを知ってても、何回観ても面白いじゃないですか。生身の人間がやると、つい頑張りがちですが、騙す側も騙される側も本当にいい塩梅で助け合って、「これ嘘なのかな?」とか、あんまり見る側に考えさせちゃダメなんですよね。
──コメントで「重厚でポップ」と仰ってましたが、手ごたえは?
河原 小粋な感じ、目指してます(笑)。M.O.P.さんのは重厚だけど、今回はそんな部分ももちろん大切にするとして、結構ポップな仕上がりになると思います。
──若いキャストの方がかなり入っていることが大きい?
河原 若い人も入ってるし、鳥肌(実)さんとか、いろいろ無責任な人も入ってます(笑)。
矢崎 (笑)。
河原 マキノさんの劇団だったらクビにされちゃうだろうけど(笑)、プロデュース公演で7回で終わっちゃうし、みんな楽しんでやってるんじゃないですかね(笑)。ベテラン陣はなにせお芝居ができる人たちだから。
─―矢崎さんと鳥肌さんが並び立つビジュアルとか面白いですよね。
矢崎 僕も出会ったことがないタイプの方だと思います。鳥肌さんって、本当に魅力が詰まっているというか。
河原 鳥肌さんはすごいです。「この役を一生やればいいのに」という、当たり役と出会ってしまいました。あの人が一番、これから『黒いハンカチーフ』をやりたがると思う(笑)。巨大な敵を小粋に騙すところがこの作品の面白さ。敵は怖いほうがいいし、憎いほうがいいし、「コイツは悪い」という奴であればあるほど、観てるほうは痛快なんですけど、鳥肌さんはそれにふさわしい。
矢崎 あはは(笑)。
河原 第一声から、「コイツはなんとかしたほうがいい」(笑)。
矢崎 鳥肌さんは「隙」みたいなところがあって、そこが、僕が観客として観ていたらすごくチャーミングで可愛いなと思います。つけ入る隙がないわけではない、良い隙というか。
河原 その前に騙さなきゃいけないのは、伊藤正之さんで、伊藤さんってカチッとした印象があるけど、ものすごいチャーミングな方なんです。チャーミングやくざです(笑)。
矢崎 (笑)。
河原 思わず「騙されて可哀想だな」という気になっちゃうから。けど、一見チャーミングな人って怖いんですよね。ニコニコ笑って実は怖いとか。伊藤さんも鳥肌さんとタイプが全く違う一幕の巨悪ですし、面白いんじゃないですかね。昭和の作品って、良い俳優はすべて生命力がある。二枚目だからスターになっているわけじゃない。宍戸(錠)さんや(菅原)文太さん、みんな人間力というか、生命エネルギーが強い人がスターだった時代だから。今回の場合で言うと、「芝居がかっている」と言うとなんですが、「作り過ぎでちょうどいい」ぐらいじゃないと、あの時代感があまり出ない。稽古の最初のほうは、みんなどっちかというと現代的でしたが、その辺を意識してもらった途端にこの作品独特の面白味がいっぱい出てきている。矢崎君や詐欺グループの人たちも大事だけど、悪役を始め、すべての登場人物がが魅力的に見えるというのが重要で、それを楽しみながら作っています。

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原雅彦・矢崎広

かわはらまさひこ○福井県出身。92年にネオ演芸集団「HIGHLEGJESUS」を旗揚げ。構成・演出を手がけ、その刺激的でエンターテインメントを追求するパフォーマンスで世間に衝撃を与える。02年に解散後は俳優、脚本家として活躍。舞台演出家として06年にシス・カンパニー公演『父帰る/屋上の狂人』で第14回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。

やざきひろし○山形県出身。04年にミュージカル『空色勾玉』でのデビュー以来、映画、テレビドラマに出演するほか、声優としても才能を発揮。12年に舞台『MACBETH』で単独初主演。以降、ミュージカル『薄桜鬼』など主演作多数。今年も『SAMURAI7』『タイタニック』『嵐が丘』『女中たち』など、ますます精力的な舞台活動を続けている。

〈公演情報〉
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『黒いハンカチーフ』
作◇マキノノゾミ
演出◇河原雅彦
出演◇矢崎広、いしのようこ、浅利陽介、村岡希美、吉田メタル、鳥肌実、三上市朗、伊藤正之 ほか
●10/1〜4◎新国立劇場 中劇場
〈料金〉SS席8,800円 S席7,800円 A席5,500円(税込)
※SS席は、先行販売のみ取り扱い
〈お問合わせ〉る・ひまわり 03-6277-6622
http://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00350


【取材・文/内河 文 撮影/アラカワヤスコ】


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