男優劇団スタジオライフが萩尾望都原作の『エッグ・スタンド』を初舞台化。3月1日に初演の幕が開いた。

『ポーの一族』の40年ぶりの連載開始で現在も日本中から熱い視線を集め続ける萩尾が、1984年に発表した100ページの中編漫画『エッグ・スタンド』。『トーマの心臓』『11人いる』など萩尾作品を数多く取り上げてきたスタジオライフが、本作の上演許可を萩尾からもらったのは今から10年以上前のこと。脚本・演出の倉田淳が構想をあたため続け、「今だからこそ」と満を持しての初舞台化となった。
 
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Noirチーム(マルシャン:岩大、ルイーズ:曽世海司、ラウル:松本慎也)

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Rougeチーム(マルシャン:笠原浩夫、ルイーズ:久保優二、ラウル:山本芳樹)

第二次世界大戦下、ナチスドイツ占領中のパリで少年ラウルと踊り子ルイーズ、レジスタンスの青年マルシャンが偶然出会う。緊迫した情勢の中でも、孤独な魂を寄り添わせるようにして結びついた3人は束の間心を通わせ、思いを温め合う。しかし、マルシャンはラウルの不思議な行動に気づき始める…。 
 
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「なにもかも きわどいところにある 愛も 憎しみも 生と死も」 

人間が人間でなくなってしまう戦争の時代。萩尾は「反戦」を声高に訴えかけはしない。そこにも確かに今の私たちと同じようにちょっとしたことで笑い、あるいは泣く人間がいたのだということを、独特の繊細な筆致で描く。

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そして、そんな些細な哀歓をもすべて吹き飛ばしてしまう戦争の過酷さ。浮かび上がる少年ラウルの心の闇…。薄いベールのように様々な要素が重なり合う作品の奥に横たわるものを、脚本・演出の倉田淳は一つ一つ丁寧に解き明かす。

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萩尾の代表作の数々を20年間上演し続けてきたスタジオライフだけに、倉田は萩尾作品の奥深い部分まで分け入り、新たな息吹を吹き込むことができるのだ。製作発表での萩尾の言葉を借りれば、それはまさに「倉田マジック」だと言えよう。

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舞台美術は極めてシンプルで象徴的だ。グレーの床面は奥に向かって高くなる。上部にエッグ・スタンドを象徴するオブジェが吊り下げられている以外は何もない空間(美術は乘峯雅寛)。そこに登場人物が現れることで、命のきらめきの色合いが様々に加わってくる。

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彼らは冬のパリの凍てついた公園から踊り子たちがひとときの華やぎを見せるキャバレー“花うさぎ”、そしてパリを一望できるアパルトマンの6階へと観客を導く。倉田の丹念で真に迫る演出にキャストが応え、緻密な演劇空間が成立した。

メインの3役はダブルキャストでの上演で、初日はNoirチームが出演した。

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ラウル役の松本慎也は『トーマの心臓』のエーリクやユーリを演じた経験を糧として、新たな少年像を描き出す。母親の束縛から逃れ、パリに移ってきた少年の内面に宿るものを透明感のある演技で表現。ラウルがピュアであればあるほど、戦争の狂気は人間の中にも宿っているのだということを感じさせられた。

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曽世海司はドイツから逃れてパリに移り住んできたユダヤ人女性ルイーズを瑞々しく演じた。ルイーズの生命力が作品全体に鮮やかな彩をもたらす。

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マルシャン役は岩大。包容力のある演技で、これまでにない姿を見せる。マルシャンがラウルの謎に迫る過程が観客の心に寄り添い、ドラマティックな効果を上げた。 

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この3人が誕生日パーティをするシーンが印象深い。戦時下であっても人は何気ない日常を守り、喜びを分かち合おうとする。彼らの生きた姿にリアリティがあった。それだけにその後の展開は胸に迫るものがある。 
 
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作品のタイトルになっている「エッグ・スタンド」は、孵化しなかった卵が間違えてゆでられて、卵の殻をむくと中には真っ黒にゆでられたヒヨコがいたという作中のエピソードから。ゆでられてしまった卵は、親の愛にがんじがらめになった少年であり、戦争を繰り返す世界そのものでもあるのだろう。

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不安定な世界はエッグ・スタンドに乗ることでどうにか均衡を保っている。世界を支えるエッグ・スタンドが壊れそうな気配も感じる昨今、本作の上演の意義は大きい。そして、ラストのマルシャンの姿からは戦争のない未来をただ思い描くだけでは済まないという世界の複雑さが感じられ、彼の震えに共振させられた。
 (文/大原薫) 

〈公演情報〉
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スタジオライフ『エッグ・スタンド』
原作◇萩尾望都(「エッグ・スタンド」小学館文庫「訪問者」収録)
脚本・演出◇倉田淳
キャスト◇松本慎也 / 山本芳樹、曽世海司 / 久保優二、岩大 / 笠原浩夫
船戸慎士 奥田努 仲原裕之 宇佐見輝 澤井俊輝 若林健吾 田中俊裕 千葉健玖 江口翔平 牛島祥太 吉成奨人 藤原啓児
●東京公演 3/1〜20◎シアターサンモール
大阪公演 3/24・25ABCホール [OSAKA SPECIAL EVENT]  3/26ABCホール




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