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2月中旬の新宿通り紀伊國屋書店前では、額にうっすら汗を浮かべてコートを脱いだ人々が行き交い、気温は摂氏20度という小春日和になった。まさに「つかこうへい」の『熱海』の春がやってきた。

『熱海殺人事件』は、1973年に文学座に書き下ろされ、当時の若者の熱狂的な支持を受けた。翌年、この戯曲でつかこうへいは、史上最年少で岸田國士戯曲賞を受賞。その後もキャストごとにバージョンを変えながら、つかと『熱海』と紀伊國屋ホールはともに生き続けてきた。
そして2010年、つかこうへいの死後は、その意思を受け継いだ演出家の岡村俊一による『熱海殺人事件』が、装いも新たに上演され続け、様々なバージョンでスターを生み出している。今回は、副題に“NEW GENERATION”と銘打ち、新世代を体現する俳優たちで、この名作を新しく生まれ変わらせる。その通し舞台稽古と囲みインタビューが、2月17日、初日の昼に行われた。(3月6日まで)

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今回は、平均年齢23.3歳というフレッシュな3人の男優、味方良介、多和田秀弥、黒羽麻璃央が名作『熱海殺人事件』に挑戦することで、多くの注目を集めている。
主人公の木村伝兵衛部長刑事役に挑むのは味方良介。昨年のつか作品『新・幕末純情伝』で桂小五郎を熱く演じた演劇界注目の若手男優で、初演の三浦洋一、そして風間杜夫、阿部寛、池田成志といった錚々たるメンバーが演じてきた大役を、史上最年少の24歳で演じる。
富山から派遣された刑事・熊田留吉役は、『手裏剣戦隊ニンニンジャー』から2.5次元舞台まで幅広い演技で活躍する多和田秀弥。犯人・大山金太郎役にはミュージカル『刀剣乱舞』で主演を務め、映像でも活躍する人気俳優の黒羽麻璃央。紅一点の水野朋子婦人警官役は、長渕剛と志穂美悦子を両親に持つサラブレッド女優の文音というメンバーである。

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【あらすじ】
舞台は東京警視庁の木村伝兵衛部長刑事の捜査室。伝兵衛の取り調べの中で、工員の大山金太郎が熱海で幼なじみの女を絞め殺したというありふれた事件を、婦警の水野朋子と富山県警から赴任してきたばかりの熊田刑事が、部長刑事とともに一人前の犯人に仕立て上げていく…。

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紀伊國屋ホールは、若い役者陣の目も眩むようなエネルギーに満ち溢れていた。つかこうへい独特の毒とレトリック満載の膨大なセリフと、真摯であると同時に遊びも入れ込んだ岡村俊一演出に、真正面から向き合ってきた4人の役者たち。その手応えが自信となって、彼らをよりいっそう美しく見せている。

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木村伝兵衛の味方良介は、ダンディーなタキシード姿に気品が漂わせる。優しさと爽やかさ、そしてクールで俯瞰した眼差しを持ち、そのうえで、ふとのぞかせる伝兵衛ならではのゲスさが色気を醸し出す。身体能力に長けていることで、所作が綺麗で動きにスピード感とキレがあり、いかにも東京警視庁の切れ者と呼ばれる部長刑事にふさわしい。舞台上の堂々とした佇まいは、歴代の木村伝兵衛の中でも馬場徹と並ぶ最年少の24歳という若さを忘れさせるほど。

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富山からやってきた熊田留吉役の多和田秀弥は、「東京で成り上がりたい男」の野心に満ちた姿を、その若さとひたむきさで輝かせてみせる。富山弁と大阪弁を駆使し、ロシアンルーレットで暴走し、力まかせに捜査を進めていこうとするアホさ加減で笑いを巻き起こしつつ、故郷に残してきた恋人との場面では涙を誘う。多和田の持ち味だからこその、憎めない愛嬌のある熊田になっている。

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客席から通路へ登場の瞬間から、文字通りイケメンのカッコよさで場をさらう大山金太郎役の黒羽麻璃央。サングラスをはずすと一転して泥臭く、おどおどした田舎出の青年へと変身、その切り換えが鮮やかだ。金太郎が犯行を独白するシーンは、故郷やアイ子への切ないまでの思いや、なりふりかまわず木村伝兵衛の足下にひれ伏す姿は、涙なくしては見られない。

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水野朋子婦人警官役の文音は、唯一人の女性キャストとして、この舞台の華やかなアクセントとなっている。スレンダーでヒョウのようにしなやかに動く体と清潔感のある佇まいが、いかにも婦警らしい。伝兵衛との恋人風のやりとりで笑わせ、後半で大山金太郎の自白の相手役を演じるシーンは、純朴な地方出身のアイ子が都会で変貌せざるを得なかった悲しみを表現してみせた。

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この『熱海殺人事件』は、捜査室の伝兵衛の立派な机と、婦警水野の事務机のほかには装置のない空間なのだが、そこで活躍するのが照明(熊岡右恭)で、これでもかと動きまくる役者たちを追いかけてぶれることなく、浮かび上がらせる。例えば客席に登場する大山金太郎への目もくらむスポットライト、例えば影のように立っている味方良介のエロティックなまでに艶やかなシルエット、そして殺人現場の海岸の黄昏の色も胸をしめつける。そして音楽(からさきしょういち 選曲:山本能久)は「渚のシンドバット」や「東京」などの定番に加えて、今、流行のポップスなどを巧みに取り込んで楽しませてくれる。
また、メインの4人以外に一色洋平、佐久本宝、大石敦士といった役者たちがゲリラ的に出演。劇中のスパイス的な役割でこの舞台を支えている。

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演出の岡村俊一は、この若い役者たちの持つ美しさと、どこか脆いような危うさを生かして、この『熱海殺人事件』という名作戯曲が持つ、「若さゆえの青春の輝きと挫折」に光をあててみせる。歴史をさかのぼれば、紀伊國屋ホール初演の1978年版では、木村伝兵衛の三浦洋一は24歳、熊田刑事の平田満は25歳、大山金太郎の加藤健一は少し年上で29歳と、いずれも20代だった。そのことを考えると、今回のNEW GENERATIONバージョンは、まさに『熱海殺人事件』の原点に戻るような舞台だとも言える。そして、40年経った今も、つかこうへいがこの作品に込めた格差や差別への怒りや悲しみ、それは何ひとつ変わっていないのを感じるのだ。
 
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カーテンコールで、木村伝兵衛部長の机に置かれた灰皿、そこでくゆるタバコの紫煙。ピンスポットライトがあたるそこに向かって、芝居を終えた役者たちが静かに黙礼する。この儀式を、紀伊國屋ホールの空間のどこかでつかこうへいの魂は、いつものように厳しく優しく見守っていてくれる。
 
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【囲みインタビュー】

この『熱海殺人事件 NEW GENERATION』の公開舞台稽古と囲みインタビューが、初日前日に行われ、味方良介、文音、多和田秀弥、黒羽麻璃央、岡村俊一が登壇した。


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味方良介 
紀伊國屋ホールで『熱海殺人事件』を若い世代でできることが、NEW GENERATIONの所以なので、つかさんの意思を継ぎながら、後世に伝えていきたいです。若いからといって、大目に見てもらわないように、こいつらすごいな、若いくせにやるなというイメージを持ってもらえるように頑張りたいです。もちろん、僕らも若さに甘えないように、役者としてのプライドと魂をかけてこの作品を作ったので、常に新しい覚悟を持って公演ごとにハードルをあげてやっていきたいです。僕ら4人、そして支えてくださる他の役者、スタッフとともに作り上げてきた作品です。幕が上がれば、感じることも変わっていくと思います。すべてが僕たちの財産になっていきます。精神誠意、魂を込めて大事に演じていくので、ぜひこの劇場で体感してください。

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文音 
『熱海』はつかさんが紀伊國屋ホールに書いたものなので、この場所で『熱海』に参加できることをとても嬉しく思います。生きることの大切さをみなさんが感じ取れたらいいな。みんな初見なので、まさにNEW GENERATIONという作品になっています。期待してください。

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多和田秀弥 『熱海殺人事件』は歴史ある作品だったので、プレッシャーもありましたが、稽古が始まってみると、とても楽しかったんです。つらくもありましたが、みんなで取り組んできたので、その気持ちを忘れずに新しい風を紀伊國屋ホールに吹かせたいと思います。岡村俊一さんから「若いから体しか動かせないんだよ」と言われたことが心に刺さったので、僕たちの若い肉体で『熱海殺人事件』を演じるエネルギーをみなさんに届けていきたいです。

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黒羽麻璃央 
『熱海殺人事件』は同年代の世代では、必ず出たいと言っていたので、こうして役をもらってみなさんの前で披露できるのは嬉しいですね。だから、みんなの思いも背負いつつ頑張りたいです。実は、僕が稽古に入った初日には、もう通し稽古をやっているような状態で焦りました(笑)。そのおかげで背中を叩いてくれる人がいたので良かったですけれど。40年以上も続いた作品なので、僕らで終わらせるわけにはいかないし、何年後に別の若い役者に僕らの気持ちを伝えたいです。つかさんの作品の作り上げた世界を止めないようにしたいですね。

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岡村俊一 
つかさんがお亡くなりになって、7年間、紀伊國屋ホールで上演させていただいています。ただ、今年初めて、つかさんとほとんど関わりを持たない方が多く出演されているので、昔のことを再現できることに挑戦する時代になったなと感慨深いです。新しい世代が、ちゃんとやってると思っていただける作品ですのでご期待ください。三浦洋一さんもデビュー間もない頃にVAN99ホールでおやりになったし、風間杜夫さんは28歳ぐらいでやってらっしゃった作品なので、フレッシュな肉体をもつ人間がトライする演劇としてふさわしい作品です。今回も若い世代が作品を咀嚼して、戯曲を楽しんでいる様子を見て欲しいです。ぜひ、紀伊國屋ホールで観ていただきたいと思っています。

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〈公演情報〉
 flyer

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』
作◇つかこうへい
演出◇岡村俊一
出演◇味方良介、文音、多和田秀弥、黒羽麻璃央  
●2/18〜3/6◎紀伊國屋ホール
〈料金〉6,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京音響 03-5774-3030
〈公式サイト〉http://www.rup.co.jp/atami.html
 

【構成/榊原和子 取材・文/竹下力 撮影/岩田えり】


ユナク(超新星)、ソンジェ(超新星)、イ・ジフン出演。韓国ミュージカル『INTERVIEW』




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