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夏目漱石の文学作品として有名な『それから』が、3人芝居で上演される。新しく立ち上げられた【文劇喫茶】シリーズの第1作目で、役者と脚本・演出で魅せる本格的な舞台だ。
 
原作は、明治の終わり頃に東京朝日新聞・大阪朝日新聞に連載された新聞小説で、『三四郎』(1908年)・『それから』(1909年)・『門』(1910年)という形で、漱石の「前期三部作」と呼ばれている。
物語の主人公は長井代助という「高等遊民」で、定職に就かず、毎月1回、本家に金をもらいに行くという、優雅な生活を送っている。その代助が友人平岡常次郎の妻三千代と恋に落ち、ともに生きる決意をするまでが描かれている。1985年には森田芳光監督、松田優作主演で映画化もされ、大きな話題となった。
今回は、その原作を劇団□字ックの山田佳奈が演出、平野 良、帆風成海、今立 進(エレキコミック)という3人が演じる。この新しいシリーズ【文劇喫茶】と、『それから』の内容について、代助役の平野 良と常次郎役の今立 進に話をしてもらった。

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平野 良・今立 進

少ない人数で上質なものを丁寧に作る

──まず【文劇喫茶】という企画についての印象から伺いたいのですが。
平野 この企画の話を聞いたのは他の作品の打ち上げで、プロデューサーが本が大好きな方で、文学もののシリーズを立ち上げたいと。僕も本を読むのは大好きですし、3人芝居でこういう形式でと、やりたいことも明確に見えていたので、ぜひやらせていただきたいと答えました。演劇公演が増えている中で、少ない人数で上質なものを丁寧に作るという企画は嬉しいですし、自分としても役者冥利につきる仕事だなと思っています。
──こういう純文学作品を、仕掛けなしで人間が演じる舞台は、まさに演劇の王道ですね。
平野 舞台技術も、時代とともにどんどん進歩して、プロジェクションマッピングとか当たり前になってきていますよね。それはそれで演劇の楽しみ方の1つとして素敵なことだと思うのですが、だからこそ人間だけで見せる舞台も大事にしたいなと。僕は同じCLIEさんの、『ハンサム落語』のシリーズも出演させていただいてるんですが、芸をちゃんと見せることが求められるのは、芸能をやる人間としては嬉しいことだと思っていて。その人が歩んできた人生とか学んできた芝居を、余すところなく発揮できる場所はそんなに多くないので、それが出来るのは今回の企画の大きな魅力だと思います。
──今立さんは、これまでも舞台には出ていらっしゃいますね?
今立 そうなんです。小劇場的な舞台とか何本か出させてもらってたので、今回オファーいただいて、「とても有り難いな、ぜひぜひ」と。で、内容を聞いたらキャストがすごく少ない!?(笑)。俺を入れて3人とかあり得ないと思って、マネージャーにもう一回確認してもらったら、「いや、これで合ってるらしいです」と言うので、「3人か!これは大変なことになった」と思いました(笑)。しかもあの夏目さん(笑)の作品ですからね。でも、個人的なことでいえば去年婚約して、人生の新しいスタートを切る時期に、本当の演劇といいますか、お笑いのテクニックが使えない演劇に正面から取り組むのは、僕にとってもチャレンジなので、ぜひやっておきたいなと。(平野)良くんと帆風(成海)さんの足を引っ張らずに、僕が加わることで、うまく相乗効果みたいなものが生まれればと思っているんです。
──出演した芝居の体験はいかがでしたか?
今立 お笑いとはまた違う要素はありますが、根本的にはお客さんに伝えないといけないという、そこは一緒だと思うんです。ただ僕らはコンビとかトリオで少人数ですが、お芝居は沢山の人数でやることで、色々な表現を見せることができる。そこは勉強になりました。でも今回、また少人数になってしまって(笑)。ですが、3人芝居というものを初めて体験できるので、それは楽しみです。
──平野さんは、今立さんへの期待感はいかがですか?
今立 期待感あるでしょ?
平野 (チラシをみながら)写真はかっこいいですよね。
今立 なんだそれ(笑)。
──すごく文学的な雰囲気で別人みたいです。
今立 別人って(笑)。かっこよく撮ってもらいました。
──今立さんは平野さんとは初共演ですね?
今立 そうです。ただ、共通の知り合いがいまして色々聞いてました。なんでも出来る人なのでまかせておけばいいと。だから僕の台詞も全部言ってもらおうかと。
平野 ははは(笑)。
今立 僕は口パクで。
平野 いやいやいや(笑)。

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舞台上に流れる時間は生きた時間にしたい

──『それから』という作品は恋愛の話で、しかも三角関係ですが、どう取り組もうと?
平野 時代が違うことで、恋愛観が現代とは多少違っていたとは思いますが、人の想いというのは時代に関係ないし、人を愛する気持ちは現代の我々と変わりないのではないかと。ただ、現代よりも人間がストレートなぶんだけ、想いもダイレクトに浮き彫りになるのかなと思っています。
──平野さんが演じる代助は、友だちの妻・三千代を奪い取ることになりますが。
平野 これは女性も悪いですよね(笑)。代助が相当ダメ男に見えるけど、三千代が一番悪いと思う(笑)。
今立 悪女だね。僕は取られる側ですけど、代助にも同情します(笑)。
──漱石のものとは思えない、不倫あり裏切りありのドラマですね。
今立 これは新聞で連載になっていたそうですから、大衆向けに描かれた小説だったと思うんです。そういう意味では、のちの「文豪漱石」というイメージで考えると、ちょっと違っていたのかなと。それに漱石が書いたということでびっくりするけど、三角関係はどんな時代にもあることですからね。
平野 【文劇喫茶】というコンセプトなので、敷居が高そうに見えたり、夏目漱石だから難しいんでしょうとか思われますが、身近な物語だと思うんです。だから舞台上に流れる時間は生きた時間にしたいし、文学的な言葉での会話でも、生きた人間がそこにいるのを感じられるものとして伝えたいですよね。
──そういう意味でも演劇の王道という作品ですが、お二人にとって演劇の面白さとは?
今立 お笑いは、アドリブも含めて相方とその場で作る部分が大きいんですが、舞台は台詞が決まってますよね。その中で気持ちの乗せ方で笑わせもできるし、泣かせもできる。同じ台詞なのに、こちらの言い方1つでお客さんの反応が違ってくる。ということは1つ1つの台詞の掘り下げが大事なのだろうなと。そこが演劇の面白さでもあるし、やる側としては難しさでもあるなと思います。
平野 僕にとってはそばにありすぎて、面白いかどうかもわからないくらいで(笑)。きっと面白さっていっぱいあるんですけど、好きな人のことは全部が好きみたいな、ここと限定したくないくらい好きなんだと思います。もちろん誰かが作ったものに自分が命を吹き込むことができて、しかも観てくれるお客さんがいる。そして、生きていく上で僕にとって必要な感情だったり幸福だったりが、全部ある。たとえば認められたい衝動だったり、先に進みたいという挑戦の心だったり、そういうものまで全部詰まっているんです。

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好きな仕事をさせてもらえている幸せ

──平野さんは昨年の『インフェルノ』から最近のシェイクスピア劇まで、幅広く出演していて、しかもどんな作品のどんな役でも全力で生きているなと。
平野 自分ではよくわからないんですが。ただ、「これでいいや」という考えが好きじゃないんです。たまに疲れるとご飯とか「これでいいや」という時があるんですが(笑)、仕事に関しては、人生の半分以上を費やすものを「これでいいや」にしてしまったら、人生が「これでいいや」になっちゃいますから。以前、会社に勤めていた時代があって、先が見えているからか仕事をしない上司とかいて、それで高い給料をもらってて、それなりに理由はあったとしても、見ていて嫌だったんです。だから僕の中ではどんな仕事でも「これでいいや」というのはないんです。
──仕事という意味では。お笑いも厳しい世界ではありませんか?
今立 いや、僕は楽しみなので。この仕事を選んだ時点で辛いとか言えないなと思ってますし、満員電車で毎日通ってるサラリーマンの方なんか、めちゃくちゃ大変じゃないですか。だから好きな仕事をさせてもらえている自分は有り難いなと。楽しいからやってるんです。平野くんも頷いてます。
平野 ははは(笑)。確かにそうです。
──そういうお二人が、どんなふうに役の上でぶつかり合うか楽しみです。最後にお客様へのメッセージを。
平野 主催のCLIEさんが、これから続けていこうという企画の第1回目なので、【文劇喫茶】というのはこういうものなんだとわかるような、しっかりした芝居を見せていきたいなと思っています。そして、我々演じる側と、観にきてくださる人たちと、人間同士として1つ深いものを共有できればいいなと。この物語の世界観についての好き嫌いは、人によってあるかもしれませんが、1つくらいは心に何かを残せたらいいなと。俳優座という素敵な劇場で、しかも六本木にありますから、あまり構えずに、お茶とか買い物のついでにちょっとお芝居を観てみようかくらいの気持ちで、観にきてください。
今立 新シリーズの第1弾ということで、ちょっと身が引き締まる思いがあるので、早く第2弾を上演してほしいなと思っているんですが。
平野 ははは(笑)。
今立 そういうプレッシャーも感じながら、平野くんと帆風さんと3人で、いい雰囲気で良い芝居を作っていければと思っています。ぜひ楽しみに観にいらしてください。

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平野 良・今立 進

ひらのりょう○神奈川県出身。ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、以降、舞台を中心に活躍。『ふしぎ遊戯』シリーズや『メサイア』シリーズなど人気作品に多数出演する。近年の出演作に『ハンサム落語』シリーズ、『さよならソルシエ』『お気に召すまま』などがある。

いまだちすすむ○東京都出身。97年、大学の先輩であったやついいちろうと「エレキコミック」を結成。『エンタの神様』や『爆笑オンエアバトル』などに出演し、頭角を現す。その後もバラエティ番組の他、ライブ活動も積極的に展開。また、俳優としても舞台『ネバーランド☆A GO! GO!』『ピラミッドだぁ!』などに出演している。

〈公演情報〉
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【文劇喫茶】シリーズ第一弾 舞台『それから』
原作◇夏目漱石
脚本◇田中洋子
演出◇山田佳奈(□字ック)
出演◇平野 良、帆風成海、今立 進(エレキコミック)
日替わりゲスト◇:
3日(水・祝) 19:00 寿里
4日(木・祝) 14:00/19:00 水石亜飛夢
5日(金・祝) 19:00 /6日(土) 14:00/18:00 藤原祐規
7日(日) 14:00/18:00 碕理人
9日(火) 19:00 松本寛也
10日(水) 14:00/19:00 加藤良輔
11日(木) 19:00/12日(金) 19:00 佐藤貴史
13日(土) 14:00/18:00 宮下雄也
14日(日)15:00 米原幸佑

●5/3〜14◎俳優座劇場
〈料金〉プレミアムシート 9,500円(前方列/プレミアムシート特典付き)、一般席 6,500円(全席指定・税込)




【取材・文/榊原和子 撮影/岩田えり】




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