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現代社会が抱える問題を取り入れた骨太な人間ドラマでさまざま演劇賞を受賞するなど、発表する作品がつねに注目を集める作・演出家、中津留章仁。その最新作『たわけ者の血潮』が、主宰する劇団トラッシュマスターズによって、2月2日から開幕した。(12日まで座・高円寺1、2月18日・19日は福岡ぽんプラザホールで公演)

今回の作品は2015年に安保法制決議をタイムリーの扱った『そぞろの民』と同様に、「日本の民主主義とは何か?」を問いかけ、繁栄を求める一方で、格差やヘイトスピーチ、レイシズムなどが広がる現代日本の病理に深くメスを入れるものとなっている。
この舞台の初日が数日後に迫っているという時期に、稽古場に入ることができた。
 
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物語の舞台となる菅原家の居間は、どこか開放的で自由で、文化的なサロンのようにも見える。そこに出入りする登場人物たちは、その日、上演されたばかりの舞台の感想を皮切りに、日本や世界で起きていることや、自分たちの事情を語り合う。その中で、それぞれの立ち位置や思想が、中津留章仁の鋭い人間洞察によって赤裸々に浮かび上がってくる。

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川初夏、高橋洋介
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川初夏、林雄大、林田麻里、長谷川景、多田香織、森下庸之

翻訳家・菅原伊代理(川初夏)の家のリビングとして組まれたセットでは、重厚感のある家具が目に入る。中央に大きなソファがあり、下手側の一段高くなったところがこの家の主人で市議会議員である茂之(高橋洋介)の書斎となっている。
芝居はおもにこのアクティングエリアで行われるが、奥の通路も視界に入るようになっていて、家族たちの動きを見せ、それに伴う物語の進行に陰影を与えている。
 
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星野卓誠、林田麻里
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林雄大、長谷川景、林田麻里、森下庸之、多田香織

翻訳家の家で展開される話ということで、演劇人とその関係者が次々に登場する。
伊代理の弟で劇作家・演出家の阿久津一樹(星野卓誠)、伊代理の娘で女優の愛理(多田香織)、同じ劇団の俳優・藤丸英都(長谷川景)、新聞社に勤める劇評家の神戸(林田麻里)、その同僚記者の糸井(倉貫匡弘)。
それぞれ立場が違う人々が語る演劇論、その中で今の日本の演劇が抱える問題とともに、あらゆる表現の根幹に関する話へと切り込んでいく。

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川初夏、林雄大、森下庸之、多田香織、長谷川景、林田麻里
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 星野卓誠、倉貫匡弘、林田麻里

この一家の中で演劇とは無縁な存在が、この家の主人で市議会議員の茂之と、引きこもり同然で、ある法案へのデモ活動に参加する長男の康生(森田匠)。父と息子は政治的な立場では対立している。
また茂之の弟で公務員の紀之(林雄大)や、愛理の恋人で広告代理店勤務の大木(森下庸之)もこの家に出入りしていて、彼らの思想や信条も、上演された舞台への感想などを介して見えてくる。
そしてこの一家に大きな影を落としている亡き祖母、大女優だった阿久津佳苗という存在。この家の長男の康生が抱いている祖母への思いは、終盤になってこの一家に大きな揺さぶりをかけることになる。

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川初夏
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川初夏、星野卓誠、倉貫匡弘、林田麻里

そんな熱く息詰まるような稽古の合間に、作・演出の中津留章仁と、今回約2年ぶりにトラッシュマスターズに出演する女優・林田麻里に話を聞くことができた。

【中津留章仁インタビュー】 

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日本人の言葉の問題を、演劇の「発語」を切り口に描く

──この作品は演劇を切り口にテーマが展開されていきますが、そのモチーフとなったのは?
最近、新劇の劇団に書いて演出することが多くなって、僕がうちの劇団でやってきたことを、そのまま新劇の俳優さんに要望できるかというのが近年のテーマになっているのですが、そこで感じたことがあって。それは、数年前から他の作・演出家と話している中でも出てきていた話で、乱暴な言い方をすると日本の俳優はヘタだと。言葉をどう捉えていくかが日本の俳優は乏しいのです。その原因は色々あって、日本語の特徴である主語を抜くとか、動詞が後ろにくるとか、いわゆるスタニフラフスキーシステムに嵌まらないのです。そこで僕は、日本語用にアレンジして使うというのをここ数年やっていて、「発語」に特化したワークショップなども始めています。
──その「発語」の話などは、そのまま劇中で出てきますね。
僕がいつも俳優にダメ出ししているようなことが、台本の中に入っています。それと、たとえばネットの、いわゆるネトヨクとかパヨクとか言われる論争、そういう言葉とか文字の扱いについても取り上げてみようと思ったんです。話は逸れますが、たとえば野田(秀樹)さんが出てきた時代は、言葉の解釈を広げていた時代だと思うんです。昔、あるテレビ番組で野田さんが「人間は皮膚感覚で発語しないといけない」というようなことをおっしゃっていたのですが、そういう意味では、その後の日本社会は皮膚感覚の表面的な部分だけが一人歩きしてしまった。その結果、今の日本で言葉に関してどういうことが起きているかということを、芝居で表現しようと。俳優と劇団の話にしながら、人間が言葉を吐くときにどう間違っているか、どういう誤解があり、コミュニケーションの不全に陥っているかを、この芝居で見せようと思いました。
──今回の台本に様々な立場の人が出てきますが、自分の言葉に必ずしも自覚的ではないというようにも描かれていますね。
どこかから引っ張ってきた言葉を自分の意見でいう、そういう人が沢山いるのが今の日本です。思想がなく拠り所がない人間が、ネットや社会に参加するためにわかりやすい「ヘイトスピーチ」に集まる。でもほとんどの人間にとって、その思想は自分のものではなくて、二次的なものでしかないんです。
──そういう人間たちを暴いて見せていくような作品になるのですね。
共感を寄せたくなる登場人物がイヤに見えるように作ってあります。「あ、こういう人が自分だと思いたくない」という、そういう瞬間を作るのが僕の仕事なので、「ここまでよかったのに、なんでこうなる?」というように作っています。以前、ブレヒトと共通するものがあると言われたことがあって、いわゆる異化効果ですね。共感したいけど突き放されるということを大事にしています。
──最後に改めてメッセージを。
今、この社会を覆っているモヤモヤしたよく分からないもの、色々な複雑な思い、ちょっと言葉にできないような空気、それをこの芝居で、「こういうことか」と発見してもらって、少し整理してもらえるのではないかと思っています。そういう意味では、みんなが一番見たいものがここにあるのではないかと。あと、僕の今回のキャッチコピーは「鮮やかな手口」なんです(笑)。言葉や思想、人間、色々なものを鮮やかに暴く手口を観ていただければと思っています。

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【林田麻里インタビュー】

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言葉の話、演劇や世界の話、そして表現と自由の話が詰まっている

──今回の役柄は新聞記者で評論家を目指している女性ですね。
こういう役は初めてです。台本を読んだら知的で冷静さがあって、そして彼女自身の考えはあるとは思いますが、ストレートに主張しない。いわゆるバランサーで、色々な人の価値観をわかりたいし、わかるはずだと思っている人です。でも彼女自身も、自分のことがわかっているのか、その発している言葉とのズレも表現していけたらと。
──2年ぶりのトラッシュマスターズの印象は?
今回は中津留さんの目指すものや演出が、これまでとまったく変わっているのを感じます。ですから私としては、稽古場での共通言語を失っているというところからのスタートでした。中津留さん自身もおっしゃっていますが、「発語」に関しての演出が増えていて、以前とは使う脳が違います。まずその言葉の意味とその「発語」はイコールなのかと、そこから始まりました。そういう意味では、またトラッシュマスターズが進化していて、今までが役を作る作業だとしたら、もっと人間そのものを作るような作業です。
──その人間を作るという意味を、もう少し詳しく教えてください。
中津留さんはよく「その言葉は幹のほうではしゃべらないで」とおっしゃるのですが、その「幹」というのが私でいうところの役作りで、「この人はこういう人物だ」という、私自身の評価でしゃべるのはやめろという事なんです。つまり、その役作りが足枷になって「発語」が自由でない、せばまっているということだと思います。それから、「とにかくアクションをしろ」とおっしゃっていて、その言葉の意味ではないニュアンスを含んで相手に何かの影響を与えろと。「今のはアクションになってない。言っているだけだ」と言われます。話しながらも相手の様子を受動する事が始まっていて、そこから考え、欲求が生まれ、そしてまた発語する。人間とはその連続であるという事ではないでしょうか。
──女優・林田麻里にとって、また得るものが多そうですね。
沢山あります。トラッシュマスターズの変化は前回出演した『儚みのしつらえ』の時から感じてはいたのですが、そのあとの作品も、客席から観ながら進化を感じていました。その進化に付いていくのは大変ですが、私を拡げてくれる現場です。この作品には、言葉の話、演劇や世界の話、そして表現と自由の話が詰まっています。観てくださる方にもきっと身近に感じていただけると思います。
 
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〈公演情報〉
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TRASHMASTERS vol.26 『たわけ者の血潮』
作・演出◇中津留章仁
出演◇星野卓誠 倉貫匡弘 盒桐硫陝/慌射杷掘/硬直◆…甲川景 川初夏/林雄大 多田香織[KAKUTA] 林田麻里
●2/2〜12◎座・高円寺1 
●2/18〜19◎福岡ぽんプラザホール
〈料金〉一般[前売・当日共]4,000円 U25[25歳以下の方]2,500円(全席指定・税込)
※U25券は劇団前売り取り扱いのみ。当日受付にて身分証を提示。
〈お問い合わせ〉SUI 03-5902-8020 ※東京公演[11:00-17:00平日]
トラッシュマスターズ 090-7411-6916 trash@lcp.jp



【取材・文・撮影/榊原和子】

ユナク(超新星)、ソンジェ(超新星)、イ・ジフン出演。韓国ミュージカル『INTERVIEW』




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