DSC_5144

東日本大震災から6年目の3月11日を迎えた。だが被災地にはいまだに様々なかたちで傷跡が残っている。そんな中、東北のとある家族を題材にした作品『萩咲く頃に』が、1月から全国を巡演、3月21日からいよいよ東京公演の幕を開ける。(26日まで。全労済ホール/スペースゼロ)
初演は2014年。震災の記憶も生々しい時期に作られた親子と家族の物語は、各地で大きな感動を呼び起こし、その好評を受けて待望の再演となった。 
出演者は、息子に期待をかけるあまりすれ違ってしまった父と、息子を信じ続ける母という夫婦に、大和田獏と音無美紀子。引きこもりのあげく震災をきっかけに家を飛び出した正樹に西尾友樹。そんな兄に反発を抱く妹と一家を訪れた若い女性に、藤澤志帆と森川由樹。初演のキャストがそのまま顔を揃え、一段と息の合った舞台を見せている。
この作品で息子の正樹を演じている西尾友樹は、劇団チョコレートケーキの看板俳優。直近の舞台『治天ノ君』(再演)の大正天皇役でも、その突出した演技力が称賛されるなど、今まさに、演劇界注目の俳優だ。そんな西尾友樹に、今回の『萩咲く頃に』について、また俳優としての自身のことなど、じっくりと語ってもらった。

家族のように一緒に行動する5人
 
──3年ぶりの『萩咲く頃に』ですね。
初演から3年も経ったとは思えないくらい、あっという間でした。当時、音無さんや大和田さんと、「再演できたらいいね」と話していたので、実現して本当に嬉しいです。
──1月から全国巡演中ですが、3年前と比べて客席の雰囲気など変化を感じますか?
話の中で出てくる時期はリアルタイムで描かれているので、初演のときはちょうど震災から3年後という設定だったんです。今回は、震災から5年半経過した設定での再演となりました。稽古中は「世間では震災が遠くなった気がする」と、キャスト同士で話していたのですが、実際に公演で東北に伺うと、生活の部分はある程度戻っているものの、心の部分は癒えてないのを感じます。お客様の中にもご家族を亡くされた方がいますし、やはり遠くなっていないなと。
──正樹役への取り組み方については、変化はありますか。
役も自分と実年齢で、僕は初演は30歳でしたが、今は32歳なので、引きこもりの時期や、家族と会ってない時期、家族がバラバラになっている時期が初演よりも長くなっています。そこは家族みんなが意識していて、初演ではすぐに飛び越えられた時間の隔たりも、今回は「そんなにすぐに打ち解けられるものなのか」と、稽古場でディスカッションしたりしました。僕自身、引きこもりについてもわからない部分があったので、ドキュメンタリーを見て参考にしたり、でも、最大公約数的に記号的にならないように気をつけながら、作・演出のふたくち(つよし)さんの書かれた言葉やト書きをまず大切にして作りあげていきました。
──再会した正樹が良い意味で変化している、そこへの驚きと戸惑いもあるはずですね。
嬉しいのか、寂しいのか、色々な思いがあると思います。でも正樹も頑張ったことでそうなれたわけで、その時間の経過というものを大切に演じています。
──初演と同じメンバーということで、家族に近い感覚もあるのでは?
本当にそうです。すごく仲が良いんです。それぞれ出自や経歴が違っている5人で、音無さんと獏さんはドラマでは共演したことがあるそうですが、夫婦役は初めてで、他のみんなは初共演で。そんな5人が、お互いを尊重し合って丁寧にゆっくり作ってきました。その甲斐あって、公演が終わったあともご飯を食べに行ったりとか、旅公演中に移動するときもレンタカーを借りて獏さんが運転して、一緒にあちこち行ったりとか、家族みたいに過ごしていました。こんな座組は他にないです(笑)。
──両親役のおふたりの、役者としての包容力もあるのでしょうね。
音無さん自身母親でいらっしゃるので、役の気持ちがすごくわかるとおっしゃっています。最初から父と母がいるところに子供が飛び込んでいくような感覚でしたし、家族になるのに無理を感じないで、自然に出来上がっていきました。

DSC_5198

感謝や後悔は言葉にしないと伝わらない

──この作品は震災が背景にありますが、家族の物語ですから、全国どこに行っても共感してもらえることは大きいですね。
観てくださった方たちに感想を聞くと、登場人物の誰かしらに感情移入できるそうです。似たような息子がいるとか、息子が最近嫁さん連れてきてとか、自分は引きこもりだったという方もいらっしゃったり。作品の中で描かれている家族の問題が、観る方の身近にあることを改めて感じます。
──西尾さん自身も、家族との関係などで感じる部分はありますか?
ありますね。僕は実家が大阪なのですが、なかなか帰る機会がなくて、地方公演を観にきてくれるのを含めても、年に2、3回しか会えてないんです。この物語を演じながら、「そうだよな、感謝や後悔はちゃんと言葉にしないと伝わらないんだよな」と。実は父親が大病したのですが、そのときに言ってくれなくて、あとになって知ったんです。心配させるからだったそうですが、なんで言ってくれないんだよという思いがありました。
──男親というのは、息子に弱みを見せたくないところもあるのかもしれませんね。
男同士ってなかなかしゃべりにくいですよね(笑)。母親とはけっこうLINEなどでも連絡を取り合っているのですが。やはりこの舞台のように、気持ちをぶつけ合うことも大切だなと思います。
──ふたくちさんの作品はそういう日常の中の問題を、さりげない会話の中でうまく浮かび上がらせますね。
普通の話をしているだけなんですけど、会話の妙がありますよね。たとえば母親と妹が話しているだけのシーンでも、内容がとても豊かに感じます。
──この作品は今年の秋にも、また全国ツアーがあるそうですね。
30ステージぐらい色々な場所で公演します。普通は1回作って終わりということが多いんですけど、これは何度も観ていただけるのが嬉しいです。僕の中学生の格好はそろそろ限界かなと思いますが(笑)、たとえキャスティングが変わってもずっと残っていくと思いますし、そういう作品に出ていることは、とても幸せなことだと思っています。
 
残りの20代を考えたとき、もう1回演劇をやろうと

──西尾さんの演劇歴についても伺いたいのですが、演劇を始めたのは?
早稲田大学に入学してからです。といってもサークルにも劇研(演劇研究会)にも所属してなくて、出版サークルにいたんです。ただ、タカハ劇団の主宰の高羽彩とか大学で知り合った友達が演劇をやっていて、今度公演があるんだけどやってみない?と誘われて出たのが最初で。
──とくに演劇青年というわけではなかったのですね。
東京に出てきたのは映画監督になりたかったからなんです。早稲田は映像演劇学科が文学部にあったので、それで早稲田を目指したんです。ただ、色々受けたのに受かったのは政治経済学部だけで(笑)、それで出版サークルをやりながら映画もやろうと。でも早稲田は演劇が盛んで、いつも公演の立て看板があったり、周りにやっている人間が多かったので、演劇もやってみようと。実際に舞台に立ったら、なんかずっとやりそうだなという感じはあったんです。ですから卒業して出版社に入社したあとも、1年に1本だけ、高羽の芝居には出てました。

DSC_5162 
 
──出版社では週刊誌を作っていたそうですが、相当忙しかったのでは?
毎週校了がありますから、わけがわからなくなってました(笑)。しかも病院関係の別冊を毎年作っているので、年末年始はがっつり働いてて。こんなふうにここで編集者になっていくのかなと思っていた矢先に、会社の中で部署移動の話があったんです。編集から記者へという話で、そうなると地方に行ったりするので、生活のサイクルが違ってしまうんですね。そのとき25歳で、残りの20代を考えたとき、もう1回演劇をやりたいなと。本を作るのも好きで、一生懸命作っていたんですけど、どこか全身全霊ではのめり込めなかったんです。
──活字より体そのもので表現するほうが、向いていたのでしょうね。
やっぱりフィット感が違っていたんだと思います。編集部時代は意図的に演劇から離れようとして、舞台も映画も観ないようにしてました。観るとやりたくなりますから。そういうのも精神的によくなかったですね(笑)。
──でも、よく思い切りましたね。大手週刊誌の記者なら出世コースですよね。
あの年齢だったから決断できたと思います。先輩にも「わかってるのか。マスコミを目指してる人間が入りたくても入れないところだぞ」と言われました。でも僕は「わかってないからやめます」と。忘れもしませんが、最後の出勤日がWBCの日本対韓国の決勝戦で、イチローが延長戦で決勝2点タイムリーを打って、日本中が沸きかえってて、そういう時に、俺は情報の最先端からいなくなるんだと、寂しさみたいなものを感じた記憶があります。
──ご両親は心配されたのでは?
いえ、逆に「あんたは編集者になりたくて東京に行ったのか?」と、「映画撮りたいからと東京に行ったのに、編集の仕事をするというから、何考えてるのかなこの子と思ってた。いい機会じゃないの」と言ってくれて。
──すごいご両親ですね。
親も変わってるんです(笑)。僕、長男なんですよ。それなのによく背中を押してくれたなと、本当に感謝しています。

良い時期に出会った劇団チョコレートケーキ

──今になってみると素晴らしい選択でしたが、やめた直後は不安もあったのでは?
1年ぐらいはニートのようでした。仕事もなく、芝居もツテがなくて。高羽は劇団を作っていましたが、今更そこに出してもらうわけにもいかないし。色々なワークショップやオーディションを受けまくって、その頃に出会ったのが、DULL-COLORED POPの谷賢一さんで。谷さんもいろんなことをやりたい時期で、谷さんの企画で一緒に芝居をやったりしていました。そういう中で、劇団チョコレートケーキの主宰の日澤(雄介)さんとの出会いがありました。日澤さんは当時は俳優を主にやっていたのですが、一緒に芝居に出たときなど、みんなが終電で帰ったあとも2人残って飲みながら色々な話をして、ちょうど劇団チョコレートケーキも作・演出が抜けて、古川(健)さんが書いて日澤さんが演出することになった時期で、うちの劇団に来ないかと。
──それで参加したのですね。劇団での初めての作品は?
古川さんの脚本を初めて日澤さんが演出した『サウイフモノニ…』(10年)でした。そこから2年ほど客演として公演に参加して、2012年の『熱狂』から正式の劇団員になりました。
──劇団チョコレートケーキは、そのあたりから演劇界で注目されるようになりましたが、西尾さんの加入も大きかったと思います。
ちょうど良い時期に出会ったと思います。評価されたのは、古川さんの脚本の力と同時に、日澤さんの演出によるものも大きいと思っています。俳優が試したり遊んだりする部分をよしとしてくれるので、すごく風通しが良くて、トップダウンというよりもみんなで作っていくスタイルで、そういう意味で新しいことに挑戦できる環境が整っているんです。もちろん本がしっかりしているので、おかしな方向に行かないという、安心感とか信頼感があるからこそできることですが。
──チョコレートケーキの土台は、そういうフラットな関係の中で作ってきたわけですね。
今もそこは変わりないというか、劇団の俳優部は3人しかいないのですが、固定の客演の方たち、ほとんど毎回出てくれる方が何人かいるので、そういう人たちと一緒になって、毎回毎回ゼロから一緒に作っていくということの繰り返しです。
 
DSC_5228

違和感とか気持ち悪いとかそういう表現のほうが好き

──劇団チョコレートケーキの作品はいわゆる社会派と言われていますが、ジャーナリストだった西尾さんにとって共感できる部分も多いのでは?
それはあります。日澤さんも、演劇は面白いものを作っていればいいんだということではなく、訴えていくところには訴える。ちゃんと大人としての集団にしようと、毎回言っています。組織としても役割分担もきちんとしようという考えで、会計担当もいますし、僕もマスコミにいたことを生かして広報担当をしています。
──西尾さんは、素顔の知的で穏やかな部分と役者の部分が別人格のように見えます。なりきり方がすごいというか。
昔からテンション高いよねと言われたりしてました(笑)。普通にやるのがもどかしいんですよね。それで失敗もするんですけど、一癖二癖つけられないかなと思うんです。最近とくに、生理的な表現ってどうやったらできるんだろうなと考えているのですが、この感情だからこの表現というよりも、2、3回屈折させて出すというのが、すごく好きなんです。観る側としても、違和感とか気持ち悪いなとかそういう表現が好きですね。やれと言われても綺麗な表現は苦手ですし、ちょっと素直じゃない表現のほうが、僕は好きなんだなと思います。
──『治天ノ君』(2014年、2016年)では、体を歪めたまま演技していましたが、ああいう表現は自分で考えるのですか?
資料を読んだりして、髄膜炎では一般的にどういう症状が出るのか研究しました。その研究したことを具体的に表現するのはどうしたらいいのか、たとえば半身不随になったら、腰に重心をかけて、腰から歩かないと歩けないなとか、そういうところを突っついて、作っていくのが好きなんです。
──すごく知的な構築をするのですね。
色々考えることが好きなんです。稽古場でそれを出していけるかというとまた別なのですが、1回自分で想像して作ってみるのが好きですね。
──役柄も、社会の中で異質な部分を抱えた人とか、はみ出してしまう人間が多いですね。
自分の中にも、ちょっとそういうものがあるのかもしれません。日澤さんは劇団の問題児だとおっしゃいますから(笑)。近藤芳正さんにも『ライン(国境)の向こう』(15年)のとき、「西尾くん、なんか、殺しそうな感じで来るよね」と。「芝居じゃないところでもなんか怖いんだよ」と言われて(笑)。いいのか悪いのか、そういう要素があるんでしょうね。やっぱり芝居したくてもできない期間もありましたから、取り返そうではないですけど、鬱積したものというか、欲求が渦巻いているのかもしれません。

俳優・西尾友樹の表現の場所をもっと作っていく

──役にはどんなふうに入っていくのですか。たとえば自分の中でわかる部分を拡大していくとか?
今回の正樹もそうですが、まず感覚としてその人間を理解しようとします。それを舞台の上でちゃんと表現できる状態まで持っていく、それを目標にしています。ですから稽古では細かくディスカッションしたりして解釈するんですけど、最終的にはその解釈が合ってなくても、真逆でも、自分の感覚を優先した方が伝わると思っているんです。
──自分の感覚への確信があるから、地に足がついた人間像になるのですね。大正天皇も犯罪者も西尾友樹の延長線上にあるのを感じます。しかもそれをすごく楽しんでやっているなと。
(笑)そうですね。楽しいですね。以前は作ることに必死で、自分がこうやれればそれでいいという感じでしたが、今はもっと色々な表現のやり方があるんじゃないかと。もっと色々な表現を見てみようと思っていて、共演者を見て先輩の話を聞いて、1個1個取り入れていきたいなという段階になってます。ちょっと大人になったのかなと(笑)。でもそのことで、自分の中の何かが減っていったらいけないとは思いますが。
──映像への出演も多くなっていますが、それによってフィードバックすることもあるでしょうね。
表現の場所はもっと作っていきたいし、いくべきだと思っています。多少不慣れであっても、いろんな現場に飛び込んで、1つ1つ大切にやっていきたいです。
──そのときに劇団というホームがあるのは心強いですね。
やはり気心の知れた者同士で、一緒にものを作っていくという環境があるのは有り難いです。そこからさらにフィールドを広げていきたいし、そして俳優としての西尾友樹がまず自立していくこと。でないと一生続けていくのは難しいだろうと思いますから。
──最後に、この『萩咲く頃に』について改めてお客様にメッセージを。
なかなか3年間同じキャストで1つの作品を育てる環境は、そうはないと思います。そこで5人が作り出すチームワークや空気感、そういうしなやかなものを楽しみにしてもらいたいなと。そして原発の問題なども作品の軸にありますが、まずは5人がいる澤田家を、隣のベランダからでも覗き見るような気持ちで、そして、気に入った登場人物を見つけたり、ご自分の家族のことなども考えながら、この5人の生き様を見ていただきたいです。
 
DSC_5159
にしおゆうき○1983年生まれ、大阪府出身。早稲田大学入学を機に演劇を始め、07年タカハ劇団『モロトフカクテル』で初舞台。10年『サウイフモノニ…』より劇団チョコレートケーキに出演。12年『熱狂』で劇団員に。劇団以外の最近の舞台は、トム・プロジェクトプロデュース『スィートホーム』、ミナモザ『彼らの敵』、劇団チョコレートケーキwithバンダ・ラ・コンチャン『ライン(国境)の向こう』、オフィスコットーネ『埒もなく汚れなく』など。映像やラジオなどにも出演。『熱狂』『治天ノ君』で第21回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。
 

〈公演情報〉
hagi2017

トム・プロジェクト プロデュース
『萩咲く頃に』
作・演出◇ふたくち つよし
出演◇音無美紀子 藤澤志帆 森川由樹 西尾友樹 大和田獏
●3/21〜26◎全労済ホール/スペース・ゼロ
〈料金〉前売¥4,500 当日¥5,000 U-25¥2,000 シニア¥4,000(全席指定・税込)
※U-25(25歳以下)とシニア(60歳以上)券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金。
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10:00〜18:00)

【地方公演】
●3/19◎東美濃ふれあいセンター歌舞伎ホール
〈お問い合わせ〉0573-66-4011 
 



【インタビュー/榊原和子 文・撮影/竹下力】



えんぶ4月号 




kick 

shop 

nikkan 

engeki