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極寒の日々の中にも梅の蕾がほころぶ2月、紀伊國屋ホールの「つかこうへい」の季節がやってきた。
今年は、平均年齢23.3歳という若さにあふれた3人の男優、味方良介、多和田秀弥、黒羽麻璃央が名作『熱海殺人事件』に挑戦することで、大きな注目を集めている。

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名作『熱海殺人事件』は、1973年に文学座に書き下ろされ、当時の若者の熱狂的な支持を受け、翌年、この戯曲でつかこうへいは、史上最年少での岸田國士戯曲賞を受賞している。その後もキャストごとにバージョンを変えながら、つかと『熱海』と紀伊國屋ホールはともに生き続けてきた。
そして2010年、つかこうへいの死後は、その魂と意思を受け継いだ演出家の岡村俊一による『熱海殺人事件』が、装いも新たに毎年のように上演され、様々なバージョンでスターを生み出し続けてきた。今回は、副題に “NEW GENERATION”と銘打たれているように、新世代を体現する俳優たちで、この名作を新しく生まれ変わらせる。

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主人公の木村伝兵衛部長刑事役に挑むのは味方良介。昨年のつか作品『新・幕末純情伝』で桂小五郎を熱く演じた演劇界注目の若手男優で、初演の三浦洋一、そして風間杜夫、阿部寛、池田成志といった錚々たるメンバーが演じてきた大役を、史上最年少の24歳で演じる。

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富山から派遣された刑事・熊田留吉役は、『手裏剣戦隊ニンニンジャー』から2.5次元舞台まで卓抜な演技力で幅広く活躍する多和田秀弥。

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犯人・大山金太郎役にはミュージカル『刀剣乱舞』で主演を務め、映像でも活躍中の黒羽麻璃央。

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紅一点の水野朋子婦人警官役は、1986年の映画版でヒロインを演じた志穂美悦子を母親に持つサラブレッド女優・文音。

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このフレッシュなメンバーたちで、2月18日から3月6日まで『熱海殺人事件』を上演する。
その稽古も佳境に入ったある日、その通し稽古に立ち会うことができた。
 
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【あらすじ】
舞台になるのは東京警視庁の木村伝兵衛部長刑事の捜査室。伝兵衛の取り調べの中で、熱海で工員の大山金太郎が幼なじみの女を絞め殺したというチンケな事件を、婦警の水野朋子と富山県警から赴任してきたばかりの熊田刑事が、部長刑事とともに一人前の犯人に仕立て上げていく…。


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大音響のチャイコフスキーの「白鳥の湖」をBGMに幕が開くと、木村伝兵衛が黒電話でがなりたてている。どこか憑かれたかのように陶酔的にも見える顔つきだ。その表情が一瞬にしてクールさと柔らかな笑顔を取り戻し、富山から赴任してきた熊田刑事を迎える。そこから物語は、水野朋子婦警や犯人・大山金太郎を加えて、物語の本筋部分へと入っていく。

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味方良介はソフトで若々しい伝兵衛だ。つば広帽子をかぶっている佇まいは粋でダンディー。木村伝兵衛部長刑事の取り調べ室では「ダンディー、おしゃれ」であることが重要だ。だからマイアミなんてアナクロな喫茶店を調査報告書に書き込むことは許せない。そんなポリシーがよく似合う味方・伝兵衛は、どこか爽やかでもあって、先達たちが演じた暑苦しいまでに自己主張する木村伝兵衛に比べると、少し俯瞰した眼差しを持つような、いってみれば優しさと包容力で事件をコントロールしていく木村伝兵衛像にも思える。長ゼリフを強引にまくし立てるところ、決めゼリフ、レトリック満載の言い回しなども、鮮やかにメリハリをきかせる。すでに言葉が完全に身体に入っているような余裕すら感じさせ、この大役に気負うところがなく真ん中に力強く立っている姿が頼もしい。
 
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熊田留吉の多和田秀弥は、長身で都会的な持ち味の中にのぞく素朴さが生きて、富山から出てきた野心家の若手刑事役を体当たりで演じている。伝兵衛の取り調べ方法に抵抗しながらも、次第に影響されていく素直さも見せながら、思い通りにならないとすぐに懐から銃を取り出し、ロシアンルーレットだ!と拳銃をぶっ放す。伝兵衛や水野婦警との丁々発止のやりとりではスピード感と勢いがあって、若さと野心と直情に燃えている。富山方言だけでなく、劇中で多和田自身の出身地、関西弁をまくしたてる場面もあり、笑わせ、泣かせ、ちょっとアホなところも可愛い熊田刑事だ。

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セリフが完全に消化されているという意味では、水野朋子婦人警官の文音も例外ではない。どこまで本音でどこまで芝居かわからないような、木村伝兵衛との曖昧な関係の中で、瞬間瞬間に立場を変えることで婦警としての水野の"できる女刑事"ぶりが見えてくる。文音はその切り替えを表情や声音で伝えてくる。スレンダーでよく動く体と清潔感のある佇まいが、今回のNEW GENERATIONバージョンの紅一点にふさわしく、後半の金太郎との再現場面のアイ子役では涙を誘う。

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そして、開幕から20分、お待ちかねの犯人・大山金太郎役、黒羽麻璃央が登場する。今回はイケメントリオと評されるほど美形揃いの『熱海』だが、ここまでイケメンな大山金太郎は、かつていただろうかというほどカッコいい登場ぶり。黒のサングラスが実によく似合う。それだけにそのあとのダサい素顔の金太郎とのギャップをどう見せるかと心配もあったのだが、なんと、あのイケメン大山はどこに?と思うほど、トロくて泥臭くて田舎出まるだしの工員へとみごとに変身してみせる。また、後半の水野婦警との再現シーンではとにかく泣かせる。泣いていいのだ、彼の存在は、人間の体にある感情を表に出すことを許してくれる存在なのだから。そんな金太郎の純情と狂気を、黒羽は全身で表現、容姿の良さというハンディを軽々と超えた役者魂を見せてくれる。

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この若い俳優たちを指導する岡村俊一は、つか作品の本質と、そこで生きるためにはどうしたらいいかを、適切なアドバイスと方向性で伝えるとともに、自由で懐の深い『熱海殺人事件』という作品を通して、俳優自身の魅力を、引き出し、育てようとしているのを強く感じる。この通し稽古でも、若さの爆発的な表現を信じて制御はしていないように見える。それどころか一緒に笑い、泣いて、怒って、ともに激しく生きて律動しようとしている。まるでそれが「つかこうへい」の舞台そのものだとでもいうように。
そしておなじみ定番の劇中曲以外にも最近の大ヒット曲を持ち込んだり、時事ネタ、メタファー、アドリブ、コント(?)、なんでもありの、息もつかせぬスピーディな展開の中で、この名作世界の真髄に一気に運んでいってくれる。
 
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この戯曲を、つかこうへいが書いてから40年以上経った。『熱海殺人事件』の内包する様々な問題、職業、国籍、経済などの格差や差別はなくならず、いや、むしろ深いゆがみやひずみとなってこの国の根底を揺らしている。だからこそ今、時代に楔を打ち込む作品として、『熱海殺人事件』の上演の意味を改めて感じるのだ。
その作品を、これから人生を戦う若く瑞々しい肉体を持った俳優たちで演じる。そう、まさにNEW GENERATIONの若者たちが演じる青春の舞台だからこそ、登場人物たちの生きる社会への怒り、悲しみ、そして切なさが、つかこうへいの言葉とともに、2017年の日本を撃つにちがいない! 新世代による『熱海殺人事件 NEW GENERATION』、必見の舞台である。

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〈公演情報〉
 flyer

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』
作◇つかこうへい
演出◇岡村俊一
出演◇味方良介、文音、多和田秀弥、黒羽麻璃央  
●2/18〜3/6◎紀伊國屋ホール
〈料金〉6,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京音響 03-5774-3030
〈公式サイト〉http://www.rup.co.jp/atami.html
 

【構成/榊原和子 取材・文・撮影/竹下力】


ユナク(超新星)、ソンジェ(超新星)、イ・ジフン出演。韓国ミュージカル『INTERVIEW』




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