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アメリカのとある町に住む、これと言ったとりえのない小学生チャーリー・ブラウンと、彼が飼っている犬スヌーピーをはじめとした、個性豊かな愛すべきキャラクターたちが、歌って、踊って、幸せを届けてくれるミュージカル『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』が、日比谷のシアタークリエで上演中だ(25日まで。のち、福岡、大阪、愛知での公演もあり)。

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原作となっているのは、言うまでもなくチャールズ・М・シュルツ著のコミック「ピーナッツ」。世界に3億5500万人の読者を持ち、1950年の連載開始から60年以上経った今も、世界中で読み継がれているこの4コマ漫画が、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』としてミュージカル化されたのは1967年のこと。舞台上には「ピーナッツ」ファンが快哉を叫ぶこと間違いなしの、お馴染みのキャラクターたちによる名場面、名台詞が飛び交い、1971年まで1644回のロングランを記録した。
そして、作品が再び注目を集めたのは、1999年にブロードウェイでリニューアル版が幕を開けた時だ。初演では「ピーナッツ」連載初期に活躍したキャラクターのパティだったポジションを、チャーリー・ブラウンの妹サリーに変更し、鬼才マイケル・メイヤーが演出と、追加脚本を担当。作曲家アンドリュー・リッパが追加音楽と作詞、『キンキーブーツ』の演出家ジェリー・ミッチェルが振付を担うという、現在ブロードウェイで数々のヒットを飛ばしているトップクリエーター達が、作品の魅力を再び開花させることに成功。トニー賞でサリー役のクリスティ・チェノウが助演女優賞、スヌーピー役のロジャー・バートが助演男優賞をダブルで獲得したのをはじめ、数々の栄冠に輝いた。
そんな作品の、初演から50周年というアニバーサリー・イヤーに、新たなキャストによる日本版が登場することとなり、チャーリー・ブラウン役に村井良大、ルーシー役に高垣彩陽、サリー役に田野優花(AKB48)、ライナス役に古田一紀、シュローダー役に東山光明、そしてスヌーピー役に中川晃教が集結。子供の目線で見た世界が教えてくれる、心を、人生を豊かにする小さな幸せが描かれていく。

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シアタークリエの扉を開けるとまず、壁を彩るチャーリー・ブラウン以下、お馴染みの登場人物たちのキャラクターパネルが出迎えてくれる。もうただそれだけで嬉しい気持ちにさせられ、いきなり笑顔になってしまうのはこれぞシュルツマジックだ。きっと誰もがここで記念撮影をしたいだろうな、ロビーの混雑は大変だろうな、と思いつつエレベーターを降り、客席に向かうと、そこにもまた原作世界を思わせるブランコや、ベートーベン、ため息などが書かれた、特徴ある太い線のコミックのコマが描かれた舞台面が待っていてくれる。このコマの中にキャラクターが描かれていないのがミソで、この舞台世界で、役者たちがチャーリー・ブラウン、ルーシー、サリー、ライナス、シュローダー、そしてスヌーピーに扮して飛び出してくるオープニングで、すっかりあの愛すべきコミック「ピーナッツ」の世界が、ステージに引き継がれていくスムーズさに感心させられる。

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そこからはもう、「ピーナッツ」ファンなら、あ、これも、それも、あのエピソードも!と膝を打つシーンが、テンポよくつながっていく。赤毛の女の子に片思いするチャーリー、ルーシーの精神分析、学校でもらった「C」評価に納得がいかないサリー、命の次に大切なブルーの安心毛布を姉サリーに奪われパニックになるライナス、ベートーベンを敬愛しおもちゃのピアノに向かって演奏を続けるシュローダー、屋根の上で眠るスヌーピー、スクールバス、学校の勉強、負け続けの野球チーム、そしてスヌーピーには、第一次世界大戦の撃墜王フライング・エースになりきるかの有名な変装シーンまで!とにかく、どこを見ても楽しい、どこを見ても絵になる、これぞ「ピーナッツ」の世界が広がっていく。
しかも、このミュージカルの豊かさは、そうした原作コミックの世界を知らなくても、ジャズ、クラシック、ポップ、ショーアップされた大ナンバーと、多彩な音楽が物語を運び、紡いでいくことで、純粋に「ミュージカル作品」としても質の高いものに仕上がっているのが嬉しい。

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更に、劇中のキャラクターたちの会話には、実はかなり鋭いものも含めれている。と言うのも子供という生き物は、全体ではなく例えば「手」や「足」だけを見ても、小さくてたまらなく可愛らしいが、頭と心と言葉がストレートにつながっている分、時に恐ろしくシビアで、辛辣なことも言ってのけるからだ。もちろん子供だってちゃんと大人の顔色は見ているし、子供なりに気苦労はあるけれど、その気の回し方もまたストレートなので、考えていることがスコーンと突き抜けて伝わってくる、微笑ましさとドッキリ感に満ちている。「ピーナッツ」の言葉の数々がある種哲学的なものを持つのはその為で、子供の発言には図らずも、いくつもの真理が含まれているものだ。

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その上で彼、彼女たちは遊びの天才、友達作りの天才で、ボール1つないグラウンドだって、たちまちテーマパークより楽しい遊び場に変身させてしまえるし、キャンディーひとつ、チョコレートひとつで、ここまで喜ぶか!?とこっちが驚くほど感激もする。学校のテストの成績は悪かったけれど、美味しいアイスクリームが食べられたら、友達と走り回って遊べたら、今日は楽しかったと、とびっきりのご機嫌な笑顔になれる彼ら、子供たち。

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「ピーナッツ」に描かれるのは、そんな、大人が日々の営みの中でついわすれてしまい勝ちの、シンプルな幸せ「ハピネス」で、このミュージカルはその身近にある、なんでもない幸福を手にしている子供たちを、敢えて大人が演じることで、観る者にもまた、その「ハピネス」を思い出させてくれる力を持っている。そんな作品の力を、これまでどこか摩訶不思議な、個性の強い作品を多く発表してきた演出の小林香が、彼女独特の魅惑の色を極力見せずに優しく提示してくれたことが、実に嬉しかった。たぶん、いやきっと、彼女も「ピーナッツ」世界を愛しているに違いない。そういう人がこの舞台を演出してくれた。そのことが、まず大きな「ハピネス」となった。
しかも、6人の出演者たちがいずれも、全く違和感なく「ピーナッツ」の有名キャラクターになりきっていて、その可愛らしさと達者さには、ただ感嘆する。

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何をやってもうまくいかないチャーリー・ブラウンの村井良大は、まずどこからどう見てもチャーリーそのもの。がっかりした顔も、満面の笑顔も、肝心のところでドジばかりのチャーリーの哀愁も、すべてを表して、尚可愛い。これが『RENT』のマークを演じている人と同一人物だと教えても、信じない人がいるのでは?と思うくらいだ。だからこそ、なんとすごい演技派なのだろう!と感じるが、なんだかその演技派とか、実力派とか言う言葉が似合わないような錯覚に陥るほど、自然にチャーリー・ブラウンになっていて、ただただ天晴れだ。

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怒りんぼうのルーシーの高垣彩陽は、「ピーナッツ」世界のお山の大将を、ちゃんと小憎たらしくならずに表現していて、どれもルーシーの声でありながら、場面に応じて色の変わる声を出せるのは、高垣ならでは。また、要領の悪い兄を反面教師に、要領よく行動できるサリーの田野優花は、踊れる強みが思いきりのよい身体表現を可能にしている。2人共に言葉としはて「可愛い!」なのだが、その可愛さの種類がきちんと違うことに、キャラクターへの深い理解を感じる。

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安心毛布が手放せず、指しゃぶりの癖も抜けないのに、極めて知的で冷静な発言をするライナスの古田一紀は、そのライナスが持つギャップを十二分に表現していて、毛布を使ったダンスナンバーも伸びやか。一方ベートーベンを敬愛する天才ピアニスト、シュローダーの東山光明は、シュローダーのベートーベンのことしか考えていないが故の辛辣さに、芸術科気質を感じさせて的確。2人共にかなり長身にも関わらず、子供役にしっくりと馴染んでいるのに驚かされる。

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そして、読売演劇大賞最優秀男優賞受賞後の初役が、その評価を得た『ジャージー・ボーイズ』が上演された同じシアタークリエの舞台での、スヌーピー役=犬役だという、この巡り合わせがなんとも「らしい」と感じさせる中川晃教が、自由に、伸び伸びと楽しそうに、世界で一番有名なビーグル犬を演じている姿がまぶしい。もちろん中川ほどの売れっ子俳優なら、舞台の出演はだいたい3年程度先まで大まかには決まっているだろうから、このスヌーピー役も受賞後の初作品、初役にと、計画して選んだものではないのは間違いない。だが、仮に最優秀男優賞を獲った後にオファーがあっても、きっとこの人は何のためらいもなくスヌーピー役を演じることを選んでくれるだろうな、という軽やかさが、世界中から愛され続けているスヌーピーに誰よりも相応しい。大ナンバーの「サパ—タイム」の歌いっぷりの見事さはもう言うまでもなく、絢爛たる中川ワールドの歴史に、新たなキャラクターが加わったことが嬉しかった。彼ら6人の出演者の、いずれ劣らぬ好演もまた、大きな、大きな「ハピネス」に他ならない。
 
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何よりも、観終わってしみじみとした温かさ、幸福な笑顔で劇場を後にできる作品に、こうして接しられたことが嬉しく、今、毎日を生きることに少しでも苦しさを感じているすべての人に、この舞台を観て、心に届けられる「ハピネス」を受け取って欲しいと願う作品となっている。

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初日を前日に控えた4月8日、通し舞台稽古を前に、村井良大、高垣彩陽、田野優花、古田一紀、東山光明、中川晃教が、囲み取材に登場。それぞれのキャラクターパネル前でのフォトセッションの後、インタビューに応えて公演への抱負を語った。

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【囲みインタビュー】

──こうしてはじめて衣装を着てみなさんの前に立たれて、どんな心境ですか。
村井 この衣装を着ると正直、若返るな!という気持ちがありますね(笑)。久しぶりにこんな短パンはいて舞台の上に立っているので。あとはすごく元気な色なので、見ているだけで癒されるし、元気がもらえるので、素敵な衣装だねと皆と話しています。
高垣 やっぱりお稽古場で稽古着を着ていた時とは、また気持ちも変わりましたし、舞台上もとてもポップなセットができていて、その中でこの衣装でやらせて頂いてからは、更に元気がプラスされました。
 
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──鮮やかなブルーのお衣装のカラーについては?
高垣 私に限らず、皆目が覚めるような衣装の色なので、村井君も言ったように、待ち時間で、この衣装でステージ上にただ立ってしゃべっているだけでも、観ているスタッフさんが客席から「可愛い」と皆さん言ってくださって。
村井 たくさん声をかけてくださったね。
高垣 そうなの。ですので、それぞれ6歳と8歳と犬、みんなこの衣装でステージでイキイキと飛び回りたいと思います。

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田野 私が出ていないシーンを客席で観ていると、遠くから観ると皆シルエットがもうすでに子供なんですね。ちょっとゆったりしたシルエットで作られていたりする工夫もあるのかな?と、衣装さんの愛を感じます。自分的には、このピンクが本当に恥ずかしくて。
全員 えっ?えっ?
高垣 えー、可愛いよ?
田野 普段は黒とか白とかグレーとか暗い色しか着なくなってきたから。
全員 (口々に)待って!待って!まだ二十歳でしょ!
田野 いや、だからすごく恥ずかしいのですが(笑)、6歳なので(笑)、この衣裳の力もいっぱいお借りして、(パワー)をいっぱい出して行きたいなと思います。
古田 この衣装を着てみなさんの前に立って、いよいよはじまるんだとドキドキしています。

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──赤い衣装に関しては?
古田 赤いに関してすか?僕の好きな色は赤なんです。ライナスはコミックだと水色(の服)の時と赤の時があるので、赤をチョイスして頂けて本当に嬉しいです!ありがとうございます。
東山 いよいよということで、生まれてはじめてここまで明るい髪色にしました。そして最後の段階で足まで綺麗になったので、完全にシュローダー、ピーナッツのキャラクターになったと思います。気合入っています。
──紫という色については?
東山 紫はシュローダーの色なので。
村井 形オシャレだよね。
東山 そうですね。シュローダーもボーダーですね。

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中川 チラシ撮影時のイメージから、舞台で着用するために衣装の軽量化が施されていて、一部シースルーになって風通しがよくなっっていたりしています。それから二足歩行ではなくて、四足歩行のシーンもあるので、実は膝にはニーパットが入っていたりしていて。
村井 へー!
高垣 そうなんだ!
中川 そう、色々と機能性に優れている衣装です。ただ、暑い!
村井 そうだよね。
中川 汗がすごくて、ナイヤガラの滝にならないようにと(笑)、そこは楽しみでもあり不安なところでもあります。スヌーピーなので、愛くるしく演じるには最高のアイテム、コスチュームが頂けたなと思っています。気合十分です!

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──中川さんは読売演劇大賞最優秀男優賞受賞後、初作品、初の役ですね。
中川 今、そこに来ましたか!(笑)。いや、受賞後初が犬っていう(笑)本当にこういうことが、タイミングとしてくるんだなと思っていて、嬉しく思っています!スヌーピー役をというお話を最初に頂いた時に、あのスヌーピーをやるの?というイメージがわかなかったんです。ただ、誰もが知っているスヌーピーを中川晃教だったら、どうクリエの舞台で表現できるのだろうか?と妄想を膨らませた時に、「やってみたいな」と思えたんですね。お話を頂けなければ、こんな素晴らしい作品があることも正直知らなかったし、(原作コミック)の「ピーナッツ」の物語の奥深さについても、稽古をやればやっただけ実感としてわかってきました。自分がデビューして、今16年目に入ったんんですけれども、色々なものを経験させて頂けて、1つ賞というものを頂けたことの喜びと同時に、やはり出会ってきた方々や経験のひとつひとつが実を結んだ結果、頂くことのできた賞だと思っています。大きい言葉ですが、これまでの人生、今までやってきたことがよかったんだと思える、そんな実感みたいなものが、このスヌーピーという役にも活かせるなと思える。そんなすばらしい脚本、生きるって素敵だと思える作品だからこそ、キャラクターの愛くるしさも満点に演じながら、一方で深みもしっかりとあわせ持ったスヌーピーを、今、いよいよ皆様ににお届けできるということに、運命を、縁を感じています。出会うべくして、しかも絶好のタイミングで、この役に出会えたことに感謝しています。ワン!(笑いと拍手)。

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──村井さん、中川さんから楽しみにされている皆さんへメッセージを!
村井 『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』というミュージカルは、観るだけで心が温かくなる、明日への元気をもらえるような、素敵なミュージカルになっております。シアタークリエにてお待ちしていますので、是非是非ご来場ください。

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中川 とにかく村井良大チャーリー・ブラウンが、本当にチャーリー・ブラウンなんです。チャーリーは何をやってもうまくいかない子なんですね。でも、彼は彼なりにビジョンを持って、クリアしたいと思う課題を持って生きているんです。それが、『RENT』で主演を張り、そして今回もチャーリー・ブラウンで主役を張り、次々に大役に挑んでいる村井良大が、いろんな意味でアップアップしている瞬間にすごくリンクします。僕はそのチャーリーをすごく愛している犬だから、ちょっとシニカルで皮肉っていたりする瞬間もあるのだけれども、全面的に愛している。だからこそ、彼のすべての瞬間が僕はともかく大好きです。そこからひも解く、この6名ならではの、ま、僕人間じゃないんですけど(笑)、ミニマムだけど、パワー全開で、このクリエのステージから客席へパワーがあふれ出る、そのハピネスはなんでもない幸せ。でもそれがぐっと心に迫ってきた時に「あーなんかいいもの観たな」と思って頂けるところまで、この6名の力で行こう!と、そう思わせてくれるカンパニーです。そこも含め、この素晴らしい音楽、ダンス、そして何よりもシュルツさんの描いたイキイキとしたキャラクターたちを、僕らがしっかりとお届けできるように頑張っていきます。どうぞ皆さん、クリエに足を運ばなきゃ損だよ!待ってます!ワン!

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〈公演情報〉

PR のコピー

ブロードウェイミュージカル
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』
原作◇チャールズ・M・シュルツ著 コミック『ピーナッツ』より
脚本・音楽・詞◇クラーク・ゲスナー 
追加脚本◇マイケル・メイヤー
追加音楽・詞◇アンドリュー・リッパ 
訳詞・演出◇小林香
出演◇村井良大 高垣彩陽 田野優花(AKB48)  古田一紀 東山光明 中川晃教
●4/9〜25◎シアタークリエ
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9:30〜17:30)
http://www.tohostage.com/charlie/



【取材・文・撮影/橘涼香】


『明治座 五月花形歌舞伎』 




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