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舞台芸術集団 地下空港が、『SAFARING THE NIGHT/サファリング・ザ・ナイト』を、3月2日から12日まで、すみだパークスタジオにて上演中だ。

舞台芸術集団 地下空港は、作・演出の伊藤靖朗が中心となって活動。「CoRich舞台芸術まつり!」では、2016年春の準グランプリ+制作賞W受賞。また、昨年は『ポセイドンの牙』で紀伊國屋ホールに進出するなど注目の劇団だ。
今回は、2種類(オベロンゲート&タイタニアゲート)の劇場から物語が始まるようになっており、観客はどちらかのゲートを選び、出演者(グループリーダー)と共に、舞台を見て、歩いて、感じて参加する体験型エンタテイメントになっている。1つの夜の大事件から、視点の数だけ新たな物語が生まれる。
さらに、『攻殻機動隊』のVR作品やLADY GAGAのフェイスマッピングで世界を驚愕の渦に巻き込んだ、WOWの浅井宣通が参加しているのも刮目すべき点だ。

出演者は、ライサンダー役には、『タガタリススムの、的、な。』、『ポセイドンの牙』に続く3度目の地下空港作品の出演となる人気俳優・原嶋元久。

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ディミトリアス役には、『十三人の刺客』で鮮烈舞台デビューを飾った庄野崎謙。
ハーミア役には出演者オーディションを勝ち抜き抜擢された18歳のフレッシュスター・山下聖菜。
そしてヘレナ役は音楽劇『赤い竜と土の旅人』でリイ役を演じた逢沢凛が務める。

さらに地下空港の数々の作品に出演してきた所属俳優・野田孝之輔、映画の話題作に数々出演の俳優・荒木秀行、地下空港4作品連続出演中の個性派俳優・竹岡常吉、演劇集団キャラメルボックスの所属俳優として数々の作品に出演の女優・林貴子(はやしたかこ)など。
 
そんな、総勢30名以上のビッグカンパニーが、未来の演劇を見せると意気込んだ『サファリング・ザ・ナイト』の初日前日のゲネプロをレポートする。
 
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【あらすじ】
2045年の近未来、世界は対立する2つの巨大AI(人工知能)企業体・オベロンとタイタニアに支配されつつあった。オベロンは、全権代表シシアスらによって開発され、統合国家システム体として急激に拡大。大規模な防衛オペレーションを行い、世界約90カ国がオベロンにその主権を移譲する。
一方、タイタニアは、オベロンの拡大と防衛的侵略に対抗する国連加盟国83ヵ国によって立ち上げられた。ヒポリタを議長としたタイタニア連盟を形成し、オベロンと激しい戦争を行っている。
そしていくつかの戦争を経て、2つのAIが遂に歴史的統合を実現することになり、その記念式典が開かれることに。そこで式典参加の候補者(観客)たちが、オベロン側とタイタニア側に集まっているのだが…。

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舞台装置は、東京都墨田区横川のすみだパークスタジオ内の敷地すべてだ。いや、もっと広いかもしれない。スカイツリーが輝く夜空も、突然降り出した雨も、倉庫も搬入用のエレベータも階段も稽古場も渡されたビニール傘もすべてが舞台になっているのだ。

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物語の展開は基本的に、すみだパークスタジオ倉とカフェギャラリーSASAYAが主だが、観客がいる時間は、劇場にいるよりも、常に歩きながら、2045年に起こる一夜の出来事を肌で体感するという、旅に近い感覚を覚える。そして演者(それを引率するのがグループリーダーだ)と一体となって舞台を感覚する。

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演劇キックでのインタビューにおいても「『サファリング・ザ・ナイト』の世界に旅をしにきてもらいたいですね」と演出の伊藤靖朗が語っていた通り、見知らぬ土地、見知らぬ空間、見知らぬ音楽を、見たり聞いたりするように、すべてが初めての経験になるのだ。
観客は何グループかに分かれ、それぞれのグループリーダーとともに移動していくのだが、そこで様々な仕掛けに巡り会うことになる。

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まず劇場から出ると、稽古場がある棟の壁にWOWの浅井宣通によるプロジェクションマッピングが観客の目を引く。ここが未来だということを印象付けられる圧倒的なシーンだった。
 
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観客も新しいAIの管理にふさわしい人格者かどうかテストされたり、まさに演者とともに未来に実際にいるという体験型アトラクションのような趣があった。スマートフォンを使った仕掛けがあれば(もちろんなくても大丈夫)、テストの監督官である演者から「愛」とは「正義」とは「AI」とはと禅問答のような質問をされてドギマギしたりする。こちらが実際に試験をされているような感覚は、苦痛ではないけれど、なんとなく青春時代のちょっと苦い思いを思い出したりもして恥ずかしい。それは年齢や、性別といった観客の人生によってそれぞれ異なるのだろう。自分自身で答えを見つけることの大切さはこの舞台の通奏低音になっている。

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基本的なストーリーは、オベロンにいるハーミア役の山下聖菜と、敵対していたタイタニアのライサンダー役の原嶋元久が、密かに恋をしており、彼らがAI同士の統合の記念式典の前のちょっとした混乱を利用して出会うというものだ。

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実際に、会場の外で、ハーミアとライサンダーの邂逅があったり、タイタニアでAIのエンジニアをしている(オベロン側の観客には不適格者と伝えられた)ボトム役の野田孝之輔が、エレベータの前で狂気に満ちた博士役を演じていたりと、観ていて飽きない。 

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どの角度で見るのか、どのストーリーラインをたどっていくのかは、オベロン、あるいはタイタニア、さらにその中のどのグループに属するかによって違うのだが、しっかりと芯のあるストーリーのおかげで、置いてけぼりになることはないだろう。

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この舞台には常に何かしら共犯関係を築いているようなドキドキした感覚があるように感じる。なぜなら、とあるグループにはその状況が観ることができて、とあるグループは観ることができないといった分断状況、誰もがすべてを把握しているということはないのだから。それは、普段の演劇を観劇するだけでは味わえないものだろう。そして物語が進み、実際には2つの陣営ともに思惑があることが明らかになって……。

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この作品は、近年話題になっている言葉、「シンギュラリティ」、つまりAIが人間を超えてしまうのではないかという時代を扱っており、人間であることの大切さを考えることが大きなテーマになっている。さらに、新しいアメリカ大統領が就任したアメリカを例に出すまでもなく、世界的な分断状況を扱ったSFの衣を借りた現代劇であるといえるだろう。

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そんな世界状況やAIについて考える主役は、あくまで観客であり、どんな正解も、どんな間違いも、答えはわからないまま墨田区の荒野に放り投げられるけれど、この舞台の最後には希望の道筋を照らしてくれるはずだ。 

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この舞台は、世知辛い世の中にあって、新しい未来を探るために、新たな共犯者といってもいい仲間を見つける旅なのだろう。観劇し終わった後、帰りの錦糸町駅までずっと誰かと未来について話し合いたい気持ちになった素晴らしい体験であった。 

〈公演情報〉
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『SAFARING THE NIGHT/サファリング・ザ・ナイト』
作◇W・シェイクスピア
演出◇伊藤靖朗
出演◇原嶋元久 山下聖菜 逢沢凛/野田孝之輔 竹岡常吉 荒木秀行 林貴子(演劇集団キャラメルボックス) 鎹さやか 大塚由祈子/田代絵麻(映像音声出演)庄野崎謙 ほか
●3/2〜12◎すみだパークスタジオ特設会場
〈料金〉オベロンゲート/特典付プレミア7,800円 タイタニアゲート/特典付プレミア 7,800円オベロンゲート/通常5,500円 タイタニアゲート/通常5,500円 (全席指定・税込)
■「オベロンゲート」は、「すみだパークスタジオ内『倉』」集合、「タイタニアゲート」は、「すみだパークスタジオ内『SASAYAギャラリー』」集合
チケット一般発売中 
■上演専用スマホアプリ無料ダウンロード中。事前にHPからアプリをダウンロードすることをお勧めいたします。(会場にwifi環境はございません。通信容量、充電にご注意ください。)
iOS iOS8以上のiPhone、Android Android5以上(※iPadなどタブレットを除く)
 


【取材・文/竹下力 写真提供/地下空港】




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