観劇予報 : 今年も舞台での活躍に期待が集まる！若手実力派俳優　柳下大インタビュー

さまざまなフィールドで活躍する俳優集団D-BOYSのメンバーの中でも、若手実力派俳優として舞台での活躍がめざましい柳下大。
2016年は、自ら宮田慶子に演出を依頼した『オーファンズ』を皮切りに、明治座５月公演『御宿かわせみ』で本格時代劇にチャレンジ、夏には長塚圭史が主宰する葛河思潮社の『浮標（ぶい）』に参加、10月にはホームグラウンドともいえるDステで、シェイクスピアの喜劇『お気に召すまま』の座長をつとめた。
そして今年初の舞台は、１月20日に開幕する藤田俊太郎演出のミュージカル『手紙』が待っている。今年もさらに舞台への意欲を燃やす柳下大に、昨年の活動を振り返ってもらった。

これを乗り越えられなかったら、この先自分はないと

──まずは2016年の活動を振り返っていただこうと思っているのですが、2015年に足の怪我というアクシデントがあり、それを乗り越えて2016年が始まりました。

足の怪我は本当に苦しかったです。治るまで時間もかかりましたし、俳優を続けていけるか不安に思ったりもしました。その足も無事に完治して迎えた2016年の年明けに、えんぶチャート10位という知らせが入り、３年連続で10位以内に入れたことは、信じられないくらい嬉しかったです。もちろん出演した舞台が『真田十勇士』だったり、つかさんの『いつも心の太陽を』といった名作だったりしたおかげもあると思いますが、演劇ファンの方たちに評価していただけたことは、俳優としての自信に繋がりましたし、より一層、俳優として成長したいと思いました。ですから2016年は、とにかく挑戦の年にしようと。これまでやったことのないことや、初めてのジャンルにも挑んでみようと思いました。

──その中で出演した舞台４本は、みごとなまでにバラエティに富んでいましたね。

確かに（笑）、翻訳ものの会話劇、本格時代劇、三好十郎さんの戯曲、シェイクスピアの喜劇ですからね。それぞれこれから僕が役者として生きていくうえで、すごく大切な１歩を踏み出せたと思っています。

──その最初の作品、２月の『オーファンズ』ですが、作品選びから参加し、演出を宮田慶子さんに依頼したという気合いの入った舞台でした。

企画のスタートは、2013年の『真田十勇士』初演で出会った宮田さんに、他の作品も演出していただけたらと思って、直接お願いしてしまったんです。そこから実現まで２年越しという舞台でした。

──1980年代アメリカのフィラデルフィアの話で、３人芝居で会話劇、難しい戯曲でした。

今回の上演で、翻訳を谷賢一さんが手がけてくださったことは大きかったと思います。33年前のアメリカの話ですから、なじみにくいところや、価値観も理解しにくい部分があったのですが、谷さんが翻訳されたことによって、兄弟愛とか３人の関係性がとても明確になりました。最初に本読みをした時点で、喋っている言葉がすっと入ってきて楽しかったです。ただ宮田さんの演出ですから、細かくリアルに表現することを要求されるだろうなと。稽古は大変だろうなと想像していましたが、実際、想像以上に厳しかったです。

──非常にリアルな表現で、しかも小劇場での公演で、いつも以上に集中力が必要だったのでは？

お芝居には色々なスタイルがあって、たとえばお客様に向けて喋るような舞台もありますよね。それとは真逆な、3人の世界をお客様が覗き見るような芝居でした。その中で、僕はただただトリートという人間として生きていた。そういうお芝居は初めてでしたから、演出の宮田さんに身を委ねるしかなくて、苦しみながら、必死で『オーファンズ』の世界を生きていました。

──その追い詰められた気持ちが、作品世界に生かされていました。

３人とも稽古中はそれぞれ役と向き合うだけで精一杯で、一緒にご飯に行くことさえできない精神状態でした。稽古の最後くらいに宮田さんがおっしゃってくれたんですが、「演劇の神様が降りてきた」と。滅多にないことだそうで、その言葉は本当に嬉しかったです。でも本番に入っても宮田さんは厳しかったです。毎日毎日、100％のものを見せなさいと。それは当然なのですが。

──評判もとてもよくて、宮田さんに頼んだ甲斐がありましたね。

この作品がなかったら、怪我からの復帰がここまでうまくいったかどうか、正直わかりません。そのくらい自分でも賭けていた作品で、これを乗り越えられなかったら、この先自分はないと思っていました。本当に思い出深い作品になりました。

時代劇には血が騒ぐ。夢は『髑髏城の七人』

──その次が180度変わって、初の本格時代劇『御宿かわせみ』に出演しました。

明治座のような大きな劇場での商業演劇は初めてでした。一度は出てみたいと思っていた劇場でしたし、歌舞伎の中村芝翫さん（当時・中村橋之助）と高島礼子さんの公演に参加させていただいたことで、すごく色々な刺激を受けました。これは２度共演した上川隆也さんにも感じていることなのですが、長く第一線で活躍していらっしゃる方はオーラもすごいし、お芝居に向き合う姿勢が、やっぱり違うなと。それは理屈じゃなく肌で感じました。それに、歌舞伎の方は殺陣とか所作を当たり前のように身に着けていらっしゃるので、それを色々教えていただきました。本番では途中からアドリブでいじってくださるようになって（笑）、そういう形で鍛えてくださったり、何度も食事に連れていっていただく中で、歌舞伎の場合はこうだけど商業演劇ではこうしたほうがいいとか、具体的に教えていただきました。舞台でもドラマでも、きちんとした時代劇を勉強していきたいし、崩すとしても基本を身に着けていないといけないので、それをやっていくためには、良いきっかけになったと思います。

──着物もかつらもよく似合っていました。

ああいう格好をするとすごくワクワクするんですよね。もしかしたら僕は昔、武士だったんじゃないかと思うくらい（笑）血が騒ぐんです。着物を着ていると、不思議なんですが落ち着きます。

──時代劇は映画やドラマは減っていますが、逆に舞台は増えていて、しかも若い俳優さんを中心に多くなっていますね。

やっぱり僕らがその良さを伝えていかないといけないし、時代劇ファンをもっともっと増やしていきたいです。僕、中島かずきさんの脚本が大好きで、劇団☆新感線も大好きなので、『髑髏城の七人』の花鳥風月シリーズは、今からめちゃくちゃ楽しみで仕方ないんです。いつかは新感線に、『髑髏城の七人』に出演するのが、僕の夢なんです（笑）。

70年以上前の言葉が今の時代にも刺さってくる

──８月には葛河思潮社の『浮標（ぶい）』、三好十郎の戯曲に挑みました。

上演時間が４時間ということもあって、あまり上演されていない戯曲ですが、（長塚）圭史さんはこれで３度目の上演というくらい、思いが詰まった作品で、もしかしたら田中哲司さんの出演もこれが最後かもしれないとも言われていましたので、絶対に出たいと思いました。

──戦争中の日本の話で、言葉なども現代とは少し違いますから難しかったのでは？

そうですね。やはり70年以上前の言葉ですから、最初は理解しにくかったです。本読みを1週間から10日くらいやって、それから圭史さんが「この言葉ってこう思うんだよね」とか「ここの言葉はこれに繋がると思うんだ」と戯曲の解説をしてくれたのですが、それを聞いたことで、全体が鮮明に見えはじめたんです。理解できてからは作品にのめり込んでいきました。ただ、それを伝える側としてどこまでできるか。また、これまで僕の舞台を観にきてくれた若い方たちに、どこまでわかってもらえるかという心配はありました。でも観てくれた人からは「4時間を長く感じなかった」「良い作品に出会わせてくれてありがとう」などの感想をもらって、嬉しかったです。僕のファンの方は演劇好きで、どんな作品でも柔軟に観てくれるので有り難いです。

──演じた利男は戦時中の青年ですが、伸び伸びとした明るさが印象的でした。

あの役は劇全体の中で、木下（あかり）さんや中別府（葵）さんとともに、若者のパートというか、みんながみんな死に向かっているような物語の中で、希望というか未来を表現する役割だったと思います。ですから明るさは意識していました。

──三好十郎戯曲に取り組んで、改めて感じたことはどんなことですか？

演じれば演じるほど、そのすごさを感じていました。70年以上前に書かれた言葉がそのまま僕らにも刺さってくるんです。びっくりしたのは、僕の母が観に来てくれたんですけど、そんなに演劇通でもないし、つまらないと寝てしまうような人なんです（笑）。その母がすごく面白かったと。三好十郎さんの言葉には、普通の人にも伝わる力があるんですよね。だからとにかく色々な人に観てもらいたいという気持ちが、すごくありました。

──そういう作品に参加できたのは、柳下さんの芝居への情熱も大きかったと思います。

僕としては長塚圭史さんという素晴らしい演出家と、田中哲司さんというすごい俳優さんとご一緒できる、それだけで幸せでした。全国公演が１ヵ月くらいあったので、色々な土地で食事なども一緒に行って、そこで聞かせてもらう演劇の話が楽しくて、終わったときは、「浮標ロス」になるくらい、自分にとって大きな作品でした。

──久我五郎は田中哲司さんの当たり役ですが、いつか柳下さんが久我五郎をやるためには何が必要だと思いますか？

まず沢山の経験を積むこと、そして技術ももっともっと必要だと思います。でも、いつか絶対やりたいです。稽古場でもずっと哲司さんを目で追いかけていたし、台詞も覚えてしまいました。でも今の自分には、お客様を４時間引っ張っていくだけの力はありません。哲司さんのエネルギーのすごさは、一緒に出ていたからこそわかるんです。とにかくもっともっと自分を磨いて、いつか久我五郎をできるようになりたいです。そういう意味では目標が１つ増えました。

シェイクスピアには演劇の面白さが詰め込まれている

──そして2016年の最後はシェイクスピア喜劇の『お気に召すまま』でした。

シェイクスピア劇に出るのは初めてで、演出の青木豪さんとも初めてで、正直、最初はどう取り組んでいいのかわからない感じでした。オーランドーという役も、最初はカッコいい役だと思って、台詞もカッコよくしゃべっていたんですけど、もう少し普通でいいと。そういうふうに豪さんから少しずつヒントを出していただきながら、自分なりに作っていったんですが、でも本当の意味で、豪さんが目指している面白さとか、オーランドー役のやるべきことがわかったのは、劇場に入って本番が開いてからでした。お客様の反応があって、そこから色々なことを発見していった感じです

──具体的に苦労したのはどんなところですか？

主に最初のシーンなのですが、どうしてこうなったのかという説明ゼリフと、それに続く普通の会話があるのですが、どこまでお客様を意識して、どこから役としての言葉になるか、その出し引きの加減が、よくわからなかったんです。でもお客様が目の前にいるとできるんです。観客がいることで生きる台詞もあるのだなと思いました。

──まさにライブならではの面白さですね。

そうなんです。シェイクスピア劇には、演劇の面白さが詰め込まれているんだなと改めて思いましたし、そういう演劇だからこその面白さを大事にしたいと思いました。しかも公演が、東京だけでなく兵庫と山形でもあって、その場所場所でお客様の層が違っていて、そういう意味では老若男女すべての層の方々に観ていただけたことが、何よりも嬉しかったです。

──カンパニーもそれぞれ個性を打ち出していて、でもまとまりもありました。

Dステってこんなに楽しい舞台なんだと改めて思うくらい、それぞれの役でみんなが良い味を出していました。客演で参加いただいた先輩も達者な方ばかりで、D-BOYSのメンバーもそれぞれ自分のやるべきことがわかっていて、Dステはもっと色々なことができると思ったし、そういう意味ではDステの今後がすごく楽しみになりました。

柳下大の出る舞台なら観たいと思われるように

──そして2017年も新しい作品が待っています。『手紙』は、藤田俊太郎さん演出のミュージカルですね。

映画はだいぶ前に観ていて、すごく好きだったので、出演できるのが本当に嬉しいです。昨年の初演は生では観られなかったのですが、DVDで観てすごく感動しました。藤田さんの演出が素晴らしいんです。藤田さんは僕の出た『GARANTIDO』や『オーファンズ』、『お気に召すまま』も観てくださっていて、とても親しみやすい方なのですが、僕も尊敬する蜷川（幸雄）さんのもとで､長い間経験を積んでこられたすごい方なので、今回、演出を受けられるのは本当に楽しみでしかたないです。

──次々に素晴らしい作品や演出家の方とめぐり会えていますが、柳下さんのこれからの夢は？

自分はまだまだだと思いますし、もっともっと自分を磨いていって、色々な演出家の方たちに、柳下大と一緒にやりたいと言ってもらえるようになりたいです。そして、お客様にも、柳下の出る舞台なら観てみたいと言ってもらえるように。演劇には人の心を動かす力があると思うので、沢山の人に演劇を観にきてもらえるように、自分が少しでもその役に立てればといいなと思っています。俳優としての夢は、これから30代を迎えるので、さらに幅を広げていきたいし、「こういうのにも出るんだ？！」と思ってもらえるような挑戦をしていきたいですね。あ、新感線には絶対出たいです！

やなぎしたとも○88年生まれ、神奈川県出身。06年、俳優デビュー。以降、映像や舞台で活躍中。最近の出演作品は、ドラマはNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』BSスカパー！藤沢周平シリーズ『果し合い』（監督：杉田成道）など、舞台『熱海殺人事件 Battle Royal』ブロードウェイ・ミュージカル『アダムス・ファミリー』『真田十勇士』（13年,15年）『いつも心に太陽を』（主演）『オーファンズ』（主演）パルコ劇場『LOVE LETTERS』Dステ19th『お気に召すまま』（演出：青木豪）にオーランドー役など。

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