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図書館に立てこもった犯人と、警察の交渉人との絶妙な駆け引き。息を呑む手に汗握る展開。そして大切なものが失われる悲劇と2人の魂の交歓。名作『Defiled-ディファイルド-』が13年ぶりに帰ってくる。今回は戸塚祥太・勝村政信という2人によって演じられ、新たな『Defiled-ディファイルド-』の顔を見せてくれる。そんな公演が4月5日に開幕した。
 
タイトルの「Defiled」とは気高く、神聖なものが汚されるという意味。2000年5月、アメリカ・ロサンゼルスで初演されたときは、『刑事コロンボ』でお馴染みのピーター・フォークと、テレビで活躍するジョン・アレキサンダーの2大スターの共演、脚本の完成度の高さで一躍話題になった。そして世界中がテロの恐怖に怯えた2001年10月に日本初演。2004年11月には待望の再演を果たしている。

今回のキャストは、歴史ある図書館に立てこもった男を、A.B.C-Zに所属する演技派の戸塚祥太が務める。説得にあたる定年間際の老練刑事を、蜷川作品をはじめ古典から現代劇まで幅広く活躍している勝村政信が演じる。演出は美意識の豊かな舞台を創り上げることに卓抜なセンスを見せる鈴木勝秀。翻訳はシェイクスピアからトム・ストッパードまで手がけ、スピード感のある現代語訳に定評のある小田島恒志。公演は4月5日〜5月7日まで東京・DDD青山クロスシアターにて上演、その後、大阪、福岡の3都市で上演する。その公演のフォトコールと囲み取材が初日の昼に行われた。

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【あらすじ】
ハリー・メンデルソン(戸塚)はアメリカのとある地方の図書館員。ある日、自分の勤める図書館の目録カードが破棄され、コンピュータの検索システムに変わることに反対し、建物を爆破しようと立てこもる。目まぐるしく変化する時代の波に乗れない男たちが、かたくなに守り続けていたもの。神聖なもの。それさえも取り上げられてしまったら…。
交渉にやってきたベテラン刑事、ブライアン・ディッキー(勝村)。緊迫した空気の中、巧みな会話で心を開かせようとする交渉人だ。拒絶する男の次第に明らかになる深層心理。緊迫した状況の下、2人の間に芽生える奇妙な関係。果たして、刑事は説得に成功するのか…。
 
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オープニングの真ん中に当たるスポットライトに見えるのは、本棚に仕掛けられた禍々しい爆弾だ。役者の息遣いまで感じられる広さの劇場にいる観客には、緊迫した状況であることがすぐにわかる。そして図書館であるということも一目でわかるのは、余計な装飾を排した舞台装置(榎太郎)の効果だ。
そこに用心深げにやってくる戸塚祥太のハリー・メンデルソンが魅せる。流れるような動きで、本棚の低い場所、高い場所に爆弾を次々に仕掛ける。まるで殺陣をしているような動きだ。表情は苦悶に満ちていて、ハリーはただの愉快犯ではなく、何か事情があって爆弾を仕掛けていることが感じられる。徐々にスポットライトが舞台を覆い尽くすと、すでにそこは数多くの爆弾が置かれていて緊迫感は増していく。
なんどもオフィスの机に置かれた電話が鳴るのだが、受話器を取っては、切ったり、鳴るとまた取ったりと、ハリーはとにかくせわしない。どうやら神経質で、狂気に満ちた感情を心のうちにしまっているようだ。それをひしひしと感じさせるのは戸塚の演技力だろう。

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そこに「大丈夫だから」となだめながら、「カミさん」に入れてもらったコーヒーが入った赤い水筒を持ったブライアン・ディッキー役の勝村政信がやってくる。こちらは、戸塚とは正反対の性格。犯人の要求、例えば上着を脱げと命令されたのに、ズボンを脱いでしまったり、どこか間が抜けている。そして満面の笑みで、いつものようにドジをやってしまったという雰囲気を醸し出し、うだつの上がらない、ひょっとしたら昇進もままならないような刑事かと観客に理解させるのは、勝村の演技の的確さだ。
 
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刑事に思惑があってあえて間が抜けているように見せているのか、そうではないのか、いぶかりながら見つめるハリー。そんな彼をリラックスさせようと、ブライアンは「カミさん」の入れたコーヒーを飲もうと誘うのだが……。
 
鈴木勝秀の演出のセンスが光る。図書室中がダイナマイトで満ちて、今にも何かが起きそうな緊張感があるのに、ライトの光量を緩めたり強めたりしながら、ハリーを行ったり来たりさせ、それを見たブライアンが間の抜けた笑いで和ませる。緊張と緩和が舞台上に満ちていた。

翻訳もこの作品では大きな力になっている。2人だけの緊密な会話が、短いセンテンスでスピード感とともに発せられる。言葉と言葉の応酬は、まるでラップ・バトルを見ているようで、攻防がめまぐるしく変わる。脅している側にいたハリーがいつの間にかブライアンに丸め込まれたりと、会話のやり取りの妙が、2人の息の合った演技の中に浮かび上がる。
戸塚祥太と勝村政信のリアルで自然な演技と、緩みのないスタッフワークで、見逃せない作品となっている。

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【囲みインタビュー】

初日の昼に、『Defiled-ディファイルド-』の囲みインタビューが行われ、戸塚祥太と勝村政信が登壇した。

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──2人芝居ですが、戸塚さんにとって初挑戦になりますね。お相手は勝村さんです。
戸塚 そうですね。初めての2人芝居で、ど緊張しております。勝村兄やんには……。
勝村 兄やん? 初めて言われました(笑)。
戸塚 兄やんと言いましたけれど、お父さんと勝村さんが同い年なんですよ。
勝村 お父やんじゃないですか。
戸塚 勝村兄やんには、稽古中にたくさん指導していただきましたし、休憩中も指導してくれました。勝村さんは自分の稽古をしていないのかというぐらい僕をずっと見てくれた。本当に兄さんという感じでもあるし、お父さんと同い年ということもあるから、お父やんでもあって、とても不思議で頼りになる兄でありお父さんという存在ですね。
勝村 シニアではないのね?
戸塚 兄やんです!
──勝村さんにとって戸塚さんとはどんな存在ですか。
勝村 ジャニーズのみなさんは恐ろしいぐらい能力が高いじゃないですか。小さい頃からお客さんに慣れていて、板の上に立った姿も堂々としている。僕らは何十年やってきても獲得できないですから素晴らしいですね。
──お兄やん的に僕に任せろというところはありますか。
勝村 そう言いたいところなんですが……。昨日の通しゲネでセリフを間違えてしまったところを助けていただいて、おんぶに抱っこになっています(笑)。2人芝居は3回目ですが、以前は、場面が変わったり、何役もやったりと、いろいろ目先が変わるんです。この舞台は、戸塚くんも最後まで出ずっぱりだし、僕は2回ぐらい外に出ますけど、すぐに戻ってくる。ワンシチュエーションなので今までにないぐらい大変でしたね。

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──莫大な量のセリフですが。
戸塚 そうですね。全然覚えられなかったですね。
──どのように覚えましたか。
戸塚 プレッシャーです。勝村さんが、ほとんど覚えているのに、稽古開始の時は、後輩の僕が、まったく覚えていない状況だったからですね。
勝村 なめてるのかなと思いましたよ(笑)。
戸塚 さすがにまずいな、本当にビンタされるのかな、という状況でした。
勝村 顔合わせの時に、メイクさんが同じで、「戸塚くんどれくらいセリフを覚えているのかな。ちょっと探りを入れてくれないかな」とボソッと伝えたら、「ほとんど覚えてないみたいですよ」と言われて、嘘つけと思ったら本当に覚えていませんでした(笑)。
──覚えられない状況だったんですか。
戸塚 今回はセリフとずっと格闘しました。稽古が始まってから、演出のスズカツ(鈴木勝秀)さんや、勝村さんのご指導をいただけたので、どんどん理解してきて、急ピッチで入れていきましたね。
──そんな時は悪夢を見たりもされるんでしょうね。
戸塚 そうですね。寝てもすぐに起きましたね。夜中の2時に寝て、パッと目を覚ましたら、まだ4時で、2時間しか眠れない日々もありました。不思議な体内時計になりましたね。
──2人きりの稽古で緊張感があったからでしょうか。
勝村 たくさんのスタッフや役者がいるよりは、ないですね。
戸塚 2人だけでしたから。
勝村 気を使わないで済むからね。僕はそんなに厳しい方ではないし、スズカツさんも見守ってくれて、プレッシャーのないような空気を作ってくれて良かった。
戸塚 はい。いい空気感がありました。
──ただ舞台は体を使わなくても汗が出る緊張感がありますね。
戸塚 僕らも頭も体もフル回転させる緊張感があるので。ただ、稽古はやってきたと思いますし、勝村さんとは、稽古開始の1時間前から、サッカーボールを蹴ったり、ラジオ体操をしました。普通のお芝居をやる方々よりも、今回の稽古期間は、密にコミュニケーションが取れていると思います。ステージ上で何が起きても大丈夫です!
──サッカーをやろうというのはどういう発想だったのでしょうか。
勝村 体を動かすためですね。カンパニーも大きくなく、スタッフ含めて10人いなかったから、みんなでやろうと思ったのがきっかけですね。

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──ラジオ体操をしようと言い出したのは。
戸塚 勝村さんですね。
勝村 演劇的な体操でよかったのですが、ラジオ体操の方がわかりやすかったんです(笑)。スタッフも長く付き合っている仲間なので、音響さんがすぐにラジオ体操の音楽を録音してくださって、「新しい朝がきた♪」という歌が始まって、全員がここに集まるようになりましたね。
──そういう意味ではリーダーシップをとって、戸塚さんは息子を可愛がる感じだったんですね?
勝村 弟って言いましょうよ(笑)。
戸塚 勝村兄やんです。
──勝村さんは初演を観劇したそうですね。コロンボ刑事のイメージがあったのでしょうか。
勝村 最初にどうしようか悩みましたね。翻訳も「カミさん」といったコロンボチックな言葉が使われていたので、演出家と相談して、なるべくコロンボ的なところは排除していこうと決めました。ピーター・フォークさんがやっていらっしゃるから、コロンボのイメージが強くなってしまう。「カミさん」という言葉は残っていますが、いろいろと演出家と話し合いましたね。
──2人芝居ですから感情が行き交いますね。
勝村 緊迫した状況で、どれくらい相手の内側に入り込めるのかなと考えました。ただ、遠慮してもしょうがないので、こちらも激昂する状況を作ったり、たまたまハリウッド映画で同じようなシチュエーションの映画を観たりしました。その映画だと、犯人に対してぶつかっていくので、それぐらいやってもいいとこちらからパンチを出していますね。
──犯人としてはどう思われましたか。
戸塚 僕は勝兄やんと慕っているんですけど、特に前半戦はステージ上では真逆でピリピリしているんです。なので、犯人に切り替えるのが難しいですね。
──後半では心が通じ合うことがあって、お互いに大切なものを守りたいということも出てきます。ご自身の中で守りたいものはありますか。
戸塚 僕はA.B.C-Z。
勝村 俺じゃねえのかよ! 今の流れで言えば、まずは老人からだろ。
戸塚 年功序列でしたね(笑)。
勝村 びっくりしたわ。素晴らしい質問で、流れ的にそうか一緒に頑張っていこうとなるのかなと思ったのに。
戸塚 すみません。今回は東京で1ヶ月、その後、神戸と福岡にお邪魔させていただきますので、守っていかなくちゃいけないのは、僕はずっと戦っていく勝村兄やんです。A.B.C-Zはいいです!
勝村 A.B.C-Zは無しにして、ここから使っていただければ(笑)。僕は自分を守りたい(笑)。2人で長い期間を上演するし、お互いに私生活を含めて、高くなったり低くなったりしますが、コミュニケーションが取れているので、一緒に仲良くやっていきたいですね。

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──お話を伺っていると戸塚さんには、これまでにない経験になったと思います。
戸塚 かもしれないですね。翻訳ものも初めてでしたし、とりあえず、犯人は頭が良すぎるので、(汗が出ているので勝村にハンカチを渡される)ありがとうございます。
勝村 このハンカチは劇用です(笑)。
戸塚 (笑)犯人の頭に追いつくために、脚本をずっと読んでいました。ある時期は追い込まれていたんでしょうね。もう大丈夫ですけれど。
──乗り越えられたきっかけは。
戸塚 やっぱり演出家のスズカツさん、勝村さんの言葉ですね。僕はダイナマイトを作って、図書館に立てこもるという役なので、どうしたら犯罪ができるのかと思っていました。お2人の言葉から、そんな気持ちにピタリとはなれなくてもいいなと気づかされました。そこから違う方向で演じるようになりました。
──お兄さんから見た戸塚さんの苦闘ぶりは。
勝村 でも、途中からアクセルをベタ踏みをしていて、そこからは早かったですね。最初は圧倒的に僕がリードしていたんですけど、1週間したら追い抜かれました。びっくりしました。戸塚くんは、どうしたら一線を越えて犯罪者というアウトローになれるか、そこに苦労していることがわかっていたので。つまり、インローの人間がアウトローに行くことに悩んでいて、僕らは犯罪者じゃないので、解決できないじゃないですか。そこを稽古や仲間を含めて解消ができて、そこから力強かったですね。
──いよいよ初日ということで意気込みを。
戸塚 犯人と刑事の2人だけの芝居で、図書館というワンシチュエーションの空間の中でストーリーが進行して行きます。客席も200席と凝縮された濃密な空間なので、お客さんも、犯行現場に居合わせた疑似体験をするように楽しんでいただければと思います。
勝村 2人芝居をやるには、200人ぐらいのキャパシティーが理想的だと思っています。客席が増えれば、2人から遠くなってしまうので、臨場感を出す場合は、なかなか難しいんですよね。でも、これぐらいのスペースだと奥の方までお客さんと繋がれるし、汗が流れるのも見えるし、本当に事件を目撃しているような感覚に陥ります。ぜひ劇場に足を運んでください。

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〈公演情報〉
『Defiled-ディファイルド-』
作◇LEE KALCHEIM
翻訳◇小田島恒志
演出◇鈴木勝秀
出演◇戸塚祥太、勝村政信
●4/5〜5/7◎東京 DDD青山クロスシアター
〈料金〉8,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットスペース 03-3234-9999
●5/10〜12◎大阪 サンケイホールブリーゼ
〈料金〉S席 8,500円 ブリーゼシート 5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉ブリーゼチケットセンター06-6341-8888 (11:00〜18:00)
●5/19・20◎福岡 ももちパレス 大ホール  
〈料金〉8,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉ピクニックチケットセンター050-3539-8330 (平日11:00〜17:00)
〈公演HP〉http://www.defiled.jp
 


【取材・文・撮影/竹下力】




『明治座 五月花形歌舞伎』 




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