人間ぽいっていうところにとても惹かれて。

4年前の公演で、原発事故のなかで発生した被爆牛の殺処分という現実の話題に、“件”という半人半牛の姿をした妖怪をからめて、好評を博したTOKYOハンバーグの舞台が再演される。
とはいっても、取材によるとどうやら当時のモチーフを生かした、新作に近い作品になるという。まさに稽古たけなわ、多忙の劇作家・演出家の大西弘記に話を聞いた。
 
Ohnishi


4年前の自分との闘いです。

──「被爆牛」と「件」というモチーフはどこから?
被爆牛というのは現実に存在している牛です。政府の「殺処分しろ」という命令に抵抗して被爆した牛たちを守っている農家の方がいらして。
その現実のお話、題材と、牛から人間の女性が生まれてきたという設定で、色んなことを考えてみたいと思って。
──今作は再演ですがだいぶ替わりそうですか? まだ脚本を書いている途中とのことですが。
今言った2つのモチーフは変わらないんですけど、後は全部替えています。この作品は4年前に書いたものなので、今のものとして書き直したいなと思って。
──登場人物の数やストーリーそのものが違うのですか?
そうです。ほぼ新作です。登場人物の名前も全部替えています。今、前回の台本を読んでみると、「視点とか着眼点はおもしろかったのに!」という感じがするので。今ならもう少し上手く書けるだろうと。4年前の自分との闘いです。劇作家としての自分とも向き合っています。
4年前と今も変わらないのは、こういう題材で演劇をやってるということです。いろんな演劇があっていいと思うんですけど、自分はこういうことを演劇にして生きていきたいと思っていて。
震災の話なんですが、見た方がいい、見なくてはいけない作品を作っていきたい、という思いがあるので。それを直接的にやるとちょっとしんどいので、牛を擬人化するという目線からあの原発事故を描いています。
原発事故はまだ終わっていないよと。福島はまだ現在進行形ですし。やっぱりみんな嫌なものには目を背けたいですからね。でも考えないといけないなと思いますし。原発というものに対しても。そういうところから、書いてるというのはあります。

有害だから殺すという殺処分は違うんじゃないかって。

──途中まで台本を読ませていただきました。テーマは重いですが、童話みたいなトーンもありすんなり読み進められました。
実際、希望の牧場というのが福島にありまして。吉沢さんという方が300頭以上の被爆牛を6年間、守っているんです。そこへ取材に行かせていただいて。
売れないので家畜としての価値はゼロなわけです。原発事故の起こる前までは、売って生計を立ててたんですけど、それができなくなったので、じゃあ、それを殺すのかと。その時にそういう殺し方はしたくない、人間の都合で殺したくないっていうところに、すごく人間っぽさを感じて。自分の中では不思議で。その人間ぽさにとても惹かれました。
──人間ぽいっていうのは、牛ではない人間のことですよね?
牧場主の方です。だって、牛って、豚も鶏もそうですけど、経済動物じゃないですか。ぼくらはそれを食べて生きていますけど、それができなくなったから殺す、有害だから殺すという殺処分は違うんじゃないかって。
「だって、あなたこれは有害じゃなかったら、出荷して殺してたわけでしょ? 何が違うの?」と言われればそれこそ正論じゃないですか。でもそこで「できない」と答えるところに人間の理性というか、感情というか、そういうものがすごくあって。だから人間っていいなって。
福島には被爆していない牛もいますから、被爆牛がいることで風評被害になりかねないという事実も確かに分かるんです。殺処分を涙をのんで受け入れて、またやり直している方たちもいるわけで、そのせいで自分の牛が売れなかったら嫌ですもん。そういう気持ちは分からなくはないです。だから何が正しいのかなというのは、いろいろな立場や、ケースバイケースによるのかなと。でも人間も牛も生きているっていうことには変わりないでしょってぼくは思って。

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『KUDAN』キャスト・スタッフ

「クラープ」というのは「しずく」「地球の涙」という意味があって。

──牛たち、動物たち名前が変わってますよね?
みんなかっこいい名前でしょ? 全部ウクライナ語です。ウクライナと言えば、チェルノブイリがある場所です。そこからちょっと文字ってみました。
「クラープ」というのは本当は「クラーピアほにゃらら」って長い単語があるんですけど、そこからいただいて。名前にはそれぞれに意味があって。「クラープ」というのは「しずく」という意味なんです。裏付けで言うと、「地球の涙」という意味です。ほかには「父」「母」「木」「葉」「大空」「風」「死」とか。
やっぱり名前って、そういうイメージや裏付けがありますよね。『ドラゴンボール』とかもそうですもんね。やっぱりそういう名前をつけたくなる気持ちがあります。
──カタカナの名前って難しいことが多いですけど、3文字、4文字ですっと入って来やすいですね。
マックスとか馴染みのあるアメリカ人系の名前ではないけど、けっこう素敵な名前がいっぱいできたなと。この中でぼくのお気に入りは「ネジュン」とか「ニジカ」とかあんまりなさそうですし。「モーラン」とかもかっこいいかなと。
──牛は擬人化、人の形で演じられるのですか?
そうですね。 

演劇論を持ってる俳優たちと一緒にやるって、とっても刺激を受けますね。

──ラストは決まっていますか?
今はちょっとどっちにしようか迷っているところです。どっちにするべきか。
──どんな作品になりそうですか。
4年前も今も、ファンタジーを書いてるんですけど、ぼくはファンタジーだとは思っていないんです。そういうふうに感じてもらえればいいなって。
今回も本当にいい俳優が集まってくれました。オーディションに60人も来てくれてびっくりしたんです。その方たちを含めて多くの人が「なぜこの舞台に立ちたいのか」「なぜその作品に携わりたいのか」という、俳優論というか、演劇論を持っています。そんな俳優たちと一緒にやるのは、とっても刺激を受けますね。
ぼく、この座組では中堅なんですよ。本当にいつも思うんですけど、いい先輩や後輩たちに育てられてるなと。
──書きたいことがあって、俳優たちも意識の高い人たちが集まって、いいですね。
楽しいですね。苦しいこともあるんですけど。台本もあとちょっとだからみんなも待ってくれてるんです。ぼくが苦しんでいるっていうのを分かってくれているので、待とうって言ってくれてるみたいです。今まで書いてきているのがおもしろいと思ってくれているから。でもたいがいにしろよといつ言われるか分からないですけどね(笑)。

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TOKYOハンバーグメンバー

俳優を観てもらったら、いろんなことが見えてくると思うんで。

──最後に見所を。
全部観て欲しいんですよね。本当にいい俳優ばっかりなので、俳優を観て欲しいな。俳優を観てもらったら、いろんなことが見えてくると思うんで。ぼくが書いているのは、本なので、それを演劇にしてくれるのは俳優だから。俳優がその世界に生きているというのを観て欲しい。ファンタジーの中に生きてるっていう様子を見て欲しいです。その結果お芝居全体が見えてくるといいですね。

 
Ohnishi-2
大西弘記
 
おおにしひろき○三重県出身。TOKYOハンバーグ主宰/劇作家/演出家/俳優。1999年に伊藤正次演劇研究所に入所し演劇を始める。2006年に自らの作品を上演するためTOKYOハンバーグを立ち上げ、以降すべてを脚本・演出担当する。


〈公演情報〉
 kudan

TOKYOハンバーグ
『KUDAN』
出演◇山本由奈 永田涼香 三枝悠平 小林大輔(以上TOKYOハンバーグ) 
上田尋 内谷正文(Frank Age Company) 宇鉄菊三tsumazuki no ishi)大内彩加officePORT) 甲津拓平流山児★事務所) 小林英樹 小山貴司 小山友香里テアトル・エコー 阪本篤温泉ドラゴン 白石花子劇団民藝 スニョン劇団俳協 鷹野梨恵子(無名塾 谷沢龍馬スタッフ・ワン 友澤宗秋 鳥越さやかZINGY ZAP Enterprise 中込俊太郎ULPS 中村榮美子少年王者舘 服部有香里 藤原啓児Studio Life) βワハハ本舗 星野真央ALBA) 本多由佳 ムラナカユカ 森田匠トラッシュマスターズ 米田敬トルチュ ※五十音順 他
●4/12〜16◎座・高円寺1
4/22・23◎シンフォニアテクノロジー響ホール伊勢 大ホール(伊勢市観光文化会館)
〈お問い合わせ〉090-5807- 3966
http://tokyohamburg.com/


【取材・文・撮影/矢崎亜希子】



えんぶ4月号 




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