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2017年は正岡子規生誕150年にあたる。そして文学座も創立80周年という記念の年で、その第1弾として上演されるのが、この『食いしん坊万歳!〜正岡子規青春狂詩曲〜』。
とかく病気がちというイメージから悲劇性の強い子規の一生を、好奇心旺盛で周囲にエネルギーを振りまく青年として捉え、最愛の母と妹、門弟たちと繰り広げるのびやかな青春群像劇として創りあげる。作は瀬戸口郁、演出は西川信廣、文学座内外で多くの作品を発表し、高い評価を得ているコンビによる新しい正岡子規評伝ともいうべき作品である。

【あらすじ】
日清戦争の戦勝に日本中が沸いていた明治二十八年(1895)、脊椎カリエスを患い、それから僅か六尺の病床で自分の人生の残り時間を静かに見つめている男がいた。正岡子規である。有り余る文芸革新への情熱を持ちながら、身動きの取れない身体と残された時間…。子規は病床で自らの運命と闘うことを誓う。残り少ない人生で文芸革新の「志」を実現するには自分の雑誌を作るしかない。子規は文芸誌「ほとゝぎす」の創刊を決める。 門下生たちは喜び、子規のもとに馳せ参じる。やがて志をともにした子規と門弟たちの必死に原稿を書く日々が始まる。だが部数が伸びるにつれ出版コストは上昇。子規は東京に本拠を移すべく後継者に高浜虚子を選ぶ。経営者としての才をもつ虚子は見事に再興させる一方、子規の身体はみるみる衰弱し、残された時間はあと僅か。 衰弱していく子規の傍らで妹の律は献身する。兄さんを救うには美味しいものをいっぱい食べさせるしかない!残り僅かな人生で、はたして子規は文芸革新を成し遂げ、歴史に「名」を残すことができるのか。そして近代文学の運命は…。 

この公演で主役の子規を演じるのは、今年で座員となって13年目、文学座本公演をはじめ、注目作には欠かせない実力派俳優の1人、佐川和正。子規と同じ松山というメリットも生かして、魅力的な子規を演じてくれそうである。

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改めて郷土の偉人と出会い直しています

──佐川さんは正岡子規と同じ松山の出身なのですね。
そうなんです。18歳くらいまでいました。とても長閑で良いところなんですけど、子規ではないですけど、もっと都会に行きたい、刺激のあるところで暮らしたいと、東京の大学を受けるからと言って出てきました。
──背景も子規と一緒ですが、その主役を演じるということを聞いていかがでした?
まったく想像していなかったので驚きました。主役ということも嬉しかったですが、地元の方言で芝居できることがなにより嬉しかったです。以前から、できれば方言を使った芝居をやってみたかったので。それにこの作品は文学座80周年という節目の年の、第1作目ですから有り難いなと思っています。
──文学座公演での主役は初めてですね。
はい、いつかやらせていただければという思いはありましたから、嬉しかったです。でも最初は実感がなくて、出来上がったチラシを見て、初めて、ああやるんだという実感が(笑)。
──正岡子規という実在の人物を演じるわけですが、そのプレッシャーは?
以前、同じ瀬戸口郁さんの作品『エゲリア』(2012年)で、岡本太郎さんの役をやったんです。そのとき過剰に意識しすぎて芝居が硬くなってしまった気がしたので、今回は少し肩の力を抜いて、自分らしく、自然に出てくるものを大事にしようと思っています。
──郷土の有名人ということですから、色々な知識がありそうですね。
それが学校で習う知識程度しか知らなくて。実家は道後温泉のすぐ近くなのですが、自分の生活圏にあるとかえって興味を持てなくて。正岡子規という人の偉大さをちゃんと認識したのは東京にきてからという(笑)。今回、改めて調べてみて、「べーすぼーる」(野球)をはじめ新しいものをすぐ取り入れたり、文学の面でも日本人の言葉そのものに影響を与えるような、近代文学の第一人者として大きな存在だったと知って、本当にすごい人だったんだなと。今、本当の意味で郷土の偉人と出会い直しているような状態です。
──やはりいつかは、ちゃんと出会わなくてはいけない人だったのでしょうね。台本に出てくる子規の透明な明るさとか真っ直ぐさは、佐川さんの中にもあるように見えます。
そうだったら嬉しいです。たぶん個人差はあると思いますが、松山という風土が育ててくれた明るさとか、人懐っこさはあると思います(笑)。

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食べることや味わうことで生きることを実感していた

──野球だけでなく、子規は進歩的で、すごく行動的ですね。
「ほとゝぎす」を創刊したのも、新聞記者の経験から活字の力をわかっていたんだと思います。その前に、日清戦争にも従軍記者として付いていきますが、これは瀬戸口さんがおっしゃっていたのですが、当時は「自分が名を成すことが国を興すことにもなる」という、国のことと自分のことが同等に捉えられる、自分がやることは国に良い影響をもたらすと思えた時代だったのだと。その従軍で彼は病を重くしてしまうのですが。
──この作品では、子規の22歳から35歳で亡くなるまでを描いていますが、演じかたはどんなふうに考えていますか?
本が年代ごとにいくつかに分かれていて、各場面の中に子規のその時々の状況は、周りの登場人物たちの説明の中で見えてくるので、そこに自分が素直に乗っかって演じればいいのかなと思っています。他の登場人物とやりとりする中で、自ずと子規の状態が見えてくるので。
──子規という人物を演じるうえで、核になりそうなところはどんなところですか?
彼は自分の中に確実にこれだという確信を持っているんです。俳句に関しても12万もの俳句を選り分けて、百科事典を自分で作るみたいな作業をするわけです。そういう信念、これがいい、これだという芯の強さで、嫌われようが孤独になろうが、絶対にこれをやるという確信があります。その芯が捉えられれば、この芝居の骨になるだろうと思っています。
──病床にあっても、彼のエネルギーは衰えないのもすごいですね。
「病牀六尺」なども、想像を絶する重い症状の中で毎日連載記事を書いています。全身から膿が出るという状態でも、その中で素晴らしい文章を書くのです。その精神力は信じられない強さで、そこは演じるうえでも日常レベルではない表現をしていければと思っています。難しいですが、周りの方々に助けていただきながら。1人ではないのでそこは心強いです。
──そして病床で美味しいものを全国から取り寄せますね。その「食」へのエネルギーが、子規の生命を繋いでいたのでしょうね。
そう思います。食べることや味わうことで生きることを実感していたのではないでしょうか。そこに今回の台本は一番焦点を当てています。演出の西川信廣さんも、子規の暗い側面ではなく、そういうものを押しのけていく力、それを出していくようにとおっしゃっていました。この作品の題名もポスター画像も、これまでの子規のイメージを壊すというコンセプトなので、僕も思い切り振り切ってしまってもいいかなと思っています。

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朗読の経験で作品全体を考えるようになった

──佐川さんの経歴なども話していただきたいのですが、大学時代から演劇を?
大学では英語会という会で、英語劇を作ってました、
──では、英語は堪能ですか?
なんとか話せます。英語劇のほうは、僕がいた時期は子供向けの舞台を創るという風潮で、初めてやった役は踊るクマでした(笑)。年に1回しか公演しなかったのですが3年程やりました。松山から出てきたけど何をやりたいのかわからない時期で、一生懸命できるのは芝居くらいしかなかったんです。同じ時期に英語劇だけじゃつまらないということで、仲間たちで集まって小劇場的な芝居も作っていました。台本は既成の戯曲を使って、高橋いさをさんのものとか。素人集団でしたけど楽しかったです。
──そこから文学座の研究所に入ったわけですね。さらに、狭き門と言われる座員になれたのは、すごく優秀だったのでしょうね?
優秀ではないんですが、エネルギーだけは高かったかもしれません。松山から東京に行って、何するかと思えば役者になってと、故郷ではみんな呆れてるだろうなと。そういう思いの中で必死にやるしかなかったのが、よかったのかなと。
──そして劇団でもどんどん役が大きくなっていって、今回のような大事な公演の主役にも選ばれるわけですが。佐川さんにとって芝居とはどんなものですか?
面白いです。20代の頃は若者の悩みというか、何のために生きているのかとか、どう生きたらいいのかと悩んでいて、子規のような目標も信念もなかったんです。でも芝居は、言葉が書かれているし、流れもある。そこに自分を乗せていけばいい。とにかく役があると生きてる実感があるし、舞台上のほうが素の自分より居心地がよかったんです。もちろんたいへんな部分もあるのですが、エネルギーだけはあったし、ラクだったんです。
──役者が合っていたのですね。その後の役者人生で何かエポックになった作品はありますか?
劇団の朗読会というのがあって、すごく小さな会なんですが。そこで何年か前に芥川龍之介の『杜子春』を丸暗記して語ったんです。覚えるのが大変で頭がどうにかなりそうでしたけど、お話を伝えていくとか、言葉でイメージをまわしていく感覚が面白いなと。その経験は、例えば『再びこの地を踏まず−異説・野口英世物語−』(2015年)のときなど、語り部的な役でもあったのでとても役に立ちました。ほかの役にもそれは良い影響を与えていると思います。どうしても若いときは自分を出すことに一生懸命でしたが、今は物語をいかに伝えるか、それぞれの役者のフィルターを通して出てくる全体の流れとか、そこを面白がれるようになった気がします。役者になって10年以上経って、今頃やっとなんですけど(笑)。
──積み重ねた経験で、全体が見えるようにもなってきたのかもしれませんね、
それはあると思います。全体が見えると、自分もまたここでこうしようと考えますし、作品との関わり方が変わってきますから。

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本当に良いもの、本当に価値のあるものを求めて

──文学座は翻訳劇、近代古典、現代作家のオリジナルまで幅広く経験できますが、得意なジャンルとか、やってみたい役などはありますか?
僕は見た目で学生とか好青年とかいう役が多くて、どちらかというと普段もそう見られがちなのですが、できればそうではない部分などを出せるほうが面白いですね。最近で言えば『弁明』(2016年アトリエの会)の兄役は母親に反発する長男でしたが面白かったです。それから12月の新国立劇場の『ヘンリー四世』二部作では、メインのクラレンス公の役のほかに、召使いとか兵士とか「噂」とか色々な役をやって、自分は西のほうの人間なので、基本的に自由にバカなことをさせてくれると嬉しくなっちゃうんです(笑)。そういう部分をもっと出せる舞台をやってみたいですね。
──では今回の子規の「食いしん坊」はぴったりですね。最後に、佐川さんが芝居を続けていくうえで、これだけは大事にしたいというようなものは?
いつもいただいたものをとにかく一生懸命ということだけで、なにも考えてないんですが、最近、楽しいだけじゃなく本当に良いものってなんだろう、本当に価値のあるものって何だろうと考えるんです。そこを意識していければと思っています。年齢的にもそういう責任を感じていて、易きに流れずに流行りものに寄らないというような、そういうことが大事な時代になってきたのではないかと。ですから役者としてもそういう存在になれるようにがんばりたいなと思っています。そういう意味でも、正岡子規のような確固としたものがある人物は素敵だなと思います。
──子規を演じることで、何かを掴めるかもしれませんね。
そうですね。彼の精神に触れられて覚醒が起きるかもしれません(笑)。
──では観に来る方へ意気込みぜひ。
この舞台を楽しんでいただきたいですし、今の世の中にはなかなかいないような、閉塞感を打破していく人のエネルギーとかアグレッシブさとか、ハチャメチャ感を観ていただければ。病弱というイメージではなく、目立ちたがりで出たがりなんです(笑)。それから後ろにいる母と妹の存在がすごいんです。父性に近いようなスケールの母性というか、その母や妹の強さがバックボーンにあるから、子規の作品が世に出たので、そういうところも観ていただければ。劇団80周年の年頭の作品なので、ぜひ観にきていただければ嬉しいです。

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さがわかずまさ○愛媛県出身、2000年文学座研究所入所、05年座員となり、02年『ベンゲット道路』(文学座本公演・文学座アトリエ)で初舞台。最近の出演作品は『二人だけのお葬式〜かの子と一平〜』(青年座劇場)、『再びこの地を踏まず−異説・野口英世物語−』(文学座本公演・紀伊國屋サザンシアター他)『春疾風』(文学座本公演・紀伊國屋ホール)『セールスマンの死』(文学座本公演・地方巡演)『弁明』(文学座本公演・文学座アトリエ)『ヘンリー四世』(新国立劇場中劇場)など。

〈公演情報〉
20170218

 
文学座創立80周年記念
文学座公演『食いしん坊万歳!〜正岡子規青春狂詩曲〜』
作◇瀬戸口郁 
演出◇西川信廣 
出演◇原康義  斎藤志郎 得丸伸二 岸槌隆至 佐川和正 上川路啓志 内藤裕志 新橋耐子 吉野実紗 増岡裕子 岡本温子
●2/18〜27◎紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
〈料金〉前売/一般:6,000円 夜割/4,000円(2/18、21) (全席指定・税込)
その他の割引 夫婦割/10,000円 ユースチケット(25歳以下):3,800円 中・高校生:2,500円 
いずれも取扱いは文学座のみ。ユースチケットと中・高校生は要年齢証明 (全席指定・税込)
文学座チケット専用 0120−481034(シバイヲミヨー)(10時〜17時30分/日祝を除く)


【取材・文/榊原和子 撮影/竹下力】


ユナク(超新星)、ソンジェ(超新星)、イ・ジフン出演。韓国ミュージカル『INTERVIEW』




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