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近松の名作をベースに、“究極の愛”の物語が始まる――。
遊女小春、紙屋治兵衛、その妻おさんの三角関係を見事に描いた近松門左衛門の『心中天網島』。これをもとに、88年の来日以来、緻密で現代的な視点で日本演劇界に衝撃を与え続けるデヴィッド・ルヴォーが演出する“究極の愛”の物語が、2月29日から梅田芸術劇場シアター・ドラマシティを皮切りに上演される『ETERNAL CHIKAMATSU ―近松門左衛門『心中天網島』より―』である(3月6日まで。東京公演は3月10日から27日)。

やむなく売春婦をしている女が馴染み客と命がけの恋に落ちるが、周囲の反対を押し切って思いを遂げることはできないと、女は嘘の愛想尽かしをして男と別れる。自暴自棄で街を彷徨う女は、かつて遊女の涙であふれたという蜆川(曽根崎川)で自分と似た境遇の遊女に出会う。江戸と現代、二つの世界が今ここに結び合う…。
キャストは、売春婦のハルに深津絵里、遊女小春に中村七之助。小春に入れ込む治兵衛の妻おさんとハルに入れ込む夫ジロウの妻アキの二役に伊藤歩、ハルの店の客引きの婆と江戸時代の謎の爺の二役に中嶋しゅう、ジロウの兄イサオと治兵衛の兄孫左衛門の二役に音尾琢真。実力派に加え、それぞれ独自の魅力を放つメンバーが、この幻想的でドラマティックな愛の物語を紡いでいく。

1月27日、この制作発表が都内で行われた。会見には演出のデヴィッド・ルヴォー、キャストの深津絵里、中村七之助、伊藤歩、中嶋しゅう、音尾琢真が出席。それぞれから挨拶の後、質疑応答が行われた。

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デヴィッド・ルヴォー、中嶋しゅう、深津絵里、中村七之助、伊藤歩、音尾琢真

【挨拶】
 
デヴィッド・ルヴォー また東京に戻ってこれて大変嬉しいです。この作品の発端となった企画自体はかなり前のもので、私が幸運にも(十八代目中村)勘三郎さんと出会えたことで、プロジェクトが立ち上がりました。当初勘三郎さんと話していたのとはまた別の形ですが、作品の中に勘三郎さんと話した元々の思いは詰まっていると思います。作品の核となるのは、近松が描いた時代の登場人物を通して、現代の日本が過去の時代を手を結ぶようなイメージをもっています。愛するとは何か、どうやって愛するのか、愛とはを問われる作品です。近松に代表される詩人、芸術家たちが私たちにくれた“地図”をもとに、この世界をもう一度自分たちで見直してみようと。過去と現在の議論であり、出会いの作品になると思います。
深津絵里 こんにちは。深津です。よろしくお願いします。
中村七之助 この作品に出会えましたこと、また、まず一歩、うちの父親(十八代目勘三郎)の遺志を受け継げましたこと、息子として大変嬉しく思っています。一生懸命やらせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
伊藤歩 現代のアキと過去のおさんを演じさせていただきます、伊藤歩です。ここに来る前にアキが復活すると聞いて動揺していますが(笑)、二役を、過去と現在という意味で、どういう風な輪廻で繋がっているのか、また現代と過去がどう違ってくるのか楽しみにしながら、お稽古に励んでいきたいと思います。
中嶋しゅう 二役なんですが、僕の中では一役だと思っていて、まさに近松ということで、遣り手婆のほうはちょっと現代に遊びにきたのかな、なんて考えてます。どうぞよろしくお願いします。
音尾琢真 二役ということで、せめて爺、婆じゃなくて役名がついていてよかったなと思っております(笑)。どうぞよろしくお願いいたします。


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【質疑応答】
 
――どういった思いで、このポスターを作り上げましたか。
ルヴォー 最初は、日本の現代の若い女性であるハルさんと、まるで幽霊のような過去からの残像である小春さんが、近い関係でこのイメージの中に納まる必要があると思いました。この二人が時を超えて出会い、相手に自分を見つけ、二人が愛について探っていくストーリーになると思います。この話では、現代のハルさんも事情により売春婦として働いている経緯があり、過去の小春さんも近松の中で描かれているように同じく遊女という身分。女性の在り方、女性として生きることはどういうことなのか、社会の中で女性として見られるとはどういうことなのかを問うていきたいと思います。もちろん、女性の役を女性が演じること、女性の役を男性が演じること、この二つが同時に舞台に存在する時に生まれる緊張感や深みというものを、今からリハーサルで探っていきたいですし、ここが作品の面白いところだと思います。
――勘三郎さんの息子さんの七之助さんをキャスティングできたことはいかがですか。
ルヴォー とてもありがたく、特権のように感じています。数年前にはこんな経験をいただけるとは思ってもいませんでした。幸運にも七之助さんの舞台を拝見し、その作品がとても素晴らしかったのをよく覚えています。その時に観た、歌舞伎の皆さんのもってらっしゃる強い魂が印象的で、今回七之助さんがその魂をもって一緒に作品を作ってくださることはとてもありがたい。私はロマンティックな人間ではありませんが(笑)、どこか運命というものは信じています。その意味で、今回のリハーサル、この作品を七之助さんとできることは、とても意義深いものと感じています。
――オファーを受けた時はいかがでしたか。
深津 この企画を伺った時、これまで何度も上演されている近松の話を、デヴィッドさんが一体どういう風に演出されるのか、非常に興味をもちました。そして、なかなか共演する機会のない七之助さんとご一緒できると聞き、とても嬉しくてワクワクしたのを覚えています。近松の愛の渦というか、すごくドロドロとしたところに私も身を置き、ボロボロになれるのかと思ったら、現代の今を生きる女性を演じるということで(笑)。これはデヴィッド版の近松のオリジナルのキャラクターなんですね。私のキャラクターだけではなく、デヴィッドさんのあふれ出るアイディアが至る所に散りばめられていて、とてもユニークな作品になるのではないかなと。お稽古が始まって間もないので、まだまだこれからですが、素敵な共演者の皆さんと一緒にたくさん知恵を出して、たくさん愛情をかけて、デヴィッド版近松をよりよい作品にできるといいなと思います。
――七之助さんと稽古を始めてどんな印象ですか。
深津 まだ信じられないような気持ちですが、七之助さんは本当に軽やかな方で、すごく美しいんですよね。もちろんお姿も美しいですが、ものを作る姿勢が素晴らしくて、一緒にお芝居を一から作っていけることの喜びを、お稽古場で感じています。
――舞台に立つと、七之助さん相当美しいですから、そこに負けては。
深津 もう、すでに負けてるので(笑)。そこはあがかずに、その美しさを自分の中にも取り入れたいと思います(笑)。
――現代劇の舞台に立つのはもしや初めて?
七之助 こういう大きな作品に出させていただけるのは、初めてかもしれません。
――もしかして現代人の役ではというのはありましたか。
七之助 ありました。男(の役)が来たらどうしようと、意味不明なことを思いました(笑)。僕は男ですけど、長年女形をやっているので不安でしたけど。
――ストレートプレイの中で江戸時代の女性を演じるのは、違うものはありますか。
七之助 手法は違えど、根っこは歌舞伎もストレートプレイも一緒だと私は思っておりますので、そこはあまり構えずできますが、現代と江戸時代の小春とハルが出会うところとか、いろいろな現代のパート、江戸時代のパート、私も現代の俳優さんとの兼ね合いも考えて、父親がよく言ってた「型があって破るから型破りなんだよ、型がない人が破ったらただの形(型)なしだよ」という言葉を肝に銘じて、私も型も一生懸命勉強していますが、この稽古で突き破れるように、いろんなことを試して、守りにならないよう、いろんな方とセッションしていきたいと思います。
――ダメ亭主を献身的に支える妻の役ですが、どんな風に捉えていますか。
伊藤 江戸時代の女性の立ち位置などを含めて考えると「わからないでもないな」というシチュエイションですが、私が演じるおさんは「死にさえしなければ、戻ってきてさえくれれば私はいつでもあなたを支えます」という度量の深い女性ですが、そこの境涯にまで辿り着けていないので(笑)。昨日お稽古中にデヴィッドさんが仰っていた「愛の形は人それぞれ、またタイミングによってさまざまな形を表す」。その感情の、愛の形を私なりに治兵衛さんからいただくものや、小春さんとの通じ合い、いろんなところで表現していけるように努力したいと思います。
――簡単に言えば、七之助さんとご主人を取り合う関係ですが。
伊藤 本当に、降参です(笑)。
七之助 “公開処刑”みたいの、やめてください(笑)。
伊藤 そこを比べられてしまうと、私も同じ着物をきてきっとお芝居をするのであろうと思いますが、少しでも足を引っ張らないように、美しさは絶対敵わないと思うので(「いやそんなことない…」と七之助)、そこではない愛の深さを深めていって、おさんと小春、どっちが愛が深いのかということを競い合っていけたらいいなと思います。
――現代で婆、江戸時代で爺という、長い役者人生の中でも楽しそうな役ですが。
中嶋 あんまり婆、爺ってわけて考えてないんです。一役だと思ってて、現代に出てくる遣り手婆というのは、デヴィッドも言ってたけど、ちょっといたずらっぽかったり、近松って。「現代のお茶屋さんはどんな風になってるのかな」みたいに遊びに来たんじゃないのかなってイメージです、今は。
――過去でも現代でもダメな弟を救う兄、いいキャラクターですね。
音尾 これはおいしいところをいただきましたね、正直言って。しかも深津絵里さん、七之助さんという、二人それぞれに、マンツーマンでお芝居をさせてもらえるシーンがありましてね。役者にとってご褒美とは、いい作品で素晴らしい俳優さんと向き合ってお芝居をすることだと私は思っておりますので、かなりのご褒美をいただきました。
――演じ分けも楽しみなのでは。
音尾 まだ模索中ではありますが、どうにか見つけていければいいなと。自分一人で出せるものではないので、目の前の素晴らしい俳優さんに引き出していただこうかなと思っておりますので、全幅の信頼をおいて、美しい七之助さんに頼っていきたいと思います。
七之助 やめてください(笑)。
――稽古が始まって、深津さん、伊藤さん、中嶋さん、音尾さんの印象は。
ルヴォー 実は以前にも絵里さんと働きたい思いはあって、その時は叶いませんでしたが、今回こうして叶いました。私が演出家として最も嬉しい瞬間は、素晴らしい役者さんの素晴らしい演技を見られること。とてもありがたいことに、ハルという役どころ、そして絵里さん自身も、1人の人物の多様性にとても優れた能力をもっていて、役の深み、多重性、多様性を余すところなく表現していただけると思っています。今回のキャストで、1人だけ一度過去にご一緒したことがありますが、ほとんどまったく初めてなので、ニューチームで今回臨んでいます。昨日初めて本読みがあり、役者さんの声を初めて聞いて、なんといいキャストに集まっていただけたのかと。このプロジェクトはちょっとロックンロールな感じというか、情熱や勇気、演じるスピリットが必要になってくる作品で、それをもった役者さんに今回来ていただけたと思っています。
――舞台転換などはどのような手法で?
ルヴォー 歌舞伎を観ていつも、とてもシンプルな道具やセットの使い方をしていることに強い感銘を受けていました。そして現代劇も、近年になるにつれステージ上はよりシンプルになってきていると思います。抽象的な空間にして、現代の歌舞伎がここに甦ればと。舞台上の奥にデザインの入った幕を吊るし、あとは橋を出すという、本当にシンプルなセットを考えています。とても抽象的なスペースで、全部を写実的に描くというよりは、とても現代的なアプローチです。舞台上には常にトリオの音楽の方にいていただいて、音楽も対応していくつもりです。私にとって今回の舞台上は、情熱の場と捉えています。もしかしたら映画を観ているような感覚かもしれませんし、舞台の在り方やイメージは作中でどんどん変わっていくことになると思います。
――稽古中に楽しみにしていることは。
深津 すべてですね。デヴィッドさんとの仕事ももう二度とないかもしれないし、とにかく今を精一杯生きるという感じで、七之助さんと共演することももしかしたらもうないかもしれませんし(笑)。それがとっても楽しみです。
七之助 深津さんに「もう一度やりたい」と思われるように、一生懸命やりたいです(笑)。近松の作品を歌舞伎役者で、デヴィッド・ルヴォーさんに演出してほしいというのが父の願いでしたが、それを遥かに超え、谷賢一さんという現代の作家さんも入り、今を輝く俳優さん女優さんが入り、歌舞伎役者も入り、音楽はジャズという話も聞いてますので、父が描いていたよりもっともっとスケールの大きいものになっているので、稽古が楽しみです。一日一日を楽しんで、後悔のないように生きていきたいと思います。
伊藤 深津さんが仰ったように、瞬間瞬間が楽しみですし、糖分が必要になってくるので、どんなスイーツをもってこようかなというのも楽しみの一つです(笑)。
中嶋 昨日本読みを聞いてて、七之助さんの歌舞伎の台詞の言い方。あんなに間近に聞いたのは初めてだったので。近松なんですが、そういうニュアンスの、世話物的な歌舞伎っぽい言い方もあって、昨日七之助さんに相談して、本当はどういう言い方なのか、本物のを聞いたら、そういう方を紹介していただいて、一度ちゃんと聞いてみようと思っていて、今はそれが楽しみ。やったことがないので、自分が真似てやった時に、歌舞伎の台詞が自分の中でどう入ってくるんだろうというのが楽しみです。
音尾 毎日の稽古で、デヴィッド・ルヴォーさんがどんな演出を次々と繰り出し、どんなものが生まれていくのかをこの目で日々確かめるのが楽しみで仕方ありません。
――七之助さんから見た深津さんの第一印象は。
七之助 何回かお目にはかかっていて、もちろん綺麗な方というのは大前提で、すごくミーハーな意見で申し訳ないのですが、僕は『踊る大走査線』のすみれさんのイメージがすごく強くて「わぁ、すみれさんだ」というのが第一印象です(笑)。テレビで活躍なさってる女優さんで、舞台で「やっぱりテレビの方だな」と思うことが多かったのですが、深津さんの舞台を拝見して「舞台もできるんだ」というのもありましたし、映画の『悪人』でも素晴らしい女優さんだなと。映像もできて舞台もできる女優さんというのは、なかなか私が知る限りでは少ないと思いますので、尊敬できる大先輩です。
――お稽古前にルヴォーさんにお会いされた時は、どのようなお話を。
深津 ロンドンでお会いする機会があり、その時にこの企画を聞かせていただいて、1時間くらいでしたか、ホテルのロビーで。ほとんどデヴィッドさんがしゃべって(笑)。「こういうことをやりたい」というアイディアを、次から次へと、目に見えるくらい脳からあふれてるようなパッションを感じて。最初、私は女性なんだけど、もしかしたらある瞬間に男になるかもしれないというアイディアをロンドンの時に仰って「なるほどこれはとても面白そうだな」というお話と、なぜ近松というものをやりたいかというお話を、お父様(勘三郎)のお話とか、何度かお父様とお食事させていただいたこともあったりして、どこか繋いでくださったような感覚がありました。


〈公演情報〉
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『ETERNAL CHIKAMATSU―近松門左衛門『心中天網島』より―』
作◇谷賢一
演出◇デヴィッド・ルヴォー
出演◇深津絵里 中村七之助/伊藤歩/中嶋しゅう/音尾琢真 ほか
●2/29〜3/6◎梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
●3/10〜27◎Bunkamuraシアターコクーン
〈料金〉
大阪公演 11,500円(全席指定・税込)
東京公演 S席11,500円 A席9,000円 コクーンシート6,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉
大阪/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 06-6377-3888
東京/梅田芸術劇場 0570-077-039

【取材・文・撮影/内河 文】



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