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父を暗殺した母とその情夫への姉弟の復讐が描かれるギリシア悲劇『エレクトラ』。このドラマティックな作品が、豪華出演者と鵜山仁演出によって、4月14日〜23日の世田谷パブリックシアターを皮切りに、新潟、兵庫、相模原、水戸で上演される。
キャストは、母であるクリュタイメストラに白石加代子、娘のエレクトラに高畑充希、父アガメムノンは麿赤兒、そして弟オレステスには村上虹郎という、まさに新鮮な組み合わせとなっている。

今回、クリュタイメストラを演じる白石加代子はこの役はなんと4度目。一方、ギリシア悲劇にはこれが初出演となる麿赤兒。そんな2人に、作品と役柄のこと、そして演劇界に旋風を巻き起こした状況劇場、早稲田小劇場時代について話してもらった「えんぶ4月号」の記事を、別バージョンの写真とともにご紹介する。

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世界一怖い女性の役がなぜ何度もくるのか

──麿さんは『エレクトラ』は初出演ということですが。
麿 僕はギリシア悲劇自体が初めてです。アレンジした踊りは作ったことがありますが。
白石 私はクリュタイメストラをこれまで4度演じているんです。なぜこの世界一怖い女性の役が何度も私のところにくるのかしら!(笑)という気持ちです。
──この役の激しい愛憎とか情欲などを演じられる人は、そう簡単にはいないからでしょうね。
白石 そのへんは1人の女としては、私にはないものですが、演じる楽しみはあります。いつもなんとか寄せ集めて、掻き立てながらやってきましたが、でももう出し尽くしたと思っていたのに(笑)、ああ、私はまたこの役をやるのかと。
──女性としては、エレクトラの復讐心のほうが理解できないという声もあります。
白石 確かにそうですね。でも父親を崇拝するあまり母親を憎むというふうに捉えたら、わかる気もします。今回のエレクトラの(高畑)充希ちゃんが若いから、以前『グリークス』(00年)で演じたときのように、血みどろで猛々しい母親という一面だけでなく、もう少し女の弱くて優しい部分も盛り込もうかなと。相手役も、『グリークス』では平(幹二朗)さんでしたが、今回は麿さんですから、また違うものになると思います。
──お二人の共演は?
麿 3度目ですね。『ゴドーを待ちながら』(94年)と『常陸坊海尊』(97年)かな。
白石 麿さんのことは状況劇場の時代から拝見していて、テントにのしのしと出ていらしただけで、どう言えばいのかしら、人間の肉体を超越した彫像のような、まるでギリシア悲劇の原型そのものというか、神のような…そういう存在でした。
麿 自分では全然分かりませんが(笑)。
──今回のアガメムノンについてはどう演じようと?
麿 今は導かれるままにとしか言えないんですが(笑)、他に老人やアポロンやトアス王という役も演じるので、勝手に共通項を見つけたいとは思ってます。
白石 今、おっしゃったことでピンときたのですが、今回の台本は、今までにない台詞が入っているんです。「父親と母親というものがいて、父親を好きな人間と母親を好きな人間がいる」なんて。つまりこの物語は男と女の闘いであり、父性と母性のせめぎ合いのようなものかもしれないなと。そう考えると、クリュタイメストラの解釈もまた変わってくるのかなと思います。

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それぞれの集団で特権的肉体だった2人

──先ほど白石さんから状況劇場の話が出ましたが、麿さんは早稲田小劇場は?
麿 観てますよ。喫茶「モンシェリ」の上にあった劇場にもよく行きました。その時代の早稲田小劇場で、加代子さんは1つの時代を作りましたからね。周り中から「とんでもないのが入ってきたぞ」と(笑)。
白石 早稲小と状況は交流はあったんですよね。早稲小は状況以外の劇団はちょっと無関心で(笑)、でも状況のことは無視できなかったの。
麿 僕らのほうはバカにされてると思って開き直ってましたからね。忠さん(鈴木忠志)を後ろから襲ってやろうかと(笑)、背が高くて背広着てカッコいいから。僕らは馬車馬みたいになって芝居やってるのに(笑)。
白石 いえいえ、めくるめくような方ばかりでした。あの時代って寺山(修司)さんも私たちも、唐(十郎)さんも外国にどんどん公演しに行きましたよね。演劇が文化の先頭切って走っていた時代で、そういう時代が一瞬だけどあったの。
──文化を牽引していましたし、演技スタイルでも革命を起こしました。
麿 加代子さんが入ったことで早稲小のスタイルが変わったんです。忠さんにとって白石加代子は特権的肉体だったわけです。
白石 「特権的肉体」は唐さんの言葉で、状況の皆さんこそ、そのものでした。
麿 ただ、アングラ時代は演技論が確立していたわけではないんです。それこそ早稲小では加代子さんを通じて出来てくる、唐にとっては僕ら役者たちを通じて出来てくる、そのベクトルから生まれた。そして、そういう破天荒と言われるような、傍若無人で実験的なところから、僕自身もぽつぽつ拾ってきたものがあるんでしょうね。

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舞台の上で5分、観客の目に耐えられればいい

──そういうお二人だからこそギリシア劇でもそのままで存在できるわけで、肉体も精神も鍛え方が違うという気がします。
白石 麿さんはその後、舞踏で徹底的に身体を検証していらっしゃって、私なんか足下にも及ばないですけど、こうやって40年、50年経ってから、2人でギリシア悲劇をやらせていただけるというのは、何かエッセンスは残ったんだなと思います。集団でよく演出家に言われたんです。「舞台の上で5分、客の目に耐えられればいいよ」と。5分飽きないで観てくれればすごいことなんだと。麿さんの舞踏は、そういうことを言葉を使わないでやっている。その基本は同じなのかなと。私はあまり色々なものを巧みに演じられるほうではないのですが、全部削いでしまっても1つだけ、せめて5分耐えられればいいかなと。そして内容が充実している本と演出に寄り添っていけば、お客様は最後まで観てくださる。だから基本はそれで、麿さんもそういうことを常に考えながら来られたのかな…。
麿 踊りはそこにいればいいんですが、いるにはどうしたらいいんだというのがある。その空白までお客さんは観てくれるだろうかと。お客さんの想像力というのは裏腹ですからね。そのために言葉や声があるといいのですが、手続きだけに終わるとつまらない。ましてやギリシア劇は、内臓から出てくるような言葉をそのまま吐き出すみたいなもので、それを言語化されているのが加代子さんなんです。
──そんなお二人が、この作品へかける思いを最後にぜひ。
白石 私にとって今回で4度目になるこの『エレクトラ』ですが、ギリシア劇といっても、今回はちょっと室内劇のように空間を狭めたものになりそうで、人間関係が少し細かく繊細に出てくるかなと思っているんです。麿さんとの夫婦関係がどうなるか楽しみですが、あまり会話がないんですよね。
麿 すぐ殺されてしまうから(笑)。アガメムノンは白石さんと高畑さんから抽出するしかないと思っているし、それぞれの違う視線を引き受けるので、ちょっとピカソの絵のように歪んだ姿になるんじゃないかな。
白石 エレクトラが喋るお父さん、私が喋る夫はぎくしゃくしますからね。
麿 いっそ出てこないほうがいいかもしれない(笑)。そんな大層な親父じゃないということで(笑)。

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白石加代子・麿赤兒

まろあかじ○奈良県出身。64年より土方巽に師事、65年、唐十郎の劇団「状況劇場」に参画。唐の「特権的肉体論」を具現化する役者として、演劇界に大きな変革の嵐を起こす。72年、舞踏カンパニー「大駱駝艦」旗揚げ。国内外で新作を上演し続けながら、役者としても映像、舞台で活躍中。近年の主な舞台は『毛皮のマリー』『荒野のリア』『レミング』など。舞踏批評家協会賞、文化庁長官賞表彰、ダンスフォーラム賞・大賞、東京新聞制定「第64回舞踊芸術賞」などを受賞。

しらいしかよこ○東京都出身。67年、劇団早稲田小劇場(現SCOT)に入団。黎明期小劇場演劇の興隆のなか、数々の伝説的名舞台を生んだ。89年、SCOTを退団。以来、映像や舞台で幅広く活躍中。最近の主な舞台は『百物語』『笑った分だけ、怖くなる』『死の舞踏』『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』『愛情の内乱』『原作ミヒャエル・エンデより〜オフェリアと影の一座』 など。読売演劇大賞優秀女優賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章、旭日小綬章、菊池寛賞など受賞多数。


〈公演情報〉
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りゅーとぴあプロデュース『エレクトラ』
演出◇鵜山仁
原作◇アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデス(ギリシア悲劇より)
上演台本◇笹部博司
出演◇高畑充希 村上虹郎 中嶋朋子 横田栄司 仁村紗和/
麿赤兒 白石加代子 
4/14〜23◎世田谷パブリックシアター、
4/25・26◎りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場、
4/29・30◎兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、
5/2◎相模女子大学グリーンホール 大ホール
5/6・7◎水戸芸術館・ACM劇場
〈お問い合わせ〉MTP 03-6380-6299
http://www.ryutopia.or.jp/performance/event/303/ 





【取材・文/宮田華子 撮影/安川啓太】



えんぶ4月号 




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