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重層的な物語世界の中で、役者たちがこの世の仕組みを暴いていく。カムカムミニキーナという劇団ならではの、笑いの中に仕込まれた毒に、今更のように身震いする傑作舞台である。
その舞台『野狂〜おのしこのし〜』が、東京公演を終えて、いよいよ本日から
関西公演の幕を開ける。(8/6、7◎大阪 ABCホール、8/11◎奈良 やまと郡山城ホール)

今回の公演は、劇団の看板女優で映像やほかの舞台でも活躍中の藤田記子を座長に据えて、「小野氏」という「1500年続く特別な家系」を切り口に、
松村武の博覧強記な歴史観を以て、ある意味では禁忌の部分まで踏み込んだような「怖さのある作品=ホラー」となっている。
 
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【あらすじ】
古来より1500年続く「小野」という家系があった。小野家の役目は、一族みなが持つ杖の力によって物事の境目を定め、秩序を遵守すること。小野吉子(藤田記子)は自らを祖先の小野小町と同一化し、野放図な狂いようからキチガイとして扱われ、一族から隔離されていた。
最も若い小野氏の子、小野岬(瀬戸さおり)は大叔母・吉子に憧れ、見舞いに訪れ吉子の杖をもらう。その後、吉子が息を引き取ったと聞いた岬は、彼女の死に疑問を持ち、吉子の行方を探しに行く。
小野家では、岬の祖父・小野平太郎(八嶋智人)の影の総指揮のもと、正次と好古(吉田晋一・亀岡孝洋)の双子や好古の妻・道子(長谷部洋子)らが集まり、野党幹事長・横山篤蔵(久保酎吉)、現与党外務大臣・新田五郎(元尾裕介)らをコントロールしつつ、南海の国境付近で起こった領海侵犯についての打開策を練っていた。そんな中で岬の失踪事件が発覚する。
岬は意気投合した転校生・大月あけみ(未来)と一緒だった。そして夢の中で吉子が導いてくれたという古井戸に向かう。そこで何者かにズタ袋をかぶせられ、気がつくと海賊船の上にいたのだ。その船には女海賊風の吉子が乗っていて、首魁・純友(福田転球)との恋を楽しみながら自由に旅をしていた。そして小野家の重みから逃そうと岬を船旅へ誘う。
一方、地獄へと繋がる井戸の中からは関兵衛(松村武)や深草少将(野村知広)などの異形の魔物が現れ、純友や吉子とともに小野家へ向かう。続いて謎の女が現れるが、平太郎や吉子の母である小野聖子(田原靖子)の幽霊が現れ、謎の女を杖で井戸へ追い返す。聖子は境目を作り、謎の女を封じるため「お前の杖を持っておいで」と岬に命令する。
その頃、小野家の大広間では、探偵の銀城(栄治郎)と部下の土井(菊川耕太郎)が岬の行方を捜査していた。そこに小野家の門番になりすましていた関兵衛が現れる。彼は幹事長の横山を憑代にして、生と死の共存領域を作るために地獄からやってきたのだ。やがて小野家の血筋の秘密や因縁が明らかになっていく…

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小野家に使える女中・斎藤瞳(田端玲実)を語り部に物語は始まる。小野家の一室で企まれ、コントロールされる「日本のまつりごと」。奇しくも参議院議員選挙や都知事選の真っ只中というタイムリーな上演となっただけに、ひときわその生々しさが迫ってくる。
次元を異にする人々が交差する物語であり、「境目」がキーワードとなる作品なのだが、その象徴のように作られた舞台美術(中根聡子)の雛壇状に組まれた襖の仕切りが秀逸で、現実の小野家、古井戸のある過去、岬の夢の世界と次元の変化をスピーディに入れ替えてみせる。
 
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主人公となるのは小野家を継ぐべく育てられた岬、そして岬が憧れてやまない大叔母の小野吉子。吉子を演じる座長の藤田記子は、小野小町に自分を重ねる女の奔放さをエネルギッシュに表現、異空間への物語の移動も彼女の自在さによってやすやすと導かれる。怨念が根底にあるホラーでありながら、笑いとともに観ていられるのは、藤田記子という女優の明るさに大きく助けられている。
もう1人のヒロインとなる岬は瀬戸さおりで、清楚な容姿の中に大叔母に憧れ自由への渇望を抱く少女を自然な演技で演じて、物語の中心となる役割りをみごとに果たしている。
 
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この作品では2人以外にも女優たちが大活躍で、語り部となる女中の田端玲実は、カムカムの女優陣の柱の1人で、その時代そのものを身に着けたような佇まいにはいつもながら感動する。この家を仕切る「おばあさま」小野聖子役の田原靖子も同じく憑依感のある女優で、今回はさながら横溝正史の世界のようなおどろおどろしさを見せてくれている。
ほかにも大月あけみ役の未来の可愛さと不気味さ、双子の好古の妻・道子の長谷部洋子の硬質な可笑しみなどそれぞれ印象深い。

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男優陣ももちろん実力派ばかりのカムカムに、強力なゲストも加わって賑やかだ。
存在感の筆頭はやはり八嶋智人で、政界の黒幕であり、この小野家の過去にまつわる物語の元凶でもある小野平太郎をフラットに、だが政治家の奥深いどす黒さを感じさせながら演じている。ゲストの久保酎吉の飄々としているがゆえの不気味さ、福田転球の軽さと凄みと色気、松村武の門番関兵衛のスケール大きな異物感、そのほか劇団員たちがその個性を人間模様の中に巧みに映し込んで、どこを観ても面白味のある布陣となっている。

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岬と吉子に導かれて次元を行き来し、この国の過去に遡り、小野家の役割りやその謎を追いかける中で見えてくる1つのテーマは、「血筋を守る一族」とそれを維持しつづけなければならない「力」の存在、それゆえの暗闇である。そして物語に散りばめられた数々のメタファーをどこまでも深読みしていけば、何千年経とうとも変わらない不合理や不条理へと思い至り、思わず背筋が寒くなるような舞台である。


〈公演情報〉
OMOTE OUT
カムカムミニキーナ 2016年本公演  
『野狂〜おのしこのし〜』
作・演出◇松村武
出演◇藤田記子、八嶋智人、松村武、吉田晋一/瀬戸さおり、福田転球、久保酎吉  ほか
●7/22〜7/31◎東京/座・ 高円寺1
●8/6、7◎大阪/ABCホール
〈料金〉¥5,000 学生割引¥3,900(全席指定・税込) 
●8/11◎奈良/やまと郡山城ホール
〈料金〉
¥4,800 学生割引¥3,900(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉カムミニキーナ 03-6328‐1076




【取材・文/榊原和子 写真提供/カムカムミニキーナ】
 


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