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フロイトやユングと並ぶ「心理学の三大巨頭」と称されるアルフレッド・アドラー。彼が提唱するアドラー心理学を岸見一郎・古賀史健がまとめた1冊「嫌われる勇気」は、“青年と哲人の対話”という物語形式を用いてわかりやすく書かれ、若者にも人気のベストセラーである。その原作をモチーフにした同名の舞台が、9月26日から赤坂レッドシアターで上演中だ。(10月4日まで)
 
アドラー心理学とは、「どうすれば人は幸せに生きることができるのか」という哲学的な問いに、極めてシンプルかつ具体的な“答え”を提示してくれるもので、その思想をモチーフに、昨年、第22回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した和田憲明が作・演出を手がけ、ある殺人事件とそれに関わる人間たちのサスペンスフルな会話劇に作りあげている。その劇中でアドラー心理学の研究者・香月教授に扮するのが利重剛。10年ぶりとなったこの舞台への抱負とともに、かねてから興味を持っていたというアドラーのことや彼の心理学についても話してもらった。

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アドラー心理学には以前から興味があった

──10年ぶりの舞台出演ですね。
そうなりますね。でも別に映像だけをやりたかったということでもなくて、たまたまお誘いがなかっただけで(笑)、作品次第では出る気持ちはあったんです。
──今回の作品はどんなところに興味を引かれましたか?
最初にお話をうかがったときは、なぜ僕に?と(笑)。そしてプロデューサーと和田憲明さんに会って話をうかがいました。そのときは簡単なストーリーラインはありましたが、どの役とは決まっていなくて、作品に参加していただけますかという感じでした。そのとき、話の中で和田さんが「自分と合う方はあまりいなくて、だから自分も出演してくれると決まるまでは、極力相手に興味を持たないようにしている」と。それに周りからの情報で、現場はきついとか、稽古場では泣いている人が多いとか、マイナスなことばかり入ってきて(笑)、自分が引き受けなきゃならない理由はとくにないなと(笑)。でも、和田さんがあまりにネガティブなことばかり話すので、ものすごく正直な方なんだろうなと思ったんです。台本も「僕は稽古初日までに出来上がってないとダメなほうなんですけど」と聞いたら、「稽古初日に本があがるように努力したいと思います」って(笑)。確約もしないけど間に合わないとも言わない。やっぱり正直なんだなと。これは話に乗ってみようかなと思いました。
──その段階でアドラー心理学とか、原作にあたる「嫌われる勇気」などへの興味は?
心理学はもともと好きな世界でしたし、フロイトやユングについては以前から識っていましたが、ここ2年ほどアドラーの名前をよく耳にするようになって、そこから自分でも読んだり調べたりしていたんです。そういう意味では、興味ある世界が題材になっているなと思いました。
──和田さんは、その原作から現代の日本で起きた殺人事件に作り直しているわけですが、台本を読んだときはいかがでした?
最初は、すごく面白いなという感覚ではなくて、観る人にとってきっと面白いんだろうなと。そして、これが和田さんの世界なんだなという感じでした。

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心理学を伝えながら人間として教授を存在させる

──利重さんが演じる香月教授は、心理学などの専門用語が多いと思いますが。
そこがとても難しいですし、とても面白いです。たとえば弁護士とか検察官とかを演じるよりはるかに難しく、はるかに面白い。というのは、台本を記憶してそれを説得力あるようにしゃべるのは役者の基本なんですけど、この役は言葉の強さ1つで意味が変わってくるんです。香月は精神科医ではなく心理学科の教授ということで、多少人間的な部分があってもいいのですが、ニュアンス1つで相手に与える印象が変わってしまうので、アドラー心理学的に考えたときに「これは普通に言いすぎていないか」とか「ちょっと強く言いすぎて、相手に介入してはいないか」とか、そういうことまでアドラー心理学と照らし合わせて自分の言葉を考えてしまうんです。
──カウンセリングの相手ある陽子さんへの言い方が、とても意味を持ってくるわけですね。
あまり熱を入れてしまうと説得になる。すると香月がまったく違うキャラクターになってしまう。劇中でも「課題の分離」という言葉が出てきますが、相手の課題にまでは介入しないという立場ですし、自分は自分の責任で考えを伝えますが、相手が「いや、聞きたくありません」と言ったら、それ以上は突っ込まないというルールが役の中にあるんです。それが役作りだけでなく台詞の1つ1つにまで全部影響してくる。そういう意味ではとても難しいけど面白いです。毎日の稽古で陽子役の黒澤(はるか)さんの反応1つで、待つ間が長くなったり短くなったりしています。
──劇中でアドラー心理学についての解説も出てくるわけですが、それを伝えるとともに、教授も演じなくてはいけないわけですね。
とても大事なところをまかされていると思います。アドラー心理学を伝えながら、人間としてどう香月を存在させるか。解説者ではなく1人の人間として存在させないといけないので難易度が高いです。

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毎日自分を揺らしながら新鮮にやること

──その難しい専門用語の台詞がすでに入っているという共演者の証言もあって、すごいなと。
(笑)いや、覚えるのはそんなに苦労しないんです。永年役者をやってますと経験だけはありまして、10代の頃など、TVドラマはマルチカメラという5台くらいのカメラで撮っていて、初めのCMまでのワンシーンを全部通して撮るとかありました。それをリハーサル1日で次の日に本番をやらなくてはいけない。立ち位置も決められて、この台詞でこのカメラ見るとか決まっていて、それで1日中撮影するわけです。だから台本1冊を3日くらいで覚えるというのは毎週のようにやっていたわけです。そういうことをやっていたおかげで台詞覚えだけは慣れているんです。
──さすがのキャリアですね。今回、和田さんの演出を受けていかがですか?
とにかく毎日自分を揺らしながら新鮮にやってくれ、というのが和田さんの演出ですから、台詞を覚えたからそれでいいというわけではないんです。そして1つの正解に向かっていくというよりも、毎日違っていていいと。そういう意味では、和田さんの意識との擦り合わせをしている毎日です。とにかく千秋楽まで役者を絶対に安心させないという強い意志を感じます(笑)。ですから台詞のことだけで言えば、ただ覚えて言うだけなら絶対に間違えない自信はあるんですが、今回は稽古で必ずと言っていいほど間違えるんです。間違えるきわきわのところでやらないと許してくれないんです。一度完璧に覚えてみごとに説明してみせたら「すごい芝居くさい」と言われてしまいましたから(笑)。「自分で本当に考えて話してほしい」と。そのかわり少しくらい噛んだり間違えたりしても許してくれるんです。
──役者さんとしてかつてない追い詰められ方をしている感じですか?
いや、これは僕のキャラなのか、追い詰められている感じはないんです。呑気なのか(笑)。
──役柄についてはすっかり把握されているようですね。
まだ全部はわかっていなくて、こういう部分もあるのかなとか毎日少しずつ発見することを楽しんでいるところです。そこがしょっちゅう舞台をやっていないからこその楽しさというか、たとえば毎日同じ台詞を言えることも楽しいんです。今日は違う言い方にしてみようかなとか、ちょっと違う言い方をしてみたら、それに対して意見を言ってもらえる。そういうことは映像にはないので、至福の時間です。

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人間への信頼と目の前にいる人を大事にする哲学

──アドラー心理学の話に戻りますが、読んでいるとポジティブになれる本だと言われますね。 
ポジティブな部分と厳しい部分があると思います。でも面白いです。いわゆる「心理学三大巨頭」の中では、以前はユングに興味がありましたが、今はアドラーが一番好きです。友だちになりたいというか、カフェでお話ししたい人です(笑)。彼の人間への信頼と、目の前にいる人を大事にするという考え方がいいなと。実際に開業医でしたし、小学校などでカウンセリングしたり、人と対話してその人にどういう言葉が一番効果的かということを考えていた人です。ある意味、キリストとかお釈迦さまに近いのではないかと。目の前にいる人にとって一番役に立ちそうなことを言ってあげた。それに弟子たちや周りの人たち、後世の人たちが感動した。アドラーもそれに近い人だと思います。
──そういう解説を聞くと現代の若者に人気があるのがわかります。どこかで自分を分析して肯定してほしいのかなと。そこを和田さんが作品にどのように落とし込んでいるか、楽しみです。
面白いことに和田さんは稽古場でけっこう怒鳴る人だと聞いていたんですが、怒鳴らないんです。それはきっとアドラーのせいではないかと(笑)。「人間は怒りを捏造する」とか「感情を出し入れできる道具である」とか、原作にも出てくるので(笑)。よく呟いてますからね「分離しなきゃ、分離しなきゃ」と(笑)。そこまで和田さんは体の中に入れて本を書いたわけで、そしてとても苦労して書かれたぶん、アドラー心理学がわかりやすく面白く観客に伝わると思います。
──最後に利重さん自身の抱負もぜひ。
久しぶりの舞台で、実は来年もまた舞台をやることになったのですが、そういう時期なのか、呼ばれる時期なのかなと。呼ばれた以上は、ちゃんとしたものをお見せしたいと思っています。

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りじゅうごう○神奈川県出身。岡本喜八監督『近頃なぜかチャールストン』(81年)で映画デビュー。近年の主な出演作に、映画『SPEC〜天』(12年・堤幸彦監督)『ホットロード』(14年・三木孝浩監督)『この国の空』(15年・荒井晴彦監督)、ドラマ『チーム・バチスタ』シリーズ(08〜11年 CX)『ATARU』(12年 TBS)『クロコーチ』(13年 TBS)『全力離婚相談』(15年 NHK)。主な監督作品に映画『BeRLiN』(85年)『クロエ』(01年)『さよならドビュッシー』(13年)などがある。舞台は『猫と庄造と二人の女』(05年 木野花演出)以来10年ぶりとなる。

※キャストの愛加あゆさんのインタビューはこちらです 
http://blog.livedoor.jp/enbublog-journal/archives/1845816.html 

〈公演情報〉
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ウォーキング・スタッフ・プロデュース
『嫌われる勇気』
原作◇岸見一郎・古賀史健(「嫌われる勇気」ダイヤモンド社刊)
脚本・演出◇和田憲明
出演◇利重剛、小嶋尚樹、愛加あゆ、黒澤はるか、伊達暁
●9/26〜10/4◎赤坂レッドシアター
〈料金〉¥4,800 学生¥3,000(全席指定・税込)
〈お問い合わせ/チケット〉atlas 03-5413-4815




【取材・文/榊原和子 撮影/岩村美佳】


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