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現代アメリカ演劇界の生ける伝説エドワード・オルビー、『ヴァージニアウルフなんかこわくない』などで知られる作家だが、彼が書き下ろし、1975年にピューリッツァー賞を受賞した『海の風景』を、この3月末から松本、東京、神奈川、兵庫、能登で上演する。

背景となるのは太陽が燦々とふりそそぐ海辺の砂浜。子育ても終わり、自由になった喜びに満ち、なんとか「これからの自分たち」に夫の気を向かせようと必死の妻ナンシー(草笛光子)だが、リタイアし、余生をゆっくりと過ごしたい夫チャーリー(串田和美)には一向に受け入れてもらえない。そこへレスリー(池田鉄洋)とサラ(小島聖)という若い夫婦が登場して、奇妙な会話が始まる…。
2組の夫婦の対話を通し、我々が送る家庭生活は賢明なのか、人類に明るい未来はあるのか、という深刻な命題を笑わせながら提示する傑作戯曲だ。

出演するのは草笛光子、串田和美という日本演劇界を牽引してきた2人、そしてコメディユニット「表現・さわやか」を主宰し、作・演出家・俳優としての活躍も著しい池田鉄洋と、正統派演劇の舞台を数多く経験している小島聖。いわば大人のファンタジーともいえるこの作品について小島聖・池田鉄洋コンビに語ってもらった。

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夫婦の間ではわけのわからないことが

──この作品はちょっとシュールな設定になっていますが、最初に読んだ印象はいかがでしたか?
小島 最初は単純に夫婦の話だなと思っていたのですが、紐解けば紐解くほど、深い話だなと思いますし、それを演じる難しさも感じているところです。
池田 僕はこんな難解な芝居は初めてですから、どうしようかなと思ったし、串田(和美)さんの演出について色々な俳優さんたちに聞いたりしていたのですが、いざ稽古をしはじめたら、「あ、すごく面白いな!」と。謎解きではないのですが、言葉に深い意味と全然深くない意味があることがわかってきて、たとえばある言葉の響きが面白いから、それで使わせているだけなんだということもわかったりしたんです。だから、たぶんお客様も考えるというよりも、まず楽しめばいい芝居なんだと思います。
小島 もちろん演じる4人の方向性は一致している必要はあると思いますが、でもそれを観る方にこうですよと言う必要はないし、ある意味、わけのわからなさを楽しんでいただけたらいいなと思います。
池田 串田さんが最初におっしゃっていたんですが、夫婦って端で聞いてたら「なんでそんなことになっていくの?」というような流れになっていったり、ちゃんと話していたものが段々感情的になって支離滅裂になっていったり、みたいなことがあると。受け流したり、へんにこだわったりとか、わけわからないことが夫婦の間ではいくらでもあるわけで。この脚本の中のわけわかんなさの半分は夫婦のわけわかんなさみたいなことなんだと。なるほどなと思いました。
──2組の夫婦が出てきますが、片方は人間で片方はトカゲで、小島さんと池田さんはトカゲなんですね?
池田 はい。格好もトカゲです。
小島 トカゲで出てきます(笑)。
池田 草笛(光子)さんが稽古初日にシルク・ドゥ・ソレイユの『トーテム』のチラシを持ってきて、「こんな感じかしら」とおっしゃったんですが、それ以上にトカゲです(笑)。お客様に俺たちだってわかるかなと心配です(笑)。顔も緑に塗るみたいですから。
小島 ははは(笑)。
──そのトカゲの夫婦がとても仲良いのですね?
池田 仲良いんです。「愛」という概念が言葉としてではなくちゃんとわかっていて、そういう夫婦だからとてもうまくいってるんです。
小島 私の役のサラは、とても普通の女の人の感情を持っていて、感情を素直に出すし、色々なことに興味を持っている。とても共感を持てます。ただ、そこにトカゲという要素が加わったとき、どこまでそれを意識するのかなと。意識することが必要なのかどうかということもありますし。
池田 そうなんですよね。人間っぽくやろうと思えばいくらでも人間に近くやれてしまうので。作者のオルビーが、トカゲの格好をしろということは、「外見がトカゲなのだからあとは人間くさくやっていいよ」ということなのか、むしろ「もっともっとトカゲになれ」ということなのか。やはり人間ではない理由を、ちゃんと落とし込まないといけないなと思っています。

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トカゲの格好は小島聖にとって新しい展開?

──池田さんは夫のレスリー役をどう演じたいですか?
池田 年齢的には自分と近い設定だと思うんですが、気持ち的にはもう少し若い感じかなと。「男たるものは」という気負いとか、「危険がないか見てくるから」と前に出て行くところとか、若い夫婦あるあるの感じですし(笑)。いい意味でオス的な部分がレスリーは強い気がします。
──そう言われると若い夫婦ならではのオスメス感はお二人にありますね。
池田 舞台での(小島)聖は女性性をすごく感じさせる人ですからね。ふだん話しているときは、全然女っぽくはないんですけど。
小島 はははは(笑)。
池田 不思議なんですよ。知り合ってからかなり長いし、共演は今回で3回目なんですが、聖のことはまだよくわかってない。役者としてもずっと不思議な人だなと。感覚で理解して、そこから入って、初日にはすっかり自分のものにして演じてしまうんです。すごい女優さんだなといつも思いますし、この人が同じカンパニーにいてくれたら頼もしいなと。でもコントとかどうなんだろうね?
小島 すごい苦手だと思う(笑)。
──わりと正統派演劇の女優さんというイメージがありますね。池田さんの「表現・さわやか」とかどうですか?
小島 絶対ムリです(笑)。センスないと思うので。
池田 でも今回の格好とか近くない?
小島 (笑)40歳になって初めての役がトカゲというのは、確かに新しい展開かもしれない(笑)。
池田 出落ちに近いくらいのトカゲ感で出ていくからね(笑)。お客様に引かれたら困るんだけど、どうせなら笑ってほしいよね。
小島 笑ってくれたほうが気がラクになる(笑)。
池田 ただ、オルビーさんの意図なのかもしれませんが、最初に登場するときは僕のレスリーだけなんです。絶対にひと笑いくるから、そこは男が引き受けろという(笑)、オルビーさんの女性への優しさかもしれないなと思っているんです。
──小島さんから見て池田さんはどういう役者さんですか?
池田 聖はそんなこと考えたことないでしょ? あんまり他人に興味なさそうだよね?(笑)
小島 いえいえ。共演した2回はどちらも(長塚)圭史くんの作品で、そのときはそんなに舞台上でコミュニケーションが必要な関係性の芝居ではなかったのです。なので今回改めて思ったのは、感覚より理解が先にくる人だなと。
池田 脚本や演出も行っているからなのか、理解してから演じたいと思ってしまって。でもようやくこの頃、それはそれで置いといて、役者では手放し運転でいいんじゃないかと。だから今回もあまり考えずに、役者の感覚だけで演じてみようと思っているんです。
小島 私よりぜんぜん繊細。それにいい意味で厳しさもあって。稽古で慣れてきていい加減なことしたら怒られそうだなって(笑)。
池田 それは前に共演した2作が圭史のカンパニーで、ちょっとそこの準劇団員みたいな感覚で、いつも小難しいことばかり喋ってたから、そういう印象だったんでしょうね。でも他のプロデュース公演に参加するときなんか、もっとユルユルだからね(笑)。今回も日々柔軟なかたちで稽古に向き合っていけるので、小難しくないと思うよ(笑)。
──小島さんは40歳になったということですが、これからまた新たな展開もありそうですね。
小島 年齢を重ねることはぜんぜん嫌じゃなくてむしろ面白いし、来る役柄なども広がっていくだろうなと楽しみなんです。今までは年上の方たちと共演することが多かったので甘えられましたけど、だんだん年下の方たちが増えてきて、いい意味で緊張感があります。今回は草笛さんと串田さんということで、久しぶりにとても安心して、リラックスして稽古場にいられるのが嬉しいです。お二人の場面を見ているだけでも楽しくてしかたないです。

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小道具もセットも要らない草笛さんの存在感

──その先輩のお二人についてですが、聖さんから見た草笛さんの魅力は?
小島 美しいです。佇まいとか姿勢とかすべてが美しい。それに何をされているときもチャーミングで、芯があります。そういう強さがあるからこれだけ長くやってこられたのだろうし。
池田 存在感が素晴らしいんです。舞台美術なんかなくてもいいと思うくらいで、もちろんこれも串田さんがとても素敵な美術を考えていらっしゃるんですが、草笛さんは、ただそこにいるだけで十分なんです。それに、小道具で棒を拾われるんですが、実際の棒なんか要らないくらいで。そういう人がいるところにトカゲで入っていく俺たちって邪魔だろうなと(笑)。まあ、その邪魔な感じがいいのかもしれませんけど(笑)。
小島 草笛さんって大きさを感じます。
池田 そう。存在感の分量がすごいんです。
──夫役の串田さんはその草笛さんのナンシーとどう向き合っているのですか?
小島 串田さんのチャーリーは、穏やかにすべてを受け入れつつ、言うべきことは言うという感じですね。
池田 草笛さんの役が色々しゃべっているときに、チャーリーの「ああ」という一言が、すごく風景になるというか。主役も沢山やってこられた方なのに、ちゃんと風景に同化するような技術も持っていらっしゃる。もちろん演出をされてきた方ならではの視点も感じますし、奥深さを感じます。たぶん、ここまで役者としてがっつり演技をする串田さんと関われる機会は、そうそうないと思いますので、そこはラッキーだなと思っています。

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本当に進化しなくてはいけないのか

──この作品には人間とトカゲという存在を通して、進化論的なメッセージもあると思うのですが?
小島 どちらが進化でどちらが退化かわからないという感じかなと。この間、セットの模型を眺めていたんですが、そのとき砂浜の設定になっているけど、私たちの世界のほうに人間がいるという気もしますし、人間の世界に私たちが入っていくとも思えるし。私はまだそこはちゃんとわかってなくて。
池田 聖はそれを最終的にわかりたいと思っている?
小島 思ってない(笑)。
池田 そうだろうね。聖はわかることが正しいとか正解とか思って演じてはいなくて、そこを僕というか、男性はわりとちゃんとわかってやりたいと思うんです。誤解でもいいから答を持っていたい。でも串田さんはそこは超越していて、そこがすごいなと思います。それからこれが書かれたのは1970年代で、話の中で「文明は嫌な音がする」とレスリーが言っているように、進化はいいと言われてるけど本当に進化しなくちゃいけないのか、文明はかならずしも素晴らしくないかもしれないと。そこは今の時代にもそのまま通用するテーマかなと。でもそういう考えもすべて演じる側には要らないのかなと、聖を見ていると思うけど(笑)。
小島 私はわからないことも楽しんでしまうというか、翻訳物の場合、人種とか宗教などが実感としてわからないことも多いので。ただ、以前ポーランド人の演出家の方のシェイクスピア劇に出演して、よくわからないまま言っていた台詞を、「あなたにとってこのキューピットの矢という言葉を現実に置き換えると何になりますか?」と言われて、そこからわからないなりに自分の腑に落とすようになれた。だからこの作品も自分なりに、今の小島聖の経験の中に落とし込んでやれればとは思っています。
──そんなお二人の夫婦像が楽しみです。最後にお客様へのメッセージを。
池田 この作品は東京以外の場所でも公演するので、観てくださるお客様が今までとちょっと違うかもしれないと思っていて、もしかしたらお年寄りも子供さんも観てくれるかなと。そういうお客様が、どういう反応をしてくれるか楽しみです。ちょっと難解な作品というイメージもありますけど、夫婦の話で、バカバカしさもあるし可愛いなと思えるし、僕らはトカゲですし(笑)、そこも楽しんでいただければ。あとは草笛さんのチャーミングさ、串田さんの素敵さをぜひ観てください。
小島 私のことも観てください(笑)。この作品は進化について考えていただいてもいいし、愛について考えていただいてもいいし、色々な見方のできる作品です。わからないことをぜひ楽しみに観にいらしてください。

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こじまひじり○東京都出身。1989年NHK大河ドラマ『春日局』でデビュー。99年映画『あつもの』で第54回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。コンスタントに映像作品に出演する一方、話題の演出家の舞台にも多く出演。柔らかな雰囲気と存在感には定評があり、感性豊かな表現で見ている人を魅了する。最近の主な舞台は『GS近松商店』(新歌舞伎座)『正しい教室』(パルコ劇場)『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(世田谷パブリックシアター)など。

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いけだてつひろ○東京都出身。劇団「猫のホテル」に20年間所属し12年に退団。舞台、映像で俳優として活躍。04年に「表現・さわやか」を立ち上げ、主宰、脚本家、演出家、俳優の4役を兼ねる。また小説、脚本、演出などその活動は多岐に渡っている。最近の主な舞台は、「表現・さわやか」以外では、『GO WEST』(作・演出・出演)『ドン・ドラキュラ』(脚本・演出)『BACK STAGE』(作・演出・出演)青山円形プロデュース『ア・ラ・カルト2』(出演)『4 four』(出演)など。4月2日に映画「のぞきめ」(三木康一郎監督)公開。4月14日20時からNHK木曜時代劇「鼠、江戸を疾る2」が放送スタート。8月には明治座『TARO URASHIMA(仮)』の脚本を担当する。


〈公演情報〉
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『海の風景』
作◇エドワード・オルビー  
翻訳◇鳴海四郎  
演出◇串田和美 木内宏昌
出演◇草笛光子、串田和美、小島 聖、池田鉄洋
●2016/3/26〜30◎まつもと市民芸術館 実験劇場
〈お問い合わせ〉まつもと市民芸術館 0263-33-3800
●2016/4/3〜10◎シアタートラム
〈お問い合わせ〉地人会新社 03-3354-8361
●2016/4/14〜17◎KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
〈お問い合わせ〉地人会新社 03-3354-8361
★その後、兵庫県立芸術文化センター・能登演劇堂公演あり



【取材・文/榊原和子 撮影/アラカワヤスコ】


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