s_IMG_0354
 
演劇界の常識を覆した伝説的作品、西田シャトナーの名作『破壊ランナー』が、4月21日〜30日、Zeppブルーシアター六本木で上演中だ。
初演は1993年。以降、様々なパワーアップを繰り返し、5演目となる今作。「パワーマイム」というスタイルで演劇界に衝撃をもたらした西田シャトナーが所属していた「惑星ピスタチオ」の代表作の1つ。加えて、シャトナーが自作を発表するプロジェクト、SHATNER of WONDERの第5弾として、台本も全面改稿、さらに新演出での上演となっている。
この名作の主演をつとめるのは、俳優として、また劇作家・演出家としても活躍する池田純矢。『破壊ランナー』に出演したレジェンド俳優・保村大和をはじめとする豪華共演者とともに、シャトナーワールドが展開される。
 
※4/23 訂正を更新しました:西田シャトナー主宰→西田シャトナーが所属

IMG_0124

【あらすじ】
西暦2707年。人類はすでに音速(1秒間に約1300キロ)を超えるスピードを手に入れた。その成果は生身の人間によるレース「ソニックラン」で光り輝く。2707年には、まさに押しも押されぬ国民的スポーツになっている。そこに燦然と輝く8年連続のワールド・チャンプ、前代未聞の99連勝中の勝者がいた。その名も豹二郎ダイアモンド(池田純矢)。
しかし、彼は苦悩していた。1・71音速という自己スピードの限界を達成してすでに2年が経ち、いくらレースをしても、この数字を破られない。自分自身の限界、そして、これ以上走る意味を見つけられないスランプに陥っているのだ。そんな時、自身が所属するチーム・アローヘッドUKのメカニックドッグに、新進気鋭のチーム・アロイのオーナー、黒川フランク(兼崎健太郎)が姿を現し、さらにスピードが出せるようになれるとチームの移籍話を持ちかけるが…。

舞台装置はシンプルだ。真ん中に少しせり上がった相撲の土俵のような舞台。周りを扇形の3枚のたわんだ板のような装置が囲むのみ。まるでサーキット場のような舞台で、20名の役者が熱い演技を繰り返す。小道具はほとんどなし、役者の肉体がすべてだ。

s_IMG_0010
 
まず20名の役者が屹立し、薄暗い照明の中、1896年のアテネオリンピックから2700年までの1000年近い人類の走るスピードの歴史をユニゾンで語る。そこからこの舞台のカッコよさが浮き彫りになる。
そして物語が疾走する。走ることのへの意義を見失いかけている豹二郎ダイアモンドは、走ることにさえ飽き飽きしていたが、そこに突如ライバルが現れる。それが1・75音速を出すことができるというチーム・アロイのライデン(河原田巧也)だ。
 
IMG_0164

レーサーたちはシンプルな舞台装置の上で白熱のレースを繰り広げる。まるでスピードスケートのようなフォームでコースを走り、時には足をバタバタと高速で動かすなどメリハリをつけながら、舞台を所狭しと動き回り、そのスピードを表現する。選手に合わせたフォームも個性的で見どころの1つだ。
レース部分は「ローリング」と呼ばれる手法が取られる。これは現在の映画でも主流の360度カメラが被写体の周りを回って撮影したような光景を見せる技術で、足踏みをしながら役者自身が舞台をまわることで、レースを展開しているように見せる。シャトナーが演出を手掛けた大ヒット作・舞台『弱虫ペダル』シリーズでも使われている演出方法が圧巻だ。

s_IMG_0037

演技も見逃せない。ライデンの河原田巧也は、まさに豹二郎ダイアモンドのライバルという迫力を身体中から発散させ、牙を向いて豹二郎に立ち向かっていく姿は敵ながらかっこいい。つまらないレースはたとえ順位が良くてもやめてしまう「万年リタイヤ男」としてファンに愛されるキャデラック/米原幸佑は陽気で移り気な役どころを剽軽に演じて笑いを誘う。「赤い閃光」の異名をとり、どこのチームにも所属しないクールなケニア出身のサー・カルリシオ/平田裕一郎は、米原とは真逆な性格で唯我独尊のキャラクターを闊達に演じている。

IMG_0170

子供たちのファンレターが生きがいのビブラート2世/伊万里有は子供達のためならなんでもする、そのためならルール違反ギリギリの行為までする捨て身なレーサーを口跡よく演じ切る。家族の命を救ってもらえると約束されてレーサーになったアマゾン出身のピラニア/天羽尚吾は、家族のためにという切実な想いだけで走っている姿が、個性的なフォームにも現れていて感動を呼ぶ。チャンピオンになって敵国の姫にプロポーズしたいのに優勝できない「サーキットのロミオ」、ランドロン・イグレシアス皇子/竹内尚文は、叶わぬ愛を貫こうとする純粋さとともに、ちょっとおバカな喜劇性もある。

s_IMG_0230

イタリア出身で貧乏な弟や妹のために金の亡者になった「暗黒の騎士」こと義眼のランナー、トレオ・ブルーナイト/砂原健佑は、ユニークな方法で金を振り込ませるのだが、「誰かのために金の亡者になるのが悪いのか」と宣言する言葉に説得力がある。イギリス出身の大富豪の3兄弟で「ツール・ド・フランス」のように常に長男のリーダーを囲むようにレースをするジョー・リッチモンド/鐘ヶ江洸、ブラッド・リッチモンド/須藤誠、ティム・リッチモンド/堀家一希。3人が寄り添っていれば無敵なのに、誰か1人でも外れれば弱く崩れ去ってしまうという兄弟の感動的なドラマは、レース上という緊迫した状況を一瞬和ませる。

s_IMG_0055

チーム・アローヘッドUKの監督でかつてはレーサーだったセルゲイ・イワノ・ポドルスキー/山川ありそは、怪我で走れなくなってしまった無念を豹二郎に託す思いを体現。同じく元レーサーで引退をしたアローヘッドのランニングデザイナー(コーチのような存在)として豹二郎を支えるリコ・スカイウィング/村田充は、かつてのランナーとしての誇りを失わずに、豹二郎ダイアモンドを支え続ける真摯な姿勢が胸をうつ。パルスエンジニア(ランナーにつける装置のメンテナンスを行う)のドルビー・セバスチャン/白又敦はリコに追従してチームを移籍したほど、彼以外を信じない頑固な性格なのだが、どこかのほほんとして憎めない。フィジカル・キーパー(ランナーのメディカルケアを行う)のダイクス・オブライハウゼン/加藤ひろたかは、自分の作った機械に誇りを持ちながら、ライバルからの汚くて古いとの一言で落ち込んでしまうギャップが面白い。

s_IMG_0212

ライバルチームのアロイの監督黒川フランク/兼崎健太郎は、ローズの香水を撒き散らし、フィクサーにかしずく。その姿がどこか滑稽でもあるが敵としての存在感がある。黒川とともに壁となって豹二郎の前に立ちはだかるスパイク・クリムゾン/宮下雄也は、ランニングデザイナーで科学者でもある彼の野心家ぶりを見せつつ、黒川の突っ込み役として笑い部分もきっちりおさえる。

s_IMG_0113
s_IMG_0110

そして彼らのフィクサーであり中央防衛局で軍を操っているパルテノン・タイベリアス提督/保村大和の存在は大きい。ロックバンドのKISSのポール・スタンレーのように天然パーマで白塗り、ランナーたちを軍事利用しようと画策する悪辣な役どころを、巧みなカリカチュアで面白おかしく演じ、コメディーリリーフぶりを発揮。なかでも兼崎健太郎との丁々発止のやりとりはアドリブ感満載で漫才のようにスピーディ。爆笑の渦を巻き起こしていた。

IMG_0280

また神業の喋りで魅せるのが、1分間に640文字を話せるというスーパー中学生アナウンサー・早井速三/鎌苅健太と、そのライバルで1分間に622文字を話せるホンダヤマハ製のロボットC3-9000/田中穂先。早井の存在を脅かしているロボットの存在という構図はそれだけでも面白いうえに、ストーリーの重要な語り部としても機能。少し舌足らずな口調のマシンガンラップで鎌苅がレース模様を伝えれば、負けじとロボットボイス(本当に機械みたいだった)で田中がまくし立てる、実にスリリングな競い合いを見せてくれた。

s_IMG_0151

そしてなんといっても豹二郎ダイアモンドの池田純矢は圧巻だ。小柄な体躯ながら全身がバネのようで、セリフを淀みなく発しながら飛び、跳ね、疲れをしらないのではないかというパワフルさ。それを支えているのは彼の肉体、とくに彼の太腿で、まるでプロのスピードスケーターや野球選手、あるいは格闘家といった鍛えられかたをしている。レース場面で重心を低くした時など、膨れ上がった血管まで見えそうで、磨き抜かれたアスリート感とともに、彼の内面から滲み出るようなスーパーレーサーの孤高感が、この作品をリアルなものにするために大きな力となっていた。

IMG_0255

この作品は、小道具を使わずに、パントマイムに膨大なセリフを織り交ぜた「パワーマイム」の手法で衝撃を与えた。1人の俳優がさまざまな役柄を次々と演じる「スイッチプレイ」、また、例えば「自動部屋片付マシン」といった2707年にしか存在しない機械を、俳優たちが組体操のようになって表現したり、巨大ロボットまで表現してしまう。池田が「ある意味、子供時代の遊びの延長を本気でやっている凄さ。自分で擬音をつけながらメカニックな動きをして遊んだりする。あれを高度なレベルで表現にしている」(演劇キックインタビューhttp://kangekiyoho.blog.jp/archives/52024562.html)と語っていたように、まるで子供の遊びを20名が本気で軽々と演じている。そのために積み重ねた稽古は想像以上だろう。

s_IMG_0196

もちろん役者の力だけでなくスタッフワークも見事で、コインを投げるマイムでは絶妙なタイミングで効果音を入れたり、レーサーの音速を超えた瞬間のマイムは、大量の光と音楽で表現する。まさに役者とスタッフワークの力が生む相乗効果で素晴らしい。そんな舞台を生み出し、作り上げ、いわば映画的な手法を演劇に昇華した西田シャトナーの手腕は天才的だと言えよう。

s_IMG_0158
 
この舞台の登場人物はいつも何かと戦っている。自分自身、ライバル、金、ファン、恋人…。肉体と精神を尽くして戦うことでしか結果は得られないという、現実を生き抜くサバイバル術を、この舞台から教わったような気になる。もちろん勝ち負けでは判断できないある種の不条理さも、この作品の通奏低音となっていて、それはシャトナーの哲学なのだろう。だからこそ、拍手喝采のカーテンコールで、汗まみれの顔の池田純矢を中心に横一列に並ぶ20人の姿は、それぞれに清々しく、勝ち負け以上に、戦う勇気や何かに挑戦し続けることの大切さを、真っ直ぐに伝えてくるのだ。

s_IMG_0235
s_IMG_0245
IMG_0138
s_IMG_0272
s_IMG_0291
IMG_0198
s_IMG_0347
s_IMG_0351



〈公演情報〉
eb7d554e

キティエンターテインメント×東映プレゼンツ
SHATNER of WONDER #5
『破壊ランナー』
作・演出◇西田シャトナー 
出演◇池田純矢/河原田巧也、米原幸佑、宮下雄也、平田裕一郎、白又敦、伊万里有、天羽尚吾、山川ありそ、竹内尚文、砂原健佑、加藤ひろたか、田中穂先、須藤誠、堀家一希、鐘ヶ江洸、鎌苅健太、兼崎健太郎、村田充、保村大和
●4/21〜30◎Zeppブルーシアター六本木 
〈料金〉7,900円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉 東京音協:03-5774-3030 
http://hakai-runner.com




【取材・文/竹下力 撮影/アラカワヤスコ】


『明治座 五月花形歌舞伎』 




kick 

shop 

nikkan 

engeki